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211話 光



街中は酷いものであった。

建物の至る所から火が上がり、逃げ惑う住民たちの上では悪魔たちが飛び交っている。


妻や娘を守ろうとする男たちは悪魔たちに立ち向かうものの、容易に命を刈り取られ悲鳴が上がる。

建物に押し潰された中には自分の子だけは逃がそうと下敷きになった者たちも少なくはない。



「避難してください!孤児院の区画ならば悪魔たちは入ってこれません。冒険者たちが先導します、急いでください!」


一人の冒険者ギルドの受付嬢は声を荒げて住民に呼びかける。


これ程までに声を張り上げたのはいつ以来だろうか。

セリア王国王都の人口10万人以上であり、全員を救うことなど等に諦めている。

一人でも、生き残るために一人でも救うことが出来るのであればと自身も危険な場にいるはずなのに誘導に徹する。



「おい、シーダ!ここはいいからお前は逃げろ!」


襲い掛かる悪魔たちを相手にしながら冒険者ギルドマスターのガッツはシーダに自分も避難しろと告げる。


「ダメです。住民の皆さんの避難が終わっていません!」

「馬鹿野郎が!一体どれだけの人数がいると思っていやがる、いい加減全員を助けるなんて甘い考えは捨てろ。戦えない奴は邪魔だ!」

「ーーーッ」


理解はしていた。

いくらシーダが助けようとしても、自分は何の力もない非力な受付嬢でしかない。

実際にガッツはシーダに近づく悪魔たちを何度も斬り倒して周りに目を向けなければならない状況にあった。



「おやおやオヤ?少しはホネがありそうなニンゲンがいるではないですカァァ」



ガッツの背筋が凍りつく。

鉄の臭いが鼻にこびり付く異臭が突如漂い、シーダがいる背後から先ほどまで相手にしていた悪魔とは一線を引いた強さの感じる悪魔が姿を現わす。


「ヒッ……」


蝙蝠の翼を羽ばたかせニヤリと笑みを浮かべた悪魔にシーダは腰を抜かしてその場に倒れる。



「離れやがれ、クソ悪魔が!」



ガッツは危機感を感じつつも大剣を強く握りしめてシーダの背後にいる悪魔へ突進する。

悪魔は黒く硬質化された長い爪を武器にガッツの一撃を受け止めた。

途端に右足でシーダを蹴り飛ばし、腕の筋肉を膨張させて力任せに押し込む。



「オヤオヤ、ヒドイじゃないですか?ナカマを蹴り飛ばすなんて」

「茶化せぇ、貴様は今あいつを躊躇なく殺そうとしただろ!」

「クフフ、正解デスよぉ?あと数秒アレバワタシが蹴りコロシていたんですがネェ」



ケタケタと笑い黒く濁った瞳でガッツを見下ろす悪魔は残念と言わんばかりに肩をすくめる。

ガッツの蹴りはシーダの胸に当たると同時に寸止めをして押し込むように吹き飛ばしたお陰でシーダを自身は擦り傷程度で済んだ。

本気のガッツが放つ闘気と悪魔が放つ異色のオーラに当てられてシーダは顔を蒼白にさせて震える。



(クソが、明らかに他の悪魔とは別格か。俺の方が部が悪い)


