217話 新たな天使、その名は……
会話の行間を開けてみました。
宜しければ感想欄に読みやすくなった、前のままでいいなどの意見を頂けると有り難いです。
既に月宮涼太のステータスは地上にいる生物では絶対的に勝てないものとなっている。
仮に対抗できるとするならば、次元の狭間に足を踏み入れた怪物もしくは神に属する何かであろう。
「何だって神力が感じ取れるのかは謎だが、邪悪な気配ではないんだよなぁ」
今まで迷宮を攻略してきたからこそ、迷宮のボスは気味が悪い特有の波長を放っている事が分かる。
特に紫の迷宮はロキが力を入れていることから、一階層ごとに次元の狭間級の怪物がいることから攻略する気になれない。
(なんにせよ、敵なら倒す。それだけの話だ)
挑戦者を迎えるから如く現れた大きく頑丈な扉に手をかける。
地面が擦れ低い重低音を鳴らしながら扉の中へ踏み入ると、真っ暗な空間一筋の光が差し込んでいた。
それは祭壇のようなオブジェクトを照らす。
その幻想的な光景に思わず生唾を飲み込む。
しかし、同時に感じ取った違和感が祭壇から感じ取れることから目を凝らしてみると鎖に繋がれた人物が両腕を鎖で持ち上げられる形で座り込んでいる。
(あれは……黒い翼か?天使に似ているが翼ねぇ?明らかに封印しているのがビンビンに感じ取れるんだけど)
見るからに痩せ細って覇気も感じられない男は涼太の気配を感じ取ってゆっくりと顔を上げた。
負けることはないだろうが、それでも神力を感じさせる男を警戒しながら涼太は男の側へ歩み寄った。
「おま……は、なに……も……だ。か……みの……ち」
力なく言葉もたどたどしい。
だが、6翼を持った漆黒の天使は今の状態でも並の敵ならば倒せるほどの圧を放っている。
恐らくクリスやミセルたちのレベルでは男の放つ圧にすら耐えられない。
それこそガブリエルたちと同格の存在だと確信する。
「まずお前は敵かどうかだけ聞きたい。敵でないならば首を縦に振ってくれ」
涼太の言葉に男はゆっくりと首を上下に動かす。
「よし、ならばまず会話もたどたどしいし、お前を回復させるから。あぁ、回復してから襲ってきても無駄だぞ?お前も神力を持っているなら分かるだろ」
「わか……っいる。われ……かて……ぬ」
「了解だ」
男も涼太から感じ取れる神力が自身とは比較にならないものだと感じ取った故に大人しくする。
先ずは鎖を外し、体力と魔力を完全に回復させる。
驚いたことに男の魔力量は常軌を逸しており、ステータスの魔力ランクはC−だ。
男を完全に回復させるのに保有する1/10の魔力を消費してしまった。
「どうだ、喋れるか?」
「あ、あーー、うむ、問題ないようだ。にしても我を繋いでいた鎖は神器グレイプニルであるぞ。それに我の魔力を全開にさせるとは主は神族か?」
「いや、人間だぞ」
「ははっ、冗談もいいところだ。主が人間なら世界は今頃人間によって支配されているであろうに」
「ところでお前は迷宮のボスか?全然そんな感じはしないんだが」
「あー、それか。それなら我が倒したぞ?」
「はっ、え、マジで? 強かっただろ。ってか勝ったなら何で鎖なんかに繋がれてるんだよ」
「……少し長くなるぞ」
そこから十数分、男は自身の生い立ちや迷宮内で何があったかを淡々と話していった。
長くなるので纏めるとこうだ。
・太古の昔に実際に天使が存在していた。天使は不老であり神に最も近き存在と崇められていた。
・数百年前に人間たちは天使に迷宮に子供が連れさらわれたと嘘をついて、当時は死者の洞窟とされていた迷宮に天使を呼び込んだ。(理由は分からない)
・男は死力を尽くしながら何とかボスを撃破した。
・しかし迷宮はとある者にしか攻略が本来は出来ないはず、故に異物である自分は神に異端だと突きつけられた。
・奇怪な格好をした神の少女が自分を堕天させて迷宮という牢獄に縛り付けた。
とまぁ、こんな所である。
ガブリエルたちを除いて、天使は御伽噺の中の存在ではないのかと疑問を突き付けたら、実際に我もいるし、居なければ天使との単語も存在しないだろうと論破された。
何より奇怪な格好と少女と神。
この単語からだけでも、その神が例の悪神ロキである事が考える間も無く分かった。
(異物だと?攻略出来るなら関係ないだろう。俺以外の攻略を許さなかったのか。何にせよ災難なことに変わりはないか)
「一先ず服は着てくれ」
創造し男の体に合った服を見繕う。
背には翼が飛び出せるように穴を開けており、窮屈には感じない仕様になっている。
「ほう、奇怪な魔法を使うな。我にも理解できん」
「それとほら、これを使ってくれ。そこまで伸びた髪だと動きづらいだろう」
アイテムボックスからヘアゴムを取り出した涼太は男に渡す。
受け取った男は初めて見る伸びる物体を何度もミョンミョンと伸ばして髪留めだと理解し、長く伸びきった髪を鷲掴みにして後ろでヘアゴムをする。
前髪で隠れていたせいで顔がよく見えなかったが、再度見てみると女性ならば10人いれば9人は惚れてしまいそうな容姿をしている。
「これからお前はどうする?今更だがお前に嘘をついた人間に復讐なんて事は出来ないぞ」
「分かっておる。我とて多少は恨みましたが、強大なる力に溺れていた我の失態だ。そんな気は今更ない。代わりと言ってはなんだが、主に頼みたいことがある」
そういうと、男は涼太の前に跪いて頭を下げる。
あー、このパターンかと察した涼太は男が口を開く前に天を仰いだ。
「お主の底見ぬ力に惚れた。長年の牢獄から解放してくれた恩もある。主の配下として力を払おう」
「はぁー、うん何となく分かってた。俺もお前ほどの力を持っているならば是非とも力を貸して欲しい。そう言えば名前は何というんだ?」
「名か……かつては天使としか呼ばれてなんだ。お主に付けて貰いたい」
「名前ねぇ……ルシファーでいいか」
「ルシファー……承った。これより我の名はルシファー。お主の下僕として力を払おうぞ」
地球の話では特に有名であった堕天使。
最強とされ悪魔の王でもあったとされている。
悪魔界にいて堕天使にされているんだからちょうど良いだろうと適当に考えた涼太。
次の瞬間にルシファーの身体が光に包まれた。
『個体名ルシファーが天使の創造神によって命名されました。これにより堕天化によるバッドステータスが解除され昇天化します』
久しぶりの天の声が脳内に響き渡る。
(おい、まてコラ!この天の声ついに俺の事を創造神なんて言いやがったか。許さん、俺はまだ……たぶん……人間要素あるもん!)
