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218話 好きよ



魔王軍が攻めて豪鬼たちによって倒された魔王。

主人である魔王の敗北は魔王軍に取って大きなダメージとなり、全ての魔族は全軍撤退する形で戦いの収束を迎えた。


魔王軍との戦いで命を落とした者も少なくはない。

しかし絶体絶命の危機を回避した王国軍や冒険者たちは歓喜の雄叫びを上げる。

お互いの肩を組み拳を天に向けて涙を流す者。

極限の緊張感から解放されて荒れた荒野に座り込む者。


ここに魔王軍との全面戦争の終止符が打たれた。



戦いの功労者であるクリスたちはというと、使い果たした魔力と気力が限界を迎えて安息の場所である涼太の家へ最後の力を振り絞って到着した。


「あ"ぁ"〜、本当に無理。これ以上は無理、何にもしたくない」



同時に6人が寝れるであろう特大サイズのベッドの上にうつ伏せになって脱力したクリスが嘆く。


その横には同じくうつ伏せで倒れているシャルロットとロゼッタの姿がある。

実際の戦場を経験した事がなかった2人にとっては精神的な疲労はクリスの比ではなくベッドに辿り着いたと同時に倒れて深い眠りについた。


「だらしないわね、少し淑女としての自覚はないのかしら」



3人のだらしない姿にエリスが口を挟む。


クリスはエリスの言葉にムッとなり首だけを横に向けて彼女の姿を見ると同時に大きな溜息をつく。



「どの口がいいますか。エリスが一番だらしないでしょう」


エリスはソファーに寝転がっている。

ただし全身を脱力させて左手をソファーから垂らして背もたれに右足を乗せている形でだ。

スカートはめくれて正面から見れば中が間違いなく見えてしまうだろう。

一番不恰好なのかは誰でも分かる。


「そう言えば、ミセルとフィルフィーはどこに行ったのか分かる?」


「あ"ーー、2人は事後処理とかで陛下たちと一緒らしいんですよ」


「そう大変ねぇ」


「あーーー、本当に疲れました。癒しがあれば良いんですけどねぇ。涼太さんとか涼太さんとか涼太さんとか」


「本当よねぇ、甘い物が食べたいわ。誰か食べさせてくれる人はいないかしら」



遠い目をしながら2人は居るはずもない人物の名前をひたすら連呼する。

しかし彼女たちは知っている。

どんなフラグでも立てれば出てくる人物がこの世には存在していることを。

当の本人は自覚がないのだが、エリスたちからしてみればキャッホイ出来る愛しい人物だ。



大きな溜息をついて目を瞑ると、コツンッとエリスの額が小突かれる。



「お前ら、少しだらけ過ぎだぞ……うぉ!」



極自然に転移してきた涼太はエリスたちの姿を額に手を当て呆れた目をする。

唐突にエリスの手が涼太の両脇腹を掴み自分の胸元へ引きずり込む。

大きく深呼吸をして何度も匂いを確かめるかのように密着して離さない。


はい、来ました!と言わんばかりに先ほどまでの気怠さを一切感じさせない動きで起き上がったクリスはベッドのバネを利用して大ジャンプ。

一直線に涼太の背中へ飛びついた。



「ちょっ、ま……」



涼太のは抵抗する間もなく2人に挟まれ、顔を埋めた2人に犬のように匂いを嗅がれる。



「漸く会えたわね、このバカ。随分と長い間放置してくれたじゃないの」


「悪かったよ、エリスたちも無事で安心した」


「本当ですよ!涼太さん成分が枯渇したんですから補給させて下さい」



一向に放す気配のない2人の頭を撫でると2人は気持ちよさそうに目を細める。



「ねぇ、涼太。私は寂しかったのよ。数ヶ月も会えない中で、もしかしたらこのまま会えないんじゃないのかって……。私たちなんかどうでも良いんじゃないかって」



涼太の顔に細い指を当てたエリスの指は震えていた。


既にわかっていた事だ。

自分の命は彼によって救われた。

幼い頃に媚びてきた男たちとも違う、自分を幸せにしてられると確信できる男なのだ。



「……エリス」


「好きよ、涼太。私はあなたの事が1人の女として好き。あなた、少し鈍感が過ぎるのではなくて?私ほどの女がありながら手を出さないなんて悔しいじゃないの。だから……」



ゆっくりと目を閉じて涼太の頭に手をかける。

言わずとも知れた美貌を持つ彼女。

涼太も少なからず好意を寄せているのは確かだ。

こんな誘惑をされて理性が保つ方が難しい。


お互いの吐息が肌に触れ合う距離。





「ダラッシャァァァーーーッ」





両手を組んで上から振り下ろしたクリス。


涼太とエリスの額から出た大きな音が部屋中に鳴り響く。

2人はソファーから転げ落ちて蹲り、額に手を当てて身悶える。



「ぐっ、このバカクリス!何してくれてんのよ!」


「それはこっちのセリフです!勝手に良い雰囲気出してるんですか、ええっ!?」



大きく鼻息をしたクリスは腕を組んで2人が乗っていたソファーの上から見下ろした。

自分がいる事も忘れてピンクの雰囲気を醸し出している姿を間近にして許せる度量は一切持ち合わせていない。



「悪いな、2人とも。再開早々だが事後処理に俺も向かわなくてはならないだろうし、今まで会えなかった分の埋め合わせは後日にしたい」



今にも女同士の戦いが始まりそうなところに割り込むで顔を見せた理由を話す。


「分かっているわよ。どうせそんなことだろうと思っていたわ。お父様ならジグルさんと会議室にいるはずよ」


「助かる」


早々に片付けを済ます為に涼太は部屋をあとにする。





次回か次次回で7章完結予定です。

その後に間章を挟んで8章に入ると思います。

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