22話 夕食
「涼太さん、前にした約束を覚えていますか?」
「ん? 何だったっけ?」
「覚えていないのですか? 屋敷に来たら美味しい料理を作ってくれると約束したではないですか」
思い出した。確かフルーツ狩りの時にそんな事を言ってたんだった。
「ごめん。スッカリ忘れていたよ」
「もう、涼太さんったら。どれだけ私が楽しみにしていたと思っているのですか」
「はは、悪かったよ。それじゃあ何が食べたい?」
そう聞くと、クリスはむむっとした表情になり悩みだした。
一生懸命考えている姿が可愛い。
「そうですね。涼太さんのお任せでお願いします」
お任せか、難しいなぁ。
「今日のご飯何がいい?」と聞くと「何でもいい」と返ってくるくせに出てきた物に文句を言ってくる奴っているよな。
うちの姉が正にそうだった。
でも、クリスの何でもいいは未知の物に対してだから、お任せと言うのも納得だな。
「そうだな、もう夕食の準備はされているだろうし、お手軽に食後のデザートでも作ろうかな。そう言えばクリスはいつもどんなデザートを食べてるんだ?」
「そうですね。いつもはカットされたフルーツが出されています」
やはり食文化はそこまで進んでないという事か?
「クリス、ケーキって知ってるか?」
「けーき……ですか? いえ、聞いた事ないです」
なるほど、この世界ってそのレベルなのね。
いや、アテナ達の現状を見て大体の予想はしてたけど改めて聞いてみるとショックだな。
「分かった。ケーキはまた今度にするよ。今日はプリンにしとこうか。今厨房って忙しいかな?一応テーブルに出す品だから料理長の許可が必要だと思うんだけど」
「なら今すぐ厨房に向かいましょう。善は急げです。あと1時間程で食事なのである程度の料理出来ると思いますよ」
1時間か、手の込んだ物を作るとしたら時間的にはギリギリか?
いや、魔法を使えば時間短縮も可能か、なら問題ないな。
♢♦♢
「これはクリス様、夕食までもう少し時間が御座いますが如何なさいましたかな」
「プラトさん、今日は夕食後のデザートは何ですか?」
「申し訳ありません、クリス様。ジュエルシリーズは冷やしてからお出ししようかと思いまして、今日はいつも通りのフルーツ盛り合わせとなっております」
うん、まぁ普通だよね。
冷やしてからの方がフルーツって美味しいもん。
「でしたら、今日はこちらの涼太さんに食後のデザートを用意してもらっても宜しいですか?」
「おお、貴方が涼太殿ですか。この屋敷でも噂になっておりました。申し遅れました、私はハイゼット家の料理長を務めさせて頂いておりますプラトと申します。以後お見知り置きを」
「どうも、月宮涼太です」
料理長って怖いイメージがあるけど優しそうな人だな。
「涼太さんは未知の料理を作る方です。今日の夕食で一品出したいの、ダメかしら?」
「ほう! 未知の料理ですか。それは私も気になりますね。一通りの作業は終えておりますのでどうぞお使い下さい」
快く使わしてくれた。
やっぱりいい人だな。
「ありがとうございます、プラトさん。器具や材料はこちらで用意してますのでここで使用しても構いませんでしょうか?」
「はい、勿論構いません。よければ作るところを見学させてもらえないでしょうか? 恥ずかしながら未知と言うのに心を惹かれているのです」
確かに興味ありげにソワソワしている。
「ええ、構いませんよ。ただし、これはクリスの為だからなので余り情報の漏洩は無いようお願いします」
「勿論です。料理人にとってレシピとは1つの財産。涼太殿のレシピは秘匿と致しますのでご安心を」
そこでメイドさんが厨房に入っていた。
「お嬢様。奥様がお戻りになられました」
「お母様が帰って来られましたか。でしたら私は少しばかり会いに行ってまいりますのでプラトさん、後の事はお願いします。料理人さん、料理を楽しみに待ってます!」
クリスはメイドさんと一緒に厨房から出て行った。
「では始めますか」
まず俺はカラメルを作る為に砂糖を鍋で煮詰め、いい色合いになったところで容器に入れていく。
数は多めに20個程だ。
やっぱりプラトさん達にも食べて貰いからね。
「あの……その容器はどこから」
「創りました」
「え……造った?」
その後に小鍋に牛乳と砂糖を入れ温まったところで、溶いた卵と砂糖が入っているボウルの中にゆっくりと入れていく。
後は容器に移し、オーブンで蒸し焼きにする。
時間短縮の為にオーブンごと【クイック】をかける。1分程で蒸し焼けた。
後は冷やす為に【急冷】をプリンにかける。
よし! 出来上がりまでの時間は8分か。
中々の好タイムだな。
「あの……一体何が」
「気にしないで下さい。では夕食後に出す為に後は冷やしておきましょう」
「ええ……そうですね」
まだ夕食まで時間があるな。
林檎の飾り切りでもやって時間を潰すか。
そう思い俺は森で取れた林檎の皮を剥いていく。
市松模様と白鳥に後定番の兎。中々に上手く出来ぞ。
「あの……それはどうやったのですか?」
1人の料理人が興味を持ったのか俺に声を掛けてきた。
「良かったらやってみますか?」
「本当ですか! 是非お願いします」
それを見た料理人達は自分達の仕事を終えたところで次々に教えて欲しいと声を掛けて来ていつの間にか料理教室状態になっている。
あれ? また俺指導していないか?
