25話 初討伐
俺は朝になったので魔物の買取の金を受け取るために冒険者ギルドにやって来た。
「あ! 涼太さん。おはようございます」
「おはようございます、シーダさん」
シーダさんだが、どうやら俺の担当受付嬢になった模様だ。
美人受付嬢とは、ありがたいことこの上無い。
「魔物の買取の方は終わってますか?」
「申し訳ありません。少し時間がかかっている状態です。夕方になれば終わっている筈ですが……」
シーダさんは申し訳無さそうに頭を下げる。
まぁ、仕方ないか。言っちゃなんだが、渡した量は相当ある。
きちんと査定してくれている証拠だから咎めるはずも無い。
「分かりました。でしたら依頼をしたいのですが掲示板ってどこにありますか?」
「それでしたら、あちらの方になります」
シーダさんが指を指した方を見る。
あった、あれか。既に他の冒険者もどれにしようか悩んでいる様だ。
~Fランク依頼~
・庭の草刈り
・ゴブリン討伐
・迷子の犬探し
・道の整備
・薬草採取
成る程、こんなものか。
街中の依頼の方が多いな。
上のランクに上がるにつれて魔物の盗伐も増えている様だな。
「薬草採取とゴブリン討伐をしたいんですが」
「分かりました。どちらも常備依頼なので何時でも受けてくれて構いませんよ」
ゴブリンの方はG的な存在らしく倒しても増え続けるから何時でもお願いしたい依頼らしい。
「では行ってきます。あ、そうだ。良かったら休憩の合間にでもコレ食べてください。作り過ぎたのでおすそ分けです」
俺は昨日作り過ぎてしまったクッキーをシーダさんに渡す。
メイドさん達に味見をしてもらったら好評だったので味は問題ない筈だ。
「ありがとうございます。是非そうさせてもらいます、では行ってらっしゃいませ」
俺は門番にギルドカードを見せて外に出る。
昨日の門の騒動があった所為か、皆さんに頭を下げられた。
さて、ゴブリンの集落はギルドで教えて貰ったから後にするとして今日はやりたい事がある。
それは魔法の訓練だ。
え? 必要無いだろって?
俺にとっては超が付くほど大切な事である。
理由は至極簡単、火力が強すぎた。
樹海の魔物はある程度強かったので焦げ目が少し付く程度に済んだのであまり気にしてはいなかった。
しかし、それ以外の魔物は大きく違った。
セリア王国にかなり近づいた辺りで襲ってきた魔物にサンダーを喰らわせてみた。
するとどうだろう、雷は魔物の体を貫通した。
そこまでは良かった。
しかし、魔物はそのまま消し炭になってしまった。
これはマズイと思った。
素材の買取に丸焦げを渡すなんて論外だ。
ガウッ!
ん? あれは狼かな。
気になるので鑑定してみた。
【ウルフLV.9】
ただの子犬じゃないか。
アレかな、迷子の子犬ってこいつの事なのかな。
だって獣って言ったら【二頭虎LV.650】だろ?
ガキンッ!
ウルフが俺の腕に甘噛みをしてくる。
おー、可愛い奴め。
わざわざモフらせてくれるとは、やはりペットは欲しいな。
今度召喚してみるか。
でもそれだと一軒家の方がいいよな、宿だと動物はダメな所がありそうだし。
あ! グリムさんに貰った服を破きやがった。
後でメイドさんに縫ってもらうか。
さらばだ、モフモフよ。
安らかに眠れ。
俺はウルフの脳天に氷の矢を突き刺す。
氷の矢は便利だよなぁ、オーバーキルせずに済むし。
それじゃあ薬草をパパッと集めてから魔法の練習をしようか。
そう言えば樹海にそれっぽいのが沢山生えてたな。
俺は猛ダッシュで樹海まで行き、見渡す限りの薬草をアイテムボックスの中に入れていく。
よし、終わりだ。魔法の訓練をしよう。
俺は岩壁がある場所に移動する。
デカイ岩壁だな。魔法を当てるのには丁度いいな。
「【ウォーターボール】」
ゴギャ!
