28話 人気のない依頼
俺は朝早くに冒険者ギルドに向かった。
「シーダさん、おはようございます」
「涼太さん、お早いですね」
「前のゴブリン盗伐で大量に死骸があるのですがゴブリンって何が買い取れるんですか?」
素材で考えると良さそうな物は何一つない。
困った。
亜空間に入れておくのも何か嫌だ。
「ゴブリンは魔石が買い取れます」
ああ、あの小さい石の事か。
ビー玉サイズだから、ゴミか何かと思った。
「分かりました。今度持ってきます」
さて、今日はどんな依頼をしようかな?
「あれ? シーダさん、書類の上に置いているやつって依頼書ですよね。掲示板に貼らないんですか?」
「これは期限が切れそうた依頼なんです。誰も手をつけなかったので後で依頼者に謝りに行こうと思いまして」
「という事はこれの依頼書の全部の依頼者のところに行くんですか?」
軽く30枚はありそうだ。
「俺がこの依頼を受けてもいいですか」
「しかし、このどれもが不人気なものばかりです。依頼料も少ないので、涼太さんがお気に召すものは無いと思いますが」
「俺も何を受けようか悩んでいたところなんです。それにこれは全てギルドの信頼を落とすものでしょう? 気にしないで下さい」
「涼太さん……ありがとつございます」
それじゃあ、1日10個程やれば終わりそうだ。
俺はその中から適当に10枚選ぶ。
「え! いきなりそんな数大丈夫ですか? 依頼の失敗は賠償金が出てきますよ」
「大丈夫です。すぐに終わらせるので」
・庭の草刈り×2
・岩の撤去
・買い出しの手伝い
・下水道の掃除
・倉庫の掃除×4
・迷子の犬探し
一番手間がかかりそうなのは犬探しか。
効率的にいくか。
「すいませーん。迷子の犬探しで冒険者ギルドならやってきました」
ギィ、と扉が開き小さな女の子が顔を出す。
5歳くらいかな?
「お兄ちゃんがルウちゃんを探してくれるの?」
「うん、そうだよ。ルウちゃんって、どんな子なのか教えてくれるかな?」
「あのね! あのね、真っ白色の小さい子なの! もう、3日も帰って無いの!」
そう言い、女の子は泣き出した。
「こらセリー、困らせてはいけません。すいません、生まれた時から一緒にいたもので」
「必ず探し出してきます。セリーちゃん、お兄ちゃんが探してくるから少しの間、待っててね」
これは失敗出来ないな。
依頼の重さを実感したよ。
これだけ依頼のためにあちこち回るんだから手がかりは見つかるだろう。
まずは草刈りをしよう。
「おや、依頼の冒険者かい?」
依頼の家に来たところでお婆さんが出てきた。
「はい、月宮涼太といいます」
「良かったよ、こんな安い依頼で来てくれるなんて嬉しいよ。歳でもう動くことは出来ないからねぇ」
庭は草が伸びきっていた。
普通なら大変そうだな。
魔法というものが無ければ1日で終わる気がしない。
だが、俺には魔法がある。
俺は風魔法でパパッと終わらせる。
「おや、あんた魔術師かい? 凄いねぇ、あっという間だよ」
「すいません。依頼を待たせたようなのに、こんなに呆気なく終わってしまって」
「いいよ、お前さんはそんな依頼を受けてくれたんだろう。感謝してるよ、よければ何か食べていくかい?」
「いえ、これからも沢山回らないといけない場所があるので、後日でしかたらお伺いしますよ?」
「ほぅ、若いのに頑張るね。ありがとう、今度はあんたに使命依頼させてもらうよ」
「是非ともお願いします」
二つ目の草刈りも同じ様な感じだった。
岩は二軒目のお隣さんだったので亜空間に放り込んで外にでも捨てておく事にした。
倉庫の掃除は【クリーン】であっという間だ。
依頼者には驚かれていたが、手でするよりも綺麗になっていてご機嫌だ。
着実にお得意様が増えて来てるな。
買い出しについてだが訪れたのはいいが貴族の屋敷かぁ。
「止まれ! ネビル伯爵邸になんの様だ?」
当然門番は居るよなぁ。
見たこと無い俺を警戒している。
「冒険者ギルドから買い物の依頼を受けて参りました、月宮涼太と申します。ギルドカードと依頼書です」
「おお、助かる。来てくれたか、今すぐ取り次いで来る。少しのあいだ待っておいてくれ」
しばらくして、一つの部屋に案内された。
夫人とその娘さんかな?
「あら、貴方が依頼者ですか。今日はお願いしますね」
「はい、精一杯勤めさせて頂きます」
「では、馬車が外にあるのでついて来て下さい」
俺はその後について行く。
その道中、騎士らしい人に「大変かもしれないが頑張れ」と言われた。
買い物の荷物持ちだけだろう?
