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198話 粛清



二手に分かれ、イザベル、涼太、グレンダの三名は奪還するためのミーティングを軽く行なっていた。


「正直に言って、私は涼太殿の力量が測れない。どう指示を出したらいいのか分からない」


イザベルは困惑していた。

涼太の立ち位置はいわば戦略級兵器に近い。

あまりにも強大すぎる戦力は戦略を練るまでもなく敵を圧倒する。


「あまり深く考える必要はありません。俺の案としては処刑される寸前ならば公衆の面前に現れるので奪還しやすいですね」

「分かった。恐らくは既に準備に入っているだろう。今から行って月宮殿が行動に移す形になるだろう」

「なら手っ取り早く片付けるとしますか……その前にグレンダさんに新しい武器を渡したいのですが」

「それは本当か!」



先ほどの模擬戦で涼太はグレンダが愛用している大刀を粉々に砕いてしまった。

今、彼女は丸腰の状態なのは問題だ。

仕方ないとは言え、相手の持ち物を壊したままというのも心苦しいと涼太は思う。


涼太はアイテムボックスに保有している自作の武器の中から大刀を手渡す。

矛先はグレンダが持っていた物よりも一回り大きい。


「おいおい、何だこりゃ?」



手渡された大刀を握りしてたグレンダは困惑の表情を浮かべる。


「何か不良がありますか?」

「いや、逆に手に馴染みすぎて怖いくらいだ。見た目以上に軽いが適度な重さがやあって振りやすい」

「魔力を流してみてください」

「魔力……うぉ!」


言われるがままに魔力を流すと矛先が紅く光る。


「これは……魔剣の類いか?」

「イメージすればその刃は鉄をも容易に斬り裂きます」

「こいつはいいな、アタシに貸してくれるのか?」

「いえ、あなたに上げますよ。趣味で鍛治をしていた際に出来上がった一つに過ぎませんし」

「マジかよ、太っ腹じゃねぇか!流石は旦那だぜ」


いつのまにかグレンダの涼太への二人称が旦那へと変わっていた。


武器に関しては、そうは言うものの性能は伝説級に近い。

大刀の素材は全て迷宮と神界で手に入れた物で造られており、刀身の素材は伝説級の鉱石であるヒヒイロカネである。

魔力伝達率はミスリルを超え、軽さの割には強靭さを持つ鉱石だ。


触らぬ神に祟りなし、

興奮して振り回すグレンダは無視するとして、イザベルは少なからずその性能の異常性に気がつくが敢えて言葉を控える。


「イザベルさんもいりますか?」

「……いや、今は遠慮しておきます」


桁外れの性能を持つ魔剣の類いは買おうとすると、イザベルが帝国で貰っていた給料の数年分は必要だ。

手渡されても扱う技量を持ち合わせているかと問われれば自信を持って肯定することはできない。

それよりも今は手に馴染んだ武器を扱う方が性に合っていた。






後に三人は城門を抜け、グレンダが掴んだ情報を頼りに処刑が行われる広場に向かった。

敵に見つからぬように建物の屋根を足場にして進む

広場へ近づくにつれて人の数が増え、兵士たちを中心に周りにも市民の姿もちらほら見える。


「2、いや3万人か。処刑をするには人が集まり過ぎているな」

「有力だった騎士団の制裁なのだから注目を浴びるのは当然だろ。胸糞悪いがとてもアタシたちじゃ場に出ただけで取り押さえられる」



人数は40名ほどだろうか。

装備は剥がされ薄い布地の服のみを着せられた女性たちが列に並べられて公衆の面前に立たされている。

首には各々同士を繋いでいる縄が掛けられ、手は後ろに組まれて縄で解けないようにきつく縛られている。


広場には既に処刑をするための首吊り用の土台があり、見たところ5人同時に首吊りに出来るような形だ。



自分の隊員たちのあられもない姿を見たイザベルは苛立ちを隠せずに怒気を放つ。

下唇を噛み締めて処断の役回りになる男を見つめる。


涼太はイザベルの視線の先を見る。


甲冑を身につけ、筋骨隆々のオールバックの男。

周りに指示を出しているところから見て、あの男が将軍と見て正しい。

3人と聞いていたが、一人しか見えないことに違和感を持った涼太は彼と同程度の強さの気配を探る。


(王城に同格が2名か。恐らく王の護衛をしているな)