水の玉を当てただけじゃ出る筈が無いであろう音が聞こえた。
見ると、壁が丸く削り取られていた。
マジか、ここまでなのか。
上級魔法とかどうなっちゃうんだよ。
まぁ、時間はたっぷりあるしのんびりやるとするか。
♢♦♢
ギルドの一室にて。
「シーダ、そろそろ休憩時間だから一緒にご飯食べよう!」
「そうね、分かったわルーナ。私も丁度仕事が終わったからそうしましょう」
「そう言えば、シーダって朝に何か貰ってなかった? 珍しいわね。男の人が苦手なのに、何かを受け取るなんて。いつも何かあっても絶対断るのに」
涼太さん、不思議な人だ。
私は幼い頃に盗賊に襲われた。
間一髪で冒険者の方に助けて貰ったがそれ以来は仕事での会話などは大丈夫だが、それ以外は怖くて近づきたくない。
でも、涼太さんにはそういう恐怖心が一切芽生えなかった。
どうしてだろう。
「ええ、休憩の時にどうぞって言ってくれてたから多分食べ物だと思う」
「ほう、貢ぎ物ですかな?」
「違うって、特に意味なんて無いと思うよ。それにギルドマスター曰くハイゼット家に今住んでいるらしいの」
「うひゃー、あのハイゼット家! ということはあの隣にいた剣を持った女の人って戦姫?」
「うん、そうらしいよ。凄く親しそうだった」
本当に、どうやってハイゼット家と知り合ったんだろう。
ましてや紹介状が届くなんて想定外だった。
「凄いわねぇ、雇われているの?」
「それだと冒険者ギルドに登録なんてする筈ないじゃない。それに倉庫にある大量の魔物の死骸は見た?」
「あれか、凄いわよね。高ランクの魔物ばかりでギルマスも嬉しい意味で忙しそうだったわ」
「あれは全部、涼太さんが狩ったらしいのよ」
「それとんでもない実力者じゃないの! Aランク以上は確実よね。じゃあ何でFランクの依頼何てしてるの? 推薦ならもっと上からスタート出来るのに」
「ズルはダメだから、一番下からお願いしたそうよ」
「公爵家の後ろ盾があって、とんでもない実力者、更に誠実ときたか。私が狙っちゃおうかしら。彼フリーなのでしょう?」
「ダメよ! 困らせちゃうでしょ」
あれ? 私何でこんな必死なんだろう。
「ふふ、冗談よ。折角シーダが親しく出来そうな男性が現れたんだから、そんな事しないわよ」
「もう! そんなんじゃないって。それよりも食べてみましょう」
涼太さんから貰った箱を開けてみる。
すると香ばしい匂いが部屋に漂う。
「うわ! 凄く美味しそう。シーダ、私も食べていい?」
「もちろんよ、ルーナ。でもこれって何なんだろう、お菓子の様だけど見た事ないわね」
サクッ
子気味の良い音が聞こえる。
「ッ! 何これ凄く美味しい。こんなのどこで売ってるの?」
「本当に美味しいわね。これ涼太さんの手作りらしいわよ」
「お願いしたらまた作ってくれるかな?」
ルーナが私にお願いをしてくる。
私が涼太さんに言えと?
「分かったわ。帰ってかられたらお願いしてみるわね。ただし、貴方も一緒にお願いしてね」
「わーい、シーダ愛してるよー!」
♢♦♢
しまったー!
魔法の練習に没頭し過ぎてもうすぐ夕方じゃないか!
やばい、ゴブリンの依頼まだ終わってねぇ。
ショッートカットするしかないか。
俺は全力でジャンプをする。
それだけで数百メートル飛んだ。
クレーターが出来てんじゃん。
だが自重はしないぞ。
ゴブリンの集落は……あそこか!
俺は空中に結界を貼り足場にして直行して集落に向かう。
ドゴッン!