ここ最近の神界での特訓で既に涼太の強さは鍛え上げた神たちと同格になっており、上位神であるヘファイストスたちとも対等に戦える。
ステータスは勿論のこと、特にスキルや魔法が最近は理を捻じ曲げられそうになっている自覚があるために強めの批判ができずにいた。
光が収束すると中からは白銀の翼を持ったルシファーが姿を現した。
ステータスに払われていたマイナス値は全てなくなり、本来あるべきである姿に戻ったようだ。
「我の脳内に声が響き渡ったんだがどうして人間などと嘘をつかれたのだ?」
「やめろ、俺は人間だよ。どこからどう見ても人間だろ」
「いや、でも先程創造神だとか」
「ちゃうねん、俺も知らんうちに自重忘れてしまった結果やねん。心はまだ人間なんよ!」
無意識のうちに関西弁に変わるほど焦り、悶えているのが分かる涼太にルシファーはニヤつき悪巧みした顔を向けるのであった。
「分かっておるよ、主人殿。我は一介の下僕に過ぎん。世界を滅ぼそうが救おうが付いていくのみだ」
「世界なんて滅ぼさないしな。悪いが少々立て込んでいて直ぐに仲間と合流しなくてはならない。ついてこい」
「承知した」
新たに仲間に加わったルシファーと共に扉から出て、先程穴を開けた空洞を跳躍して5階層で待っているであろうガブリエルの元へ跳躍する。
ルシファーは砂埃を舞い散らせて翼を羽ばたかせて涼太の後を追う。
「お帰りなさいませ、主様。悪魔の殲滅完了致しました」
「お疲れ様、察するに苦戦にも値しなかった様だな」
ガブリエルは主人を待ち構える為に空いた空洞の側に立ち、いつでも迎えられるよう佇んでいた。
服には一切の乱れもなく、埃の一つすらも付いていない事から悪魔たちを圧倒した事は目に見えた。
「ところで主様。その薄汚れた者は?」
「かかっ、我に動じないどころか我以上の圧を放つとか嬉しいな。にしても同族がいるとは驚きだ」
対峙と同時に2人は圧を放つ。
ガブリエルは見も知らぬ男が自分の主人に害ある存在なのか確かめるように。
ルシファーは同族であるガブリエルに興味を示し、同時に自分と同じないしそれ以上の力がある事を確認する。
会って数秒もしない内に2人の魔力により空間が悲鳴を上げて地鳴りを起こす。
「まてまてまて!お前ら初対面でいきなり過ぎるだろ!」
いきなり戦闘を開始しそうな2人の間に割り込んだ涼太は大声を上げて抑制する。
「失敬、同じ天使。それも絶世の美女に見えて心が踊ったようだ。我はルシファーである。先程に主人殿から名を賜った若輩者だ」
「成る程、先程は失礼しました。私はガブリエル、主様のメイド長に御座います。貴方からは我らと同じ波長が感じ取れなかったことから少し警戒させて頂きました。しかし同じ主人を持つ者同士です。よろしくお願いします」
「うむ、我も主人殿に尽力出来るように努力しよう」
お互いに手を握り合って挨拶を済ませる。
「では主様、目的は達しました。地上へと戻るとの判断でよろしいのでしょうか?」
「そうだ、お前たちはセリア王国にいるウリエルたちと合流した後に悪魔を一網打尽だ。任務が完了したのならば熾天使たちのみ王城、商業区画、冒険者ギルド、家にそれぞれ配置し俺の帰還があるまで滞在してくれ。ルシファーはガブリエルに一先ず付いておけ」
「主様は如何に?」
「俺はラバン王国の様子を見に行く。クリスたちの安否が確認できたと同時に王城と俺の家を繋いで関係者を集める」
「承知しました」
「よく分からんが、我は大人しくしておこう」
両者の合意を得たところで転移魔法を発動する。
2人はセリア王国の中心部へ、涼太はラバン王国のクリスたちの魔力が感じ取れる箇所へと。




