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45話 孤児院へ




「さっきはありがとうございます。その…美味しかったです」

「ありがとうなの!」


 どうやら信用してくれた様なので孤児院へ案内してくれる事になった。

 南の外れにあるという事なので、ゆっくりと歩いて移動中だ。


「お兄ちゃんは冒険者様なのですか?」

「うん、そうだよ。とは言ってもなりたてだけどね」

「魔物もいっぱい倒すの?」

「そうだね、いっぱい倒すねー」

「凄いの! いっぱい倒すの!」


 パシパシと肩車をしている女の子が俺の頭を叩く。

 小さいから全く痛くない。

 それにしても軽いなぁ。

 15キログラムもないと思う。


「こら、冒険者様の頭を叩いてはいけません!」

「あぅ、ごめんなさいなの」


 お姉ちゃんに怒られてビクッとする。


「いいよ、気にしていないし。それと俺の事は涼太と呼んでくれ」

「はい、涼太さん。私はルリーと言います」

「シェリーなの!」



 ピロンッ


【神託が下されました】


 は?


【救うのだ。幼女達を救うのだ! 死なせる事は許さん! お前なら出来ると信じている byアポロン】


 くそロリがここぞとばかりに出て来やがった。

 神託って何だよ、メールか何かか?

 まあ、言われなくても助けるよ。


「お兄ちゃん、どうかしたの?」

「うんうん、何でもないよ。シェリーは今日は何が食べたい?」

「お肉が食べたいの!」

「こら、そんな贅沢品をねだってはいけません」


 肉が贅沢品か……。


「普段はどんな食事をしているんだ?」

「普段は固いパンを水で柔らかくして食べたり、塩で薄めたグズ野菜のスープを食べています」


 驚いた。

 本当にそれだけで生きていけるのか……。

 聞いた感じでは、タンパク質はほとんど取れていない。

 タンパク質は体を作る栄養素だ。

 圧倒的な食事量の少なさもあるが、タンパク質不足が痩せている大きな原因の一つだな。


 しばらく南に行くと、店や建物の数が徐々に減っていく。

 スラムとまではいかないが、無法地帯という表現に近いかな?


「着きました。ここが孤児院です」


 見るからにボロボロの建物。

 周りは空き地で誰も居ない。

 壁にはヒビが所々に入っており、穴も数えられない程ある。

 これは全く家としての機能を活用出来ていない。

 想像以上だ。


「ただいまー、帰ったよ」

「ただいまなの!」


 二人に続いて俺も孤児院の中に入る。

 中は更に酷いものだった。

 痩せこけた子供達が大勢いる。

 何日も風呂に入っていないせいか、軽く異臭もする。

 これは孤児院ではなく隔離施設という表現の方が正しい。


「ゴホゴホ、お帰りなさい。そちらの方は?私は院長のアンと申します」

「冒険者の涼太です」

「なぜまたこの様な場所に? お恥ずかしい話ですが、お客様にお出しするものが無くて……」

「あのね、お兄ちゃんは私達にお腹いっぱい食べさせてくれるんだって!」

「それは、感謝の言葉もあり……ゴホゴホ」


 院長は床に倒れ込む。

 病気か何かか?


「院長! 無理をしないで下さい。病気が悪化します」

「大丈夫なの?」


 周りの子供達も院長を心配して駆け寄る。


「休ませたいからベットはどこにあるか分かるかい?」

「あっちなの!」


 俺は院長先生を抱き抱えて、子供達に案内されながらベットに向かう。

 息が荒い。

 ヒューヒューと言っている。

 喘息か最悪は肺炎も考えられる。


 案内された場所は牧草が積まれているだけで、ベットはなかった。

 馬小屋の方がまだマシだぞ。

 今は仕方がないな、我慢して貰おう。


「先生は大丈夫なのですか?」

「重症だな、魔法を使うよ。【キュア】【ハイヒール】」


 俺の手から光が院長先生を包み込む。

 治療が終わったら院長先生はスヤスヤと眠りについた。


「涼太さんは魔術師なのですか」

「まあ、特技の一つかな」

「あの……治療費は……」

「ルリー、俺は善意でやっただけだ。必要ない」

「ありがとうございます」


 ひとまず落ち着かせた。


「この中で一番年長は誰だい?」

「私です」


 ルリーが手を上げる。


「それじゃあ、ルリー。聞きたい事がある。国からの援助金は出ているのか?」

「その…貰ってはいますが…」

「あのね! 悪い人がお姉ちゃんをいじめるの! いじめて帰っちゃうの!」

「シェリー、今は私と涼太さんが喋っています」

「ごめんなさいなの」


 いじめ?

 どういう事だ?


