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32話 大侵攻(準備)


 朝になり、スッカリと昨日の疲れは取れた。

 偉い人を一度に相手するのは懲り懲りだな。


「涼太さん、おはようございます」


 あれ? 何でクリスがここにいるんだ?

 昨日帰ったのに。


「おはよう、クリス。朝早くからどうしたんだ?」


 その言葉に、クリスは苦笑する。


「涼太さん、もう直ぐお昼ですよ。起きてこられないので休憩の合間に様子を見に来ました」


 時間を見ると、本当に昼前だった。

 うわ、いつも基本的に決まった時間に起きるのに珍しいな。


「ありがとう、すぐ起きるよ。そういえば休憩だと言っていたけど、何をしていたんだ?」

「はい、学園の勉強をしていました」


 へぇ、クリスって学生だったのか。

 確かに年齢からして学生だよな。


「学園ってこの国にあったっけ? 見た事がないんだが」

「小さな学び舎ならこの国にもあるのですが、私はラバン王国にあるケイオス魔法学園に通っているのです」


 ケイオス魔法学園? すごいのかな


「そこと普通の学び舎って何が違うんだ?」

「全然違いますよ! ケイオス学園はありとあらゆる国から学生が集まる世界最大の学園です。初等部から高等部まであり、最先端の魔法も開発されている場所でもあるのです」


 へぇ、凄そうだな。

 待て、世界最大の学園という事は俺の探していた場所があるんじゃないのか?


「クリス、その学園に図書館ってあるのか?」

「はい、膨大な量の資料が集められているので図書館もすごく大きいですよ」


 学生になるのは面倒だから嫌だけど、何とかして入りたいな。


「というか、学園に通っているクリスが何でここにいるんだ?」

「今は夏季休暇なので国に帰っているんです。ほら、初めに出会った頃に私が襲われていたじゃないですか。あれは学園からの帰郷の最中だったのですよ」


 なるほど、そういうことか。


「つまり、今は課題の最中だったという訳か」

「はい、ですが中々進まなくて逃げ……休憩にしたのです」


 おっと、逃げてきちゃったのか。


「どんなことをしているんだ?」

「はい、計算の練習と魔法が発動する原理についてのレポートを書いていたのです」


 クリスって13歳だったよな? 中学1年か2年生あたりか。


「良かったら俺が見ようか?」

「本当ですか! 是非お願いします」


 という訳でクリスの部屋にやって来ました。


「これなんですが……」


 クリスは恥ずかしそうに計算の問題を見せる。

 あれまぁ、掛け算やら割り算ですか。

 簡単じゃないのか?

 いや、この世界の理は魔法で成り立っている。

 地球みたいに高等な数学の方程式は必要のない世界だからこれが標準か。

 現に魔法の方は定義に関するレポートだ。

 中学生でレポートとかどんだけだよ。


「魔法についてはまた今度にしよう、計算だが九九をまず覚えようか」

「くく? ですか?」


 九九を知らないのかぁ。そりゃ大変だよ。それを覚えてこその計算だもんね。

 俺はクリスが昼食に呼ばれる間だか教える事にした。



 ♢♦♢




 昼飯を食べ終わった後に俺は陛下から冒険者ギルド宛の手紙を渡されたのを気づき、冒険者ギルドまで立ち寄った。


「涼太! お前どこに行ってやがった、緊急事態なんだぞ!」


 開口一番にガッツさんから怒鳴られた。

 知らん。


「こっちも緊急事態だったんだぞ?」

「この状況以外に緊急事態があるか! 言ってみろ、くだらん事だったらただじゃおかんぞ!」


 あん? やんのかコラ。こっちは無礼を振る舞えば即打ち首だぞ?


