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48話 奴隷と孤児院

「あの、ここはどこですか?」

「俺の家だ。ついて来てくれ」


 ひとまずリビングに移動する。

 見た事ない物にキョロキョロしているが、しっかりとついて来てはくれてるな。


「まずは君たちの事も含めていくつか話す事がある。座ってくれ」


 俺が指示を出すと、全員が床に座り込む。


「ソファーに座らないのか?」

「私達は奴隷です。ご主人様と相席など恐れ多いです」

「俺はお前達を奴隷として見る気はない。ソファーに座れ」


 若干命令口調になったが、大人しく指示に従ってくれた。


「自己紹介をしよう。俺は月宮涼太だ。冒険者をやっている」

「ランです」

「アイです」

「コニー」

「ファラなの」

「シェイなのですニャ」

「まずは聞きたい。この中に故郷や帰る場所のある者はいるか? 帰りたくないならこのままでいいが、いるなら俺が送る」


 全員が横に首を振る。

 身内は無しか。

 あったとしても売られて奴隷になった可能性もある。

 深くは追求しないでおこう。

 人族の少女が三人と狐っ子と猫娘か。


「分かった。君たちは俺の家のメイドになって貰う。それから孤児院の子供達の面倒も見て貰う事にしよう」

「メイドですか?」

「言っただろう、俺は君たちを奴隷として扱う気はない。それにこの家は少し特殊だ、見て分かるだろう?」

「はい、すごく広くてビックリしました」

「偶にお隣さん、さっき居た貴族の人達が来るからもてなして欲しい」

「その、ご主人様は貴族様なのですか?」


 毎度毎度、新しい人物によく聞かれるなぁ。


「いや、俺は冒険者だよ。あまり深くは気にしないでくれ」


 同意の意味合いとしてコクコクと頷く少女達。


「本当は風呂に入らせたいが時間が時間だ。取り敢えずは綺麗になればいいだろう【クリーン】」


 少女達は驚いて自分の体を見つめる。

 肌も黒く少女達は綺麗な美少女に変身し、狐っ子と猫娘はフサフサの毛並みになった。

 後でもふらせて貰おう。


「それじゃあ、この服に着替えてくれ」


 俺は創造で用意した寝巻きを渡す。


「あ、あの。ありがとうございますニャ」

「私達まで嬉しいの」


 ファラとシェイがお礼を言ってくる。


「獣人だからと言って差別するはずないだろう」


 それを聞いた途端に涙を浮かべる子たち。

 今まで相当ひどい目にあってきたんだな。

 獣人の保護も視野に入れておくか?


「あの! ご主人様はどこかに行っちゃうのですか?」

「ん? 冒険者だからな、依頼で居なくなる事もあるだろう。それがどうしたんだ?」

「ご主人様との繋がりが欲しいのです。私達がご主人様の確固たる証拠が欲しいのです」


 まあ、ウェブ小説みたいに奴隷紋が奴隷達を苦しめるなんていう設定はないからな。

 逃げ出そうとすれば直ぐにでも逃げられる。

 となると攫われる可能性も増えてくるな。

 既にそんな経験があるのかな?


「分かった、後で用意するよ。お腹が空いているだろう。食事にしよう」


 俺は夕飯に食べたビーフシチューを温めなおして少女達に出す。


「温かいです」

「ひぐっ……美味しいです」

「お肉も入ってます」

「生まれて初めてなの」

「美味しいニャ」


 感動に涙を流しながら食べる少女達。

 聞いた話だと孤児院の食事よりもひどい。

 満腹になったのかウトウトしている。

 時刻は既に4時を回っている。

 子供にはキツイ時間だな。



「君たちはここで寝て貰う」


 大きなベットに案内する。

 五人一緒の方がいいだろう。


「ご主人様は寝ないのですか?」

「俺も別の部屋で寝るよ」


 すると大慌てで少女達は俺を囲む。


「寂しいのは嫌です」

「行かないで欲しいの」

「怖いのニャ、一緒に居て欲しいのニャ」


 捨てられたくない犬猫状況だな。

 今まで怖い思いをしたんだから暫くはそれでいいか。


「分かった。一緒に寝よう」


 と言うわけでみんな一緒にベットで寝る事になった。

 無論もふらせて貰ったので俺に異論はないのだった。




 ♢♦♢





 痛い。

 そして、重い。

 目を開けるとクリスが居た。

 なんでそんなに頬を膨らましているの?


