24話 買取
「先程は申し訳なかったな、まさかハイゼット家からの招待状が来るとは思わなくて驚いていた」
「いえ、もうその話は止めましょう。それで何故わざわざギルドマスターの部屋なのでしょうか、登録なら受付でもいいと思うのですが」
もしかして良からぬことが招待状に書いてたのかな。
「そうだな、お前さんを呼んだ理由は2つある。まず1つ目はお前さんが持っている魔物の素材についてだ。手紙にはAランクやSランクの魔物をお前さんが狩っていると書いてあるがそれは本当か?」
成る程、それについてか。確かに俺のアイテムボックスの中には大量の魔物の死骸が入ってる。
「ああ、それで合っているよ。俺も今日買取をしに来たからな」
「そうか、良かった。Sランクの素材なんて滅多に入ってこないからな、こっちで買い取らせて欲しいという了見だったんだ。ありがとう、じゃあまず登録の方からしてくれ」
「分かった」
ギルド長はそう言い登録用紙を俺に渡す。
「代筆はいるか?」
「いや、問題無い」
ふむ、名前、年齢、それから職業か何にしようかな。魔法剣士でいいか。
「それにしても、あの戦姫が此処に来るとは驚きだ」
「ん? 戦姫って何だ」
「何だ、お前さん知らずに一緒に居たのか」
「ミセルのことか?」
「ああ、そうだ。ハイゼット家の戦姫と言えば有名だぞ。女の身でありながら武闘大会で圧倒的な戦績を収めたこともある。いつもハイゼット家のお嬢様と一緒にいるからまさか此処に来るとは思わなかったんだ」
おお、二つ名か、いいなそれ。
「ミセル、大会の優勝なんて凄いじゃないか。それに二つ名なんてカッコいいな」
「いえ、私なんて涼太様に比べればゴブリンとドラゴン以上の差があります」
流石にそれは言い過ぎなんじゃないのかな?
「そう、お前さんに聞きたい二つ目が正にそれだ。そこまで強いならそこそこ有名な筈だ。なのにお前さんの情報は全くと言っていいほどない、それにその黒髪に黒目。一体何者だ、文献には数百年前の勇者も黒髪黒目だったと書いていたが」
「ガッツ殿、それについてはあまり詮索するなとハイゼット家からの手紙にも書いていた筈ですが」
グリムさん、きちんと配慮してくれてたんだ。感謝だな
「俺は勇者なんかじゃないよ。ただの旅人だ。強さは山奥で育ったから自然についたのだと思う」
「成る程な、ハイゼット家からも言われているし、これ以上の詮索は止めておこう」
「そうして貰えると助かる」
そうしている内に登録用紙を書き終えギルマスに渡す。
よく分からない欄とかあったけど大丈夫かな
「それじゃあ後はこの水晶に触ってくれ」
「分かった」
俺は言われるがままに手を水晶に乗せる。
ビキッ!
「「え?」」
やべぇ、修復!!
「あれ? 今ビビが入った気が」
「気のせいだろ。現に目の前にある水晶は綺麗なままじゃないか」
「そ、そうだな。俺の気のせいだよな」
危ねぇ。
鑑定した結果、これは鑑定でステータスを測る水晶だった。
俺のぶっ壊れステータスは測れないのか。隠蔽と力を抑えてもう一度だ。
*
月宮涼太 LV.146
種族:人族
性別:男
年齢:17
攻撃:1800
魔力:2500
俊敏:1650
知力:2000
防御:2100
運:100
スキル
【剣術LV.34】
【元素魔法LV.24】
*
よし、こんなものでいいか。
弱過ぎてもすぐにバレるだけだからある程度強くしとかないとな。
「馬鹿な、レベル146だと!? Sランクは確実な力を持っているじゃねぇか」
「当然です。涼太様は私が尊敬する御方ですから」
これは失敗したか?
