30話 大侵攻(会議・中)
会議が終わり、俺、グリムさん、陛下、シャナさんと他3名並びにその護衛以外は退出した。
「本当の会議ですか?」
唐突の言葉に俺とシャナさんは困惑する。
「ハイゼット公、一体どういう事でしょうか? 会議は終わった筈ですが」
「それについては私から話そう」
後ろを振り向けば陛下がいた。
俺とシャナさんは、片膝をつく。
あ、意外とシャナさんと気が合うかも。
「よい、この場は既に公の場では無い。楽にせい」
「では、そうさせてもらいます」
俺は肩から力を抜き、元の姿勢に戻す。
「ガイア、場所はどうするのじゃ」
初老の男性が陛下に問いかける。
「ライアット公、それならいい場所がある」
「ほう、ハイゼット公、一体どこだ?」
「こやつの家だ」
え、俺の家っすか。
「お前さんが気に入っておるその小僧の家じゃと?」
「そうだ。こやつの家は特殊だ。まず刺客は入れぬから暗殺の心配もない。それに王城ではどこから盗聴されておるかもしれん、その点においても問題ない」
確かに、俺の家は登録した人以外には開けられない様になっている。
それ以外の人が入ればドアを開けた途端に目の前には壁が出てくる様に設定している。
「善は急げだ。涼太よ、前に一度来れば即座にその地点に戻れると言っておったな、ここから私の屋敷まで跳ぶことは出来るな?」
よく覚えてましたね。
「分かりました。でも、あまりパシリに使わないで下さいよ」
俺は何も無い空間に手をかざす。
グリムさん以外の周りの人達は何をしているのだと疑問の表情を見せる。
うわぁ、自分でやっていて何だが、凄く厨二臭いな。
唸れ! 俺の右腕ってか?
気をつけて下さいよ。馬鹿にしたらマジで出しますよ?
証拠隠滅の為にここら一帯を吹き飛ばしますよ?
俺の前に人が1人が余裕で通れそうな楕円状の空間が出来る。
「では、行こうか」
グリムさん、何であんたは当たり前の様に行こうとしているんですか。
慣れるの早過ぎるでしょ。
周りの皆さん驚いてますよ。
「グリム、コレは何なのだ?」
「大したものでは無い、空間を繋いだだけだ」
だから、何であんたが説明してんだよ!
「ハイゼット公、妾には時元魔法……いや次空魔法も組み込まれておるな、それをこやつ1人でやったという事か?」
中年に入ってはいるであろう女性が驚き声を上げる。
この人凄いな。
見ただけで分かるのか。
確かに、次元魔法で空間を繋いだ。
しかし、それだけでは微かな次元の歪みによって何処かに飛ばされる危険がある。
だから時空魔法でその間だけ時間を固定したのだ。
まぁ、アイテムボックスの応用だな。
「こやつについても後で話そう、先ずはついて来てくれ」
そういう訳で、俺の家の最上階にやってきました。
反応はお分かりの通り、驚き以外ありません。
「よし、全員席をついたな」
机には用意したアルコールやツマミが置かれている。
「では、自己紹介をしよう。私はこのミセル王国の国王のガイアだ」
「ワシはライアット公爵のゲイルじゃ」
先程の初老の男性だな。
「妾はセルビア公爵のハルだ。魔法の研究をしておる」
さっきの事が分かったのもその所為か。
「私はクラウス公爵のナバールだ」
30代の正に騎士という言葉が似合う男性だな。
ん?
公爵家ばかりだと。
俺はコソッとシャナさんに尋ねてみる。
「こちらの方々は四大公爵家の方々です。更に陛下まで……私が居てもいいのでしょうか?」
分かるよ。その気持ち、場違いだもんね。
一緒に逃げたいよ。
「ほれ、次はそちらの番じゃ」
「こやつは、月宮涼太と言う、我がハイゼット家の切り札だ」
「ほう、切り札とは大きく出たな。切り札と言えばそちらの戦姫ではないのか?」
その言葉にミセルが答える。
「畏れながら、涼太様と私とでは天と地の差があります。この方は人類でも最高と言ってもいい程の実力者だと私は確信しております」
「ほう、そこまでか。ならば心強い」
「して、涼太よ。聞いておきたい事がある。今回の大侵攻だが、お前さんなら1人で片付ける事は可能だな?」
グリムさんの爆弾発言が俺に投下された。
正直に言えば、蛇については少し時間が掛かりそうだが問題ない。
でも何か嫌だ。
「流石に、無理かと思われます」
「嘘だな。目をそらすな、バレバレだ。お前さんは嘘をつく時の講堂が分かりやすい」
ば、馬鹿な!