ガッツの直感が自分ではこの悪魔には勝てないと警報を鳴らしている。

悪魔が一方進むたびに自分が後退している様否が応でも現実を突きつけられているのが身にしみて分かる。



「デハ死んでください。カノジョもあなたをコロシた後にワタシがいたた゛ーーーーキケペェ???」



閃光が走る。


悪魔は自分の視界が徐々にズレている違和感を感じた。

数秒後、目の前には首のない自分の胴体と長刀を持った男の姿がそこにある。


「死ね、羽虫が」


男の腕が微かにブレる。

次に目にしたのは自分の身体が文字通り細切れにされて刃が目の前にありバラバラに斬られた後であった。



時間にしない2秒にも満たなかったため、ガッツとシーダは一体何が起こったのか理解できなかった。

思考が停止して再起動するのに少しの時間がかかる。


「………涼太さ……ん?」

「お久しぶりです、シーダさん。中々ギルドに顔を見せられなくてすいません」

「涼太さん!」


シーダは涙腺を緩ませて涼太の胸元へ抱きついた。


「良かった、本当に良かったです。音沙汰が無さすぎて死んでしまったのではかと思っていました!」



その言葉に涼太は気まずい顔つきになる。

実際に冒険者ギルドでの依頼はここ数ヶ月は行なっておらずに、王族の依頼などは秘匿扱いでギルドカードに書き込まれている。

知れるとすればギルドマスター以上の役職であり、一般の受付嬢には知らされていなかったのだ。



「おいおい、涼太じゃねぇか。先ずは礼を言う、助かった」

「こんな状況です。むしろ出遅れてしまってすいません」

「謝るな、お前が駆けつけてくれなければ俺とシーダは先の悪魔に殺されていただろう。で、無駄話をしている暇ではないな。後生だ!どうにか力を貸してくれ!悪いが涼太の経歴をギルドマスターの権限で無理やり調べさせて貰った。お前があの翡翠の騎士なんだろう!」



ガッツは大剣を地面に起き、膝をついて地に頭を付ける。

シーダと涼太はガッツの言葉に驚いた。


まさか秘匿されていた自分の正体が知られていたとは思わずに、そしてシーダは謎の英雄の正体が涼太であったことに。


涼太は大きな溜息をついてガッツの肩に手をやる。



「ガッツさん、一つの可能性ある約束をして欲しいことがあります」

「なんだ、言ってみろ」

「俺一人では全ての悪魔たちを撃退するのに時間が掛かってしまう故にある力を使います。俺の家が結界に覆われていることや住民が家の事情を知ってしまったことから俺はセリア王国には暫く、下手をすれば二度と姿を表すことが出来ません。どうか今から起こる事は語り継がないで欲しい」

「……分かった。この命に掛けて生涯お前が今から行う事は郊外しないと誓おう。シーダ、お前もいいな?」

「嫌です!」

「なっ、何を言ってやがる!こんな状況で冗談を抜かすな!」



窮地に立たされている状況な筈、涼太の言葉から現状を一気に打開できる策が有るのならば全てを了承する考えであった。

しかしシーダの批判には理解が出来ない。



「涼太さん、私はあなたの専属受付嬢ではないのですか?二度と会えないなんて寂しい事は言わないでください!」

「「…………はぁ」」


ガッツと涼太の溜息が重なる。

涼太が提案したのはあくまで口実であり、可能性を大袈裟に表現しただけのものだ。

ガッツもそれを理解はしていて了承した。


「涼太、ギルドマスターとして依頼を出す。報酬はこの阿呆でどうだ」

「どんどんきな臭くなってきましたが……了解しましたよ。これからの()()で人材が欲しいとは思っていましたので何人かギルドから貰えるのであれば受けましょう」

「あぁ!この際好きにしろ、いくらでも持っていけ!」



もう投げやりではあるが、ガッツの言葉をしかと受け止めた涼太はゆっくりと立ち上がる。


スッと目を細めて上を見上げて飛び交う悪魔たちを睨みつける。




(本当は使いたく無かったんだがな……だが、これ以上俺の安息地であるセリア王国を傷つけることは許さない。ならば今こそ俺が持つ戦力の全てを使う時だーーーーッ!)




世界に認知されてはいけないお伽話の世界。



ありとあらゆる不条理を鎮める悪魔とは対を成す存在。



後世に語り継がれるであろう歴史の変換点にもなり得る。




ーーー蹂躙せよ、



ーーー蹂躙せよ、



我が障害を砕き、未来ある民を救うために!!




「【天軍進撃】」




雲に覆い尽くされた空に光が差し込む。


誰もがその光景を目に焼き付けるだろう。



ーーーさぁ、始めよう。ここからは俺の蹂躙ターンだ。



チートなお時間開始です。


ストックがある時のみ更新日時をお知らせします。

次回更新は3月16日です。

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