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222話 空の旅



 場所は一面を覆う雲を突き抜けた月光が照らす夜空。

 飛空艇船内のモニターから美しく幻想的な光景を眺める。

 時刻は日付が変わり、元気な声で船内をはしゃぎ回っているいたクリスたちも寝静まり静けさが残る。


「何を黄昏ておる。お主には似合わぬぞ」


 ほんのりと頬を赤く染め、薄着で近寄り声をかける姿。

 月光に照らされる銀髪と長耳は幻想そのものだ。

 手には大きなアイスボールが一つ入ったグラス。ほんのりとアルコールの匂いが漂う。

 

 その後ろには元魔王軍であるキュールがメイド姿で付き添う。


「どうしたんだ、こんな遅くに」


「なぁに、眠れなかっただけだ。全く、鉄が空を飛ぶなどおとぎ話の世界だろうに」


「そうか? 俺の元居た世界では当たり前だった。逆に魔法が使える世界なんて考えられなかったよ」


 お互い言葉に詰まり数秒の魔が開く。

 くすくすと笑い、涼太は背もたれに大きく腰掛ける。

 フィルフィーも隣の椅子に座り空になったグラスをキュールに渡す。一息つき真剣な趣で横へ顔を向ける。


「それで……これからどうするつもりだ?」


「まずは魔界で会話が出来そうな人物と対面することかな。豪鬼たちの同族を探し出す」


「お主が思っているよりも魔界は広いぞ。本来ならば平和ボケした人族と常に戦場にいる魔族とでは地力が違うと言いたいところだが、間違いなく我らの方が過剰戦力だろう」


 元来、人族と魔族では魔力の親和性が大きく違う。魔法に秀でている種族の魔族に対して、剣術や槍術など技術方面に秀でる人族。

 一見してみれば対比に見えるが、技術や力は磨けば向上するに対して魔法に関しては才能が大きく左右するためにどうしても魔族の方が秀でる。

 しかし涼太は言うまでもないが、フィルフィーは魔王クラスの実力である。クリスたちでも準魔王級の実力があり、豪鬼たちに至っては魔王級を超越して神話級に踏み入れようとしている段階だ。

 敵から見れば一騎当千も生易しい、RPGならば正規ボスと裏ボスが集団で待ち構えているものだ。


「あの、不躾な質問をしてもよろしいでしょうか」


 普段無口なキュールが手を挙げて涼太へと質問をする。

 別段深い絡みもなく、初対面から無口だった彼女が涼太に口を開くのは珍しかったので頷く。


「どうしても私には涼太様がフィルフィー様よりも強いと思えないのです」


「ふむ……」


 そういえばと思う。

 彼女はラバン王国に攻め込んできた魔王軍であり、その間に下となり働きたいとの申し出があり、責任はフィルフィーがとると話になった。

 一連の騒動の中で涼太が動いたのはグロテウス帝国とセリア王国で涼太の力を知る機会は一切なかった。実際にはこの飛空艇を創ったことで力を示しているが武力としての力ではない。


「のう、キュールよ。お前の発言は意味をなさん」


「意味が……ない? どういうことですか」


「お前は小さな火種が辺り一帯を埋め尽くす海洋を蒸発させられると思うておるのか。例え最高火力の炎魔法だろうと海洋相手には意味をなさんだろう?」


「それは、涼太様との差がそれほどあるということですか?」


「違う」


 タダでさえ困惑していた彼女は訳が分からなくなる。


(あまり深いところまでは話さないでくれよ?)


(何を今更申すか。セリア王国の一件で周知されるのも時間の問題だろうに。それにキュールは私の部下だ。口が堅いことは約束しよう)


 セリア王国での天使を降臨させた騒動。

 真実は国王が口止めをして広がりに落ち着きを見せたが、それでも涼太に跪く天使の姿を目の当りにした住民は少なくはなく、涼太の姿を再度見れば情報は広まるのは間違いない。

 故に涼太は機会も相まって国を出た。


 静まり返る空間と問い詰められた様に感じる緊迫感にキュールは焦り以上に恐怖を覚えた。

 無意識に手を握り締め、その掌底からは汗が滲み出ていた。


「この者は、かッ……!?」


 何かを言いかけた途端、フィルフィーは不意に眉をひそめて右方の窓を見つめた。

 その瞳は淡く蛍光しており神眼を発動しているのが分かる。


 空の旅を満喫し、就寝前のリラックスタイムを送っていた涼太も椅子から腰を上げて立ち上がり右方下に視線をやる。

 一見何もなく雲だけが敷き詰められているように見える。しかし何やら先ほどとは若干薄暗い雲の様に感じる。

 そこでフィルフィーは大きく声を上げた。


「涼太、モニターを全展開だ。そして飛空艇を急上昇させてくれ」


「あいよっ! キュール、適当な場所に掴まれ」


 同時に影の存在に気が付いた涼太は阿吽の呼吸で返答して飛空艇を前方からシフトチェンジした。

 急速に動き出す巨大な物体のGに耐え切れずにキュールは片膝をつく。


 先ほどいた場所から更に2百メートルは上空に移動した飛空艇。急いで3人は甲板へと移動し視線を下へと向ける。



「ちょっと、いきなり何よ!」


「敵襲ですか?」


 寝巻の上から凍えないように白のパーカーを羽織った姿のエリス。身軽な恰好だが魔銃が装填されたホルダーを腰に携帯している。そして戦闘服を身に着けたミセルの両名が駆け寄る。


