202話 助力
短めです
話は少し前に遡る。
ラバン王国の冒険者たちは魔物たちの存在が確認できたと同時に情報が上がった方面へ向かい、戦闘の舞台となる荒野に陣を構えていた。
死の樹海から魔物の反応があった為に、冒険者たちの中でもDランクより下の者たちはこの戦いに参戦できない。
Dランクの基準の例えは魔物との戦いで単騎で十数匹のゴブリンを倒し切れるかどうか。
複数の魔物との戦いで周囲に目をやり敵を殲滅できる力量の持ち主かを判断している。
現在、ラバン王国内で活動をする冒険者たちは他国を拠点にしている者たちも含めて500名程。
その内Dランク以上の者は合わせて3分の1。
殆どの冒険者はこの戦いに参戦は出来ない。
ラバン王国の冒険者ギルドマスターは数よりも質を重視した。
未来ある冒険者たちを無駄死にさせるほど冒険者組合にとって痛手な事はない。
「ギルドマスター、王国騎士団が到着した。代表者に合わせろとさ」
椅子に座り目を瞑り時を待っていたギルドマスターの筋肉がピクッと反応して目を強く見開く。
冒険者たちと騎士団は特別仲が良い訳ではない。
波浪者の集まりの冒険者たちは安く見られる事も多々あり、中でも騎士団の中では貴族出身の者たちも少なくないことから軽蔑の目で見られる。
しかし冒険ギルドはあくまで国からの支援で成り立っている部分もあり、自分たちが強く出ることも出来ない。
(さて、代表者はいかような者か)
外へ出ると一切の髪の毛を生やしていないギルドマスターの頭部は決意を決めたかのように太陽に照らされて輝く。
複数の冒険者たちはギルドマスターの後を歩き、騎士団の代表者に挨拶をする為に合流地点へ向かう。
せめてまともに話が出来る人物だと願い重い足取りで乾いた大地を踏みしめて行く。
「ギルドマスター、無礼はやめて下さいよ」
「俺は冒険者ギルドの長だぞ。いくら騎士団が嫌味を言ってきたところで対して気にせんわ」
しかし伝達をしに来た冒険者の意図が読めていなかったギルドマスターは騎士団の代表者に面会して驚きの声を上げた。
「すまないな、少々遅れた」
防具の金属はミスリルと鉄鋼だろうか。
冒険者たちの中でも卓越した者たちが装備するであろう防具と、それ以上に存在感を放つ武器を持つ人物。
装備だけでは金に物を合わせている。
しかし装備している人物を知れば納得もいく。
「まさか殿下自らが先陣なさるとは思いませんでしたぞ」
「先陣を切るのであれば指揮を上げるのに僕以上に適している人物はいないと思ったからね」
面を食らったギルドマスターの顔を満足げに見て笑みを浮かべる。
「及ばずながら国のため助力致します」
「ははっ、可にする必要はないよ。僕は僕で好きなように戦うから、君たちも冒険者流で戦ってくれ」
「そう言ってもらえると気が楽です。して……隣に控えているのは魔法聖祭に活躍した者ですかな?」
ギルドマスターはレオンの隣に控えていたジャッファルの存在が気になったのか声をかけた。
ギルドマスターも一興として魔法聖祭の観戦に行ったことから目立つ学生の顔は記憶していた。
中でも学生でありながら高位のスキルを見せたジャッファルには一目置いていたのだ。
「彼は僕の専属護衛だよ」
「殿下、俺はまだ貴方の専属護衛じゃないですよ。仮をつけて下さい」
「固いことを言うなよ、似たようなものじゃないか」
「くわっはっはっ、既にお手つきのようですか。残念、彼は冒険者として将来活躍してくれると期待していたのですが」
奇想天外、貴族でもなくは王族の護衛にあたる教養もないジャッファルが王子の護衛として既に目をつけられているとは思わなかった。
してやられたと自分の頭をペチペチと音を立てて叩く
。
「さて、長話も悪くはないのですが空気が変わった。お出ましのようですぞ」
「どうやらそうみたいだね」
離れのテント付近で騒めく冒険者たちの声。
そして大地に伝わる大きな足音の数々。
「ギルマス!魔物の大群が現れやがった!だけど何かがおかしい」
「どう言うことだ」
「ゴブリンやウルフの雑魚どもだが、やつら何かに怯えていやがる。逃げるように勢いよく此方へ向かってくるぞ」
魔物の大群が押し寄せる際に嬉々として自分たちに向かってくる話は聞くが、逃げるように来る話など聞いたことがない。
「分かった、俺も向かう……ッ!」
突如、遠方から雷鳴が鳴り響く。
上空を見ると死の樹海辺りで黒い落雷が大鳴り止む勢いも知らずに降り注いでいる。
更にその一帯に巨大な竜巻が現れて木々を巻き上げて森林を破壊する。
「一体……何が」
「分からない、だが我々も動くぞ」




