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220話 事後処理と今後(エピローグ2)



3人以外の時が止まった空間。


神妙な趣で腕を組んで柚へ体を向ける。



「え、なにこれ。ザ・◯◯ルド?」


「やめぃ、それ以上言わないでくれ。時を止めただけだよ」


「やっぱりザ・……「ストップ!それよりもフィルフィーが話をしたいんだろ」」


「うむ」



なにがなんだか、一月も経っていない間にリアルファンタジーを体験してきた柚でも時を止めるなど常識はずれな行為に慌てふためく。


フィルフィーからの視線を感じたり涼太は柚の口を塞いで落ち着かせた。



「柚と言ったか、私は前置きが嫌いでな。直に聞くがお主は涼太の事をどう思っている?」


「どう……とは」


「涼太はお主一人のためだけに帝国を潰した。ただの友人なのか、それとも涼太に想いを寄せておると解釈してよいのかだ。単騎で国に挑もうなど普通ならば正気の沙汰ではない。お主にそれだけの価値があるのかどうかだ」


威圧するかのように柚へと疑問を問いかけるフィルフィーの視線は決して味方として見ているそれではなかった。


見も知らない女が唐突に涼太の前に現れて仲睦まじく側にいるのだ。

抗えない運命を救ってくれた涼太にフィルフィーは少なからず涼太に想いを寄せている。

それは単なる好意ではなく恋心だ。


精霊とエルフののハーフである彼女は人間とはかけ離れた年月を生きている。

今までなら一ヶ月程度など一瞬の時間であった。

しかし涼太に会えない一ヶ月、彼女は今までに感じたことがないくらい長い時の流れを感じていた。


簡単に言ってしまえば少なからず嫉妬をしているのだ。



「私は……涼くんの幼馴染で……」


「ではそれ以上はないと?同郷の幼馴染であるがそれ以上の感情はないと」


「おい、フィルフィー。言いす……「そんな訳でないじゃないですか!」」



言い過ぎだと口を挟んだ涼太の言葉を遮って柚は声を荒げる。



「涼くんは私にとって家族以上の人なんですよ!学校でいじめられてても私を助けてくれた!自分のことばかりで涼くんがどんなに辛い目にあってきたのか知らずに彼を目の前で亡くしてしまったんです!二度と会えないと何度も死のうと思ったんですよ!!それなのに……それなのに涼くんをゴロしたあいつといっじょにーーーーーッ!!」