バレているだと、俺がグリムさんに嘘をつく事なんて十数回しか無いのに何でばれたんだよ。
「仮に俺が倒せたとしても、そこには色々な問題が生じてくる筈です。既に冒険者ギルドも貴族達も大侵攻を迎え撃つ為、準備をしています。俺が倒すという事はその準備を全て無駄にするという事。確実に反感が出てきます」
「ほう、そこまで考えられているなら上出来だ。涼太よ、今一度問おう。お前さんはヨルムンガンドを討伐する事は可能か?」
「可能です」
各々からどよめきが上がる。
グリムさんは思ってた通りの様で歓喜している。
「お前さんは冒険者だから報酬も必要だろ、何を望む?」
「待て、ハイゼット公。この者はお前の騎士では無いのか?」
ナバールさんが目を見開き驚く。
「ナバール、ここは涼太の家だぞ? 騎士なら私の屋敷が住処であろう」
「それもそうか、愚問だった」
グラスのワインを飲み一旦落ち着く。
「国王としても聞きたい。お前の望みは何だ。金か? 爵位か? それに対してお前は何をしてくれる?」
きたか。
俺が欲しいもの。
それは初めから決まっていた。
「ここにいる全員の後ろ盾を望みます」
周りの空気が一変した。
辺りに緊張が走り騎士達すらこの空間に冷や汗を流す。
「ほう……私だけでは無く、四大公爵家全ての庇護下になりたいと? それはお前さんが思っておる以上に大きい事だぞ?」
「はい、承知の上です。俺は金も名誉もいりません。あなた方と友好的になりたい、その為の後ろ盾です」
「ではこの大侵攻で何をしてくれる? それに見合った事が申せない様では今の発言は不敬になるぞ?」
当然だ。
普通なら言葉にしてはならない事を言ったのだ。
それだけ後ろ盾というのは重い契りでもある。
「俺がこの国の為にする事三つです。一つはヨルムンガンド並びにSランク以上の魔物の討伐。二つ目はミセル王国に対しての魔物の侵入を防ぐ事。これは国民の安全の保障を意味します。三つ目は負傷者の手当てに参加する事です」
「一つ目と三つ目は分かった。しかし、二つ目の国民の安全とはどうするのだ? お前1人で侵入の為に縦横無尽に動くのか?」
「いえ、この国を覆い尽くす結界を張ります。害あるものを通さない結界です。戦いでの怪我人を結界内に運び込めば安全も保てます」
「本当にそれだけの事が1人で可能か?」
「可能です」
俺はそう言い切る。
「セルビア公、魔法の研究に携わっておる主に聞きたい。国を覆う程の結界とは可能なのか? 可能なら国の魔術師にも使えるというのだが」
「妾の了見から言わせて貰うと、理論上は可能だ。問題は結界魔法の使い勝手の悪さと膨大な魔力が必要なことだ。結界魔法は緻密な操作が必要だ。使い手が協力して発動させれば、互いの術式が混ざり合って発動せんよ」
そうなんだ、初めて知ったよ。
「分かった、皆に可決を取りたい。この者と友好的に接し、後ろ盾となるのに問題が無い者は挙手せよ」
陛下の発言に、全員の手が上がる。
「これだけ大きな事を抜かしおったのじゃ、期待してるぞい」
「妾も同じだ。大侵攻が終われば妾の屋敷に来い。お主の魔法に興味がある。この空間もお主の魔法の様だしな」
「私も問題ありません。此処まで心強い方は久々に出会いました」
「私の方は既に渡してあるから問題など無い」
良かった。
どうやら信用はしてもらえた様だ。
もう、後戻りは出来ない。
俺はやるべきことを果たそう。
「あと一つ宜しいでしょうか?」
「何だ」
「今回の討伐で俺が魔物を倒したことは秘密にしてもらえませんか」
「何故だ? ヨルムンガンドの討伐となると英雄になれるぞ」
「英雄には興味がありません。それに俺は目立つことは苦手なのです」
英雄なんて面倒なだけだ。
人気の芸能人が街中を歩く苦労を見ていると大変としか考えられない。そんな苦労は嫌だ。
「あい分かった。ならばお前の存在は黙っておこう。変装をするなり好きにせい」
「ありがとうございます」
俺はホッとし胸を撫で下ろす。
「では会議は終わりとしようか。涼太よ、腹が減った。何か作れ」
陛下さん、確かに夕食時だけど何故ここでそんな事を言うのかな?
作らなきゃいけないの?
正直に言うと面倒くさいんだが。
「料理人でもない俺が国のトップを担う皆さんの口に合う料理をお出しする事が出来るとは思えません」
「グリムからお前の事は聞いておる。絶品だそうだな、食べさせろ」
グリムさん、評価してくれるのは嬉しいけど、感想は心の内にしまっておいて下さい。
「妾も食べさせてもらおう、酒だけでも見た事の無いものばかりだ。期待しておるぞ」
どうやら此処に居る皆さんの料理を作る事になった様だ。
「コース料理は時間が掛かりますので、メインとデザートを一品という形でも宜しいでしょうか」
「うむ、問題ない。お前達もそれで良いか?」
「突然です」
「わしも問題ない」
「妾もだ」
「無論だ」
コース料理も出来るけど、魔法を使っても面倒な事に変わりない。
「では俺は作ってきますので、その間は自由にお寛ぎ下さい」
俺は早々に此処から出て行く。
すると部屋の外にミセルが立っていた。
「涼太様、お疲れ様です。とてもカッコ良かったです」
「ありがとう、ミセル。その労いの言葉が嬉しいよ。でもあと一苦労ありそうだから頑張るよ」
「分かりました。お嬢様には今日は陛下たちを相手にするからと後ほど伝えておきます」
「よろしく頼むよ」