38話 Eランク達成
陛下に提示した三つ目の回復も終わって、俺は晴れて解放された身になった。
今日も街中の依頼をしようと、冒険者ギルドにやって来た。
そう言えば、討伐依頼って全然やってないな。
まぁ、Fランクだから仕方ないな。
日が増えるごとにお得意様が増えてる気がするんだよな。
「涼太さん、お待ちしておりました」
「こんにちは、シーダさん。待ってたって何がですか」
「涼太さんはギルドカードの更新をいつされましたか?」
いつでしたっけ?
「覚えてません」
「登録してから一度も更新されておられませんよ」
マジか。
という事は俺って今もなりたて冒険者状態なの?
「更新お願いします」
「はい、ではギルドカードを出して下さい」
俺はギルドカードを渡す。
「そう言えば、ゴブリンの魔石を持って来たんですけど幾らで買い取って貰えるんですか?」
「ゴブリンの魔石は一つにつき50ペルですね」
「それじゃあ、買取の方をお願いします」
俺はアイテムボックスからゴブリンの魔石を取り出す。
「ちょっ!」
あ、床に落ちちゃった。
「あいつ、どんだけだよ」
「多すぎだろ」
「でも、あのギルマスと偶にケンカしてるから当然か?」
「いや、それでも量がおかしいだろ」
「大侵攻のやつではないよな」
「街中の依頼ばかりなのに何でだよ!」
その数、数千個。
「査定に時間が掛かりそうなので、少々お待ちして貰っても宜しいですか?」
「分かりました」
さて、どうやって時間を潰そうかな。
「ちょっといいか?」
驚いていた冒険者グループから声がかかった。
「どうしたんだ?」
「俺はCランクパーティ『龍の盃』のリーダーのカインだ。後ろのは俺のパーティメンバーだ、よろしく」
「俺は涼太って言う」
「分かった、涼太。お前、あの量の魔石をどうしたんだ? 大侵攻のやつではないだろ?」
「そうだよ、その前に何か飲み物を頼まないか? 俺の奢りでいいからさ」
「お! 分かってんじゃねぇか」
「俺も冒険者の知り合いは欲しいからな。周りの奴らも好きな物を頼んでくれ、今日は俺が出す!」
ギルド内に雄叫び声が鳴り響く。
「兄ちゃん、気前がいいな! ドッグ達を打ちのめしたからヤベェ奴かと思ったがいい奴じゃねぇか!」
「失敬な、俺は善良な冒険者だぞ」
「がはは、人気のない街中依頼なんて受けてるんだ。そりゃそうか! 更に、実力もある。気に入ったぜ、宴だ! どんどん酒を持ってこい!」
昨日の祭りも良かったけど、こっちも楽しいな。
「涼太、お前金は大丈夫なのか? ギルド全員となると数十万はくだらんぞ」
「気にするな、カイン。こう見えて稼がせて貰ってるからよ」
「そうか、それなら遠慮しないぜ?」
「その代わりだが、お前らの話も聞かせろよ? 俺はまだギルドに来たばかりなんだから」
「おうよ、任せろや! こっちも酒の追加だ」
のんびりしていた空気が一瞬にして燃え上がる。
「話の続きだが、あの大量のゴブリンはどうしたんだ?」
「初依頼の時にゴブリン討伐と薬草採取に行ったんだが、数千のゴブリンに出くわしたんだよ」
「何! 数千だと、聞いた事ねぇな。勝ったのか?」
「当然だろ、じゃなきゃ此処には居ないだろ」
「ははは、それもそうだな! 初依頼で数千のゴブリンって一生物のネタじゃねぇか」
肩をバシバシ叩く。
痛いよ、地味に強いな。
「まずは一杯、乾杯しようぜ」
「そうだな、乾杯!」
俺は果実酒を飲む。
海外では16歳から酒が水準している国もある。
問題など無い!
