219話 事後処理と今後(エピローグ1)
長くなりそうなので前半と後半に分けようと思います。
円卓のテーブル、以前にも国の主要人物を集めて会議した涼太の部屋には10個の椅子が並べられ、それぞれ騒動に携わった中心人物が座っていた。
1つに、セリア王国国王ガイア・フィル・オ・セリアール
2つに、ラバン王国国王ケネス・フォン・ド・ラバン
3つに、セリア王国四大公爵代表ハイゼット家当主グリム・フィル・ハイゼット
4つに、ラバン王国大公爵ゲイル・フォン・アルマス
5つに、セリア王国冒険者ギルド総括マスターガッツ
6つに、ラバン王国ケイオス学園学長ガウス
7つに、グロテウス帝国元円卓の女騎士団団長イザベル
8つに、英雄フィルフィー
9つに、姫路柚
10つに、月宮涼太
以上の9名が席に着く。
涼太の後ろではメイド服のガブリエルが待機する形で会議が始められた。
「いやはや、随分な顔ぶれですのぉ。冒険者ギルドの総括である私ですら場違い感を感じます」
場の空気を和ませるためか豪快に笑うガッツだが、国王の2人と国の貴族の代表が放つ圧に顔が引きつる。
イザベルは剣を部屋の片隅に置いて目の前に出された茶菓子を摘みながら熱い紅茶を口に付け無言のまま深く椅子に腰掛けている。
その中でも特に緊張しているのが柚だ。
先程から体の震えが止まらずに、出された懐かしい日本の菓子すら手に付かずに俯いている。
『柚、緊張し過ぎじゃないか?折角ケーキもあるんだから好きなだけ食べて良いんだぞ』
無言の空間に自身から発言するのを控えている涼太は念話で柚の頭の中に話しかけた。
ピクッと柚の身体は微かに跳ね上がり、脳内に響く声を聞き涼太の方へ顔を向ける。
『む、無理だって!なによ、このヤバい空間は。入試会場ですら生易しいく感じれる緊張感が伝わってくるんだよ!?大体なんで涼君は平然としてるのか分からないよ!』
『いや、ここ俺の家だし。陛下たちとも仲が良いから特に感じないな』
『あー、はいはい。涼君はチート乙だから大丈夫なんだよ』
そんな会話をしている中でガイアが紅茶を一口含んで言葉を発した。
「では事後報告といこうか……しかしセリア王国に関しては涼太から説明して貰うのが一番であろう」
開口一番に全ての発端を委ねたガイアに涼太は面倒そうな顔をする。
騒動の発端とは、間違いなく天使たちの事だろう。
「ガイア陛下、それは場合によっては……いや既に俺はセリア王国に自分の秘密を晒しました。それを含めての発言でいいですか?」
「安心せい、この場にいる者たちは他言無用に出来る人物しかおらん。お前の姿を見た者も少数だ。口封じは既にしてある。なぁ、ガッツよ?」
「はい、あの場にいたエルザには通達済みです。彼女にはキツく騒動に関する情報を内密にするようなしています。また民間人も避難していたために目撃の情報はありませぬな」
「上々だ」
涼太が懸念している事は自身が召喚した天使たちが一時的に自分の周りに集まって膝をついたこと。
あれを見れば誰がしも天使の主人だと分かる。
既にその件に対して動いていたガイアの判断は聡明だ。
「我らの恩人であるお前を第一に擁護するのが当然であろう」
「すいません、助かります」
「しかし問題もある。お前が改築した孤児院の区画とお前の家に大勢の避難民を収容した為に、住民の間では天使やら神に護られている場所だとか何だとか言って連日お前の家の前に崇拝しにくる住民が後を絶たないらしいぞ?」
そう、もう一つの懸念が涼太の張った結界だ。
それに加えて改造した家の中にすら住民を避難してしまった事から住宅改造の件は国民に知れてしまっただろう。
その判断は涼太のメイドたちが行ったものだ。
もしも彼女たちが動かなければより多くの犠牲者が出ていたであろうし致しかたないことだ。
「あの家には愛着がありましたが、俺としては中身ごと別の家に設置すれば問題ありませんのでどこか適当な土地を購入します。しかし大丈夫なのですか?ハイゼット家の隣だしグリムさんが一番迷惑しているのではありませんか?」
涼太の家が知人から特別視されているのは中の異空間だ。
あれは魔法によって創造したものであるし、荷物だけまとめれば別の場所で瞬時に同じものが創れる。
故にセリア王国の家が廃棄されたとしても涼太としては特に痛手ではない。
