20話 クリスの屋敷
しばらく歩いていると、1つの大きな屋敷に着いた。
ひゃー、デカイな。
王城とは言わなくても十分過ぎる大きさの建物だ。
ちょっとした高校の敷地くらいはあるんじゃないのか?
「着きました。ここが私の屋敷になります。ちょっと掛け合ってきますね」
そう言い、クリスは門番らしき人物に声をかけに行った。
「おお、これは! クリスお嬢様、お戻りになられましたか。して、馬車が見えない様ですが……それにミセル殿ともうお一方しか居られないご様子」
「それについては大至急に父上に報告します。父上はどちらに?」
「はっ! 当主様でしたら自室にて今は仕事をされております」
「分かりました。私達もすぐに向かいますので父上に私達が帰ってきたと報告して来て下さい」
「承知いたしました!」
門番は駆け足で何処かに行った。まぁ、クリスの父さんの所だろうけど。
「さて、私達も参りましょうか」
俺達は長い廊下を歩いていく。
周りには凄く高そうな壺やら絵が飾ってある。
しかし、ただ派手や高いなどでは無く、どれも落ち着いた雰囲気を醸し出している。
いい趣味をしているな、公爵家の当主様。
すると1つのドアと前に立ち止まり入る。
「失礼します。お父様、ただいま戻りました」
クリスの合図に俺達も部屋の中に入る。
目の前には中年の男。この人が当主様か。
机仕事ばかりしているイメージをしていたが、間違いなく鍛えられた体つきをしている。
「ご苦労だった、クリス。して、何があったのだ?」
「はい、実はセリア王国に帰還する道中に60名ほどの盗賊に襲われました」
「何!? 大丈夫だったのか、クリス」
「それについては問題は無いのですが、私を護衛のミセル以外は裏切り盗賊に加担しました。ミセルも死んでしまって私も何処かへ連れて行かれそうになったのです」
当主は目を見開いて驚いた。
「裏切りだと!? 己の身可愛さにその様なことをしおったか。くそっ! しかし何故死んだ筈のミセルがここに居るのだ? 幻惑か何かだろうか」
まぁ、普通に驚くよね。死んだ人がここに居るなら。
「いいえ、違いますお父様。ミセルは一度死にましたが、蘇りました」
「なっ! どの様にして蘇ったのだ。その様な魔法は古代の魔法ですらなかった筈だが……」
「はい、これも全てこちらに居る涼太さんのおかげです」
「成る程、娘とミセルの命を助けてくれたのか。私はハイゼット公爵家現当主のグリム・フィル・ハイゼットだ。感謝の言葉もない、ありがとう」
そう言い当主様は、俺に深々と頭を下げた。
「頭をお上げ下さい。公爵家の現当主がそんな軽々と頭を下げてはいけませんよ」
うん、あってるよね?
偉い人はそう簡単に頭を下げたら自分の品格に関わってくるって聞いたことあるし。
「いや、これは1人の父親としての礼だ。娘と幼少の頃から共にクリスと育ってきたミセルを救ってくれたのだ。恥ずべき事など何1つない。それと私のことはグリムと呼んでくれ」
いい父親ではないか。
「分かりました、グリム様」
「様は不要だ」
「グリムさん」
「うむ、してミセルを生き返らせたと言うが、どうやったのだ?」
グリムさんが聞いてきた。
「他言無用でお願いできますか?」
「勿論だ。生き返ったという事が知れ渡れば、どこかの馬鹿貴族共がお前さんに悪さをしようと企むだろう。恩人を危険に晒すなどもってのほかだ」
かっこいいなぁ。言い切ったよ。
「分かりました、でしたら直接見せた方が早いですね。何か壊していい物などありませんか?」
「ふむ、ならばこれが良かろう」
そう言い俺に渡してきたのは部屋の角に飾ってある壺だ。
え? なんか凄く高そうだよ? 部屋に飾っているってことはかなりのお気に入りじゃないなのか?
「お父様! それは以前にオークションで白金貨4枚で落した品ではないですか。宜しいのですか?」
白金貨4枚か。
白金貨1枚が一千万つまり4千万の壺……え? 何さらっと壊していいなんて言ってるの。
「何、大したものではないよ。それに涼太がどうするか気になるではないか」
ニヤッとグリムさんは笑う。
うわぁ、この人ドSだ。
俺にプレッシャーを与えようとしているのか、そりゃバンバン感じてますよ。親子揃ってSなのか。
「分かりました」
俺はそう言い4000万の壺を床に叩きつける。
バリン!
壺は粉々に砕けた。
うわぁ、やっちゃったよ。
何でだろう、直せるのに罪悪感が半端じゃない。
グリムさんの方を見るとニヤニヤしている。
ちくしょう!