「やっぱり、宴の酒はいいな」
「そうだな」
んー、でも何か足りないんだよな。
そうか、酒が冷たくない。
飲み物は冷たいからこそ美味いんだ。
俺は自分の飲み物をキンキンに冷やす。
うん、やっぱり美味しいな。
「おい、何やってんだ?」
「魔法で冷やしたんだよ、飲んでみるか?」
「おう」
カインは一気に俺の果実酒を飲み干す。
「なんだこりゃ! 冷やすだけでこんなにウメェのか、俺のも頼むぜ!」
「俺のもだ」
「私もお願いするわね」
「頼むぜ」
それを聞いた冒険者が次々に寄ってくる。
「いっそのことだ! 樽ごと持ってこい!」
「「「「「任せろ!」」」」」
冒険者達が意気投合して酒樽がある場所に行く。
「ちょっと、困りますよ。持ち出しは禁止です」
「「「「「「うるせぇ、どきな!」」」」」」
ギルド社員が泣きそうになる。
怖いよ!
意気投合しすぎでしょ!
「樽ごと買いますので、それで良いですか?」
「はい、それなら問題ありませんが……」
「よし、持っていけ」
「「「「「「うっす!」」」」」」
蛇口付きの酒樽が机の上に積み重なった。
シャンパンタワーもとい樽タワーだ。
「涼太、それじゃあ頼むぜ!」
「任せろ」
俺は氷魔法で氷点下ギリギリまで冷やす。
夏場のせいか、冷気がはっきり見える。
「野郎ども! 飲みまくれ!」
先程よりも大きな雄叫びが再来する。
「おい、お前ら何をやってる!」
あまりの雄叫びにガッツさんが慌ててやって来た。
「ギルマス、あんたもどうだ? キンキンに冷えた酒が飲み放題だぞ! 最高だぜ!」
「おう、それなら飲ませろや」
ガッツさんも雰囲気に呑まれて混ざろうとする。
「ギルドマスター、仕事の方はどうされたのですか?」
「うっ、シーダ。目の前で宴がやってるんだぞ、混ざりたいじゃねぇか」
「へぇ、ギルドの長が社員をほったらかしにして宴ですか」
「うっ……涼太! 何とかしろ!」
えー、ここで俺にバトンパスはやめてよ。
ほら、シーダさんが「分かってますよね?」って感じでこっちを見てますよ。
分かりたくありません。
「はぁ、シーダさん。実は新しいお菓子を沢山持って……「分かりました。許可します」」
速攻ですか。
変わり身早すぎるでしょ。
「皆さん! 今日はギルドを休業にします。ギルドマスター、良いですね?」
「おう、休みも必要だ。今日は派手にやるぞ!」
いいのか、冒険者ギルドよ。
「やっほー、涼太さん! 分かってるじゃないの!」
「こんにちは、ルーナさん」
「それじゃあ、ギルドの上の部屋に来てよ! 大きなテーブルがあるから皆んなで食べよう!」
「分かりました」
という事で、その部屋に来た。
「入り口に男性は禁止って書いてありましたよ」
「いいのよ、涼太さんは私たち受付嬢にとって欠かせない存在なのよ」
既に、スイーツの毒牙にかかってる模様である。
俺は作り置きしておいた大量のケーキ、プリン、シュークリーム、クッキーなどをアイテムボックスの中から出して行く。
「「「「「「キャァァァァァァ!」」」」」」
黄色い悲鳴が部屋に響き渡る。
「凄いね! 涼太さん。あなた最高よ!」
「紅茶も容器に入っているのでご自由にどうぞ」
「ありがとうね! 一緒に食べる?」
「いや、俺はどちらかと下でまだ飲みたいので楽しんで下さい」
「涼太さん、ギルドカードの更新と買取が終わりました。Eランクですね、おめでとうございます」
「シーダさん、ありがとうごさいます」
俺は更新して貰ったカードを手にとる。
あ、本当だ。ちゃんとEって刻まれてる。
「それにしても、いいの? お金の出費も激しいんじゃない?」
「問題ないですよ。先に払っておきますね」
俺は金貨をシーダさんに渡す。
百万あれば十分だろ。
「余ったら、皆さんで好きなように使って下さい」
「太っ腹だね! ありがとう」