39話 クリスの魔法練習
諸事情により暫くは2日〜3日に一度の更新になるかと思います。
俺は今、自宅の実験として使う部屋にクリスといる。
理由は今日はクリスに魔法の勉強を教える事にしたからだ。
とは言っても、俺はクリスがどの程度の実力なのか知らない。
と言うわけで、クリスのステータスを鑑定させて貰った。
*
クリス・フィル・ハイゼット LV.4
種族:人族
性別:女
年齢:14
攻撃:10
魔力:21
俊敏:14
知力:20
防御:16
運:100
スキル
【火魔法LV.2】
【風魔法LV.3】
【剣術LV.3】
【料理LV.1】
【時空魔法LV.0】
*
これだよ!
これが普通のステータスなんだ。
俺が今まで鑑定してきたのって、神か化け物だけだよな。
色々とズレてるわ。
「クリス、時空魔法は使えるのか?」
「時空魔法ですか、私は使えませんよ」
ゼロというのは一体何だろうか。
おそらく天性の才能があるが開花していないという事か。
基本的には頑張れば余程の事ではない限り、スキルを覚えられる。
まあ、後で話すか。
「学園ではどんな魔法の練習をしているんだ?」
「まずは魔法学で詠唱を覚えてから、実践で的に当てて練習をします。偶に実践で同じクラスで試合をしますね」
「他には何かしていないのか?」
「高等部になれば実験なども増えますが特にはしていません」
理屈を抜いて魔法を使わせているという事か。
教えるのに骨が折れそうだな。
「それじゃあ、まず火魔法について練習しよう」
「はい!」
「それじゃあ、火魔法を使ってくれないか? ここなら遠慮せずに使って構わないから」
「分かりました」
クリスは手を空中に出して魔法を放つ準備をする。
「燃えいずる炎よ、我が手に集い敵を打ち抜け! ファイアボール!」
クリスの手から小さな球状の火が放たれる。
しかし小さくて数メートル飛んで消えた。
え? 何その詠唱。
凄く厨二臭いよ。
「クリス、魔法は詠唱をするものなのか?」
「はい、普通は詠唱をするものです。無詠唱はごく稀に宮廷魔道師が使えるぐらいです」
「クリス。なぜ火は燃えているか分かるか?」
「火は燃えるものだからです」
真理だな。
だが、魔法がなぜ発動するのかという理由はやはり分からないのか。
俺の場合は地球で科学を自然に日常から取り込んでいた。
だから、発動も問題なく出来る。
「それじゃあ、実験をしようか」
簡易的な机と乾燥した小枝と蝋燭を用意する。
「この木に火を付けるぞ」
俺は木に火をつけ、燃え尽きるのを待つ。
暫くしたら、小枝は真っ黒に燃え尽きた。
「クリス、なぜ燃えていた火が急に消えたんだ?」
「分かりません!」
正直でよろしい。
「火が燃え続けるには、燃料が必要なんだ」
「燃料ですか?」
「そう、魔法を使うには魔力という燃料が必要だろう。今見せたのは木という燃料が燃えて無くなったから消えたんだ」
「なるほど、燃料というものは燃えるのに欠かせないのですね」
思いの外、すんなり理解したクリス。
もっと悪戦苦闘すると思ったんだが……。
「次にこの蝋燭に火をつけるぞ」
火がついた蝋燭はゆらゆらと揺らめきながらゆっくりと蝋を溶かしていく。
「さっきと同じく、なぜ蝋蝋は燃えると思う」
「真ん中にある糸が燃料になるからですか?」
「正解だ」
正解した事に嬉しくて跳ね上がる。
「それじゃあ、このガラスの瓶で蓋をしよう」
暫くすると蝋蝋の火はゆっくりと消えた。
「あれ? 何で消えたんですか? 燃料はまだ残ってますよ」
「それは酸素が無くなったからだよ」
「酸素ですか?」
「空気中には酸素って言う、燃える為の燃料があるんだ。さっきクリスが出したファイアボールも酸素という燃料を燃やしていたんだよ」
「へぇ、凄いですね」
本当に納得したのかな?
