18話 樹海の恵み
ブクマ並びに評価ありがとうございます。
「それじゃあ、行くとするか」
「「はい」」
朝になったので俺たちはセリア王国に向けて歩き始めた。
「そういえば、俺って身分証も金も持ってないんだけどどうすればいい?」
これは大切な事だ。
一文無しのの状態では何も出来ないし、身分証がなければ国にすら入れないんじゃないのか?
「あ! それは大丈夫です。私がいるので身分証は護衛という事にすれば問題ありません。お金については、助けて頂いたお礼に私が何とかしてみます」
ふふん! と胸を張るクリス。
この子、年の割に発育がいい気がする
「いや、そこまでしてもらう訳にはいかないよ。金については自分で何とかするからどこか稼げる場所ってないかな?」
「それでしたら私の騎士になりませんか? その……涼太さんはお強いですし、それに優しい方なので」
顔を紅くしてそう言ってくる。
ん?
俺何か変な事言ったか?
「すまない。今は自分で行動して色々な事をしてみたいんだ」
「そうですか……残念です。それでしたら冒険者なんていかがでしょうか? でも、その前に是非とも私の屋敷にお来し下さい。命を救ってもらったのに何もしないというのは人として恥です!」
「分かった。どうせ何があったか説明するのに俺を呼ばれそうだし、良ければ国に着いた後そのまま一緒に行ってもいいか?」
「はい! 是非そうして下さいね!」
俺の手を握りブンブンと振り回す。
元気いいなぁ。
しばらく歩いていると魔物の探知があった。
数は6つか、そこまで危険な感じはしないな。
「なぁ? 魔物がこっちに来そうだから注意しとけよ」
一応俺は忠告しておく。いきなり現れてパニックになったら嫌だしな。
出てきたのは4メートルほどの亀と2メールほどの蟹が五匹だった。
【鋼鉄亀LV.98】【土蟹LV.89】
亀と蟹か。
甲羅同士の組み合わせね、仲良いのかな?
スッポンならコラーゲンが美味しいんだけどなぁ。
あれ? 亀って食べられたっけ? いや、止めとくか聞いたことないし。
蟹だな。
今日は蟹のフルコースにしよう!
良かった。今晩のメニューが決まった!
「なっ! 鋼鉄亀に土蟹だと!」
ミセルは明らかに動揺している。
え?
何? 強いのこいつ。
「こいつらは危険なのか?」
「逃げましょう。どちらもAランクの魔物です。私達が勝てる相手ではありません」
これでAランクかぁ。
強い方なのか?
まあ『死の樹海』というのだから実際強いんだろう。
何か実感ないけど。
やはりあの千住黒死像と戦ったせいで感覚が麻痺しているのかな?
まあ、パパッと倒すに限るな。
鮮度は大事だ。
「龍の雷光」
俺の手から龍の形をした雷光が放たれる。
その攻撃は敵を射殺さんと縦横無尽に暴れ敵を殲滅する。
全ての敵を倒したので俺はアイテムボックスに死骸を入れていく。
「え……いま……えっ?」
「ん? どうした? ミセル」
ミセルは点になって固まっている。
そんな凄い事したか?
「凄いです! 涼太さん本当に強いのですね! まさかAランクの魔物が一撃だなんて!」
クリスの方はハイテンションではしゃいでいる。
うん、敵を倒したんだから喜ばないとな。
歩くのを再開するとマップに赤い点滅の様な物があった。
「なぁ、ちょっと寄り道していいか?」
「はい、問題ありません」
「私も同じく」
了承も取れたことだし、俺は2人を連れて赤い地点に向かう。
するとドーム型に蔓が覆っている場所に着いた。
あそこか、周りに魔物はいない様だな。
よく見れば入口の様な物もある。
「あれは何だか分かるか?」
「涼太様。あれは恐らく安全地区だと思われます。この様な危険地帯やダンジョンに稀に設置されているのです」
安全地帯か、なら行ってみるのも悪くないな。
それにしてもマップがなければ分からないような場所だし気になる。
中は見渡す限りの果樹園であった。
色鮮やかな果実が実っている。
「わぁ! すごいです。これ『エメラルドメロン』ですよ! こっちは『ゴールデンマンゴー』です!」
クリスは果実を見て大はしゃぎである。
「なぁ、あの果実ってそんなに凄いのか?」
「はい、涼太様。見渡す限りですがどれも超が付くほどの高級品です。私も数度程しか見た事がない物ばかりです」
ほうほう、それは凄いなぁ。美味いんだろうなぁ。
「じゃあ、食べてみるか」
「なっ、このような高級品は騎士程度の私が口にするなど……ジュル」
うん。食べたいよね。
分かるよ、凄く美味しそうだもん。
「ミセル、ここには俺たちしかいない。つまり、ここは俺達だけの楽園だ。食っても誰も文句など言わない」
「なるほど、私が間違っていました」
「それじゃあフルーツ狩りといこうか」
俺はまずエメラルドメロンを3人分に切り分ける。
中からは芳醇な香りが溢れ出てくる。
「うわぁ! 凄くキラキラしてます」
中は光に反射して宝石の様に輝いている。
パクッ
凄く美味しい。
何これ? 糖度とかも凄い事になってるんじゃないのか?