「では始めます。【時間回帰】」
すると先ほど壊した壺は時間を巻き戻す様に元どうりになった。
よかった。直ったよ。
俺は垂れてきた冷や汗を拭う。
「うわぁ、凄いですね。元どうりです!」
「これは……直した? いや、時間を巻き戻したと言うのが正しいのか?」
流石に鋭いな。
「ご名答。これは指定した物の時間を巻き戻す魔法です」
「成る程、これでミセルも生き返ったと言うわけか。しかしコレは回復魔法などとは次元が違うレベルの魔法だな。一体コレをどこで?」
「それについては企業秘密という事で宜しいですか」
「まぁ、無理には聞かんよ。しかし凄い魔法だ」
グリムさんは驚きと関心を隠せない状態であった。
「ふふ、それだけではないのですよ、お父様」
「何? どう言う事だ?」
「私達は道中『死の樹海』からセリア王国に来たと言えば分かりますか?」
「ふむ、あそこはAランクやSランクの魔物の巣窟だったはずだが、お前達あそこを抜けて来たのか。ミセルでもあの森の魔物は相手にできん。となると涼太は戦いにおいても群を抜いて強いという事か?」
本当に頭の回転が速い人だなぁ。
「はい! 涼太さんは全ての魔物を一撃で倒しているのですよ。私も驚きを隠せませんでした」
クリスが興奮気味に喋っている。何か色々暴露しそうな勢いだ。
「おい、クリス。あまりベラベラ喋らないでくれよ。隠しておきたい事も色々あるんだから」
「はっ! すいません、私としたことが……」
どうやら本当に夢中になっていた様だ。
「くははは、よいよい。知られたくない事の1つや2つ、人にはあるものだからな。それにしてもクリス、お前さん、どうやら涼太の事を相当気に入っている様だな。ラミアに聞かせたら喜びそうだ」
「お父様! 何でそこでお母様が出てくるのですか!」
「ん? お前は今まで色恋沙汰などに全く興味など無かっただろう? ラミアもそれで相当悩んでいた様だからな、私も嬉しいぞ」
「なっ……ちがっ! そんな事よりもお土産が2つあります。見ては頂けませんか?」
クリスが全力で話を逸らしにかかった。2つ?果実とあと何だっけ?
「分かった。聞こうではないか」
「まず1つ目は私達を襲った集団の主犯を捕まえました。何やら計画がどうだと言っていたので聞き出したいのです」
あ! そうだった。亜空間にポイ捨てして忘れてた。
「なに、それは本当か? だがそいつはどこに居るんだ」
「涼太さん、お願いします」
クリスがお願いしてきたので俺は入れておいた亜空間を開ける。
「おい、出てこい」
「断る。この場所こそが俺の居場所だ、誰にも邪魔はさせない」
しまったー! いつものノリで1LDKの部屋を作ってしまってた!
よく見ると部屋には酒やワインの残骸が散らばっている。
なんで俺は犯罪者に快適な空間をプレゼントしてんだよ!
馬鹿か俺は!
俺は捕まえた男を引きずり出す。
「地下牢に入れておけ」
「「はっ!」」
「なっ! やめろ! 俺の楽園がぁぁぁ」
今度からちゃんと牢屋を創っとこう。
「それで2つ目は何なのだ?」
「こちらになります」
そう言いクリスは俺の渡したアイテムボックスの中から果実を取り出した。
「なっ! アイテムボックスかそれは?しかもコレはエメラルドメロンではないか! コレはどこで手に入れたのだ?」
「はい、アイテムボックスは涼太さんに貰いました。この果実は私達が実際に実っている物をお土産に持って帰ってきたのです」
「ほお、それは朗報だ。どこで手に入れたのだ?」
グリムさんは興味津々に聞いてきた。
「『死の樹海』です。道中にこれ以外にも様々な果実がありました」
そう言い入れてある果物を次々に机の上に出していく。
「おお、ジュエルシリーズを一度にこんなに見る事が出来るとは感激だ」
ん? ジュエルシリーズって何だ。
「すいません、ジュエルシリーズとは何ですか?」
「うむ、ジュエルシリーズとは文字道理に名前に宝石の名前がついている果実の事を示す。その希少さから下手をすれば1つにつき、名前についている宝石の数十倍で取引されているものだ」
マジですか。
高すぎるでしょ。
そりゃ凄い美味しかったけどさ、ミセルが遠慮していたのが分かる。
そんなのあったとしても普通に買えないもん。
「お父様、お母様が帰ってきたら一緒に食べましょう」
「むぅ、そうだな。これだけあるのだから陛下に少し献上しても良いか? 最近どうも陛下が王妃様にいたずらをして以来王妃様に向き合ってもらえず悩んでおられたのだ。よく私に相談をして困っていたところだったのだ。コレを仲直りのきっかけにしたいのだよ」
何しているんですか国王様。大丈夫ですか本当に。