周囲の様子を再び確認する。



「二人とも行きますよ。かと言っても堂々と歩いて行くことにしましょうか」

「おいおい、旦那ぁ。正面から堂々となんて馬鹿がやることだぞ」

「下手にコソコソするよりも堂々としている方が楽なもんでね。取り敢えず俺の指示に従って下さい」

「流石に数万の兵はアタシじゃ手に負えねぇから助けてくれよ?」

「無論ですよ」



3人は広場から離れた建物から降りて涼太を先頭にゆっくりと歩く。

歩く道中に通りがかった市民からは驚愕と畏怖を込めた目で見られて道を譲られる。



「なるほどな、反逆者の親玉が突然現れれば驚くわな。しかも堂々となると相手さんもどうしていいか分からねぇ。オラオラ、どけぇ!総隊長様のお通りだぞ!」


周りを威圧するようにグレンダが睨みつけると市民は悲鳴を上げて逃げ出す。

イザベルと涼太はグレンダのチンピラ紛いな行動にむず痒くなるが、むしろ自分たちは此処だと公表するために堂々と歩いているのでしばらく彼女の行動を見過ごす。



「本当に涼太殿は面白い。ここまで兵士たちが目の前にいながら攻撃してこないのは予想だにしなかった」



住民街を越え、広場へ足を踏み入れた3人が道を歩けば一般兵は道を譲る。

戸惑いながらも兵士たちは涼太たちの行く手の道すらも開けていた。


そこへ一人の男が立ち塞がる。



「やぁ、カーセル将軍。久しいな」

「……貴様らを釣り上げるために広場での処刑を選んだが……よもや堂々と姿を表すとはな。イザベル、何を考えている」

「私は部下たちを助けに来た。これほど無意味な質問もないと思うが?」

「敵の懐に丸裸で入りこむ愚か者に私は見えるが?戦いとは数の暴力だ。貴様が私と万の兵に挑んで勝つつもりか?愚行も甚だしいぞ」


将軍カーセルの言葉は最もだ。

彼自身の戦闘能力はイザベルよりも少し劣るはものの広場を埋め尽くす数万の兵士がイザベルたちを囲んでいる。

明白な自殺行為。


しかしイザベルの口元はかすかに緩む。


「ふふっ、カーセル将軍。貴様が言う事は最もだ。所詮は数が物を言うが戦いだよ。だがな……この世には数の暴力が無意味に感じるほどの強者が存在するんだよ」




その言葉が合図となる。



カーセルと円卓の女騎士の女性たち、現れた3人を除いた全ての人物が地面に崩れ落ちた。


異様な光景、


「なっ…………なにが……?」



糸が切れたかのように動かなくなった兵士たちが足元に転がっている。



齢46、永年の間帝国に奉仕して今の地位と強靭な肉体を築き上げてきた彼は将軍に相応しい行いを続けてきた。

毎年のように起こる戦争では部下を統率して自ら先陣を務めていた事もある。


常勝無敗、


我が帝国こそ最強と。



彼が目の当たりにした光景はとても現実とは思えない出来事であった。



(一体何が起こった!?なぜ我が帝国の兵士たちが倒れている?分からぬ……何が起こったのだ!)



ニヤリと笑みを浮かべるグレンダとイザベル。

彼女たちも涼太を心の底から信用していた訳ではない。

数万の兵を指一つ動かさずに戦闘不能にするなどお伽話でも聞いたことがない。

しかし彼は有言実行した。

文字通り、全ての兵を片付けると。



「イザベルッ!貴様、何をした!」

「私ではないよ、たかが私程度の若輩者に起こせる事態ではないだろう?」


イザベルは「私程度」と揶揄する。

彼女は帝国において最強の一角に身を置いていた騎士だ。

この世界でもイザベルに勝る人物は指を数える程度しかいないだろうとカーセルは踏んでいた。



「やぁ、カーセル将軍。お初にお目にかかる」

「そうか……貴様かぁ、何者だ」


漸くカーセルは事態を起こした人物が見も知らない男だと理解して懐に刺した剣を抜刀し突き付けて尋ねる。


「俺の名は月宮涼太だ」

「その黒髪、貴様は勇者の高橋蓮次に関係するものか」

「察しが良いな。だが生憎とお前たちの言う勇者は存在しない」

「……どう言う事だ」

「俺は敵には容赦しない。そう、確固たる敵には。この世から存在していい筈がないだろう?」

「ーーーッ!貴様ぁ!」


睨みつけるカーセルに涼太は涼しい顔で言葉を返す。


「そんな事はどうでも良い。俺の目的を知りたいんだろう?簡潔に言おう、お前たちはラバン王国に宣戦布告をした。その時点で戦争は始まっている。俺はその受けに答えただけだ」

「なに……を言っている?貴様は一人であろう。なぜラバン王国の名が出てくる」



既にカーセルは涼太の言っていることが理解出来ていた。

しかし理解出来てもしたくない。


いつの間にか自分の身体からは脂汗が滲み出ている事に気がつく。

何の鍛錬も積んでいない身体つきの男に自分は何を恐れているのだと。



「言っても分からないか?」



涼太はアイテムボックスから黒のローブを身に付ける。



「ーーーッ!」



カーセルはローブを目の当たりにして目を大きく見開く。

正確にはローブの左胸だ。


そこにはラバン王国並びにセリア王国の勲章と国を纏める公爵家の勲章が付けられていた。

将軍なだけあって敵国の勲章は頭の中に入っている。

漸くカーセルは理解する。



「ラバン王国並びにセリア王国、全権代理人の月宮涼太だ。貴様ら帝国を粛清しにきた。柚を苦しめてきたこと。お前たちは俺の逆鱗に触れていることを忘れるな」



ギロリとカーセルを睨みつける。

膨大な魔力が涼太を中心に渦巻き砂埃が舞い上がる。


身を突き刺す威圧感はとても現実のものとは思えない。

木製の処刑台は悲鳴を上げてヒビ割れて崩れていくのが分かる。

カーセルの全身が命の危機にある事を訴えかけているが身体を動かすことすらままならない。




「カーセル将軍、理解したか?帝国は触れてはいけない領域にまで手を出してしまったのだ。絶対に敵に回してはいけない存在をお前たちは怒らせたんだよ」



イザベルは戦意を喪失したカーセルを哀れむ。

本物を目の当たりにした男に勝ち目などある筈がない。


カーセルは威圧に耐え切れず薄れゆく意識の中、帝国は決して触れてはならない怪物の尾を踏んでしまったことを後悔した。

次回更新日は11月17日です。

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