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47話 悪党成敗

 コンコン


「誰だ」

「俺です」

「涼太か、入れ」

「失礼します」


 俺はグリムさんの自室に入る。


「こんな遅くにどうしたのだ? もう寝ていると思ったぞ」

「それを言うならグリムさんもでしょ。あまり仕事をしていると倒れますよ」

「仕方ないだろう、私は公爵家の当主だ。まあ、気をつけるよ。それで、お前は何をしに来たのだ? ただ事ではない様だが」


 俺の雰囲気に気がついたのか真剣な表情になる。

 話が早くて助かる。


「単刀直入に言います。グリムさんは孤児院への援助金を着服している輩を知っていますか?」

「何! それは事実か」


 グリムさんは知らなかったのか。


「事実です」

「誰だ、その様な愚かな事をしたのは」

「ベトン伯爵をご存知ですか」

「あいつか!」

「知っているのですか?」

「彼奴が悪さをしているのは知っている。だが証拠が掴めずに悪戦苦闘している輩だ。孤児院の担当まで彼奴になっていたか。すまない事をした」


 やはりクズか。

 隠し事だけは一丁前だな。


「それで面白い物をその伯爵家から取ってきたのですが見ますか」

「証拠を掴んだのか?」

「ええ、それだけでは収まりませんでしたけどね」


 俺は見つけた資料を机の上に並べる。

 グリムさんは一つ一つじっくりと読む。


「これで全部ではないな」

「分かりますか?」

「お前さんの性格は分かっているつもりだ」


 肘をつき、ニヤリと笑う。


「俺が本当に見せたいのはこちらです」


 貴族誘拐の案件書類を渡す。


「ほぅ、面白い事が書いてあるではないか」

「どうしますか?」

「無論潰す、娘を誘拐した犯人だからな。だがこれは、たかが一人の貴族が出来る所業ではない。必ず共犯者がいるはずだ、先ずは王城へ捕縛状を貰いに行く。王城まで転移してくれ」

「分かりました」


 俺は王城の門に転移する。


「ハイゼット公爵様、如何様なご用件でしょうか?」

「陛下に会いたい。通させて貰えるか?」

「承知しました。しかし、そのお連れ様は……」

「涼太、バッジを見せろ」


 前に貰ったバッジを門番に見せる。


「ッッ! 失礼しました!」


 効果は絶大だな。

 流石は王家の紋様だ。




「陛下、ハイゼット公爵家現当主様が参りました」

「入れ」

「邪魔をするぞ」


 陛下はどうやら睡眠中の様だった。


「これを見てくれ」

「ふむ、書類か……なるほど……捕縛状だな。すぐに用意しよう」

「助かる」


 サラサラと紙に文字を書き、グリムさんに渡す。


「捕まえて王城に連れてきてくれ。私が裁く」

「分かった、任せろ」

「陛下、俺からもお願いがあります」

「なんだ、涼太」

「孤児院についてですが、俺の方で面倒をみさせてくれませんか?」

「それは援助金は必要ないという事か」

「はい、少しやりたい事があります。孤児院の安全は保障しますのでご安心を」

「分かった、何かあれば頼れ。これは国の不始末だ。出来る限りの事は手助けする」



 ♢♦♢



 ハイゼット家は深夜だが騒ぎ立てている。


「グリム様! 準備が整いました」

「アザンよ、出来るだけ捕縛せよ。どうしようもなければ殺して構わん」

「承知」


 ハイゼット家の兵士全てがベトン家に向けて進行する。

 窓からは突然の事態にちらほらと人が見ている。



「これはこれは、ハイゼット家現当主様ではありませんか。こんな夜更けに如何なさいましたかな?」

「ベトン伯爵に合わせろ、捕縛状も出ている」

「なっ!」

「あまり抵抗はするなよ。罪が重くなるだけだ、これでも私は怒っているのだ。分かったな?」

「は、はい」


 門番は腰が抜けて地べたに座る。

 それを見過ごさずに、騎士たちが縄で門番達を拘束した。


「当主を私の前に連れてこい!」


 それを合図にハイゼット家の騎士達は一斉に屋敷の中へ突撃する。

 俺も行くか。


「涼太よ。どこに行くのだ?」

「地下に少女達が監禁されているので助け出して来ます」

「分かった」


 コツン、コツン。


 地下への階段を降りる音が鳴り響く。


「貴様! 侵入者か!」

「うるさい」


 ドゴッ!


 ガブリエルのやつ、監視がいる事ぐらい教えてくれれば良かったのに。

 いや、普通に考えればいるか。


 あれ?

 檻の中には五人の少女たち。

 少女達と聞いたから人族と思ったら、獣人の少女も居るな。

 首と手足には枷が付けられている。

 一つに纏まって怯えている様だ。


「あ、あなたは誰ですか?」


 一人の少女が俺に尋ねる。


「外で騒ぎが起きているのが分かるだろう? 俺は君達を助けに来た」

「本当? 出してくれるの?」

「ああ、君達は自由だ。少し大人しくしてくれ【解除アンロック】」


 次々に少女達の枷が取れていく。


「こんな生臭いところは嫌だろう。全員、俺について来てくれ。ただし大人しくしてくれよ」

「分かりました」


 外ではベトン家の当主がグリムさんの前で押さえつけられている。

 関係者は縄で縛られている様だ。


「ふむ、そちらも救出は出来た様だな」

「はい、無事に保護しました」

「なっ! 貴様はあの時の冒険者か! この俺にこの様な事をしてただで済むと思うなよ!」

「現状を見ろ。お前は汚職どころか、ハイゼット家を本気で怒らせたんだ。ただで済まないのはお前だ」

「くくく、確かにそうだな。俺はここで終わりの様だ。だが何もしないで終わる訳にはいかないな」


 男は懐から錠剤の様な物を口に入れる。

 騎士が無理やり地に押さえつけた。

 嫌な気配だ。

 まずい!