「おはよう、クリス」

「おはようございます。何ですか? この子たちは」


 俺の隣でスヤスヤと眠る子達を指差す。


「メイドだよ」

「誰のですか?」

「俺の」

「メイドは一緒に寝ません」

「寂しかったんだろう」

「答えになってませんよ!」


 怒るなよ。

 起こしちゃまずい。

 せっかく寝ているんだから。


「昨日、夜中にハイゼット家が騒がしかっただろ?」

「そうなのですか?」


 ぐっすりか……。


「ちょっとした事件に巻き込まれたんだよ。それで、この子達はウチで預かる事になった」


 俺は首筋の奴隷紋をクラスに見せる。


「私と同じくらいなのに……」

「クリスは奴隷や獣人に抵抗はあるか?」

「いいえ、私は差別が嫌いです。可愛い子達じゃないですか」

「それは良かった。安心したよ」

「この子達がなぜ居るのかは分かりました。でも一緒に寝るのはいけないと思います! 何かあったらどうするんですか!」

「何かって何だい?」

「それは……その……」


 顔を真っ赤に染めるクリス。

 まだまだ子供だなぁ。


「冗談だよ、そんな事はしないから安心してくれ」

「約束ですよ!」


 バタンッ


「お兄ちゃん! おはようなのー!」

「こら、まだ寝てるかもしれないのですよ」

「お姉ちゃん、おきているのよ?」


 シェリーとルリーが入って来た。

 まずいな、カオスが誕生した。


「涼太さん! また女の子ですか!」

「違うんだよ。誤解だ、クリス」


 俺の襟首を掴んでブンブン振り回す。

 俺は悪くないんだ!

 元凶はあのクズ貴族。

 そう! 俺は悪くない!

 大事なことなので二度言った。


「綺麗なお姉ちゃんなの!」


 シェリーはトテトテとクリスに近づき抱きつく。


「あら、ありがとう。お名前は言えるかな?」

「シェリーはシェリーなの!」

「偉いね、よくできました」

「えへへへ」


 こいつ、やるな。

 子供の扱い方を熟知している。


「涼太さん、この子達は誰ですか?」

「はぁ、この子達は孤児院の子達だよ」

「それじゃあ、その赤毛の子もですか?」

「初めまして、ルリーと言います」

「よろしくね、ルリーちゃん」


 フランクに話しかけるクリス。

 良かった、思いの外すんなりと事が進んだな。


「ルリー、みんなは起きているか?」

「はい、起きています」

「それじゃあ、この子達も起こして朝食にしようか。クリスはどうする?」

「私も食べます!」


 朝食はサンドイッチになった。

 年長者で具材を作り、みんなで好きな物を挟んで食べるというものだ。

 お手軽ビュッフェだな。

 子供達は沢山の具材を挟んで自分で作ったサンドイッチにかぶり付く。

 楽しそうで何よりだ。


「それじゃあ、今後の事について話すよ。まず孤児院についてだが、これからは俺が面倒を見ることになった」

「りょう兄、あの貴族は?」

「俺がぶっ飛ばした。もう心配する必要はない」


 喜ぶ声が子供達から出てくる。


「それは本当なのですか?」

「アンさん、安心してくれ。陛下から直接許可を貰った」

「陛下って…国王様ですか! 涼太さん、あなたは一体……」

「知り合いが多い唯の冒険者だよ。それで本当の話はこれからだ」


 真面目な話をするという事で、子供達もしっかりと黙って俺の方を見る。


「君たちには仕事を手伝って貰いたい。給料は払うから安心してくれ」

「それはどういった事ですか?」


 アンさんは疑問に思い、俺に尋ねてくる。


「生活の安定のためです。貧しい生活は嫌でしょう? 働かざる者食うべからずと言う言葉があります。孤児院に関しては例外ですが、収入は有ることに越したことはありません」

「私やるよ! 辛いのは嫌だもん」

「俺も!」

「美味しいご飯食べたい」

「やるの!」

「させて下さい」


 子供達はやる気の様だ。


「仕事の内容は安定したら増やしていくつもりだが、まずはこれをお願いしたい」


 俺は机にある卵をみんなに見せる。


「卵ですか?」

「そうだ、君たちには鳥の世話をして貰いたい。朝一番に鳥を鶏舎から出して、鶏舎の中を掃除する。その間に卵の回収と餌と水の交換だ。勿論、日が暮れる前には鳥達は鶏舎に入れること。できるかい?」


 肯定の声が一斉に上がる。


「よろしい、準備はこちらでするから後で孤児院に行くよ。それから、俺の家で働くことになったメイド達だ。孤児院の世話もして貰うからよろしく頼むよ」


 メイド達は最初は大勢に怯えていたが、孤児院の明るい雰囲気に飲まれて笑顔を見せる。

 獣人に対する差別も感じられないし良かった。


「涼太さん、私の説明がまだです」


 口いっぱいにサンドイッチを含み、モギュモギュしているクリスから反論があがる。


「必要か?」

「必要です!」

「分かった。こいつはクリスだ。隣の公爵家のお嬢様だよ。見ての通りの奴だからかしこまる必要はない」

「酷いですよ! 私にも威厳というものくらいあります!」


 それじゃあ先ずは、その両手に持っているサンドイッチを置けよ。

 ただの欲張りお嬢様にしか見えないんだから。


 あー、なんかアテナに似てきたな。

 マズイ、これは非常にマズイな。

 あのアホと化したら手が付けられなくなる。

 グリムさんに相談でもするかな?


「申し訳ありません。公爵家令嬢とはつゆ知らずに。どうかご容赦を」


 アンさんは畏まってクリスに頭を下げる。


「そんな事する必要ないですよ。仲良くしましょう!」

「ありがとうございます」



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