「詳しくお願い出来るかい?」

「はい。貴族の方が毎月援助金を持って来るのですが、徐々にその援助金が減らされているのです。相手は貴族なので逆らう事は出来ません」

「お姉ちゃんを奴隷にするって言ってたの!」

「何? 奴隷だと……」

「やはり、私が身売りをすれば孤児院は助かるので……「だめなの! お姉ちゃんは居なくなっちゃダメなの!」」


 他の子供達もルリーの発言に抗議する。


「ルリねぇ! あいつが来たよ!」

「あいつ?」

「みんな、隠れてなさい」


 子供達は一斉に別の部屋に入っていく。


「お兄ちゃんも来るの!」

「うわっ!」


 俺も引っ張られて部屋の中に入った。

 すると、一人の貴族が扉を蹴って入って来る。

 扉の壊れた音で子供達はビクッとする。


「ふむ、相変わらず瑞穂らしい所だ」

「お久しぶりです。ベトン伯爵様」


 ルリーは深くお辞儀をしている。

 しかし、怯えているのが一目瞭然いちもくりょうぜんだ。

 子供を欲しいとは、ロリコンではなく犯罪者だな。

 YES ロリータ! NO タッチ! とアポロンから暗示をかけられているレベルで何度も聞いた。

 手を出しているこいつはアウトだ。


「院長はどうした?」

「院長は病を患っていますので、部屋で休んでいます」

「ほう、良いことを聞いた。ルリー、お前が俺の物になれば助けてやってもいいぞ?」

「それはお断りしているはずです」

「私に逆らうとは良い度胸だな!」


 男はルリーの鳩尾みぞおちに蹴りを入れる。

 それも何度もだ。


「お前は自分の立場が分かっていない様だな。私に逆らう事がどういう事か分かったいるのか?」

「うぐっ!」


 ルリーが床に倒れ込む。


「うぅ、お姉ちゃん……」


 子供達は必死にルリーの現状を耐えている。


「ふん、いつになれば根を上げるか楽しみだ。ほれ、今月分だ。ありがたく受け取れ」


 男は銅貨一枚をルリーにめがけて投げ捨てる。


「そんな……これでは生きていく事は出来ません!」

「貴様はまだ私に逆らうというのか!」

「あぐっ!」


 ルリーの口から血が出てくる。

 子供をそんな風に扱うとは……良い度胸だな。

 俺の内側から怒りが込み上げてくる。


 ピロンッ


【殺せ。byアポロン】

【やっちゃえ! by女神一同】


 あちらさんも相当お怒りの様だ。

 言われなくも、ここで何もしないのは俺の人情に欠ける。

 俺は立ち上がり、部屋を出ようとする。


「お兄ちゃん、行っちゃダメなの!」

「大丈夫だ、お前達は俺が守る」


 貴族の男と護衛が三人か、外にも何人かいるな。


「何だ貴様は? 私が誰だか分かっているのか」

「知るか」

「フンギャア」


 俺の拳が男の顔面にぶち当たる。

 まだ足りないな、もう一発やるか?


「貴様!」

「うぐっ、殺せ! 今すぐにその男を殺せ!」


 騎士は俺にめがけて剣を振るう。


「死ねや!」

「あ?」


 いつ以来だろうか、こんなにも低い声が出たのは。


 騎士達は動かない。

 周りに静寂な時が流れる。


「何をしている、貴様ら! 早くその男を殺せ!」


 主人の命令も今の騎士達には届かない。

 何故なら騎士達は幻視しているからだ。

 絶対的な強者に屠られる自分達の姿を。



「あ……あ……」


 ドサッ


 三人の騎士がその場に倒れ込む。


「なっ! 貴様ら、一体どうしたんだ!」

「おい、そこのクソ野郎」

「ヒッ、何だ!」

「今すぐに出て行け」

「くっ、覚えていろ! 貴様の顔は覚えた。ただで済むと思うな!」


 男は騎士達を連れて孤児院から立ち去った。


「ふうっ」

「お兄ちゃん、かっこよかったの! 凄かったの!」


 子供達は部屋から出て来てキャイキャイと騒ぎ立てる。

 ひとまず、ルリーの回復だ。


「【ハイヒール】」


 魔法を使い、すぐにルリーは起き上がった。


「涼太さん、ありがとうございます」

「いいよ、気にするな」


 さて、どうしたものか。

 あの貴族は俺のブラックリストに載った。

 物理的にも社会的にも潰す。

 着服をしている事は見て分かる。

 他にも色々とやっていそうだし、今夜にでも証拠を集めるか。


 まずは安全確保だな。

 いつあの貴族がここに来るかは分からない。


「よかったら、今日は俺の家に来ないか?」

「涼太さんの家ですか?」

「俺の家なら君達全員をかくまう事が出来るよ。美味しい物も沢山あるよ」


 ルリーは突然の事に戸惑う。

 どうしたらいいのか分からない様子だ。


「お兄ちゃんのお家行きたいの!」

「俺も!」

「私も行きたいです」

「行こうよ」

「お腹減った」


 どうやら決まった様だ。



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