1話 《女神様とその実態》
「ようこそ!あの世へ!」
「……」
「ようこそ!あの世へ!」
「……」
目の前には変人が1人。
あの世などと訳のわからない事を言っている。
「あの……無視されると私の心が痛むんですけど……なんか言ってくださいよ! これじゃ私がバカみたいじゃないですか!」
「あんた誰だ?」
「はい! 私は女神様です。よろしくお願いします!」
女神と名乗る女は元気よく受け答えをする。
「さて、涼太さん。あなたは死んでしまいました。覚えておりますか?」
そうか……確か俺は校舎裏で死んだのか。
「つまり、この場所はあなたの言う通りあの世という事なのか?」
「はい、正確に言うならば神が住んでいる神界ですね。さて、貴方には3つの選択肢があります。1つは天国に行くことです。これはオススメしません。天国には何もありません。ただ無の空間ですので刺激を欲している人には地獄でしかありません」
なぜ天国という語彙になっているのだろうか。
今の説明だと天国=地獄になるぞ。
「なぜ皆さん、ここに来て私が説明する暇もなく天国を選択されるのでしょう」
まぁ、人は大抵死んだら天国へ。
そういう概念が根付いているからなぁ。
「一度選択してしまっては変更出来ないのに」
女神は困ったかの様に頬に手を置く。
「……おい、恐ろしい事をサラリと言ったな」
一度選択すれば戻れない強制ルートですか。
「てか、なんで説明する前に言うんだよ。普通説明するだろ」
「なにか皆さん焦っていましたね。「わ……私は悪い事をしていない! だから天国へ行きたい!」と言う声が多いです」
それって前世になんらかの罪を犯したと思って、必死に懇願しているだけじゃねぇか!
どんだけ悪い事をしてたんだよ!
「その他にも人生をやり直しが出来るとおっしゃられた方々も大勢います」
「つまりもう一度地球へ戻ってやり直せるって事なのか?」
「はい、その通りです」
おお、いいじゃん。
「もちろん生まれはランダムという事になりますので人、動物、魚類、爬虫類。どれに生まれ変わるかはその時と運ですね。……ったく、人の話は最後まで聞くものですよ」
ダメじゃん! 虫に転生とか報われなさすぎるでしょ! 裕福な暮らしの家庭に生まれ変われるなら選ぼうと思ったがそう考えると確率は絶望的に低いだろ。
「因みに他の選択肢はあるか?」
「んー、どうでしょう」
女神は急に改まった態度を取る。
更に不自然に目をそらす。
「異世界って選択肢はある……よな?」
「な、な、なに言ってるんですか! ファンタジーなんて幻想ですよ! 弱肉強食な場所なんですよ! 試験運用という事で送った人物が死ねば私はとてつもないペナルティを背負うんですよ! 絶対おすすめしません!」
ほう……あるのか。
自爆してくれてありがとう。
選択できる選択肢を選べばそれは変えられないんだっけ?
また刺激のない生活をするくらいなら弱肉強食の方がいい。
上等だ。
「ファンタジーでお願いします」
俺は迷わずそう告げた。
「わ、分かりました。では次の説明に移らせていただきます」
「ああ、頼む」
女神は立ち上がり別の場所へ移動する。
俺もその後に続いてついて行く。
「何だこれは?」
目の前には大量の本がある。
それはもう山のようにだ。
どれくらいか?
