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194話 邪神



牽制し合うかのように睨み合う二柱の神。

互いの身体から神気が発せられ、辺りの空間が共鳴し合い地鳴りが響く。


涼太は後ろにいる三人を結界魔法で覆い、自分と邪神の戦いに割って入って来られないように内からも結界をかける。


柚は結界ごしに何かを伝えようと大きな口を開けて喋るが今の涼太の耳には届かない。

届いてはいけないのだ。


これから起こるのは神と神の戦い。

例え圧倒的な結果に終わろうとも、神が発する神気を一般人がモロに当たってしまえば身体に何が起こるか分からない。


「正直な話、神との殺し合いは初めてだな」


身体から溢れ出る黄金の神気を見つめ、ゆったりとした動作で身体の関節を鳴らす。

一歩、一歩、前へ踏み込む度に歩いた跡にヒビが入る。


神界にいた頃はヘファイストスやトール、アポロンとの修行で何度も神化を行ったがそれはあくまで神と対等に戦うためのお膳立てに過ぎず、戦うとしても本気の殺し合いはしたことがなかった。

いや、思い返して見れば以前にロキとの交戦で一度神化をした。

しかしその時は神化も慣れてない上に圧倒的な力の前に手も足も出なかった。


『ちぃ、我が負けるはずない!【ダークミスト】』


邪神の身体から霧状の闇が一帯に散りばめて涼太の視界を塞ぐ。


『ふははっ、何も見えんだろう。この霧は暗転と幻惑の効果を持つ。我の姿を捉えることは不可能だ!』


現に近くにいるはずの柚たちの姿すらも視界に入らない。

音はするもののそちらへ殴ろうとしても霧が腕を掠めて物体に当たる感触はない。



「確かに厄介だな」

『ふははっ、そうであろう!そうであ……ゴハァ!』


涼太は後ろを振り向き一直線に拳を振り抜く。

拳に伝わる肉の感触を確認して腕を回転させてそのまま邪神を吹き飛ばす。


霧は空気に溶け込んで吐血する邪神が姿を現した。



『なぜ……だ』

「お前、隠れるのが下手くそなんだよ。気が昂りすぎてどこにいるのか丸わかりだ」



気門を取得している涼太は、戦闘において常に目は頼らずに相手の気配で敵を認知している。

格上の敵とばかり戦ってきた涼太は、目で頼る戦闘をすれば間違いなく敵の攻撃速度に反応が追いつかない。


長年の苦行とも言える修行の成果だ。



『行け、我が半身たちよ!』


取り囲んでいた人型の闇が涼太を襲う。

手を変形させて鋭利な刃を身につけて涼太の首を刈り取ろうとする。


しかし、


その攻撃は涼太の皮膚に食い込んではいるが、それ以上先へ進まない。


『なに!?』

「さっきから勘違いをしているようだな」

『どういう事だ!我が刃は肉を斬る程度ならば造作もないはず』

「お前が俺にとって格下である限り、お前の攻撃は俺には届かないんだよ」


【下刻無効】は自身よりも劣る相手の攻撃の一切合切を無効にするチートスキル。

邪神は涼太を殺そうと必死の攻撃をしているが涼太にとっては蚊に刺された程度の感覚しかない。


「今度はこちらの番だ。【太陽サンシャイン】」


天空に手をかざす。


魔法の発動した兆候は見えたが周囲は何の変化もない事に安堵する邪神。



しかし邪神は空間一帯の温度が急激に上昇している事に気がつく。

眩しい光が天から降り注ぎ上を向くと言葉を失った。


恐らくは数千度は下らない熱量を持つ太陽が自分のすぐ上にあった。

太陽は徐々に大きくなり、直径100メートルはある巨大な熱のエネルギーを持つ物体へと変わる。


「朽ちろ」


涼太が手を下ろす合図とともに太陽は地鳴りを起こして邪神に目掛けて襲う。



『くっそぉぉぉ!【暗黒物質ダークマター】』



巨大な闇のエネルギーが放たれ、太陽とぶつかり合い世界が闇と光に分かれる。

邪神は両手を前に出して自身が持つ魔力の全てを注ぎ込む。


涼太も太陽に魔力を送り込む。

保有する魔力量からしてみれば微々たる量だが、太陽は放った時に比べて二周り以上の大きさへと変わり闇を呑み込んだ。


涼太自身の肉が焼ける感覚はあったが、【真祖】の力により一瞬で再生する。


『バ、かな……この我がこんな……』


光が収まり邪神が姿を現わすが、全身は火傷をして呼吸も荒々しく膝をついていた。

あの攻撃でも生き残るとは流石は神と呼ぶべきだろう。


「まさかあの攻撃に耐えられるとは思わなかったな」

『とう……ぜんだ。我は邪神なり、あの程度の攻撃で倒せると思うな』

「次の攻撃も防げたら本気を出そう」

『……はっ?』


この男は何を言っているのだ?

