23話 冒険者ギルド
ギルドに着いた。
沢山人がいる。
やはり朝から依頼を受ける方がいい依頼も残っているから効率的なんだろうな。
みんな、それぞれ武器や防具をつけている。
モン◯ンを思い出すなぁ。
「涼太様、まずはどうしましょう?」
「そうだな、ミセル。冒険者登録ってどこで出来るんだ?」
今日はここら一帯の案内としてミセルに案内してもらう事になった。
クリスは家で勉強だ。
とても残念そうだった。
今日のミセルの格好は騎士の甲冑ではなく動きやすいラフな格好の様だ。
スラッとしていて綺麗だ。
「はい、着いて来て下さい」
俺はミセルに案内され人だかりの中を歩いていく。
しかし、冒険者ってでかいなぁ。
魔法使いもちらほらいるけど、接近戦をするであろう人は筋肉のつき方が凄い。
なんか怖いな。
そんな事を思いつつ20代前半ぐらいの受付嬢の前に着いた。
「いらっしゃいませ。本日はどの様なご用件でしょうか?」
「冒険者登録をしたいのですが」
「お二人で宜しいですか?」
「いや、登録は俺だけです。こちらは俺の付き添いですね」
「わかりまし……」
そこで朝から後ろで呑んだくれている冒険者の方から俺達に向けて声が飛んでくる。
「グワハハハ、おい、聞いたか! あんなモヤシ野郎が冒険者登録だってよ。世も末だな!」
「ああ、全くだぜ! ここは天下の冒険者ギルドだぞ、ゴミムシ程度が来ていい場所じゃねぇんだよ! お家に帰ってママのミルクでも吸ってな! ギャハハハ」
「クソガキ、痛い目を見ないうちに帰りな。今なら見逃してやるぜ」
「そんな手ぶらで何が出来るってんだ? 魔物の餌にでもなってくれるのか?」
男達からはこちらまで酒くさい臭いが漂ってくる。
ここは引いてしまう場面だが俺の心は今、歓喜に溢れている。
まさか、ここまで忠実にテンプレを再現してくれるとは、感謝しないとな。
今日はこれの為に来たと言っても過言ではない。
「おいこら、何ニヤニヤしてやがる。ぶっ殺すぞ!」
うわぁ、典型的な小物だな。
「すいません、この招待状使えますか?」
俺は男達を挑発するかの様にゴミムシを見る様な視線を送る。そして周りに聞こえない様にコソッと受付嬢に公爵家で貰った招待状を渡す。
すると受付嬢は顔色を変えて「少々お待ち下さい」と言い大慌てで奥の方へ行った。
「てめぇ、何シーダさんに近付こうとしてんだこら、それに俺達を無視とはいい度胸じゃねぇか、あん?」
「それは挑発と取ってくれって事だよなぁ?」
「俺達に逆らってタダで済むと思ってんのか、ゴラァ」
「財産全部置いて行くなら許してやるぜ」
はぁ、面倒くさいな。
「俺はただ冒険者登録をしに来ただけだろう。何故そこまで言われなければならない?」
「あん? そんな事も分かんねぇのか? 仕事も出来ない半端者がいてもこっちが迷惑なんだよ」
「朝っぱらから酒を飲んでる奴のセリフじゃないな」
「俺達は討伐後の打ち上げ中だ、お前みたいなヘナチョコとは違うんだよ」
「それはおめでとう。ゴブリンを倒した祝勝会かな?」
「どうやらてめぇは1度痛い目を見せた方がいい様だな。ついて来い! 決闘だ! 俺達に逆らったことを思い知らせてやる」
決闘か、だとすると訓練場なんかもあるのかな?
「ちょっと、ドッグさん。何んで折角冒険者登録しに来てくれた方を追い返そうとするんですか」
先程、俺が紹介状を渡した受付嬢の隣を担当していた人が止めに入っていた。
「うるせぇよ。1度痛い目を見せるだけだろうが! 何か文句でもあんのか。とにかく、ついて来い!」
そう言い、酔っ払い達は先に訓練場があるであろう方に向かっていった。
「すいません、あの人達は誰ですか?」
「はい、このあの方達は『鬼の角』というパーティで、先程の方がドッグさんと言います。ランクはDです」
「Dって何ですか?」
「後ほどご説明しますが、簡単に言えば冒険者はランクごとに分かれておりDランクは下から3番目のランクです」
「成る程。つまりザコという訳ですか」
「いえ、Dランクは下級冒険者から中級冒険者に移り変わる節目なので弱いという訳ではありませんが」
つまり、下っ端を卒業して調子に乗っているというところかな?
「しかし、宜しいのですか?ドッグさんの実力は本物ですよ」
「まあ、問題はないでしょう」
「よう、遅かったな。こっちの準備は万端だぜ」
「待たせたな」
男達はフル装備で俺を待っていた。
え? そんなガチでやるの、それに明らかに相手の方が人数が多い。
4人が16人になっていた。
同じ考えの奴を誘ったのかな?