後味もサッパリしてていい。
「私は今、本当にお嬢様の騎士になれて良かったと思います」
「そうねぇ。私も中々食べた事無いし、食べられたとしてもほんの少しだから感動しているわ」
2人は俺が他にも切り分けたフルーツを食べてご満悦の様子だ。
俺はそれとは別に『苺の木』に沢山実っている苺を1つ取って食べてみる。
大きさはスーパーで売っていた巨大なあまおうの倍程の大きさだ。
パクッ
ああ、幸せだなぁ。
苺は好物だし、中々美味しいのは食べる事は出来なかったからなぁ。
大きいが水っぽく味が薄いのとかはよくあるがこれはそんな事無い。
噛めば甘さが溢れ出てくる。
大きさも大きいので食べ応えもある。
密度も凄い、旨味が凝縮してるんじゃないのか?
糖度は15以上はあるな。
アテナ達のお土産にするか。
取りすぎはダメだから加減はしよう。マーキングしていれば何時でも跳んで来られるしな。
俺はアイテムボックスの中に次々に入れていく。
「あの……」
ふとクリスがこちらに声をかけてきた。
「ん? どうしたんだ」
「先程から思っていたのですが、それはアイテムボックスなのでしょうか?」
俺の手にある袋を見て何やら驚いている。
「確かにアイテムボックスだが珍しい物なのか?」
「はい、アイテムボックスは現代で作ることの出来る職人は指で数える程しかいません。更に言うと、ほとんどのアイテムボックスは小物を入れる程しか機能がありませんので涼太さんの沢山入るアイテムボックスはとても貴重なのです。いいなぁ、どこで手に入れたんですか?」
「いや、これは自作だけど」
時元魔法を使える人材がこの世界には少ないという事か。
「ふぁ!? 自作ですか! 凄いですよ。流石は涼太さんです」
「良かったら作ろうか?」
「え! いいんですか。ありがとうございます!」
うん、思い切りいい子だなぁ。
欲しいものは欲しいとはっきりと言うあたりはやっぱり貴族の令嬢なんだ。
まあ、ハッキリという子は好きだから俺的には問題ないが。
俺は早速アイテムボックスを作りにかかる。
デザインは二匹の猫が戯れている柄にしよう。
この世界に柄は見たところ、そこまで柄に種類が無いから無駄にハートや目立つのはやめときたい。
材質はシルクにしよう。触り心地が好きだし。
袋の形にしたら【結界魔法】で『耐熱、防水、非破壊』などの機能を付与していく。
「わぁ! 凄く可愛いです」
「私の分までありがとうございます」
どうやら変ではない様だ。良かった。
「果物は家へのお土産にしてもいいでしょうか?」
「ああ、良いんじゃないのか? クリスの父さんや母さんも喜ぶだろう」
俺もそうする予定だ。
「しかし、取りすぎても保管が出来ないので悩みますね」
「ああ、それについては大丈夫だ。アイテムボックスには時間停止の魔法も組み込んでいるから腐る事はないよ」
そう言うと2人は固まってしまう。
あぁ、次元魔法ですら希少なのに時空魔法と2つを持つ人はいないのか。
「涼太さんって本当に何者なのですか?」
「うーん、唯の旅人だよ」
「旅人はそんな芸当出来ませんよ」
「はは、まぁ気にしないでくれ。そんな事よりもお土産を取ろう」
悪いけど今は詮索しては欲しくない。
「そうですね! ミセル、一緒に取りましょう!」
「はい、お嬢様!」
2人ともウキウキした足取りだ。楽しそうで何よりだな。
「取りすぎは厳禁だぞ」
「「はーい」」