しかし隣に屋敷を構えるハイゼット家からしてみれば、押し寄せてくる住民に多少なり迷惑を感じている筈である。
「ふむ、確かに事後の直後である為に確かに出入りには苦労がある。私の騎士たちがお前の家の前で整備もしておるし敷地内に入る輩もおらん」
「そ、それは大変ご迷惑をお掛けしました」
「按ずるな、お前が国の為に起こしてくれた奇跡に比べれば安いものだ。改めて感謝する」
グリムは席を立ち深く頭を下げた。
その後に続いて柚を除いた席に座る全員がその場を立ち頭を下げる。
己の役職も関係ない、ただ救われたことに対しての誠実な感謝が感じ取れた。
あまりにも予想外な行動に涼太はおどおどしてしまう。
「くくっ、どうやらお前に一本先取出来たようだな」
「全くですよ……流石に予想できるわけないじゃないですか」
カカッ、と笑い先ほどまでの緊張感が解れたグリムたちは菓子を取って口に入れる。
「ふむ、セリア王国側の事後説明は終わったようであるな。では次にラバン王国だ」
ケネスは手元に資料を用意し、事後の詳細な説明をしていく。
「セリア王国は想定外の悪魔に対してラバン王国は魔族との全面戦争を行った。死傷者も少なくはないがそれでも想定していた数を遥かに下回る結果となった。これはハイゼット公の娘であるクリス嬢たちの貢献が大きい。特にフィルフィー殿と豪鬼殿たちの貢献が秀でている」
「まて、クリスが戦争に加担したですと。娘は無事なんでしょうな?」
「同意だ。我が娘ロゼッタもその場に居たというではないか。涼太、お主の事情は聞いているから口は出さんが陛下は許容したのですか?」
少し和んだ空気が再びヒリつく。
グリムは娘が修行と称して涼太からの課題を攻略するが為に休学の申請を出したことも知っていた。
魔物との戦いに危険は付き物だ。
しかしそれは保護者としてフィルフィーがいたからこそ許容できたもの。
だが戦争となれば話が違う。
戦争は知性あるもの同士が争う、より人の生き死にの実感が湧いて出る戦場だ。
成人してすらいない子供が関わってはいけない。
対する回答は呆気に取られるものであった。
「知らんよ、私とて終戦後に初耳であったのだぞ?エリスも戦争に手を出していたのだから肝が冷えたわ……で、それに対する回答はいかにか、フィルフィー殿」
事の責任があるのは保護者のフィルフィーだ。
彼女は3人の鋭い眼光を浴び頭を掻いて口を開く。
「仕方なかろう。クリスとミセルは中でも飛び抜けておるが、既に全員が人類最高峰と言って差し支えない力を持っておるのだぞ?魔王は例外として他の魔族になんぞは遅れを取らんわ」
「しかしだ……しかしだなぁ……「よい」」
頭では分かっているが愛しい娘が戦場に赴いていることに引っかかるジグルは頭を抱えて唸るがケネスの一言で押し黙る結果となった。
「涼太、娘たちの責任はお主に一任しておる。お前はどの力量を持っているからこそ我らは安心して預けられる。私が知りたいのは一つだけだ。これからも娘たちの安全を絶対に保証できるか?」
「無論です。既に彼女たちは俺の大切な仲間。もしも手を出そうものなら神であろうとも潰します」
「くははっ、神ときたか!よい、私からはこれ以上は何もない。お主らも2人も分かっておろう?」
「はい(承知)」
「して、涼太よ。そこの者の紹介をしてくれんかの?お主が一人で帝国を潰すきっかけとなった娘だ。簡潔でよいから聞かせてくれ」
遂にきたかと柚の背筋に緊張が走る。
貫禄ある面立ちをした者の視線はグロテウス帝国の国王の前に引きずり出された時に多少は耐性が付いたと思っていた。
目の前の人々から感じ取れるのは修羅場をくぐってきた本物だろう。
私欲に身を焦がした豚とは格が違うと、肌がヒリついて上手く言葉が出てこない。
『のぉ、涼太よ。少し時間をくれんか?時を止めてくれると助かる』
脳内に語りかけるフィルフィーに言葉を返す。
『なんでだ?』
『少しこの娘と話がしたい。お主が言う大切な者なのであろう。ならば私たちと少なからず接点を持つことになる。ある程度は彼女と話をつけておきたいのだ』
『ん、分かったよ』
涼太、柚、フィルフィーの3人を除いた世界の時間が止まる。
柚は微動だにしない人たちの姿を見て驚き視線を涼太へと向けた。
「さて、娘よ。少し話そうではないか」