「敵襲かは知らないがデカい奴の顔を拝見するところだよ。それより他の皆は? いきなり動き出して流石に起きたか」


「はい、ロゼッタは起きて寝ていたシャルを叩き起こしました。柚さんも起きて支度をしています」


「クリスは?」


「通常運転です」


「ならばよし」


 詰まる所はこの目覚まし時計変わりの事態でも爆睡中なのだろう。基本的に決まった時間に寝ることを心掛けている彼女は起きるのも人一倍早いが、その最中に起きることは滅多にない。それは今まで過ごしてきた時間の中で理解できる。


「さて、お出ましだ」


 腹の底に響き渡る重低音の咆哮。

 全長は4百メートルはあるだろうか。

 黒の鱗に覆われ鋭い牙を見せ赤く光る瞳をこちらに向けて、身体を旋回させ涼太たちの前へ立ちふさがった。


「エ、エンシェントドラゴン……太古の昔から生きていた龍、しかも会えば塵一つ残らないとされている黒龍。むっ、無理です! 今すぐに逃げましょう!」


 声を荒げたのはキュールであった。

 魔族には古くから伝えられた伝説があり、『古龍からは逃れられない』

 例え魔王でもエンシェントドラゴンと戦うならば死を覚悟して命乞いをするしかないとまで言われている。


 涼太は実際にエンシェントドラゴンのステータスを確かめた。

 レベルは2万強、確かに人が到底到達し得ない領域に至る怪物だ。


 唸り声を上げてこちらに敵対心をむき出しにする。


「ほー、珍しい。こんなところでお目にかかるとは」


「エンシェントドラゴンってかっこいいな。どうにかして飼えないか」


「お主には既にファーフニルがおるだろう。あと三つ首の」


「分かっているよ。でもどちらも空飛べないから飛行系って憧れる」


「お主の口から聞けば嫉妬するぞい」


「お二人とも、なぜそんなに余裕なのですか!?」


 呑気に会話をする二人。一切の焦りを見せずに唯ドラゴンの様子を見つめているのに理解が追い付かないキュール。

 方や後ろに構えていた二人は、


「ミセル、写真を撮りなさい。レオンやお父様に自慢するのよ! 龍の全体が入り、かつ私が美しく映るように撮りなさい」


「分かりました。では3,2,1」


 カシャッ、


 髪をかき分けて顎を上に持ち上げ、何枚もの写真を撮る。

 態勢を変えて一番自身が気に入る写真が撮れるまで再考していた。


 その様には流石のキュールも絶句をして口が開いていた。

 何を遠足気分でいるんだ。死ぬかもしれないんだぞと言いたげである。


「慌てる出ない、キュールよ。エリスたちも一人でこんな化け物に出会えば死を覚悟する。絶対的信頼と安全が確保できているから騒いでおるだけだ」


「言っている意味が分かりません」


「まあ見ておれ。聞くまでもなさそうだが、涼太よ。会話は出来そうか」


「無理だな。長生きなだけで知能は低いわ。諦めるしかなさそう」


 エンシェントドラゴンは口を閉じて鼻から大きく息を吸い込む。

 肺が膨れ上がり、口の隙間からは炎が漏れる。

 目が全開に開かれた瞬間に飛空艇を丸ごと飲み込めるほど広範囲のブレスが襲い掛かる。


 反射的に両腕を交差して身を守ろうとする。


「熱く……ない?」


 ブレスの轟音が収まり静まり返ると同時に目を開ける。

 自身に火傷もなく、それどころか甲板にも火の粉の一つもない。


「阿呆か。まともに受ければ灰も残らんわい。それに雲の上に我々はおるのだ。普通なら凍え死んでおるのだから気づかんか」


「そういえば……」


 周囲を一瞥した。

 そこには薄っすらと薄い膜が張られている。


「これは結果魔法? しかもこんなに薄いのに龍のブレスを防ぐ? フィルフィー様、これが涼太様の魔法なのですか」


「結界魔法に特化しておる訳では無いがのぉ。それよりも涼太よ、空中戦は私は苦手だから頼んだぞ」


「了解だ、取り合えず地上に落として早朝にでも素材を取りに行こうか」


 大きなあくびをし身体がフワリと浮かぶ。

 そのまま結界を透過し、エンシェントドラゴンの眼光前に瞬間移動をする。



 魔力を開放。



 先ほどキュールは涼太の魔力量は一般人以下にしか見えなかった。


 当然だ、強すぎる魔力は他者に浴びせられるだけで猛毒に成りかねない。

 かつて情緒不安定になりセリア王国で魔力を開放して何万人もの住民が瞬間に意識を失ったか。


 先ほどフィルフィーが自身に向けて彼と測るのは間違っていると言った。

 たかが人族、内心その感情はある。

 しかし理解した。

 理解せざる終えなかった。


 その場に脱力してへたり込む。

 尿意があれば失禁していたであろう。

 魔力の重圧で意識を手放されそうなほどだ。


 格が違いすぎる。


 魔王を含め、今まで対面してきた生物はドングリの背比べだと思えるほどに。



 そしてそれはエンシェントドラゴンも同じであった。


 生物としての本能が逃げろと叫ぶ。

 絶対の強者であるはずの自身がプライドも忘れて情けなく声を荒げて全力で逃げようとした。



「おいおい、お前から喧嘩を仕掛けてきて逃げるのはズルいだろう」


 手を上から下に振り下ろす。

 

 瞬きの魔、龍の首は胴から離れていた。

 エンシェントドラゴンは雲に飲み込まれて地上へと落ちていく。


 「あー、さむ。もう一回風呂入ってくる」


 瞬間移動で甲板に戻ってきた涼太は小走りで船内へ入っていった。


「どうじゃ、これで少しは分かってくれたかの」


 キュールは何も言わずにただその背中を目で追うことしかできなかった。

 




次話、11/6 16時 更新


見返しでプロローグがあまりにも語彙系が酷かったので再編集しました。

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