表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
211/234

209話 第2ラウンド



紅蓮と青白、

対なる魔力の衝突が起こる。



クリスは氷の翼を羽ばたかせて上空へ、魔王も背中から翼を生やしてクリスを追う。



「ふははっ、逃げ腰だなぁ!」

「調子に乗るな!【絶氷極光線アブソリュートバースト】」

「ちぃ、面倒な!【獄炎極光線ヘルバースト】」


30門の魔法陣を展開し、そこから白の光線が魔王へ襲い掛かる。

魔王も同じく30門展開してクリスの攻撃を相殺した。


地鳴りが起こり、下にいる魔族や冒険者たちは体勢を崩して何事かと2人の戦いを眺める。



「まだまだ足りん。この程度では我と同じ舞台に立てんぞ」

「そりゃ、すいませんでしたねぇ!」



クリスの長髪がふわりと重力に反して浮くと同時に加速する。

腕に装着された鉤爪を広げて振り下ろす。



「ーーーぬぅ、それはマズイな!」



ただの鉤爪ならば受け止めるのも容易いが、違和感を感じた魔王は空中で体を一周させて回避する。

回避されたことにクリスは舌打ちをする。


魔王の選択は正しかった。

先程に魔王がいた場所には空間の歪みが生じていた。

時空斬、それをクリスは鉤爪に乗せて魔王へ放ったのだ。


魔王とて強靭な肉体と再生のスキルは持っているが、空間ごと斬り裂かれれば傷を負うために警戒する。




「なぜっ、あたなは人族を襲う!人族が魔族に対して何をした!」

「愚問だな、強者が弱者を支配して何が悪い。我は人界を支配して多大なる力を得るだけだ」

「会話が成り立たないわね」

「お前のような小娘に語るような事は何もない。……気を緩めたな?」



くるっと勢いを付け魔王は上段からかかと落としをする。



「ーーーーッア!」



一拍の間もなく、反応に遅れたクリスはガンレットを交差させて攻撃を防ぐ。

ガンレットにヒビが入り、風圧に態勢が崩されたまま勢いよく地上へ落下した。


片膝をついて息を大きく荒げる。

魔力で強化された氷の鎧は並大抵のことでは壊れるはずがなく、それこそ職人が加工に困難するほど硬質なミスリル鉱石レベルだ。

もしもガードが間に合わなければ、間違いなく自分は致命傷を負っていたと冷や汗が流れる。



「はぁはぁはぁ、うぐっ……」



乱れた呼吸が収まらずにクリスは胸を強く押さえる。




「なるほどな、それほど強力な身体強化であるならばカラクリがあるとは思ったが……どうやらお前はまだ力を制御出来ていないようだ」

「ぐっ……それはどうかしら?」



図星だ。

クリスが解放した力は強力無比であるが故に、今の彼女では力が器に収まっていない。

全開の力を使えばもって5分。

それがクリスが使えるアルマモードの限界である。



「惜しいな……その力、器と噛み合えば我と対等に戦えるほどに成長するだろう。お前は脅威である。故にここで屠るとしよう」

「ははっ、魔族の王にそう言われると感無量かしら?」

「慈悲だ、そこに倒れてるお前の仲間は殺さないでおこう」

「それはどうも……でも一つ言い忘れていたわ。私は6人の仲間で行動しているんだけど、私の強さは悔しいけど3番目なのよ」

「…………何が言いたい」

「油断しているのはどこの誰かしら?」



ーーーーゾクッ



ここに来て初めて魔王は鳥肌が立つ。


クリスは確かに強かった。

あくまでそれは人族としての範疇であり、魔王のなかでは想定内である。

生半可な力と敵を殺すのではなく、あくまで倒すことが目的とした敵意だ、


しかし、今感じたものは殺気。

それも自分に対して禍々しいほどに狂気じみたものだ。



後ろを振り向く。



無表情ながら額に血管を浮かべ、目を大きく見開き鋭い眼光で睨みつける姿の女。

雷をほとばしらせ、目にも留まらぬ速さで魔王の首へ剣を振り抜こうとしていた。




「ーーーーッ!」



永年に渡り鍛え上げた身体が危機を感じたり反射的に身体を仰け反らせる。

その場から距離を取る。


(この我が全神経を集中させなければならないとは……しかも不意打ちとはいえーーーー)


