46話 救済処置
「凄いのー! きれいなお家なのー!」
俺と孤児院の子供達と院長さんは直接俺の家まで転移する事になった。
流石にこの人数だ。
街中を歩けば目立つ。
それはこの子達にとっても良くないと思った。
さて、まずは風呂だな。
体は清潔に越した事はない。
とは言ってもどうしよう。
流石に子供とはいえ、男女は別に入らせた方がいい。
風呂の使い方やシャンプーの説明は入って出来ないな。
アンさんなら大丈夫かな?
ピロンッ
【YES ロリータ! NO タッチ! 忘れた訳ではではなかろうな? byアポロン】
「…………」
「お兄ちゃん? どうしたの」
シェリーは俺が急にフリーズしたのを疑問に思い、袖を引っ張る。
「何でもないよ。アンさん、少しの間ですが待っていてくれませんか? すぐに戻ってきます」
「分かりました、みんな良いわね」
「「「「「「はーい」」」」」」
よし、大丈夫そうだ。
俺は玄関から外に出て、神界に転移する。
「おい、涼太。貴様、幼女達と一緒に風呂にはい……「ふんっ!」」
俺の拳がアポロンの鳩尾に直撃する。
気を纏ったので威力は倍増だ。
「おぐっ」
「馬鹿ですか、貴方は。りょう君が貴方みたいな変態と一緒な訳ないでしょう。小さな子供をお風呂に入れる事に何の問題があるのですか」
「しかし…幼女と風呂だぞ!」
「………しね、へんたい」
パンドラの一撃にいつも通りひれ伏すアポロン。
夫婦みたいだな…おっと睨まないでくれよ、パンドラ。
ごめんなさい、言っちゃダメだったよね。
さて、どうしよう。
神様は地上に降ろせない。
となると天使か……。
「ガブリエル、お前はその翼を消す事は出来るか?」
「それはもぎ取るという意味でしょうか?」
違うよ!
怖い事言わないで下さい!
無理か。いや、いけるぞ。
俺の創造でガブリエルにスキルを付与すればいい話だ。
俺は【不可視】、【透過】、【認識阻害】のスキルを創り、ガブリエルに付与する。
「ガブリエル、今お前に付与したスキルを翼に一極集中で使えるか?」
「やってみます」
すると、どんどんと翼が大気に溶け込む様に消えていく。
触れる事も出来ない。
よし、成功だ。
「流石はガブリエルだ、完璧だぞ」
「ありがとうございます」
「ガブちゃんが人間になりましたね」
「それじゃあ、ガブリエル。いくぞ」
「はい、主人様」
俺は再びガブリエルと一緒に地上へ転移する。
「ただいま」
「お帰りなさい。あら、そちらの方はどなたですか?」
「お初にお目にかかります。私はメイドのガブリエルと申します。以後お見知り置きを」
「涼太さんは貴族なのですか」
「いや、冒険者ですよ」
「しかし、この地区は貴族様方が住む場所ですよ」
「まあ……気にしないで下さい。色々と事情があるんです」
そんな事よりも風呂だ。
サッパリしよう!
「ガブリエル、シャンプーや風呂の使い方を女性陣に教えてやってくれ。俺は男風呂に入る。服とバスタオルは洗面所に置いてあるから頼んだぞ」
「承りました」
「よし、お前達。付いて来い!」
俺たちは地下に行く。
「お兄ちゃんは一緒に入らないの?」
「また今度な」
「むぅ」
適当にはぐらかしとけば問題ないよな。
ピロンッ
【死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね byアポロン】
餓鬼か!
器が小さすぎるだろ!
「よし、お前達。服を脱いでそこの箱に入れて置いてくれ」
俺の指示に子供達は忠実に従う。
あれ? この年頃ってもっとやんちゃなイメージがあるんだけど大人しいな。
「りょう兄、終わったよ」
「よし、風呂に行こうか」
俺は風呂のドアを開ける。
「うぉー、すげー。なんだここ」
「でけー」
「りょう兄すげー」
風呂の大きさに圧倒される。
まあ、圧巻だよな。
「まずは体を洗うぞ、付いてきてくれ」
俺の指示にアヒルの子供の如く付いてくる孤児院の男児達。
俺は一人を座らせて、実演していく。
一度めのシャンプーでは泡が全く立たなかった。
どんだけだよ。
三回ほどすると泡が立ってきた。
「目に入ると痛いから気をつけろよ」
一通りどうするのか分かった様なので、後は自分達でやって貰う事にした。
「お湯には綺麗に体を洗ってから浸かれよ」
「「「「「はーい」」」」」
子供達は初めて見る泡が魅力的だったのか、洗い終わっても泡で遊んでいた。
まぁ、俺も小さな頃は遊んでいたから気持ちが分からんでもない。
暫くして、全員が洗い終わったのでお風呂に浸かっている。
そろそろ上がるか。
「お前ら、風呂から上がるぞ」
「えー、もっと居たいよー」
「気持ちいい」
「お腹すいてないのか?」
「すいてるー」
「腹減った」
大人しく、全員がバスタオルに包まれた。
うん、綺麗になったな。
髪もサラサラだ。
綺麗な服も気に入ったのか、テンションが上がりっぱなしである。
この子達が着ていた服はどうしようかな。
洗ってからアンさんに聞くか。