「Gよ、待たせたな。只今より駆除を開始する」
「ギギッ?」
「ギ!?」
そんなに驚かないでくれよ。俺だって若干物理法則を無視した事に驚いているんだから。
数は……数え切れないな。
あれ? 確かギルドで多くても100ぐらいだって聞いたんだけど、これ絶対1000はいるでしょ。
まぁ倒せばいい話か。
「【天門】」
俺の後ろに突然門が現れ1人の女性が出てくる。
「お久しぶりで御座います、主人様」
「久しぶりだな、ガブリエル。状況が少し面倒だ。半分頼めるか? 時間が無いんだ」
「承りました。それから主人様」
「何だ」
「アテナ様達から早く帰って来いとの伝言を預かって参りました」
やっべー。すっかり忘れてた。
週1ぐらいで帰ろうかと思っていたけどもう1週間過ぎてんじゃん。
「ごめん、忘れてた。明日ぐらいに帰ると言っておいてくれ」
「承知しました」
さて、始めるか。
と言っても既に20体ほど狩ってあるから依頼は達成だ。
「さて、始めるか。殲滅しろ」
「承知しました」
ガブリエルの手に光が宿る。
刹那。
「え、マジで?」
ゴブリンの体は全て真っ二つになっていた。
というか目の前にある山がずれた。
「ガブリエルさん、何をしたの?」
「光の光線を常時展開して振り回しただけですが」
つまりあれか、超長い剣で纏めて敵を真っ二つにしたと同じことか。でもこれは規模が違い過ぎるだろ。
「ありがとう、助かったよ。俺の分まで無くなっちゃったけど」
「主の手を煩わせる事があってはなりません」
そうなのね。
「それじゃあ、アテナ達に宜しくと言っておいてくれ」
「はい、主人様のご活躍お祈りいたします」
ガブリエルは門から帰っていった。
はぁ、これどうしよう。
目の前にあるのは大量のゴブリンの死骸。
そうだ! 入り口を広げて亜空間に入れておこう。邪魔なら何時でも廃棄できるし。
ゴブリンは地に沈むかの様に俺の展開した亜空間に消えていった。
よし、これで終わりだな。
「依頼終わりました、買取の方も出来てますか?」
「お帰りなさいませ、涼太さん。はい、買取の方も終わっています。ギルドマスターが部屋でお待ちなのでご案内いたします」
という事なので、俺はまたギルマスの部屋にやってきた。
「おう、来たか。待たせたな」
「俺も丁度依頼が終わったところだよ、それで報告しときたい事がある。ゴブリン討伐に行ったところ、1000を超えるゴブリンがいた。一応は倒しておいたから報告しとく」
「ゴブリンが1000以上だと! いや、お前さんなら狩り終えているか、分かった。上に報告させて貰おう。それで買取の件だがちょいと問題が出た」
「何だ?」
「頭が二つの虎なんだが、国が買い取りたいと言っていたんだ」
国か、面倒な事にならないといいが。
「で、いくらだ?」
「ミスリル金貨2枚と白金貨1枚だ」
「「なっ!」」
俺とシーダがあまりの金額に驚いた。
「おいおい、高すぎんだろ」
「俺だって驚いているさ、研究機関の奴ら何だが、相当なレア物だから研究に使いたいそうだ。まぁ、悪い奴らではないから何かしようという訳でもなかろう」
「なら良かった」
「それじゃあ、残りの方の金額の方だがSランクが4体、Aランクが10体、その他諸々で合わせて白金貨9枚と金貨4枚だ」
「多い気がするんだが」
「量が量だけにな、高ランクもこんだけなら適正な値段だ」
俺はミスリル金貨2枚と白金貨10枚、金貨4枚を貰った。
3億と4百万か。宝くじに当たりましたよ。
「シーダ、この事は広めるんじゃないぞ」
「分かりました」
その後、俺とシーダは部屋から出て廊下を渡り受付まで戻ろうとする。
「あ、あの……」
急にシーダさんが俺に声をかけてきた。
「どうしたんですか?」
すると前の方からもう1人受付嬢がやってきた。
「こんにちはー! 貴方が涼太さんね。私はルーナです。シーダと一緒に貴方のお菓子食べたんだけど凄く美味しかったの。そのお礼を言いに来たのよ」
「その、美味しかったです。ありがとうございました」
お礼を言いに来たのか。健気だな。
「口にあった様で何よりです。良ければまた持ってきましょうか?」
「えー! いいんですか! ありがとう御座います」
「今度は受付の皆さんで食べられる様に沢山持ってきますね」
うん、喜んでくれるなら持ってくる甲斐がある。
今度は違うのも持ってくるとするか。




