49話 安定化のために
昼食を食べ終わったのでみんなで孤児院まで転移した。
「おうちなのー!」
「一日離れただけなのに久しく感じますね」
相変わらず孤児院の周りには建物がなく風景が寂しい。
「こんなところがあったのですね。知らなかったです」
クリスも衝撃を受けている。
同じ国の中でも貴族街とは大違いだよな。
取り敢えずは家をどうするかだな。
流石にこのままにはしておけない。
「アンさん、家についてなのですが新築か改築のどちらになさいますか?」
「そうですね、子供たちに聞きましょうか」
「りょう兄ちゃんの家がいい!」
「きれいなおうちー」
「寒くないの」
「新しいのがいいです」
集計の結果で新築に決定した。
「アンさん、本当にいいのですか?」
「はい、思いっきりやっちゃって下さい」
少なからず思い出もあるはずだ。
だけど、子供達の思いを優先したというわけかな。
心苦しいがやるしかないな。
俺は建物に手をかざす。
すると建物はチリに変わった。
今回は消滅魔法を使わせて貰った。
「すげー、消えたぞ!」
「無くなっちゃったの」
「おうち消えたー」
「ワクワク」
孤児院自体の土地は広い。
ギリギリとまではいかなくとも、子供達がゆったり出来るスペース分は欲しいな。
俺はイメージして創造を使う。
よし、完了だ。
空間が歪み、木製の新しい家が出来上がる。
「出来たー」
「凄いの!」
「探検だ!」
「大きいです」
みんな喜んでくれた様で大はしゃぎで新しい孤児院の中に入っていく。
「涼太さん、今のは魔法ですか?」
「そうですよ」
「魔法って便利なのですね」
確かに便利だ。
とは言っても、この魔法は文字通りのチート級だから説明し辛いよな。
あとは鶏舎だな。
日が当たる家の隣でいいか。
俺は鶏舎を作り、その周りを柵で覆う。
外からも内からも逃げられない様に結界魔法をかけておく。
あとは鳥達だな。
出でよ! 鶏よ。
そして、ピヨピヨ達よ!
俺の魔法陣から三十匹程度の鶏と十数匹のひよこが現れる。
地上では初めての生物創造だが上手くいったようだな。
「涼太さん! このピヨピヨ鳴くのは何ですか?」
「クリス、これはひよこだよ。卵を産む鳥の雛だな」
「凄く可愛いですね」
「子供達を集めて来ようか」
「分かりました」
探索中に悪いが説明は必要なので集まって貰った。
「この鳥達は君たちが生きていくための大切な動物だ。いじめたらダメだぞ。やさしく扱うようにな分かったか?」
子供たちは返事をする。
「取った卵はこの容器に入れておいてくれ」
魔法で卵を保管する容器を造る。
試しに何個か入れる。
すっぽりはまった。
これならいけるだろ。
取り敢えずは20パック用意した。
急に増えるというわけでもないだろう。
ひとまずは、足りると思う。
「食べ物は料理で出たくず野菜や穀物類をお願いします」
「分かりました。本当に……本当にありがとうございます」
アンさんは涙を流しながら深く俺に頭を下げる。
「まだ始まったばかりですよ。成功するかは分からないので今はまだ喜べません」
「そうですね。誠心誠意頑張らせて頂きます」
孤児院の件は一通り片付いた。
俺とメイド達は家に帰る。
「君たちは繋がりが欲しいと言っていたな」
俺は一人一人にチョーカーを渡す。
首に奴隷紋もあるからちょうど隠れるので良いと思う。
防護術式も組み込んだこのチョーカー。
害意ある者が触れれば相手にスタンガンの様な衝撃が走り、武器などの危険度がある物には結界が自動展開することになっている。
「あの! ご主人様につけて欲しいです」
ん?
まあいいか。
俺は一人一人にチョーカーつけていく。
「これでお前たちは俺のものだ。しっかりと働いてくれよ」
「「「「「はい!」」」」」
元気のいい返事だ。
尻尾もブンブンはち切れそうなくらい振れている。
嬉しいのならいいか。
「俺は少し商業ギルドに行ってくる。大人しく待っていてくれ」
俺は扉から出る。
久しぶりに歩いて行こう。
「おや、涼太さんではありませんか。今日はどういったご用件でしょうか?」
「ビジネスの話です」
「では奥に行きましょう」
前の様に案内されてギルドの奥の部屋に入る。
「ビジネスという事は涼太さんは店をお持ちになるのですか?」
「残念ながら違いますよ」
エルザさんは疑問に思い首を傾げる。
「今回はこれを売りたいと思います」
俺は一つの卵をエルザさんに見せる。
「うちで取れた卵をギルドで販売して頂きたい」
「確かに卵は貴重かつ欲しがるお客様も数多いますので販売は可能です。しかし数個だけだと商売にはなりませんよ?」
「無論承知です。では聞きます。この卵が一日に数百、数千単位で取引をするとしたらどうしますか?」
エルザさんは驚きを隠せずに立ち上がる。
「それでは物価のバランスが崩壊してしまいますよ」
「だからあえて壊そうとしているのです。卵は誰もが欲しがる需要です」
俺は需要供給線を紙に書き説明する。
社会で習った時はこれの分かりやすさに感動した。
「本当にそれが可能なのですか」
「可能です」
「ちなみにこの卵はどこで取れたものですか」
「孤児院で育てた物です」
「危険ですよ、いつ盗難が発生するか分かりません」
「無論、孤児院の安全は俺が保証します。正式に孤児院の面倒は俺が見ることになりました。それに危険な時期は最初の数年だけです」
「どういう事ですか?」
よく分からなかったのか首を傾げる。
「紙に書いた通りに需要が低くなり、供給が増えれば自然と安全になります。一般家庭にごく自然とある物に変われば盗難も起こりません」
「なるほど、理にかなっていますね」
商談は成立したので契約書を書く。
卵は商業ギルドが二日に一度取りに来る事になった。
お金は半分が直接孤児院に渡され、もう半分が俺の口座に振り込まれる。
卵の入手方法は厳密にする事。
「以上で契約は終わりですね」
「ええ、よろしくお願いします。そういえば、なぜ孤児院の周辺の土地は誰も住んでいないのですか?」
「言ってしまえば、孤児院は教養のない子供たちの集まりです。となると悪さをするかもしれないという風潮が流れ、必然と人も減って行くのです」
なるほどな、子供は大騒ぎするものだ。
静かに過ごしたい人たちならまず孤児院の周りは選ばないな。
「よければ俺が周辺の土地を買い取っても良いですか」
「はい、構いませんが何かされるつもりですか?」
「一つ俺の家を孤児院の近くに設置したいのですよ。残りはまだ何に使うかは決めてません」
そう言うと、エルザさんは地図と書類を持ってきた。
「孤児院周辺の土地はかなり安くなっております。どれほどの大きさになさいますか?」
「空いている土地全部でおいくらですか?」
「そうですね……2000万ペルほどでしょうか」
「分かりました。俺の口座から引いておいて下さい」
俺は書類にサインをして、一度報告をするために孤児院へ向かった。
「あ! お兄ちゃんなの!」
「家の様子はどうだい?」
「凄いの! ありがとうなの!」
気に入ってくれた様で何よりだ。
俺はアンさんにギルドでの出来事を説明する。
そして孤児院の隣に家を造り、一つの扉を設置した。
この扉は直接俺の家に繋がっているものだ。
ここから貴族街まではかなりの距離がある。
いざという時に頼れる人は近くに居た方がいいだろう。
それにメイド達にもここまで毎回来てもらうのは心苦しい。