「陛下と四大公爵家の現当主を相手にしてたんだぞ、変わるか?」

「何だ? そんな……すまねぇ。そりゃ、こっちに手が回せんな。俺もその面子はごめんだ」


 分かってくれた様で何よりだ。


「ガッツさん、取り敢えずあんたの部屋にいっていいか? 陛下からの書状もある」

「分かった、聞こう」


 俺は誰も居ない密室で陛下からの書状をガッツさんに渡す。


「おい、この内容は本当か?」

「何が書いてあるんだ?」

「今回の大侵攻で全戦力をぶつけると書いてある。四大公爵全員も出てくるとは驚きだ。それにお前さんの事も書いてあるな」

「俺の事について?」

「お前さんは今回、国に雇われた冒険者として動くと書かれている。それに変装か、本当に良いのか? 有名になれるチャンスなのに」


 何だ、みんな目立ちたいのか。

 訳が分からないな。


「ああ、俺は極力平穏に過ごしたいんだよ。その為に色々無茶をした」


 俺は陛下や公爵の人達から貰ったバッジを見せた。

 それを見せた途端に、ガッツさんの目は大きく見開かれる。


「おいおい、マジか。それが今回の報酬という訳だな、国のトップを担う奴ら全員の後ろ盾か。お前さん、既に下手な貴族よりも上の存在だぞ?」

「わざわざ、見せびらかしたりはしないよ。権力を振りかざすのは嫌いだからな。俺の変装だが、この格好でいくから目印にしてくれ」


 俺は全身甲冑の鎧を身に纏う。

 白銀の鎧に翡翠のラインが入っているデザインだ。


「ほう、差し詰め、翡翠の騎士ってか?」

「まぁ、そんなところだ。他の騎士達との区別にだな」


 陛下にも、お前だと分かる目印は付けておいてくれと言われた。

 この翡翠だが全てミスリルだ。

 ミスリルはこの世界でも貴重な部類に入る金属である。

 高ランクの冒険者ならば自分の武器や防具に使う事があるそうだが、大勢を率いる騎士団では使われる事は、ほぼあり得ない。

 実際に王城で集まった各貴族達の騎士を見ても大体が鉄の鎧であった。

 つまり逆に言えば、大きな目印となり得るので俺は使う事にした。


「ガッツさん、何か必要な物はあるか? 俺はヨルムンガンドの討伐で忙しいから、恐らくは手助けは出来ないと思うぞ」

「はっ、笑わせるな。お前さんが一番ヤバい奴を引き受けてくれたんだ。ウチにも強ぇのはゴロゴロいる、冒険者ギルドの力を見せつける時だ。心配ねぇよ。それに今回は俺も参戦させて貰う」


 ガッツさんはニヤリと闘争心をあらわにして笑う。


「ガッツさんって強いのか?」

「おいおい、俺はこれでもSSランクだぞ、この国の冒険者の中でも間違いなく強い」


 衝撃の事実が露わになった。

 え? これがSSランクなの?


「ガッツさん、あんたがSSランク? どこにその要素があるんだ?」

「あるだろう! ギルドマスターとかこの筋肉とか!」


 あー、そういえばギルドマスターって相当なランクと実績を国に認められなければ、なる事は出来ないんだっけ?

 すっかり忘れてた。

 後、筋肉は必要ないと思う。


「それじゃあ、もう良いか? 帰りたいんだが」

「お前さんには緊張感というものが無いのか……ああ、分かった。明日は頼むぞ」

「おう、任せろ」


 俺はギルマス部屋から出て帰ろうとする。

 何しようかな?

 特にやる事無いんだよなぁ。

 依頼でも受けようかな? でも緊急事態だからそんな雰囲気じゃないし困った。

 帰るか。

 俺は早々に来た道を帰る事にした。



「涼太さん!」


 いつもに増して溢れかえっている冒険者達の中を押し切る様に出口まで出て行こうとすると、シーダさんが俺の服を逃がさんと掴んでいた。


「こんにちは、シーダさん。どうしたのですか?」

「涼太さんも大侵攻に参加されるのですか?」

「そりゃ、冒険者ですから」


 それを聞いた途端にシーダさんの表情は暗くなる。


「大丈夫です。シーダさんは俺の実力を知っているでしょう? 心配なんてする必要はありませんよ」

「うぅ……確かにそうですね。涼太さんなら無事に帰ってくると信じています」







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