まぁ、実際にやってみて体で覚えた方がいいか。
「こんな風に、何でそんな事が起きるのかという事を知る為には科学っていう知識が必要なんだよ。これが分かればわざわざ詠唱をしなくてもよくなると思うぞ」
「本当ですか! 凄い事じゃないですか!」
「では、手の平にファイアボールを出す練習をしよう。勿論詠唱は無しでだ」
「はい!」
クリスは手の平にファイアボールを出そうとするが、中々うまくいかない様だ。
「魔法はイメージだ。目を閉じて自分の手の上に燃料があり、燃え続けているイメージをしてみろ」
クリスは目を閉じて集中する。
うん、良い感じだな。
少し時間が掛かりそうだからお菓子でも食べて待っているか。
「クリス、俺は少し厨房の方に行ってくる。すぐ戻ってくるから頑張ってな」
「はい、頑張ります!」
俺は厨房で何を作ろうか悩んでいた。
無詠唱が出来る様になったらのご褒美でパフェでも作るか。
あの様子だと、今日中には出来そうだしな。
「む、涼太よ。ここに居たか」
「どうしたんですか、グリムさん?」
「クリスを知らぬか? お前の処に来ていると思ったのだが」
「クリスなら、上で魔法の練習をしていますよ。良ければ見に行きますか?」
「ほう、魔法の練習か。お前が見てやっているのか?」
「まあ、暇ですから」
「それは興味深いな、是非我が子の成長ぶりを見させて貰おう。それから言い忘れていたが、お前さんが初めに来た時に一緒に連れて来た盗賊だが指名手配犯だった。これは懸賞金だ」
グリムさんは俺に金貨一枚を渡した。
「多くないですか?」
「それなりに名のある盗賊だったからな、当然だ」
「それじゃあ、ありがたく貰っておきます」
俺は金貨をアイテムボックスに入れ、パパッとパフェを作り椅子と机を用意してグリムさんと上で観戦する事にした。
「クリスは何をしておるのだ? 先ほどから身動き一つせんぞ」
「イメージの練習ですよ。今日中には無詠唱を出来る様になると思います」
「何と! それは見ものだ。無詠唱を教える家庭教師か、教える代わりには金も必要だろう。いくら欲しい?」
「いや、俺の趣味みたいなものですから結構ですよ」
俺とグリムさんは再び、パフェを口に入れながらクリスの様子を見る。
ああ、美味しいなぁ。
暫くして、小さな火がクリスの手に宿った。
「おめでとう、無詠唱が出来る様になったじゃないか!」
「凄いぞ、クリス。まさかその歳で無詠唱を成す事が出来るとは思わなかったぞ」
「ありがとうございます、涼太さんのおかげです。涼太さんもイメージで魔法を使っているのですか?」
「そうだな、イメージでどんな魔法が使えるかやってみるか」
何をしようかな。
折角だから面白いものを見せたい。
「【鬼火】」
俺の周りに青い炎の玉がいくつも出てくる。
「ふわぁー、凄く綺麗です。これも科学というものなのですか?」
「そうだよ、原理とイメージが出来ればクリスも使えると思うぞ」
「本当ですか! 是非お願いします」
「ああ、これが分かれば魔法のレポートも完成させる事も出来るだろうしな」
クリスのレポートも、魔法の原理に関することだ。
夏季休暇の間だけでも十全に使える様にさせたいな。
♢♦♢
「はぁはぁはぁ、疲れました」
「頑張り過ぎじゃないのか?」
一休みした後にまた練習を再開した。
あれから二時間、クリスはひたすら魔法の練習をしていたので流石に魔力切れでへばった様だ。
「すいません、自分が上達する実感をここまで感じる事が出来るのがつい楽しくて」
「クリスのセンスが良いからだよ」
「いえ、涼太さんの教え方がいいんですよ。現に学園の先生じゃ、こんな事は教えてくれませんでした」
「それは何よりだ。夏季休暇の間だけになるかもしれないが宜しくな」
「はい、こちらこそお願いします」