「俺達が買ったらそこの女を貰おうか」
ドッグは俺の隣にいたミセルを指差した。
クズか。
「なら俺が勝ったらどうしてくれるんだ?」
「はぁ? わざわざ稽古をつけてやろうってんだ。ある訳ないだろ」
そうっすか。
はぁ、こういう傲慢タイプって嫌いなんだよなぁ。
「涼太様、私も参戦した方が宜しいでしょうか」
「いや、俺1人で大丈夫だよ」
「分かりました。では、頑張って下さい」
だって鑑定したら全員レベルは10台後半から強くても30台だ。弱い以外の感想が考えられない。
「受付嬢の私が口を出すのはお門違いかもしれませんが本当に宜しいのですか?」
「ああ、合図を頼む」
「分かりました。では殺しは禁止です。どちらかが降参または気絶すれば試合は終了となります。では始め!」
バタン!
開始早々に先程絡んできた4人以外の男達が地べたに倒れ込んだ。
「なっ!」
「おい、どうしたお前ら!」
突然の出来事に困惑する4人。
「てめぇが何かしたのか」
「さあな?」
実際俺は魔法を使った。
いや、魔法という表現はよくないか。
俺は男達の周りの空気の酸素濃度を急激に下げた。
空気中には約20%の酸素があり人はそれを吸って生きている。
酸素の割合が7%以下になれば人は一呼吸で失神してしまうのだ。
今回は試しにそれを実現してみた。
しかし、これは地味だな。
効率的ではあるが地味過ぎる。
なんの面白みもないし、今度から控えよう。
「まぁいい、使えない奴らだ。不慮の事故なら死んでも仕方ないから死んでも文句言うなよ。おら!」
えー、ルール守る気ゼロじゃん。
どうしようか?
派手な魔法を放つ?
いや、物理的に殴ろう。その方が周りも納得するだろうし。
パシッ
「なっ!攻撃を素手で掴んだだと!?」
「あー、もういいよその反応。聞き飽きた」
ドゴッ!
俺は男の腹を殴って壁まで吹っ飛ばす。
「はぁ、この程度の実力なのか? もう一回一番下のランクからやり直した方がいいんじゃないのか」
「なめるな!」
今度はドッグ以下の3人が襲いかかってくるが、攻撃がワンパターン過ぎる。
上から振りかざす。横に切る。本当にそれだけだ。
飽きた。
ドゴッ、ドキャ、ボコッ
俺は1人に一発ずつ殴って戦闘不能にしてゴルドの前に立つ。
「何か言い残す事はないか?」
「す、すまねぇ! 俺達が悪かった。もうこんな事しねぇから許してくれ」
「分かった。今度からこんな事するんじゃないぞ」
「ああ、誓わせてもらうよ」
戦いは終わった様なので俺は後ろを振り向き訓練場から出ようとした時…
「んな訳ねぇだろ! 死ねや」
うん、分かってたよ。
テンプレだもん。
お前みたいなのが素直に言うことを聞いたら俺の方が戸惑ってしまうよ。
「ガハッ!」
俺のアッパーが顎下に直撃して、ドッグは動かなくなった。
「試合は終了でいいか」
「あ、はい。涼太さんの勝利です」
ワァァァァァァァ!
周りから歓声が上がる。
「流石です、涼太様。惚れ惚れする腕前です」
「違うよ、ミセル。こいつらが弱いだけだよ」
実際こいつら程度ならミセル1人でも余裕で勝てると思う。
「しかし、どうしましょう。今の攻撃は明らかなルール違反です。涼太様に万が一があればどうするのですか?」
ミセルは隣にいる受付嬢に言及する。
うん、かなりご立腹のご様子だ。
「そ、それは、私1人の判断では受け答えする事は出来ません」
「あなたはギルドに所属している。況してやギルドを管理する側です。冒険者ギルドはいつもこの様な事を見過ごしているのですか?」
「止めないかミセル、その人は悪くないよ。冒険者ギルドでこいつらの様な奴がいる事自体は問題だが、それと受付嬢が悪いとは関係の無いことだ。騎士団の様に人を厳選している訳でもなく誰でも入れるのだから仕方ないと言えば仕方ないよ」
「しかし、涼太様にもしもの事があれば私はお嬢様に立てる顔がありません」
「ミセル、お前の気持ちは嬉しいが俺がこんな奴らに傷の1つでも付けられると思うか? ショックだよ、一緒にあの樹海の魔物を倒してきたのにそんな風に思っていたなんて……」
少し弄ってみる。
「なっ! 私が涼太様の実力を疑う筈がありません! 申し訳ありません、如何なる罰でもお受け致します」
「ちょっ、ミセルさん。冗談だよ、冗談。そんな間に受けなくていいよ。俺は十分ミセルの事を信じてるんだから」
「ありがとうございます、涼太様」
良かった。納得してくれたか。
「おい、お前ら。問題は起こしてないだろうな!」
すると、筋肉が凄い大男が慌ててここにやって来た。
「お前さんが涼太か。すまねぇ、ウチの馬鹿どもが無礼をした。申し訳ない。俺はここのギルドマスターのガッツと言う」
ギルドマスターさんのお出ましだ。
「別に気にしてないから頭を上げてくれ」
「そうか、ありがとう。すまねぇがこの後奥の部屋に来てくれないか?公爵の推薦とあっては少し事情変わってくるんだ」
「分かった」
「おい、こいつらを縛り上げとけ。後で処分を下す」