魔王は自身の右耳に手をやる。

そこにはあるはずの耳がなく、ドロリと赤い血が頬をつたって大地へ垂れ流れる。



「お嬢様、申し訳ありません。到着が遅れました」

「はぁはぁっ、ミセル……ごめん、限界まで力を使い過ぎたわ。反動でしばらく身体が動かない」

「承知しました。お嬢様の武功は決して無駄には致しません」

「ふふっ、あなたたちなら大丈夫でしょ。あと……の事は任せたわよ」



クリスはゆっくりと目を閉じてアルマモードを解除して気を失う。

アルマモードが解除かれたことにより、吹雪は収まり一帯の表土も砕け散って元の更地へ姿を変えた。



「貴様、何者だ。後ろにいる者は知っているぞ、あの女の傍にいた者だな。それに何故お前がそちら側にいるのだ、キュール?」


魔王の眼に映る人物は3人。

ミセル、フィルフィー、そしてキュールだ。

キュールはフィルフィーの背後に居ながらも魔王を敵視する視線を送る。



「紅蓮の魔王軍が幹部のキュール、魔王軍を離反します」

「理解できんな。お前は確かそこの女を仇にしていたはずだ。その女を探し出し、無念を晴らすことを条件に我が魔王軍の軍門に下ったはずだが」

「理解しなくて結構、過去の柵は消えました。私はフィルフィー様について行くと誓った」


ピクリと魔王の頬が反応し深い溜息をつく。

途端に魔王の魔力が爆発的に大きくなる。


「そうか、ならばお前は用済みだ。反旗を翻した部下はいらん、死ぬがよい」



ゆったりとした足取りでキュールへ歩み寄る。



「させると思うか?」

「どけ、エルフ」

「引くわけがなかろう?生憎と私もお前に用があるんだよ」

「ほう……自己意欲の塊のエルフが私に何の用だ」

「…………お前、私の仲間に手を出したな?」



フィルフィーの視線の先には倒れ伏すエリス、ロゼッタ、シャルロットの姿とミセルに介抱されている意識を失ったクリスの姿。

それだけでフィルフィーの沸点が規定値を越える着火剤としての役割を成していた。



「ミセル、正直な話でお前はあの魔王に勝てるか?」

「悔しいですが私でも足止めになる程度ですね」

「だろうな、この男の相手は私がする。キュールとミセルはクリスたちをこの場から担いで離れろ」

「分かりました、気をつけて下さい」



ミセルとキュールはお互いに頷き合い、倒れている四人を両脇に抱え込んでラバン王国の城門方面へ退避する。


他の冒険者や騎士たちはフィルフィーの姿を確認すると同時に戦況を維持したまま退避しようと試みる。




「お前は我を退けられる、そう思っているのか?あの田舎共と同じ種族であるお前も魔法に長けているであろうが、総合的に見れば我に軍配は上がると思うが」

「御託はいい。かかって来い、格下」

「その言葉、そのまま返してくれるわ!亜人種と魔族の格差を思い知れ」



魔力の衝突、


一般兵と比較して二人は別次元の強さを誇る。

横に並び立ち共に戦おうとする者がいるならば蛮勇でしかない。



「小手調べだ。この程度ならば防げよう【暴風乱破(エアロスフィア)】」



大気がフィルフィーの手に集まり、目視出来るほどに圧縮されてる。

手に収まるほどの大きさに圧縮されたそれは、解き放たれ地面を削り取りながら魔王へ襲う。


魔王は自身が生み出した魔法陣に手を突っ込み、何かを引き出して大きく振り下ろす。

空気弾は真っ二つに分かれて、大地を削りながら魔王の左右へと分断された。


刀身は2メートルを超え、刃の幅は5センチはある大剣だ。

斬るよりは押し潰すことを目的に造られたと認識できるそれの重さはゆうに100キロを超える。

