204話 黒雷
あけましておめでとうございます。
年末から忙しくて執筆に時間が費やさなく申し訳ありません!
2月には時間が開くので週一もしくは週二の投稿を目標に頑張ります。
それは唐突な出来事であった。
ラバン王国を目指して、魔族の男はモンスターを使役できる【魔物使役】によるスキルを使って自身の最高戦力であるブラックドラゴンに乗り進行していた。
自分の所属するのは紅蓮の魔王軍。
魔界を支配する魔王たちの中でも五本の指には入る戦力を持ち合わせている軍隊だ。
その中での彼の地位は幹部クラス。
故にこの進軍の指揮を任された。
劣等種族である人族に負けるはずがないと、自身が蹂躙する様を妄想しながら高笑いをする。
唯一不満があるとすれば、ブラックドラゴンの背に乗っている女の存在だ。
彼女は魔王から直々に自分の手助けをせよと命じられた強者。
最高幹部の一人、名をキュールと言う。
先程から微動だにせずに槍を手に持ち座り込んで瞑想をしている威圧感をヒシヒシと身に受けて気持ちが悪い。
「はーー、つまんねぇなぁ。魔界からどれだけの距離があんだよ。早く蹂躙してぇーー」
大きな溜息をついて木々が生い茂る上空から射す陽の光を眺める。
「おい」
「あぁん?トイレでも行きたいんですかぁ?なら俺のブラックドラゴンから降りてくださいよ」
キュールの唐突な声がかかる。
彼女は槍を構えて防御障壁を展開した。
周りには魔物たちしか居らずに、警戒する要素がどこにもない。
何をしているのだと問いかけようとした。
「くるぞ、」
キュールを中心にブラックドラゴンの巨体を覆う結界が張られた。
森がざわめき、鳥たちが鳴き声を上げて一斉に飛び立った。
雷鳴が鳴り響き、辺り一帯の全てを巻き込む大嵐が突如として自分たちに襲い掛かった。
木々は根元から薙ぎ倒され、ゴブリンやオークなどの弱い魔物たちは細切れになった木々の破片が突き刺さり命を落とす。
嵐は一般もしないうちに止んだが、辺り一帯は土が剥き出しになっており、魔物たちの死骸で溢れていた。
「どうやら、そう簡単にはいかないようだ。この魔力、知っているぞ」
降り立つ二つの影、
明らかな敵意と闘気を纏わせた存在が二つ。
ギロリとキュールは二人を見る。
「お前か……災厄」
「久しいな、こんなところで何をしたいる、キュール。散歩でもしているのか?」
「ほざけ、貴様のせいで私は以前の魔王軍を追放されたのだぞ」
「フィルフィー、知り合いですか?」
「まぁな、私が魔王軍にいた頃の同輩か」
ミセルはフィルフィーが以前に魔王軍にいた事は知っていたが、それ以上のことは知らない。
まさか知り合いに出会うとは思いもしなかった。
「そこをどけ、私は紅蓮の魔王軍としてラバン王国を蹂躙する」
「それを私が許すと思うか?」
二人は睨み合い、キュールは槍を、フィルフィーは魔法を展開させようとする。
「俺を無視してんじゃねぇよ!」
ブラックドラゴンの手がフィルフィーを押し潰そうとした。
男の魔族と共鳴し合うように、唸りを上げてフィルフィーを睨みつけるドラゴンは咆哮を上げた。
「……場所を移すぞ。お前とは一度本気で殺し合いをしたい」
「いいだろう。ミセル、この男の相手を出来るか?」
「無論ですよ」
「頼んだ」
フィルフィーとキュール、二人の姿は瞬き一つの間もなく消え去る。
しばらくの沈黙が残された2人の間で起こる。
「はぁー、一体何なんだよ。キュールの奴の知り合いか知らないが、俺の相手はクソガキか?ひ弱な人間ごときに俺様のブラックドラゴンを使わないといけないのかよ」
「……ひ弱ですか?」
「あぁ?人族なんぞ魔力もない上にウジャウジャ増え続ける害虫だろうが」
ミセルの額に血管が浮き上がった。
人族の侮辱、つまりは主人であるクリスの事すらも害虫呼ばわりされたのだ。
徐々にミセルの殺気が膨れ上がる。
「……言いたいことはそれだけか?」
「なら言わせてもらうが、貧弱な人族が俺の前に立つなんておこがましいんだよ。今から王国の奴らを皆殺しにするんだからお前1人を相手にする暇はない。失せろ」
「なるほど、答えは出たようだな」
男の言葉を鋒にミセルは剣を抜いてブラックドラゴンに突進する。
飛び上がり背に踏ん反り返る男に剣を振るう。
「あめぇんだよ!」
ブラックドラゴンは体格にそぐわない速度で身体を捻り尻尾を横薙ぎにミセルへと当てる。
ミセルはヒラリと身を躱すが、攻撃は当たらずに縮まった距離が開く。
「ちっ……」
「なかなか速えぇな。だがその速度じゃぁ勝てねぇよ」
男はブラックドラゴンの差から降りたち、後ろへの移動した。
「やれ、その女を殺せ!」
雄叫びを上げて突進するブラックドラゴン。
鋭く研がれた爪をミセルに振り下ろす。
「その力、受けて立ちましょう」
男はミセルは回避するものだと思っていた。
しかしミセルの選択は真正面からの受けだ。