何か大変なのかな。
一つ目の店に着いた。
「ようこそお越しくださいました。ネビル様、お嬢様」
「それじゃあ、ここの列の服を全て貰おうかしら」
え? 爆買いですか。
「涼太さん、荷物持ちお願いしますね」
ニコッと夫人が微笑む。
成る程、そういう事ですか。
だが舐めるなよ! こっちにはアイテムボックスというチートアイテムがあるんだ。
問題など何もない。
「涼太さん、それはアイテムボックスですか」
「はい、ですのでお気になさらずどうぞ買い物をお楽しみ下さい」
「ありがとう。是非そうさせて貰うわ」
この調子でスムーズに事が進み、思っていたよりも早く終わる事が出来た。
さて、後は下水の掃除だな。
俺は案内された場所に行き今日中に終わらせる様に告げられる。
いや、普通に無理だと思うよ。
広すぎんだろ。
どれくらにの大きさなのか測る為に歩いていると……。
おや?
あれは何かな、倒れているけど。
というか、ルウちゃんじゃないか。
言われた情報と一致している。
黒く汚れてしまい、衰弱している。
まずいなぁ。
「【クリーン】、【ヒール】、【キュア】」
応急処置はこれぐらいでいいか。
ルウちゃんは元の綺麗な子犬に戻り、スヤスヤと眠った。
早く会わせてあげたいし、すぐに終わらせるか。
「【時間回帰】」
すると、辺りは造られた当初の様に綺麗になる。
実際、造られた当初になったんだけどな。
やっぱり、便利だなぁ。
「ルウちゃん!」
「アンアン!」
良かった。
セリーちゃんはルウちゃんに抱きつき再会を喜ぶ。
「本当に、ありがとうございます。なんとお礼をしたらいいか」
「気にしないで下さい。依頼ですから」
「お兄ちゃん! ありがとう!」
依頼は終わったから報告書しに行こう。
「涼太さん、何か依頼で不備などがありましたか?」
どうやら、まだ終わってないと思ってるらしいな
「いえ、全ての依頼を終わらせましたので報告をしに来ました」
「え!? まだ半日も経っていませんよ」
「魔法があるので思いの外、早く終わったんです」
「そうですか、流石は涼太さんです」
俺は達成した依頼書をシーダさんに見せる。
「凄いです。満足度が全て最高評価ですよ、貴族が冒険者に対して最高評価なんて殆どあり得ないのに……どうすればこんな事が出来るんですか?」
「魔法でチョチョイっと」
ネビル伯爵家だが、あの後にお嬢様が夫人にアイテムボックスが欲しいと駄々をこねて困らせたので俺に他に持ってないかと言ってきた。
内密にという事で特別に作ってあげたら、柄も気に入ってくれたのか大喜びである。
ここまで喜んだのは久しぶりだという事で料金の金貨8枚、つまり800万を渡してきた。
流石に高いので要らないと言ったら、代わりと言っては何だがという事でバッジをくれて何かあったら頼りなさいと言ってくれた。
人使いは荒いけどいい人達だ。
「おい! 誰か助けてくれ!」
突然ギルドのドアが開いたかと思えば、4人の冒険者が駆け込んできた。
「うちの1人と他のパーティの奴らもやられた! 今こっちに怪我人を連れてきている。誰か回復魔法を使える奴はいねぇか。ポーションじゃ役に立たねぇ」
「おい、お前達どうした! 確かオーガの討伐に行ったんじゃないのか? Bランクパーティのお前らがやられるはずないだろ」
「ギルマス、違うんだ。確かに俺達はオーガの討伐に行った。だが奴が出てきやがった」
「奴とは何だ?」
緊迫した空気が冒険者ギルドに流れる。
「蛇だ、それもタダの蛇じゃねぇ。あいつはヨルムンガルドだ。更に他の魔物も群れて来やがった。数は数千は間違いねぇ」
「馬鹿な!なぜ災害級どころか神話級の化け物がこんな所にやって来やがった! それに魔物の大群だと!? 大侵攻しか考えられねぇな」
周りからは、絶望の声が上がる。
「静まれ! ギルドマスターからの命令だ! 只今より、国家防衛の為に住民の避難をさせる。 シーダ、お前は王城に掛け合ってこい! 緊急伝達だ」
「ガッツさん、俺が回復させるよ」
「涼太か、頼む」
俺は怪我をした女性に近づく。
「お前は確か最近入ってきてドッグ達をボコボコにしたやつか。治せるのか!?」
「大丈夫だ」
しかし、酷いな。
片腕は無くなっている。無理やり焼いて止血した後がある。それに身体中傷だらけだ。
ヒールだけじゃ無理だな。
「【リカバー】」
よし、欠損部位も回復し出来た。
傷跡もないな。
「すまねぇ、ありがとう。だが今のは一体なんだ? 見た事のない魔法だ」
「気にするな、治ったんだから、それでいいじゃないか」
「そうだな、この後来る奴らも頼めるか?」
「構わない。仲間同士だ、助け合うべきだろう」
しかし、大侵攻か。やはり、あのゴブリンが予兆だったのか?