「総員退避しろ!」


 俺の掛け声にグリムさんや騎士達は後ろに回避する。

 ベトン伯爵の周りから黒いオーラが溢れでてき、大気が乱れる。

 ベトン家の関係者や少女達は俺の結界で間一髪防ぐ事が出来た。


 グワァァァァァ!


「何だ、こいつは!」


 兵士達も慌てている。


 *


マージ・ベトン LV.24(悪魔憑依)


 攻撃:230(+6500)

 魔力:540(+5200)

 俊敏:90(+2000)

 知力:160(+7400)

 防御:100(+5000)

 運:50(-50)


 *


 憑依?

 いや、体は既に乗っ取られているか。

 こいつが悪魔。


「よう、悪魔さん。初めましてだな」

「頭が高いゾ。ワレは地獄の72支柱が一人、ラウムなり地にヒレふ……「うるせぇよ!」」


 俺の蹴りで悪魔は屋敷の端から端まで吹き飛ぶ。


「クソ悪魔さん。お前に選択肢をやろう。お前の本体は別にあるだろう? 憑依を解いて尻尾を巻いて逃げろ、一度目は許そう。二つ目は俺にボコボコにされるかだ。さあ、どうする?」

「貴様、ワレが誰か分かってイナイよう……」

「俺はな、怒っているんだよ。うちの大切な人に害をなそうとした事を許す事は出来ない。何が言いたいか分かるか?」


 俺のオーラで空間自体に重圧がかかる。

 圧倒的な存在の前に悪魔は余裕をなくす。


「き、貴様はナニ者ダ! ワレを殺せば全ての悪魔を敵にマワス事になるんだゾ!」

「俺が言いたい事は一つだ。二度と俺の身内に関わるな。早く憑依を解け。お前の憑依している体にはまだ聞かなければならない事がある」

「ククク、ならばこの体は利用させて貰おう」

「それがお前の選択肢か。じゃあ死ね」


 俺は一つの剣を取り出す。


「喰らい尽くせ。【魂喰刀ソールイーター】」


 こいつのみを潰す。


「ナ、何だそれハ! くそっ、覚えてオレよ」


 ちっ、状況判断能力は高いか。

 刀を見た瞬間に逃げやがった。

 それにしても悪魔か。

 魔族とつるんでいると言っていたな。

 いつか敵対する時が来そうだ。


 ベトン伯爵は憑依から解放されて元の姿に戻る。


「涼太! 無事か!」


 グリムさんと騎士達が走ってこちらにやって来た。


「はい、問題は片付きました」

「先程、こやつは悪魔と言っていなかったか? 悪魔と言えば災厄の象徴だぞ」

「悪魔は脅しておきましたので暫くは出て来ないと思います」

「悪魔を脅すか。ふはは、流石は涼太だな。今回は助かった。お前が居なければこちらの被害も大きかっただろう」

「そりゃどうも、それよりもこの後の事を話しませんか?」


 俺の役目は終わりだ。

 しかし、監禁されていた少女達の身柄をどうするかは聞いておきたい。


「少女達には奴隷紋か、更には獣人。陛下に進言する必要がある」

「この子達の今後について聞きたいのですが」

「流石に私が匿う事は出来ない。一度付けられた奴隷紋は対象が死ぬまで消えん。奴隷制度を廃止しようとしているこの国で公爵家の私が奴隷を持っていれば示しが付かない。恐らくは国の外の村で一生働く事になるだろう」

「獣人達はどうなるのですか?」

「何とも言えんな。亜人が差別されている世の中だ。平穏に過ごす事は保証できん」


 それを聞いた少女達は解放された喜びから一変し、暗い表情になる。


「ならば、俺に預けてくれませんか」

「お前にか? 孤児院の件もあるのだ、大丈夫か?」

「大丈夫だと思います」

「そうか、ならば任せる。くく、それにお前は少女達にどうやら気に入られている様だな」


 そうなんだよなぁ。

 少女達は俺の後ろから離れようとしない。


「恐らくは吊り橋効果ですよ」

「何だ、それは?」

「危機的状況において助けてくれた人物を信用するというものです。すぐに冷めますよ」


 地球でもよくある話だ。

 勢いに任せて突っ走るとすぐに破局する。

 俺も何度かあったなぁ。


「なるほどな、しかしそんなに甘い事でもないぞ?」


 ニヤニヤしながら理解するグリムさん。

 なんかおかしい事でも言ったか?


「お願いします! 私達を見捨てないで下さい! 何でもします!」

「ご主人様! お願いします」

「夜の奉仕もします。私達をどうかお側に!」


 見捨てられると思ったのか、少女達は必死にお願いする。

 土下座をする子も居る。


「はぁ、分かったよ。ひどい事はしないから安心してくれ」

「くく、せいぜい頑張れよ」

「グリムさん、あんた楽しんでないか?」

「さぁ、どうだろうな。見事に少女達は美人揃いだ。クリスがどんな反応をするか楽しみだ」


 そう来たか!

 あんた、自分の娘で遊んだんじゃねぇよ!


「クリスはクリスですよ」

「あまり、ほっておくなよ? 女は拗ねると面倒だ」

「分かりました。気をつけます。それじゃあ、俺は帰りますね。グリムさんはどうしますか?」

「私達は今からこの屋敷を調べる。お前が見つけた物が全てというだけではないだろ?」


 確かにそうだ。

 俺は自室のみを探したから他の部屋にも何かあるに違いない。


「では失礼します」


 俺はその場から少女達と一緒にマイホームへ帰った。






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