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213話 天使の癒し



空より降臨した天使たちの総数は500。

太陽の光が純白の翼に反射して神々しい輝きを纏って涼太の前へ降り立つ。


熾天使の5人が先頭に立ち、他の天使たちは寸分の狂いもなく整列して片膝を立ててこうべを垂れる。


「なっ……なっ、なーー!」

「これは……夢ですか?」



シーダとガッツは知り合いの冒険者に跪く天使たちの姿が信じられず、口をパクパクさせて惚ける。



「主様、天軍総勢500名。参上仕りました」

「来てくれてありがとう、ガブリエル。見ての惨状だ、御託を述べている暇はない。総員立て!」


あたかも軍隊の行進の様に熾天使を除いた天使たちは腕を後ろに組んで背筋を伸ばす。


「マスター、ご指示をお願いするのです」

「分かっている。今よりお前たちには悪魔どもと戦ってもらう!メタトロン、お前は天使たちの中で最も機動力に優れている。住民を保護して俺の家もしくは孤児院区画まで連れて行け」

「御意に」


メタトロンは一礼し、翼を羽ばたかせ自分の部隊を連れて住民の保護へ向かう。


「ウリエル、ミカエル。お前たちは国の内と外の悪魔どもを相手にしろ」

「我がマスターよ、それは撃退ですか?それとも殲滅・・でしょうか?」

「無論殲滅だ。躊躇なく悪魔どもは潰せ。これ以上の被害が及ぶことは許さん。セラフィエルは救護と治癒に当たれ。もう誰一人として傷つけさせるな」

「「「承知!」」」



セラフィエルとガブリエルを残して天使たちは神速で一斉に羽ばたき姿を消す。

羽が舞い上がり、シーダたちは上から舞い落ちたそれを手に取り羽と涼太を交互に見る。



「涼太様、お願いが御座います」

「どうしたセラフィエル」

「今より私は超広範囲回復魔法を発動します。しかし私の魔力ではどうにも、この国全てを範囲に入れることが出来ないので魔力を頂けないでしょうか」

「分かった、お前が望むだけの魔力をくれてやる」



涼太はセラフィエルの後ろに立ち、右手を背に当てて自身が持つ魔力を流し込む。

流し込むとは言っても、膨大すぎる魔力を一気に注ぎ込めばセラフィエル身体は持たないため、魔力容量を感じながら送る。


手のひらを合せ、ゆっくりと目を閉じて魔力を練わり上げる。


「嘘だろオイ、こんな馬鹿げた魔力はあり得んだろ」

「あの……ギルドマスター。魔力とは見える なのですか?私の目には下から上へと滝が登るような黄金のオーラが見えるのですが」

「見えるわけないだろ。肌に感じる事はあっても可視化するなんぞ物語だ」

「涼太さん、あなたは一体……並外れていた新人とは思っていましたが、ここまでくるとーーー」

「怖いですか?」


二人を見つめていたガブリエル震えるシーダに悲観した目つきで見下ろす。


ガブリエルからして見れば、涼太は自分を生み出した親であり本来ならば神界で自ら忠義を尽くしたい相手だ。

しかし涼太は地上で生活することを優先した。

彼女からしてみれば他の人物たちが涼太と仲良くする様は好ましく思えなかったのだ。


「主様は力を隠してきましたが、本来であれば人の身であり神に最も近きお方です。私たち天使の創造主であり、あなた方が決して対等に話せる方ではない。しかし、主様はそれを嫌います」

「私は……どうすればいいのですか?涼太さんは優しい方です。誰に対しても対等に接し私はそんな彼に好意を持っている」


頭が働かず自分が何を考えて言葉に出しているのか分からない。

男に苦手意識を抱いているシーダは役職上では冒険者たちと接しているが、あくまで役職だけの関係でありプライベートな話は極力持ち込まなかった。

しかし何故か涼太に対しては最初から嫌悪感を抱かなかった。


今思い返せば、涼太は老若男女種族を問わずに誰とでも親しく接する事が出来、浮ついた下心がなかったのだろう。

だからこそシーダは涼太に何かしらの好意を抱いていた。


「私はどうすればいいのでしょう」

「あなたは普段通り主様に接していればいいのです。事実を知り態度を改めるのであればそれも良し。主様は万物を創造し、不可能を可能にするお方です。目に焼き付けなさい。秘匿され続けてきた主様の力の鱗片を」



シーダは再び涼太の方へ顔を向ける。

不思議と先ほどまでの恐怖感は無くなっていた。


果たして自分は彼の本当の姿を知って、普段と変わらずに接することが出来るのであろうか?


(私はーーやはり彼がどの様な道を辿って行くのかを知りたい!)