り大粒の涙を流して手で顔を覆い尽くす。

涼太を失ってから彼女は絶望しかない世界で何度も自殺しようと考えながらも生きてきた。

辛く、辛く逃げ場のない異世界でも絶望に抗って無いに等しい可能性に縋って生きてきたのだ。


今まで溜まっていた想いが爆発して子供のように泣き噦る。



この感情は嘘偽りない。



フィルフィーは立ち上がり柚を自分の胸に押し付けて抱きしめた。



「試すような真似をしてすまなかったな。お前の想いは本物だ」


子供をあやす母親のようにソッと柚の頭を撫でる。

目からは溢れ出る涙と鼻水でグシャグシャにした顔をフィルフィーに向けて力強く互いを抱きしめた。



「ごわがっだよぉぉぉぉーーーッ!ごろざれちゃうどおもっだ!いつおがざれるがわがんながった!!うれじかったの、りょうぐんがたすけでくれて!」



彼女がどう過ごしてきたのかは知らない。

しかし柚が抱く感情に嘘偽りがないことは誰が見ても分った。




数分?十数分は経ったかもしれない。





フィルフィーの胸で嗚咽混じりに泣きじゃくった柚の目は大きく腫れ上がっているが、どこかスッキリとした表情をしていた。



「ねぇ、フィルフィーさん。あなたも涼くんの事が好きなの?」

「そうだな、私も涼太の事が好きだぞ。無論仲間であると同時に一人の男としても」

「そう……」


彼女が抱いている感情は至極当たり前のものだ。

他の女に涼太が取られてしまうかもしれない不安。



「私と涼くんがいた国は一夫一妻でそれが当たり前なの。それが常識で浮気なんかよく聞く話だった。でもこの世界は違うんだよね?」

「うむ、法律的には問題ない」

「分かってるの。でも涼くんを独占したい気持ちが無いと言えば嘘になるの」

「何をバカなことを言う。そんな事は当たり前だろ」



その言葉に柚は驚いて目を開く。



事前に涼太からは柚にフィルフィーやクリスたちの事は話している。

鈍感が過ぎる涼太は彼女たちの馴れ初めを話しているだけで気づいてはいないが、柚は彼女たちが涼太に少なからず好意を寄せていることを感じた。

それはフィルフィーに実際に会い、話して疑惑から確信に変わったのだ。


一夫多妻の恋愛も許容されている世界で日本の固定された常識は通用しない。

しかし拭えない気持ちに、彼女はどう思っているのか聞けば自分も独占したいとは思ってもいなかった。



「でも……涼くんを想っている人は他にもいるんですよね?」

「あぁ、クリスたちはまだ幼い故に自分の感情がどう言うものか分かっていないがエリスは間違いない」

「ならどうして涼くんを独り占めにしようと思わないんですか?」

「簡単だ。彼女たちは私にとってかけがえのない仲間だ。それを独占するのは傲慢だと私は思う。ならば互いに喜びを分かち合うことこそが妥当であろう」



至極当たり前のように。




(あぁ、そうなんだ。私ってほんと傲慢だよね。分かっていても他の女の人と涼くんがいるのが嫌だと感じてしまう。でもーーー)



柚は俯いて暫く頭を悩ませて何かを決心した表情を見せた。




「分かっていても植え付けられた常識から気持ちを切り離すことは難しいです。でもフィルフィーさんの思い、そして涼くんの周りにいる女の子の想いは分かります。私は……その女の子たちと仲良く出来るでしょうか?」

「それお前次第だ。だが彼女たちはお主を卑下するような器の小さな者ではないとだけ言っておく」

「分かりました。私も頑張ってみます。まずは会ってからが全ての始まりですもんね」

「うむ、と言う訳だ。涼太よ、エリスたちの元へ転移してくれ。私と柚は途中だが、この場を辞退させてもらおう。あとお前もそろそろ覚悟を決めておけ。クリスたちはまだ幼い故にお前に甘えている部分が大きいが、少なくともエリスを含めた私たちは……分かっているな?」

「アッ、ハイ……」



思わず固まって生返事をしてしまう。

朝のエリスの件といい、先ほどの会話を黙って聞いていた涼太は自分の話をされる度に顔が赤面していくことに気づいて羞恥心が露わになる。



「……涼太よ。お前の側には天上のお方たちも含めて美人揃いな面子が多いだろ。そのウブな態度はなんだ」

「あー、分かってるよ!俺が悪かったから!んじゃエリスたちの部屋に転移すれば良いんだな。柚のことを頼んだぞ」

「うむ」

「涼くん、後でね!」



軽く手を振って2人を数刻前にいた部屋へと転移させた。


同時に止めていた時間を動かす。





「で……えぇ?」



陛下たちの視線は柚が座っていた場所に固定されたまま動かない。

なにせ瞬きもしない間に柚とフィルフィーの姿が掻き消えたのだから。



「これはどういう……というか涼太よ。お主は何を机に伏せておる」



変わった変化と言えば、机の隅で顔を押し付けて倒れ込んでいる涼太の姿だ。

2人に勘繰られたくない為に出来るだけ平然を装っていたが、現在進行系で涼太の心臓の鼓動はヒートアップしている。



「あ"ぁー、気にしないで下さい。2人は私用で出て行きました」

「出て行ったというが一瞬……あぁ、涼太よ。お主のことだから常識に考えても無意味だな。では代わりにイザベル殿」



微動だにしない涼太の姿を見て、頬杖を立てたガウスは対象をイザベルへ変えた。



「ある程度の帝国の事情は知っておる。後にグロテウス帝国はラバン王国に損害賠償を払うであろう。でだ、貴殿らの部隊は今後どうするつもりだ?宛がないのであればお主はどの実力だ。王国へは喜んで迎えよう。それ相応の対応をさせてもらう」



帝国の中でも五本の指に入る実力者のイザベルが軍へ加入すれば大きな戦力となるだろう。

イザベル個人の能力は言うことなし、同時に他の女性団員たちの実力も一般の兵では足元にも及ばない。


対してイザベルは首を横に降る。



「グロテウス帝国の枷に嵌められていた私たちを月宮殿は救ってくれました。この御恩を返すべく私は月宮殿の下につきます。他の団員たちも各々、自分たちの新たな道を歩もうと思っておりますので折角の誘いですがお断りさせて頂きます」


「そうか、それは残念だ。では一通りの事情は話した。我々も戦後処理で仕事が山積みだ。これにて閉幕とさせて貰うがよろしいか?」



各人、異議なしと頷きあう。


それぞれ部屋を退出して家に設置された転移の扉から帰っていった。




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