あの攻撃が最強の一撃ではないのかと困惑する。



涼太を中心に7つの巨大な魔法陣が描かれて、再び上空へと移動して魔法が展開される。


言葉を失う。


結界に守られている柚やイザベルたちも言葉が出ずに口を開けて上空の魔法陣を見つめていた。



展開されたのは先程と同じ太陽。

更にそれぞれの魔法陣からは水、風、土、雷、光、闇、の球体エネルギーが現れる。

それらは呼応するように一つへと収束して太陽の5倍はある七色の光の球体へと変わる。


アンリはこの現象に理解と同時に否定をした。

複合魔法で火と風の力を混ぜわあせてより強力な魔法を作り上げることは可能だ。

しかし火や水といった反属性の魔法を掛け合わせることは不可能。

それなのに7種の元素魔法全てを組み合わせた。

法則を無視した複合魔法が失敗せずに魔法として構築されている。


あり得ない。



『なんだ……それは。なんだ……なんなのだぁぁぁ!』

「くらえ、【エレメンタルフォール】」


邪神の真上に移動した魔法球体は一時的に縮小して七色の光を放つ光線に変わり邪神に降り注ぐ。


光は徐々に弱まり底見えぬ穴を残して収まる。

当然、邪神の姿はどこにもなくその存在をこの世から消し去った。






(柚視点)



涼太が因縁の敵である高橋を倒した事に心が昂ぶった。

自分の大好きな人に再び合間見えて、苦しめていた運命から解き放ってくれたのだ。


だが真なる敵は邪神だと言う。

二度、悪神と対話したことがあるからこそ目の前の敵が神であり自分たちでは絶対に手に負えないことは目に見えていた。


例えイザベルが完全に復活して先程と同じ自己犠牲の状態になろうとも勝てる想像が出来ない。

しかし涼太は三人を庇うように邪神の前に立つ。



「だめ……涼くん」


もしも涼太が自分たちを守る為に邪神の前に立ちはだかると言うのであれば、それは愚かしい。

涼太は確かに暗部の男たちを易々と倒したほどの実力を持っている。

果たしてそれが邪神にも通用するのだろうか?




幾度か涼太が邪神と言葉を交わし時間稼ぎをしているようにも見えた。



(嫌だ……せっかく会えたのに)



非力な自分には何もできないと分かっていても涼太がみすみす死ぬ様など見たくもない。

尻を地に付けたまま涼太へ手を伸ばしーーー。



ゾクッ



心臓が鳥肌を立たせた錯覚。

武者震いにも近い高揚するような感覚。


(なに……これ?)



訳がわからない。

先程まで邪神の存在に震えていたはずだが、その震えが収まって気がつけば自分は涼太の後ろ姿をじっと見つめていた。


イザベルを死の境から救った時に使った黄金のオーラ。

それが涼太の身体を中心に螺旋状に溢れ出ていた。


耳の片隅で漸く聞き取れたかどうかの音には違いなかった。

しかし確かに涼太はこう言った。



ーーーー神化と。



「柚、私は一体どうしたのだろうか。目の前の二人を見ていると震えが止まらないのだ。こんな事は今までに経験をした事がない」



当然だ。

もし涼太が発した言葉が本当であり、実際にその存在になっているとすれば、イザベルたちでは手に負えない別次元の戦いだ。



先に動いたのは邪神だ。

黒い霧を発して姿を絡ませる。


涼太の視界を完全に塞いだ攻撃をしようと目には見えていた。

しかし涼太は一歩も動かずに後ろを振り向いて邪神の身体を抉り込むように殴りつける。




束の間、詠唱もなく魔法が発動する。



いち早く気がついたのはアンリであった。

天を見つめて口を大きく開く。

呆けている姿は余りにも見っともなく、何を見ているのだとイザベルも天を見上げて言葉を失う。



「あれは……なんだ?」

「分かりません……ただ、熱を発していることしか分かりません」

「あれが炎系統の魔法だというのか?馬鹿馬鹿しい、そんな次元の魔法ではないだろう!」

「分かっています!」



太陽は日中に光り輝いている認識しかない、それがこの世界の常識だ。

実際にどのような形をしているのかなど知るはずもない。


しかし柚は科学の授業や図鑑で幾度も見た事があるからこそ分かる。

あれは紛れもなく縮小した太陽であると。

結界があるからこそ自分たちには害は一切ないが、恐らく結界の外に出ればそこは灼熱の大地へと踏み入れるのと同じ。

中心温度1万5千度、表面温度でも五千度だ。

サウナなんて生易しいもので終わる筈がない。



涼太が手を振り下ろし太陽が降下する。

邪神は焦って巨大な闇を展開。

赤と黒のエネルギーがぶつかり合う。

一瞬、拮抗し合うようにも見えたが太陽は容易に闇をのみ込む。



息を切らして地べたに這い蹲る邪神。


ここに来て漸く柚たちは涼太が邪神を圧倒していることに気がつく。


ーーー邪神を圧倒する存在。

ーーー自分たちでは理解する事ができない力。

ーーー何よりも圧倒的なまでの存在感。



「柚さん、あの方は神ですか?となるとあなたも……」

「違います!私が神様なわけないです!でも……涼くんならあり得ます。人間でありながら神の域に達する存在」



初めてロキと会った際に彼女は言葉を濁していたが必要以上に『彼』に固執していた。

あの時は彼が何者かなのが分からなかったが、今になって漸く分かった。


彼女は涼太を知っていたのだ。

同格ではあるが同類ではない。


涼太からはあの禍々しいオーラは感じ取れない。




「あ……あり得ない!こんな……こんな魔法、知らない!」



アンリは身体を震わせた。


7つの元素を司る巨大な魔法陣が7芒星を描くように上空に現れて中心へと集まる。

異なる属性同士が共鳴し合い、虹色に輝く巨大な球体へと変貌した。

一つ一つが先ほどの太陽と同じエネルギーを持つ。



(あははっ、これは笑わずにはいられないや。本当に涼くんはチートだね)



天から虹色の光線が邪神に降り注ぐ。


邪神の禍々しい気配は消え去り、残ったのは底の見えない巨大な穴。

圧倒的なまでの勝利に柚は顔を引きつらせて笑った。




次回更新日は10月20日です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 太陽の中心温度は1500万~1600万度です。 1万5千度ではありません。
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