♢♦♢
「あ! 涼太さん、こっちです」
「ごめん。待たせたかな」
「いえ、そんな事はないですよ」
クリスは柔かな笑顔で返答してくれた。
「あなたが涼太さんですか。うちの娘がお世話になりました。私はクリスの母のラミアと言います」
目の前には絶世の美女がいた。
うわ、凄く綺麗な人だな。
流石はクリスの母親ってところか?
クリスも将来こんな風になるのかな。
「いえいえ、俺も少しの間はこの屋敷でお世話になりますのでお互い様です」
「ええ、ずっと居ても構わないのよ? そちらの方がクリスも喜びそうだし」
「もう、お母様。やめて下さいよ!」
クリスも照れながら受け答えする。
「そう言えば、魔物の素材を売りたいんですが買取は冒険者ギルドで買い取った貰えるのですか?」
「そうね、確かに買い取って貰えるけどその為には冒険者登録をする必要があるわね、後は商業ギルドに直接買い取って貰うという手もあるわ」
「冒険者ギルドと商業ギルドの買取で違う点はありますか?」
「冒険者は素材をギルドに売ると貢献したという事でランクを上げる為のポイントが入るわね。商業ギルドは魔物の素材だけじゃなくて様々な物を買い取ってくれるわよ」
なるほど、ランクを上げたい時は冒険者ギルドに売るという形を取ろうかな?
「分かりました。それじゃあ明日は朝にギルドの登録と素材を買取するという方面で動こうかと思います」
「ふむ、ならば涼太よ。紹介状を渡すから持って行くがよい。少しならば融通してくれる筈だ、それからお前さんにはこれを渡しておきたい」
グリムさんは紹介状とバッジ? を俺にくれた。
「このバッジには貴族の家紋が記されており、その貴族の後ろ盾がある事を示す。お前さんには多大な恩があるから私からのプレゼントだ。何か面倒な事があれば遠慮なく使ってくれ」
おお! それは助かる。
貴族のそれも公爵家の後ろ盾は凄い力を発揮しそうだ。
ここぞという時は使わせてもらおう。
それにしてもバッジか。
何か軍隊の勲章みたいだな。
沢山あれば凄く偉い人みたいになりそうだ。
「ありがとうございます。もしもの時は遠慮なく使わせてもらいます」
普段付けていても目立つだろうから、服の裏側に付けとくか。
「あら、あなたが後ろ盾になるなんて今までに無かったのに珍しい事もあるのね」
「ふん、私は涼太の人間性を信じての事だ。こやつならば悪用などする事は無いだろう。それにこやつとは今後も縁がありそうだからな、今後ともよろしくと言う意味合いも入っている」
うわぁ、凄い信用されてるよ。
まあ、俺も公爵家の人達はみんな、いい人だから好きだけど。
暫くそんな感じで喋りなが夕食を取っていた。
「では、デザートに御座います」
料理長のプラトさんが冷やしていたプリンをテーブルに座っている各々の前に置いていく。
「ほう、これは一体何だ?」
「あら、見た事の無い食べ物ね」
「はい。こちらは先程、涼太殿がお作りになられたプリンと言うデザートに御座います」
全員、興味津々だ。クリスなんか餌を目の前に置かれた犬の状態で、今か今かと待っている。
「ほう、涼太。お前さんが作ったのか、料理まで出来るとは多彩だな」
「はい。普段は趣味として作る事が多いですね。では皆さん、ソースと一緒に食べて下さい」
パクッ
「「「ッッ!!!!」」」
3人共驚いている様だ。
「驚かれるのも無理はありません。私も先程頂きまして、衝撃を受けました」
どうやら、料理人達は先に食べた様だ。
毒味も兼任したという事か?
「これは凄いな、1日にここまで何度も驚かされるとは思わなんだ」
「凄く美味しいわね。こんなに美味しいもの食べたことがないわ」
「凄く美味しいです。涼太さんは天才ですね、後でミセルにも食べさせてあげないと」
3人共、満足をしてくれた様だ。良かった。




