41話 男の戦い
ギルドはいつもの様に賑わっていた。
昼間から酒を呑んだくれている輩がちらほらいる。
今回は俺もその中に混ざっている。
「いいか、手加減なんてするんじゃねぇぞ」
「お前こそ負けた時の言い訳でも考えていろ」
二人の男は真剣な表情で違いを見据えた。
鍛え抜かれた筋肉がお互いを威嚇する。
周りも男達も二人の緊迫した局面にワクワクを隠せていない。
「涼太、合図を頼む」
男と男の雌雄を決する時。
今回は俺も乗り気だ。
二人はお互いに持っている手を固く握り締めて臨戦態勢に入る。
「準備はいいか?」
「おう」
「もちろんだ」
「ではいくぞ。レディー、ゴー!」
俺は二人の間に入り緊迫感が最高潮に達した瞬間に合図をかける。
その瞬間に二人はトップギアになりお互い相手を倒す為に力の限りを尽くす。
「ふんぬぅぅぅ」
「負けるかよぉぉぉ」
二人は一歩も譲らずない。
互いの攻防が続き、遂に決着がつく。
「勝者、青コーナー!」
ウォォォォォォォォォォ!
「くっそー、負けた」
「ははは、儲けさせて貰ったぜ」
「いい試合だったじゃねぇか」
「次は俺だ」
「お前じゃ、即死だ」
「んだとゴラ! 今すぐやるか?」
「上等だ! 返り討ちにしてやんよ」
俺達は今、男の強さを測る戦い。
腕相撲をやっている。
まあ、娯楽というか一種の方賭け事だな。
「しっかし、涼太。お前さんがこんな案を出さなかったら今頃どちらも血まみれだったな」
俺に語りかけてきたのはカインのパーティメンバーの一人であるフレイだ。
斧を得意とする前衛を担っている。
「単純な力比べならこれに勝るものはない」
「かかっ、違いねぇ。まあそのおかげで新しい楽しみが出来たんだ、良いことじゃねぇか」
そう、初めはギルドの中での喧嘩が原因だった。
ギルド職員も手をつけられなくなった中でお互いが剣を抜いたのでこれはマズイと思い、俺はある提案をした。
それが腕相撲だったのだ。
単純な力比べ。
シンプルイズベスト。
単細胞の塊である冒険者にとってはうってつけの戦い方だ。
狙いどうりお互いは白熱した腕相撲をして見せ、無事仲直りを果たした。
「いっそのこと、誰が一番強いか試してみないか?」
「ほう、面白えじゃねぇか。また祭り事か?」
「ああ、祭り事は俺も好きだからな」
「武技大会みたいだな。となると優勝商品も必要になってくるぞ」
そうだな、確かに商品はあった方がいい。
「それなら、参加料は一人1500ペル。優勝したらコレを渡そう」
俺はアイテムボックスの中から商品になりそうな品を出す。
すると、ギルド内の全員が俺の商品に釘付けになる。
「おいおい、マジかよ。それは常識外れだろ」
「だが商品としては最高だろ」
「それは間違いねぇな」
全員が唾を飲み込む。
俺が出したのはお馴染みの万能アイテム、ジュエルシリーズのエメラルドメロンだ。
正直に言うと食べ過ぎて飽きてきたんだよな。
樹海の果樹園に行けば、山ほどある。
俺が取っても取っても減る気配がしないのだ。
「よし、それじゃあ開催は今から五時間後のギルド訓練場だ。野郎ども! 人員をかき集めるぞー! 優勝した奴は真の男だ!」
ウォォォォォォォォォォ!
軽い気持ちから始まった大会宣言。
俺は事態の大きさに未だ気がついていなかった。
♢♦♢
「さぁて、始まりました。第一回、腕相撲選手権! 実況は冒険者ギルドのアイドルことルーナちゃんでーす!」
ウォォォォォォォォォォ!
「司会には、今回の主催者でもある月宮涼太さんにお越しくださいました! 涼太さん、挨拶をどうぞ」
なぜだ、こんな事になるとは思っていなかったんだが。
そして俺は司会か。
出たかったんだけどなぁ。
「あ、うん。今日は集まってくれてありがとう、頑張ってね」
「今日は短い時間ですがなんと、500名の参加者がこの訓練場で戦います! そして、優勝商品はこれだ!」
ゲージに入ったエメラルドメロンが高々と掲げられた。
「市場では一つ数十万から数百万で取引されるジュエルシリーズだぁぁぁ! 近年更に希少になっております。それがこの大会で手に入るのだ。勝て、勝ち進め! 勝った者が勝者だ!」
白熱した歓声がギルドの訓練場に響き渡る。
訓練場は人で埋め尽くされていた。
何で、こんなに集まってんの?