今まで冒険者として彼は依頼はこなすものの、とても完璧とは言えない人物であった。

依頼の完了を忘れる事もあれば、思いもしない高ランクの魔物を狩ってきて危ない目に遭っているのではないのかと心配した日も少なくはない。


シーダは気づいていないが、彼女は涼太に対して姉に似た感情を抱いていたのだ。

自分の知らないところで何かを仕出かしては何もなかったかのように隠している弟のように。



「ーーー涼太さん」



膝の上に置いた拳を強く握りしめる。




「涼太様、もう充分に頂きました」

「頼んだぞ」

「はい、ではいきます!【天使の涙(サクリチュアルヒール)】」



セラフィエルが発動した魔法陣は国の全土を覆い尽くし光の雨が降り注ぐ。

一見してみれば光魔法の攻撃に似ており、人々は眩い光に目を瞑るが光が身体に当たると暖かな温もりが生じて傷が見る見るうちに消えて行く。


「涼太様、魔力の方は大丈夫ですか?不躾ではありますが、私からしてみればそれなりの魔力を頂いたのですが」

「安心しろ、消費はしたが微々たるものだよ。それよりも今の魔法は悪魔たちに対しても働くのか?」


広範囲魔法の懸念材料は範囲とした者の全てに対して発動してしまう事で、悪魔たちにも効果があるのであれば元も子もない。


セラフィエルはクスッと笑い首を横に降る。


「御安心を、私が範囲に示したのは邪の性質を持つ者以外です。悪魔たちにはむしろ害でしかないでしょう」

「そういう使い道もあるか。ありがとう、セラフィエル」

「何を仰いますか、私は最善を尽くしたまでです。では私も救援に向かいます。涼太様もご武運を」



スカートを摘んで一礼、自身の6翼を羽ばたかせたセラフィエルは天使たちの後を追い飛び去った。



「主様、この者たちはいかが致しましょうか」

「そうだな、ガッツさん。あなたはシーダさんを守りながら避難してください」

「分かった。いや、分かりましたと言うべきか?すまん、混乱してて判断が追いつかんのだ」

「やめて下さいよ。普通に接して下さい。疎遠な態度を取られると俺の方も気まずいんですから」

「あぁ、悪かった。お前の指示通り、シーダを一先ずは避難させる。だがその後は俺も助力させて貰うぞ」

「それでお願いします」


少しでも戦力が欲しいのは事実だ。

ガッツも並みの悪魔程度なら撃退できる力は持っている為にそこは十二分に理解していた。



「涼太さん!」

「何ですか、シーダさん」

「どうかお願いします。この国の未来を救って下さい」

「当然です。詳しい話はまたの機会にしましょう」


いつも自分に見せてくれる変わらない微笑みを向けてくれた涼太にの背中の大きさが身に感じシーダは安堵してガッツとともにその場を後にした。


去った後に涼太は大きな溜息を再びついて頭を掻き毟る。



「主様、私たちはーーーッ!」



ガブリエルの背筋が凍りつく。

主人である涼太は基本的に温厚な性格で、多少のことでは動じない精神の持ち主である。

今いたシーダたちも心配させまいと普段と変わらない大らかな立ち振る舞いをしていた。


ゴクリと生唾を飲み込む。


大気が凍りつくほどの冷たい魔力が涼太から発せられたのだ。

幾度となく憤怒をしてきた涼太であるが、ガブリエルは激怒した主人を見たことがない。



(本当に、本当に悪魔たちは運が悪い)



その魔力を至近距離から当てられただけで、並みの人間なら意識を失うであろう。

しかしガブリエルは涼太の変わり様に武者震いを起こして無表情の顔を紅く染め上げた。


これ程までに感情を表に出した主人は見たことがない。

そして自分がその場に並び立てた事に高揚感が隠せないでいた。



「ガブリエル」

「はい」

「俺は今から敵の親玉を潰す。お前も付いて来い」

「承知しました。しかしどのように?」

「まぁ見てろ」



涼太は先程倒した悪魔の元へ足を運ばせて腰を下ろす。

ガブリエルは一体何をしているのか理解に苦しんだ。

使わない事を極力控えていた時間回帰を使用し、悪魔をわざわざ蘇生させたのだ。


「ギッ、がァ。一体ナニが……!キサマはぁーーー!」

「【麻痺(パラライズ)】」

「カッ……ウゴかナ………」


荒々しく悪魔の頭を鷲掴みにして潰れない程度の力を涼太は込める。


「お前たちの親玉はどこだ……など問いただしはしない。所詮は悪魔の戯言だ。お前がどこから来て誰が親玉であるか、直接その頭の中を覗かせて貰おう」

「ナッ、キサマ……。ヤメ……」


一体、悪魔たちの目的はなんなのか。

どこから来て誰が主人であるかの情報が悪魔の頭から湧き水のように溢れ出てくる。

涼太はその情報の鱗片を掻き集めて、必要な情報を集約していく。



「…………なるほど」

「ミルナ、ミルナ!ヤメろォォォォ!」



悲痛な叫びを最後に悪魔の頭は地面に落ちた果実のように潰れて息を断つ。


「主様、敵の情報はいかに?」

「把握した。なるほど、いくら大陸の全てを探知しようとも見つからないだろう。行くぞ、敵の総本山とやらの悪魔界に。敵の親玉もそこにいる」

「承知しました」



悪魔から収集した情報から、悪魔界とは神界と同様に世界の裏側の別空間にある場所だと分かった。

いくら探そうとも見つかりはしない場所だが、空間から隔離されているだけであって存在しない訳ではない。



「ならば話は簡単だ」



時空魔法を使用して悪魔が辿ってきた道筋を辿る。

深く深く、世界の空間軸に潜り込んであらゆる道筋を探っていく。

ピクリと身体が反応し、閉じていた目をゆっくりと開ける。



「そこか、見つけたぞ」



涼太はガブリエルの手を握りしめて、悪魔たちの総本山である悪魔界へと転移した。



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