もう少し弱く設定しとくべきだったか。
「それよりも、冒険者について説明を聞きたいんだが」
「ああ、すまねぇ。冒険者とは依頼を受けそれをこなす事により報酬を貰う事をしている。ランクはFからSSSまでとなっている。依頼は自分のランクの一つ上まで選べる。失敗した場合はペナルティとして依頼料の半額を支払ってもらう。ランクを上げるにはクエストのポイントを貯める必要がある
」
「という事は地道に頑張れば弱い奴でも高ランクになれるという事か?」
「いや、それが通じるのはDランクまでだ。Cランクからはランクを上げるのに面接や対人戦も含まれてくる。それに見合った実力が無いと上がれない。Aランク以上に上がる為にはギルドマスターや国からの推薦も必要になってくる」
成る程、きちんと管理されてる訳ね。
Aランクで実は弱いですなんて、ギルドの顔に泥を塗る事にもなりそうだしな。
「それから、この国には数カ所ダンジョンがある。入るにはEランクになる必要があるから早くランクを上げる事をオススメするぜ。ダンジョンは下に行けば行くほど宝も高価になってくるからそれが目当てで冒険者になる奴も少なくねぇな」
「ダンジョン? 迷宮とは違うのか」
俺が攻略した黒の迷宮はアナウンスでもダンジョンとは言っていなかった。
「迷宮とは太古の昔に神が作った試練だとされている。あまりの強さに誰も近づこうとはしない。シュテム帝国に一つとミルス聖国に一つだけ発見されているが特定危険区域にされて誰も入れないな。ダンジョンは魔素が集まり突然出来たものだ」
「ダンジョンと迷宮の見分けがつかずに実は入ってるってことは無いのか?」
「迷宮には入り口には門が設置されているんだ。ダンジョンには無いからそれで見分けている」
そう言えば黒の迷宮にも入り口に黒色の門があったな。
「ポイントはステータスプレートを更新する度に書き換えられるから、定期的に更新はしてくれ」
「分かった」
「あと公爵家の推薦でランクをCまでなら直ぐに上げられるがどうする? ダンジョンもすぐに入れるぞ」
「いや、地道にやらせて貰うよ」
ズルは良くないと思う。やっぱり地道に上げてく事に価値があるんだと思う。
「分かった。それじゃあ、次はお待ちかねの買取についてだな」
俺達はギルドマスターに連れられてギルドの裏にある倉庫にやってきた。
「それじゃあ出してくれるか、アイテムボックス持ちらしいからその中に入ってると手紙に書いてあったから。羨ましいぜ、魔物が入るアイテムボックスなんて早々ないんだから」
「分かった」
取り敢えず樹海で狩った魔物と迷宮で最初に狩った虎を出してみた。
「おいおい、マジでAランクやSランクの魔物ばかりじゃねぇか。それに顔が二つある虎? 明らかにヤバそうな奴じゃねぇか。こいつは見たこと無いからちょいと調べさせてもらってからでいいか?」
「構わない。査定にはどれくらい掛かるんだ?」
「そうだな、明日の朝には終わらせよう」
「金がないから、今欲しいんだけど」
うん、出来るだけ早く欲しい。
この後も買い物とかあるからミセルなら「私が払います」と言うのが目に見えている。
それは俺のプライドが許せない。
「うーん、困った。流石に直ぐには無理だな」
「それじゃあ、魔物の素材以外で何か買い取ってくれる物はあるか?」
「それなら薬草や回復薬、鉄やミスリルの鉱物や宝石なんかも買い取ってるぞ」
おお!それなら迷宮でちらほら壁に引っ付いていたり落ちていた鉱物がある。
「これならどうだ?」
俺は迷宮で広った鉱石を見せてみる。
「なっ! こいつはアダマンタイトか! それに滅多に出回らない宝石ばかりじゃねぇか」
「いくらで買い取って貰える?」
「そうだな、鉱石は此方で買い取ろう。宝石はオークションで出してみたらどうだ? 貴族なら喉から手が出る程欲しい奴もいるはずだから確実に此方で買い取るよりも高値になるぞ」
「分かった。それじゃあ鉱石の買取を頼む」
「了解した。直ぐに終わるからさっきの部屋で少し待っていてくれ」
15分程してからギルドマスターと受付嬢のシーダさんがやって来た。
シーダの手には綺麗な箱と袋がある。
「待たせたな。白金貨3枚と金貨6枚、銀貨72枚だ。確認してくれ」
綺麗な箱の中には白金貨が、小袋にはそれぞれ金貨と銀貨がはいっていた。
鉱石だけで3672万ペルか。実感無いけどとんでもない額だ。しばらくは遊んで暮らせるじゃないか。
「ありがとう」
確認し終わったのでアイテムボックスに入れといた。
用事も済んだのでミセルと部屋を出る。
すると、周りの視線が一斉にここへ向く。
「なぁ、ミセル。なんか見られてないか?」
「気のせいでしょう。それよりも涼太様、次はどう致しますか?」
「そうだな、もうすぐ昼だから軽く軽食でも取ろうか」
何か良さそうな所はないかなと街中をぶらぶら歩く。
お! 凄くおしゃれな店がある。
よく見れば女性客ばかりだ。
食べているのはパンケーキか?
見たところ生地を焼いてシロップをかけました……って感じでシンプル過ぎる。
ミセルの方を向くとチラチラと店の方を見ている。
食べたいのかな?
「ミセル、あの店が気になるのか?」
「はい、奥様とお嬢様がよく行かれる店なので」
「ミセルもクリスと一緒に食べたりしてないのか?」
「いえ、私は護衛という立場にありますのでそういう訳には行かないのです。確かに、少し気にはしてますが私1人では入り辛くて……」
食べてみたいけど、護衛という立場では公共の場では同じ席には座り辛いのかな?
それに客は見たところカップルや2人組ばかりだ。そりゃ、入るに入れないよな。
「分かった。ここにしよう」
「しかし、ここはこの国でもかなり高価な部類に入りますが宜しいのですか?」
「おいおい、さっき大金を手に入れたばかりじゃないか。今日は護衛ではなく案内人という立場なんだから、俺の奢りでいいから好きな物を食べていいよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
いつもクールな顔にパッと花が咲いた。
うん、やっぱり笑っている方が可愛いな。
値段は銅貨4枚から高くても銀貨1枚程の様だな。
確かに高いと言ったら高い方なのかな?
何にせよ、ミセルが幸せそうで良かった。