215話 悪魔界と異変
お久しぶりです。
まずは休載をして申し訳ありませんでした。
時間が取れずに気がつけば半年近くも執筆していなかったことに驚きました。
現状不定期更新になる事もありますが、末永く愛読していただけると幸いです。
一先ず、リハビリにこの1週間は頑張って投稿しようかと思います。
月明かりが池たまりを照らす。
常緑樹の一切も無く枯れた木々には蝙蝠たちが鳴き声を上げてお互いを呼び合う。
悪魔界に転移した2人は息を吐き同時に見上げる。
悪魔から得た情報から今回の親玉でもあるアガレスが住まう城の目下に2人の姿があった。
漸く騒動の終止符を打てると安堵に包まれた最中に魔力探知を発動した涼太は顔をしかめた。
「どうされましたか、主様。後はこの城を吹き飛ばして帰還すれば万事解決ではありませんか?」
想像していた反応とは違う主人に違和感を覚えたガブリエルは困惑しながら語りかける。
「お前も魔力探知をかけてみろ。中々どうして想定外だ。相手側は既に俺たちの存在に気がついているようだな」
主人の言葉通り、ガブリエルはそびえ立つ城の内部を探知する。
これだけの規模の城だが、門番の1人の存在すら探知できずに城の内部は間抜けの殻であった。
「これはどういう事でしょう?悪魔たちは総出で人間たちを滅ぼしに行ったのでしょうか」
「いや、違うな。これは俺も予想をしていなかったが、この城の地下に迷宮がある。迷宮はロキが管理している異界に近い場所だ」
「あの悪神がですか!?確かに何か異物がある感覚はわかりますが、悪魔たちの存在は私には全く察知できません……」
主人が7つの迷宮を攻略しようとしている事は知っているが、迷宮が例の悪神ロキによって管理されたものだとは初耳だった。
「そこは仕方がないよ。俺は神力が使えるから悪魔たちの居場所も分かるが、魔力探知だけでは迷宮から発せられる独特の波長が分かる程度だ」
「城の内部に潜って詮索しますか?」
「普通ならばそうしたいが、今は時間が惜しい。地上の天使たちと豪鬼ならば並みの敵は毒牙にもかけないだろうが絶対なんてものは存在しない。一刻も早く地上に帰還する事が優先だ……と言うわけで城は吹き飛ばす。ガブリエルは結界を張っていてくれ。全力でだ」
ガブリエルは涼太の側から離れて自身に結界を張る。
並の結界ではない。
ヘファイストスたち神の一撃でも易々とは壊されない強固なものである。
全力
しかしガブリエルの額からは汗が滲み出てくる。
果たして今から振るわれる主人の力に自身の結界が耐えられるのか。
主人の右手に集まる濃密な魔力と神力が混ざった力に耐えられるのかどうかと、
目の前に飛んでいる羽虫を振り払う仕草だった。
それだけなのに無風だった一帯が暴風に見舞われて力強く根を張る木々すらも根こそぎ振り飛ばされて中に舞う。
高さ数十メートルはあるであろう城は徐々に壁面を剥がされ遥か彼方へと吹き飛んでしまう。
一面に荒野が広がり、唯一迷宮に繋がっているであろう階段のみが涼太たちを歓迎するかのように姿を現した。
2人は迷宮の入り口に立つ。
「青の迷宮ですか」
「ああ、そのようだな。早速中に入ろうか」
扉をゆっくりと開けて中を覗こうとした最中に涼太へめがけてボウガンの矢のような物が発射された。
「主様!」
慌ててガブリエルは前に出て迫る突起状の物を振り払らった。
中からは片言の言葉が聞こえてくる。
勢いよく扉を開けると武器を持った悪魔たちが臨戦態勢を取りながら涼太たちを警戒していた。
「キタ、ほんとうにキタ。バケモノだ、アルジサマにほうこく。アルジサマ、バケモノ言ってた」
「ソウ?あのオンナかてないよ。でもオトコのほうナニモカンジナイ。オンナがバケモノ」
背に蝙蝠の翼を生やした悪魔たちが一面を埋め尽くしていた。
その光景に2人は嫌悪感を抱く。
並の戦士ならば最悪とも言っていい光景だが、2人の目には最早闘争心すらなく、ただ害虫であるゴキブリがひしめき合っているようにしか写らない。
「貴様ら、主様に危害を加えようとしたな。全員皆殺しです。よろしいですね、主様?」
「やれ、ガブリエル」
一切の躊躇もなくガブリエルの手から光の光線が放たれて迷宮の壁を削りながら縦横無尽に悪魔たちを殲滅していく。
何が起こったかも分からずに悪魔たちは悲鳴を上げながら投げることを出来ずに次々に死に絶えていった。
「主様、殲滅完了致しました」
「ご苦労様」
「では降りる階段をさがしますか?」
「いや、その必要はない。この青の迷宮の構造は今把握した」
ガブリエルが殲滅している合間に涼太は迷宮を探知し、全ての階層の構造を把握した。
「恐らくは悪魔だろうな。一番大きな反応が5階層から感じ取れる。ガブリエル、どうやら親玉はお前でも簡単に倒せそうだ。だが、最深部のボス部屋から何やら違和感が感じ取れる」
内部構造はそこまで大きくなく、全20階層であった。
流石の悪魔たちも迷宮なだけあって上の階層に留まるのが限界なのだろう。
涼太が感じ取った違和感の正体は間違いなくボスだが、その違和感を大きく問題視していた。
「この迷宮のボスなんだが、神力が微かに滲み出ている。俺はボスを相手にしてくるからガブリエルは悪魔たちを相手にしてくれ」
「承知しました」
「助かる。しかし歩くのも面倒だな」
「では私がお連れしましょうか」
「それには及ばないよ。これはあれだ、パンが無ければお菓子を食べれば良いじゃないの理論だよ」
「はい?」
ガブリエルは主人が何を言っているのか分からなかったが、次の行動に合点がいってしまう。
両足を大きく広げ、腰を落として地面に向かって拳を構える主人の姿。
月宮涼太の迷宮攻略理論その1。
歩くのが面倒なら床ごとブチ抜いてボス部屋まで直行すればいいじゃないの!
「はあっ!」
涼太の放った一撃は半径3メートルほどの綺麗にくり抜かれた円形の空洞を作って最下層までの床を全てブチ抜いた。
あまりにも非常識過ぎる行動に呆気にとられてしまう。
「んじゃ、後は任せた。俺が迷宮を攻略するまでには悪魔たちを殲滅してくれてると嬉しい」
その言葉を最後に涼太は底が見えない空洞へ飛び込んでいった。
残されたガブリエルは大きくため息をついて6翼を広げて悪魔たちがいる5階層まで降りていく。
翼を羽ばたかせて5階層の上空に降り立つと、悪魔たちの軍が少なくとも千はおり、中心に一際大きな身体を持つ悪魔の姿がある。
魔力量からしてみても他の悪魔とは一線を引いた強さを持つことから、すぐに親玉が誰であるか分かり安堵したガブリエルは優しく微笑んだ。
「こんにちは、我が神の逆鱗に触れた羽虫共。1人残らず地獄に送ってあげましょう」