足元の地面はひび割れてミセルの足が地面に沈むが力は負けていない。
歯を噛み締めて力の限りを尽くしブラックドラゴンを押し返そうとする。
「はっ、驚かせやがって!耐えるのに必死じゃねぇか。そのまま沈みな!」
「はぁぁぁぁーーーッ!」
「しねしねしねぇぇーーーッ!ハッハー!」
「くっ……流石にこのままはキツイですか。ならばっ!」
ブラックドラゴンの身体が大きく揺れ動いた。
「なにっ!?」
腕を振り上げると同時にミセルはブラックドラゴンを吹き飛ばす。
ブラックドラゴンは可愛げのない鳴き声を上げて身体を地につけた。
「てめぇ、何をしやがった」
「素の状態では、やはり竜種の相手は厳しいようなのでスキルを使っただけですよ?」
ーーー【限界突破】
ーーー【全能強化】
文字通り、限界を超えたミセルは身体から迸る白いオーラを纏い告げる。
「……あなた方程度でしたら、奥の手も使う必要はないでしょう。これで十分です」
「ほざけっ!」
ブラックドラゴンの雄叫びが森全体に響き渡る。
テイムされていたとしてとドラゴンは龍としての誇りがある。
自身を地に伏せた女を漸く敵と見なした。
鋭い眼光でミセルを睨みつけて口を開いて噛み付こうとした。
「遅いです」
攻撃を躱しドラゴンの腹元へ移動する。
ゆるりとブラックドラゴンの腹に手をかざして息を吐き出して大きく吸い込む。
右足を後ろに踏み込んで左手を掌底の形に構える。
「発勁!」
ブラックドラゴンの身体全体が震えて、衝撃が第一波、二波とゆっくりと浸透していく。
気力だけではなく魔力の振動がドラゴンの内部から、臓物をズタズタにし、血管を破裂させる。
ブラックドラゴンは口から血反吐を大量に吐き、白眼を向いたまま、ゆっくりと倒れ伏した。
「ドラゴンとは言っても所詮は温室育ちでしょう。迷宮で鍛え上げた私たちの相手に出来るはずがない」
死の樹海、そして迷宮の圧倒的強さを誇る魔物と対峙して何度もミセルは死線を繰り広げた。
無限に増殖する蟻の群れやフィルフィーでさえも本気を出さなくてはいけない程の強者。
涼太から貰った強力な武具を使用してさえも勝てずに何度も死にかけた事もあった。
以前のミセルならば仲間と強力ないし、逃走をしたであろう相手。
負けるはずがない確信がそこにある。
「なにかイカサマをしやがったな!」
「そんな訳ないでしょう。実力です」
「俺のブラックドラゴンが一撃で倒されるはずねぇだろ!」
「ならば鑑定をしてみては?」
「…………ッ!ありえねぇ」
ミセルの言葉に何故自分が鑑定持ちなのか疑念を抱きながら男はミセルのステータスを確認して驚く。
♢♦︎♢
ミセル LV.112→LV894
種族:人族
性別:女
年齢:14
攻撃:2100→9600
魔力:1500→8400
俊敏:2500→10400
知力:1200→8200
防御:1400→8700
運:100
スキル
【剣術LV.MAX】
【剣王LV.25】
【体術LV.86】
【料理LV.46】
【雷魔法LV.92】
【剛力LV.80】
【火魔法LV.45】
【水魔法LV.42】
【全能強化LV.65】
【苦痛耐性LV.45】
【不屈LV.54】
【鑑定LV.48】
♢♦︎♢
圧倒的な実力差、
魔族の中でもレベルが100を越えれば中堅には入る。
500もなれば魔王軍の中でも最高幹部に近い戦力だ。
それを遥かに超えるレベルとステータス。
「どうしましたか、これで終わりではないでしょう?」
「くっ、くそが!俺様が負けるはずねぇ!サモン、フルオープン!」
男が展開した膨大な魔法陣から次々に魔物が現れた。
その数は総勢100はいるだろうか。
中にはオーガエンペラーやレッドドラゴンのようなSSSランク級の魔物たちもいる。
「俺様の切り札を倒したからと調子にのるな!質と量を考えれば俺様が負けるはずねぇんだよ。さぁ、この数をどうする?」
「…………はぁ、あなたは学習機能がないんですか」
「何を言ってる」
「正直な話、私はお嬢様のところへ一刻も早く向かいたいのですよ。その程度の魔物で私を相手に出来るはずがないでしょう。面倒です、全部まとめて死になさい。【破滅黒雷雨】」
それは天災であった。
辺り一帯に雷鳴が鳴り響き、頭上の雲から黒い稲妻がこちらの様子でも伺うかのように顔を出す。
一筋の落雷が大岩に降りかかる。
普通の雷であれば無機物に当たっても拡散するのみ。
しかし黒雷が落ちた岩はドロドロに溶解する。
次々に落とされる雷は魔物たちの命を刈り取る。
「クソクソクソガァァァーーーッ!許さねぇ、許さなねぇぞ。俺を殺しても本陣と右翼は進行してる!ザマァみやがれ、ハッハッハー!」
雷に呑まれた男の身体は落ちた地面に大きな爪痕を残して消え去った。
「……まさか、これが本陣ではないと?となるとお嬢様に危険が!」
殲滅した魔物の死骸を見向きもせずにミセルはラバン王国へ向けて駆け出す。