しかし魔王は片手で表情も変えぬまま大剣を握りしめていた。


ミセルは大剣から普通とは異なる違和感を感じ取り眉をひそめる。


「ほう……その大剣、ただの剣ではないな?」

「これは魔帝剣・アンドロダインである。我の専用武器であるが、まさか使う羽目になるとは思わなかったぞ」

「ならばその大剣ごとお前を砕くまでだ」



英雄と魔王、

両者の数分間に渡る攻防が始まる。



♢♦︎♢




王城の最も高い位置にある屋根の上で3人の者たちが魔王軍との衝突の様子をじっくりと伺っていた。



「ふむ、あのエルフは中々やるのぉ」

「妾も戦いたいのじゃー、あの魔王は妾たちの仇なのじゃぞ!」

「いせませんぞ、お嬢。お嬢とてあの魔王には勝てますまい」

「お嬢様、そんな危険な真似はよして下さい。あのレベルは私か豪鬼様にしか手が追えません」



障害物のない屋根の上に吹く強風にも身体を微動だにもせずに凛と立つ遠蛇は魔王とフィルフィーの戦いを見下ろしながら呟く。


この魔王は豪鬼たちの里を襲った魔王であった。

里の者たちの仇である椿は今すぐ向かいたい感情を押しとどめられて頬を大きく膨らます。


「のぉ、遠蛇。今のお主ならばあの魔王を何分で仕留められる?」

「まだ奥の手を隠している可能性もありますが、今の状態でしたら3分あれば可能です。そういう豪鬼様は…………言うまでもありませんね」


豪鬼たちの会話は魔王軍にとっては不穏そのものであった。

クリスたちですら敗北した魔王相手にこの啖呵である。

その自信の源は涼太が用意した修練場のダンジョンである。


自分たちを高めるために豪鬼たちはほぼ毎日ダンジョンでレベリングをしていた。

地上での魔物では、まず遭遇することが難しいレベルの相手、それこそ天災級の魔物たちである。



「しっかしのぉ〜、あのエルフはいつまで戦っておるのじゃ。そろそろ儂らも介入しても良いのではないか?」

「私たちが介入するのは本当に危機が迫った時の約束ではありませんでしたか…………あっ!」

「どうしたのじゃ遠蛇?トイレならば妾がついて行ってやんのじゃぞ」

「いえ、月宮様から頂いた情報ですが……もしかして彼女たちは月宮様が仰っていた大切な仲間なのではないですか?ほら、5人の少女とエルフって。彼女たちだけは危険な目に合わせたくないと仰っていた……」



すでにフィルフィーとミセル以外は満身創痍の状態で、クリスたちを遠目から眺めていた豪鬼たちの額から汗が滲み出る。



「爺、マズイのじゃ。もし傍観してたのが涼太にバレたら怒られるのじゃ」

「あ、焦るのではなっない!要はバレなければ良いのだろう!死んでおらんならば何とかなる!儂は出るぞ、遠蛇」

「今更という感じはありますが……早々に片付けましょう」

「うむ、出陣じゃぁーーーぬぉぉぉぉぉ!」



焦りで頭を真っ白にした豪鬼は足を滑らす。

踏み止まろうとするものの、豪鬼たちがいるのは急勾配な屋根だ。

体勢を崩してしまえば後は転げ落ちるのみ。


数秒後に落下したであろう場所から大きな物音と女の悲鳴が椿たちの耳に入る。



「阿呆じゃの」

「全く締まりませんね。お嬢様、私たちだけでも先に行きましょう」

「うむ、爺は少し頭を冷やすべきなのじゃ」


椿と遠蛇は気まずい顔をして屋根から飛び降り、民家の屋根を足場にしながら戦場へ赴く。





次回でクリスサイド終了。

再び涼太サイドへ戻ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