ちらほら騎士団も集まってるよ、ルールは問題ないが貴族まで出てくるとはなぁ。
一人が1500ペル、それが500人。
つまり75万ペルの儲けが出てくる。
開催に当たって、ギルドに一割が納入される。
だとしても65万5000ペルの儲けが俺に入ってくる。
ウハウハだな。
「対戦についてですが、準々決勝までは纏めての対決になります。なお、この大会は純粋な力勝負のために魔法並びにスキルの使用は即失格とします。解説は準々決勝からなので頑張って下さい」
まあ、こんな人数だから纏めてのやらないと今日中に終わらないよな。
さて、準々決勝まで時間があるしどうしようかな。
ぶらぶらしとくか。
俺はギルドで飲み物を頼んでのんびりする事にした。
「涼太よ、どうした? 浮かない顔だぞ」
「開催者がそんなことでどうする」
二人のマスクを被った男が俺に声をかけてきた。
と言うか、この二人って……。
「何やってんですか、グリムさんに陛下」
何で居るの?
国の王が何してんの?
ドラゴンマスクが陛下で、タイガーマスクがグリムさんか。
「ほう、タイガー。私達の存在に気がついた様だ」
「うむ、ドラゴン。流石は涼太だ」
「何で二人がここに居んですか」
「真の男を決めるのだ、心が躍るではないか。それに、私は王だから普段は主催する側で参加出来ないのだ。国王が出場してはいけないルールなど無い」
いや、そうだけどさ。
それでもおかしいだろ。
それから特に問題が起こる事もなく順調に大会は進んでいった。
そして、数々の難敵を倒した8人の猛者が集結。
「さぁて! ついに準々決勝です。ここからはトーナメント方式になります。では箱の中から順番に引いて下さい」
一回戦
冒険者ギルドマスター・ガッツVS肉屋・フジー
二回戦
冒険者・カインVS魅惑の宿屋、店長・マリー
三回戦
タイガーマスクVS建築屋・ドゴン
四回戦
ハイゼット家騎士団長・アザンVSドラゴンマスク
知り合いが随分と残った様だ。
タイガーとドラゴンも残ったのか。
普通に強いんだな、何でだよ。
「では第一回戦です」
ガッツさんと肉屋フジーが台の前に立つ。
「ガッツ、あんたと戦えるとはな。いつも冒険者が狩ってきた新鮮な肉をありがとよ」
「なら、今回は負けてくれねぇか? うちの嫁さんが勝ってこいってうるさくてよ。ギルドマスターという役職もあるし、勝たないと色々とまずいんだよ」
「それは出来ない相談だな。うちも家族を支えなくてはならないから、優勝商品をプレゼントするんだよ」
フジーさん、良い人だな。
家族孝行してるんだ。
頑張れ!
あと、ガッツさんって嫁さんがいたのか。
「では始めます。レディー、ゴー!」
両者、一気に終わらせようと全力を尽くす。
だが流石はギルドマスター。
ガッツさんの勝利で終わった。
「勝者は冒険者ギルドマスター・ガッツ!」
ウォォォォォォォォォ!
「流石だな、勝てよ」
「当然だ」
お互いの拳を合わせて勝負は終わった。
「では、どんどん進めていきたいと思います! 第二回戦です!」
俺の冒険者仲間であるカインとマリーという人物だ。
巨漢に可愛いリボンの付いたエプロンを着ている。
俗に言う、マッチョなオネェ。
化物である。
「あらぁん、可愛い坊やねぇ。一緒に熱い戦いをしましょう」
「すいません、俺の負けで……「なお、敗北宣言はマリーさんのおもちゃに一晩なりますので棄権はしないで下さいね」」
ルーナのトドメの一言で、カインの顔が更に蒼白になる。
カインよ、頑張れ。
逃げ場はないんだ。
「レディー、ゴー!」
ドゴォン!
腕相撲では出るはずのない音が聞こえた。
「勝者、魅惑の宿屋・マリー」
ウォォォォォォォォォォ!
勝者は呆気なく終わる。
カインは雪崩れる様に崩れ落ち、動かなくなった。
三回戦、四回戦はドラゴンとタイガーの勝利だ。
ドラゴンとタイガー強いな。
準決勝はガッツさんが死に物狂いで勝ち取った。
ドラゴンとタイガーはドラゴンが勝ち、決勝はギルドのトップと国のトップの戦いとなった。
「陛下、何でこんなところにいるんですか」
「ガッツよ、こんなにも面白い大会があれば出たくなるだろ」
「あなたは国の長ですよ?」
「お前もギルドの長だろ」
「くくっ、確かにそうですね。ですが今日は国の長だろうが、全力で倒させて貰いますよ」
「かかってこい」
お互いに準備は出来た。
「では、決勝戦。レディー、ゴー!」
二人の圧力がぶつかり合い、周りの人達を黙らせる。
ギシギシ
おいおい、机が軋んでるよ!
あの机って鉄製だぞ。
木製なら既に壊れてる。
「やるな」
「あなたこそ、王なんて役職に就いてるせいで衰えていると思っていたのですが予想外です」
「こちとら休まずに毎日鍛えているからな」
両者一歩も譲らない。
本当に何で国王が強いんだよ。
「ぬうわぁぁぁぁ」
数分の攻防に終止符が打たれた。
「勝者、冒険者ギルドマスター・ガッツ!」
ウォォォォォォォォォォ!
「流石だな、この力を今後も国の為に使ってくれ」
「ええ、任せて下さい」
お互いに力強い握手をする。
何? この茶番。
こんな話にするつもりは無かったのに…