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223話 盗み食いは許しません!

短めです。



 眩すぎる日差しが艦内を照らす。

 目覚めた涼太は朝食を作ろうと、洗面台で顔を洗う。

 まだ眠気が抜け切っていない脳に冷たい冷水が鞭を打ち目覚めを促す。

 そのままキッチンに移動する。


 朝食を準備する為に足を運んだが既に先客がおり包丁でまな板を叩く音が聞こえる


「おはよう、涼くん」


「相変わらず早いな、柚」


 少し伸びた髪を後ろで括り付けて、エプロン姿で調理をしている彼女の周りには完成された料理が幾つも出来上がっていた。


「お前……作りすぎというか、いつから起きていたんだ? 全然寝ていないだろ」


 時刻は午前6時前で、昨晩の古龍の騒ぎで落ち着いて寝られたのは3時だ。

 料理スキルMAXの涼太ならば異次元の速度で作れるが、ごく平凡な彼女が10人以上、それも大喰らいなメンバーも含めた料理を作るとなるとそれなりの時間がかかる。


「うん、初めて龍を見て興奮して眠れなかったんだよ」


 照れくさそうに頬を掻いて笑みを向ける。

 一時は底辺以下の暮らしをしていた彼女だが、完全に回復をして血流の良い顔つきだ。

 同じ祖国を持つ者として分かり合える。


「それよりも卵焼き作ってくれない? ここの厨房の卵焼きのフライパンは大きすぎ」


「おう」


 ごく一般家庭で使われている横幅が短いフライパンではなく一辺30センチ正方形のフライパンを渡される。

 定期的に孤児院から送り届けられる卵を使い次々に焼き上げる。

 卵を巻きながら涼太は並べられたおかずの量に圧巻した。業務用のフライヤーを使用しているからだろうが、それでもフル稼働させたであろう唐揚げの山。百人前は間違いなくある。


「因みにこれってお弁当だよな」


「そうよ、これから地上に降りるんだから何日も保管できるように大量に作ったんだから。だから、はいどうぞ!」


 直火と格闘してようやく残り一本のところで追加の液だまり。その量、40L。


(……えっ)


(……ニコッ)


 お互いに見つめ合う。


 フッと笑い腕まくりをしてコンロ5台の上に同じフライパンを創造。


「シャー、オラッ! 上等だ、15分で終わらしてやる!」


 火力最大、焼け焦げないように一瞬の遅れも許されない。 

 油を引いて朝の戦いが始まった。


 残像が見えるほどに高速で動き、均一に巻き終えていく。

 魔力、スキルの全てをフル活用。常人にはとても不可能な動きを見せる姿に柚は見惚れる。


(すごいなぁ、私も頑張らないと)


 エプロンの紐を固く締め直して再び台所と向き合う。





 二人が集中し、時間を忘れている間。

 3人の密猟者(ハイエナ)がドアの隙間から様子を伺っていた。


 厨房全体に漂う香りに涎が無意識にあふれ出る。

 腹の虫が鳴るのをグッと我慢する。


「あうう、至宝(からあげ)があんなにも! 涎が、涎が!」


「黄金に輝く卵焼きを見るのじゃ! あれは童の献上物である。そうに違いない! いやだが、唐揚げも捨てがたい!」


「ちょっ、二人とも。静かにしないとバレる……ってなんで私まで」



 青い瞳をランランと輝かせるクリスと鬼人族の娘。

 その後ろには二人に連れられてきたシャルロットが呆れながら座り込んでいた。


「くっ、どうすればアレを盗み出せるんですか! 正面突破ですか?」


「バカかお主は、以前に、おたまで頭を叩かれてたんこぶが出来たのを忘れたのか。あの二人、特にユズは盗み食いをすれば鬼になるのじゃ。おしっこちびりそうになったのじゃ」


 涼太の場合は味見という程で見過ごしてくれていた。しかし柚は盗みに敏感な為に何度も制裁を加えられたんこぶを作った数は知れず。

 二人は一向に反省をせずに何故か対抗心を燃やしているのだ。


(普通にお願いしたら良いのに……)


 目の前の馬鹿二人をどうすることも出来ないと諦めを抱きつつ、部屋に戻ろうと立ち上がる。


「おっ、とと」


 同じ姿勢で長時間動いていなかったためにバランスを崩して前のめりに倒れこむ。


「ふぎゃぁ(みぎゃぁ)」


 当然倒れた先には二人がいる。

 クリスと椿は獲物を得る算段を考えており、後ろの刺客に気が付かなかった。

 倒れこみそうになり手を伸ばした先には二人の首根っこ。

 可愛らしい叫びと共に地面とキスをする羽目になった。


 バタンと大きな音とともに扉が開かれて三人は厨房に姿を現す。



「あらシャルちゃん、おはよう」


「おっ、おはようございます!」


 ニコニコと笑みを浮かべる柚は三人の目の前に立つ。

 だがしかし、その片手にはしっかりと武器(おたま)が装備されていた。



「言葉はいらないわ。覚悟は良いわね?」


「はぇ……はっ……はひぃ!」



 三人は朝食ができるまでの間、部屋の隅で正座をさせられる羽目になるのであった。

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