そうだな、低家賃のアパートの一部屋に余すことなく敷き詰めたらこうなるだろうという量だと言えば分かりやすいだろうか。
「この本に必要な知識が書かれています。地上に降りる前に読んで下さいね!」
「マジで?」
「マジです」
「因みに涼太さんには【言語自動翻訳】と【完全記憶】のスキルを付けときましたので安心して読んで下さいね。スキルの一覧も一緒に置いときました。頑張って下さい! 後スキルは10個まで選べるところを女神パワーで20個にしときましたさすが私! ちなみにこの空間は時間が止まってるので安心してください。では頑張って下さい」
『【言語自動翻訳】【完全記憶】を覚えました』
♢♦♢
パラッ、パラッ
俺はひたすら本をめくる。
俺自体本というものは嫌いではない。
知識を得るというのは楽しいからだ。【完全記憶】というスキルのおかげで忘れることもないので楽しみも倍増だ。
世の受験生ならば誰もが欲しがるスキル。
だが疑問に思う。なぜこんなアナログなのか。
俺は女神ならパパッと脳にインプットしてスキルも自分がどんなスキルが欲しいか言ったら女神が自動的にスキルを出してくれるものだと思ってた。
断じてこんなアナログではないと!
「ふぅ」
俺はふと壁にかかっている時計を見た。どうやらぶっ続けで半日以上も読んでいたようだ。
「なぁ、女神様。この空間には何かないのか? 飲み物とか刺激になるものがあってもいいんじゃないか? というか本を読まなくともお前なら俺の言ったスキル付けられるんじゃないのか」
「え、嫌ですよ。なんか違うのあげたら文句言いそうじゃないですか。ちゃんと選んでくださいね。では【創造魔法】をあげときますね。ここじゃ魔法使ってもMPは消費されないので遠慮なく使って下さいねー。私は女神のお茶会があるのでいってきます!」
『【創造魔法LV.1】を覚えました』
なんかとんでもないスキルを覚えたぞ。
というかお茶会って……。
緊張感のくそもない。
さて、創造魔法かやってみるか。
要はイメージして創造すればいいのだろう。
イメージするのは4LDKの高級マンション。
広告で見たのを参考にする。
瞬間。
空間が曲がった。
そして気がつけば想像通りの部屋がある。
素晴らしいの一言だった。
トイレ、キッチン完備風呂何も言うことなしだ。
もうここで一生過ごせるのではないのか?そういう疑問さえ出てきた。
そうして俺は紅茶を用意しフカフカのソファーで再び本をめくる。
ドタドタ、ドタドタ、ガチャ。
「涼太さ〜ん! なんですかこれは! すごいじゃないですか! こんなのどうやったら出来るんですか! 夢にまで見たマイホームではないですか! 私のためにこんなことまで……感謝しても仕切れませんよ。あなたは神ですか!?」
しばらくしてうちの女神様が帰ってきた。
無駄にテンションが高い。
勢いがよすぎて読んでいたページが風でめくれた。
「おい、神はお前だろ。というか何でそんなにテンション高いんだ?神ならパパッとこれくらい創る事ぐらい出来るんじゃないのか?」
「いえ、私たち女神は力を与えることはできてもその能力を使うことは最高神様によって制限されています。なので基本的に何も出来ないのですよ」
「成る程、だがお前が行ってきたお茶会とやらでは少なくとも飲み物やらお茶請けがあるのだろう? それはどうやって調達しているんだ?」
「供物ですね。主に果物や野菜が捧げられます」
女神様は溢れんだかりの笑顔でそう答えた。
つまり……バナナを食べながらお茶……だと!?
気づけば俺の頬には一雫の涙が垂れ流れていた。
なんて、なんて佗しいんだ。
神は全能ではなかった。
俺は地球にいた頃の自分が憎い。
地球には動物、コンビニ、レストランなどいろいろな刺激に溢れている。
常に新しいものに巡り合えている。
刺激がなくしては何も感じられないではないか!
こんなにも……こんなにも神は頑張っているのに。
人の願いを叶える為に働いているというのにその対価が果物や野菜。
野菜だけを貰って何ができる! 生野菜を齧っても大した感動も生まれないではないか。
料理器具もないつまり、炒めることも、湯がくことも出来ない。
調味料なんてないに等しいではないか!
ドレッシングのないサラダなどただの野菜盛り合わせでしかないではないか!
何でもっと早く気付かなかったのだろうか。
俺は女神様をそっと抱きしめて……。
「今までよく頑張った。今度は俺の番だ。俺がお前たちを救う」