「主人様、お待たせしました」
暫く待っていると、女性陣も上がった様だ。
「へぇ、ルリー。見違えたじゃないか、綺麗だよ」
こんなにも変わるものなんだな。
ボサボサの髪の毛も綺麗な毛並みに仕上がっている。
流石はガブリエルだ。
「あ、ありがとうございます」
「お兄ちゃん! シェリーは? シェリーも綺麗になった?」
「ああ、シェリーも綺麗だよ」
「えへへへ」
よしよしと頭を撫でる。
「涼太さん、ありがとうございました。気持ち良かったです」
「それは何よりです。それじゃあ、今日泊まる部屋に案内しますね」
この子達は孤児院でいつもくっついて寝てたそうだ。
個別の部屋よりも雑魚寝の方が落ち着くだろう。
俺は大部屋に行き、布団を一人一つ分を創造する。
「これは布団と言う。これを敷いて今日は寝て貰うよ。敷き方は一度見せるから自分達で出来るかい?」
肯定の声が部屋中に響き渡る。
元気いいなぁ。
「アンさん、俺とガブリエルは食事の準備をしてきますのでこの子達の事はお願いします。出来たら呼びにきますのでゆっくりしていて下さい」
「分かりました。何から何までありがとうございます」
「気にしないで下さい。俺が好きでやっている事ですから。いくぞガブリエル」
「承知いたしました」
部屋から出て俺とガブリエルは厨房にむかう。
「主人様、何を作られるご予定でしょうか」
「そうだな、まともな食事を取れていないから食べづらい物はやめておこう」
「では流動食に致しますか?」
「いや、肉が食べたいと言っていた。ビーフシチューにしよう」
「承知しました」
俺とガブリエルは魔法を併用して作っていく。
二人いると作るのが早いな。
ゆで卵を一人一つ用意でもしとくか。
「ガブリエル、呼びに行ってくれるか」
「承りました」
人数はざっと30人。
テーブルが足りない。
増やすか。
創造完了。
「飯だー」
「ご飯なのです!」
「いい匂い」
「お腹減った」
次々に子供達が入ってくる。
アンさんと一緒に全員を席へ座らた。
「ゆっくりと食べろよ。一気に食べたら喉に詰まる」
それを合図に子供達は一斉に食べ始めた。
涙を流しながら食べる子供もいる。
「涼太さん、ありがとうございます。こんなにも素晴らしい料理を頂いたのは初めてです。高級品の卵まで……よろしかったのですか?」
「アンさん、卵は高級品なのですか?」
「はい。貴族様なら食べられますが、庶民にはとても手が出せない品なのです」
知らなかった。
市場に見当たらないから自分で創造していたがそう言う理由があったのか。
ハイゼット家に慣れ過ぎていて気がつかなかったが、ハイゼット家は公爵家だ。
卵が出てくる日常が当たり前になっていた。
「気にしないで下さい。子供達の為ですから」
♢♦♢
時刻は深夜二時。
子供達はぐっすりと眠っている。
「行くぞ、ガブリエル」
「承知しました、主人様」
孤児院を苦しめているベトン伯爵の屋敷に向かう。
「どう致しますか? この時間にも警備がいるとは……」
「問題ない」
パチンッ
俺は指を鳴らす。
瞬間、俺とガブリエル以外の時が止まる。
「ガブリエル、行くぞ」
「これが時止めの力ですか。流石は主人様です」
この力の前では警備など無意味。
中は思っていた通りに誰も人がいない。
もう一度指を鳴らして時を戻す。
「手分けして証拠を探す。見つかるなよ」
「勿論にございます」
俺とガブリエルは手分けして屋敷内を散策する事にする。
先程与えたスキルにより、ガブリエルの姿はもう見えない。
与えた本人が言うのもなんだが、チート過ぎる。
見えないどころか、触れる事すら出来ない刺客。
最強の暗殺者の出来上がりだ。
まずは、現当主の自室だな。
何かあるとすればそこが一番怪しい。
俺はガブリエルと同じスキルを使い、屋敷に潜入する。
手薄だな、扉も開けっぱなしだ。
歩いているうちに、それらしき部屋を見つけた。
無駄に派手な装飾があちらこちらにあり、趣味が良いとはとても言えない。
机には書類が散らばっている。
片付けろよ。
俺は汚職をしているであろう書類を分けて重ねていく。
こいつ、根っからのクズだな。
違法取引、恐喝、殺人。
その他にもそれに関する書類が数多く出てくる。
「へぇ……」
俺は一つの書類に手を止める。
『ケイオス学園、帰郷中貴族の捕縛並びに密輸』
内容は帰郷中の生徒を盗賊に襲わせて、奴隷にする事や魔族との取引に使うと書いてある。
魔法の適正値が高い貴族は高く売れると…。
クリスが襲われたのはこいつのせいか。
「主人様、ご報告があります」
「なんだ?」
「地下において、監禁されている少女達並びに死体の山がありました」
「なんだと……」
腐りきってるな。
「ありがとう、ガブリエル。後の事は任せてくれ。少し面倒ごとになるから、お前の存在は出したくない」
「承知しました。何かあればいつでもお呼び下さい」
ガブリエルは天門から帰っていった。
俺も為すべき事をするか。