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192話 伝達



髪は乱れて決して健康体とは言えないが、涼太は見間違えるはずがない。

幼い頃から共に過ごしていたかけがえのない存在を。


「柚ッ!」


後ろへ振り向き地べたに座る柚を涼太は強く抱きしめた。

お互いの熱が伝わり2人は本当に再開したのだと実感する。



「ごめん…….俺は君がこんな酷い目にあっているのに気がつかなかった。知っていれば何があろうと投げ出して君を助けに行ったのに!」


柚がこんなにも酷い目にあっていた中、自分は一体何をしていた?

柚の存在に気がつかずに、自身を高めるためにひたすらレベリングの日々と平和な日常を過ごしていた。

涼太にとって、それらは確かに利になる行いであった。

だが全ては悪神ロキの手の内で起こった出来事に過ぎない。

目の前の柚の姿を見て彼女が平穏な生活をしていたなど絶対に考えられない。

涼太の心は柚を助けられなかった罪悪感に満たされていた。



「いいの!確かに辛かった。何度も心が折れそうになった!けど信じていたよ、絶対に涼くんが助けに来てくれると!」

「本当に……本当にごめん」

「ねぇ……涼くん。私ね、頑張ったかな?最悪の神様と環境下で涼くんに会える事を信じて頑張れたかな?」

「あぁ!柚は頑張ったよ、辛い思いはもう終わりだ。俺が絶対に君を守る」


その言葉を聞き柚は涼太の胸に顔を埋めて泣き叫ぶ。

顔をぐしゃぐしゃに涙で濡らして、今まで溜まった辛い思いを全て吐き出すかのような勢いで。


「ってぇな!…………おいおい、何でテメェがここに居やがる」


起き上がった高橋は目の前の光景に素で驚きを隠せずに目を丸くする。

地球で確かに殺したはずの人物が柚と涙を流しながら抱擁していたからだ。


「少し黙ってろ」


ギロリと涼太は高橋を睨みつけて無詠唱で結界を自身を中心に展開する。

高橋は聖剣を手に持ち、涼太の張った結界を壊そうと剣を振るうが、結界に聖剣が当たった衝撃と共に再び後ろへ吹き飛ぶ。


これは内と外を完全に遮断した結界。

外からの攻撃や声の一切合切を拒む涼太の生み出したオリジナルである。

涼太の師であるヘファイストスであっても壊すのに渾身の一撃を十数度一瞬のうちに叩き込まなければ崩せない最強の盾の一つだ。



しばらくして目を大きく腫らした柚は涼太の胸から顔を離して目を擦る。


「涼くん、一つ言わせてください」

「なに?」


果たして柚は自分に何を言うのだろうか。

助けに来るのが遅い、自分のことを恨んでいるのではないのか?

そんな不安が内から込み上げて来る。


「助けてくれてありがとう!」


今まで見せたことがない程に曇りのない笑顔で柚は告げた。


「ーーーあぁ!そうだな、待たせた!」


お互いスッキリした顔つきで笑みを浮かべる。

その顔には一切の不安は現れていなかった。


「そうだ、涼くん!私、イザベルさんを助けなくちゃいけない!」


ハッと先程まで置かれていた自分の状況を思い出す。

涼太の張った結界は高橋の攻撃すらも弾く強力なものと判断した柚は危機的状況にあるイザベルの事を思い出して近くにいる彼女の側に駆け寄る。

アンリは高橋から貰った強烈な一撃に、口から血を流していたが柚と涼太が感傷に浸っている間もイザベルに回復魔法を掛け続けてどうにか生命の維持をも保たせていた。


「柚さん、彼が何者なのかは知りませんが総隊長を助ける手伝いをしなさい!」

「分かりました」


再び柚はイザベルに手をやり解毒を試みる。

しかしアンリもイザベルが自分には手におえる状態にあることは理解していた。

一向に治る兆しが見えずに、このままでは自分の魔力が底を尽きてしまう事は理解できる。

しかし自分が尊敬できる上司の死を見過ごすことは彼女には出来なかった。


2人の必死な形相に涼太は倒れているイザベルに目を向ける。

以前にも魔法聖祭で馬鹿王子が爆発的なステータスを向上させた後遺症にも似ているが、彼女の損傷はそれとは比にならないほど酷い。

少しでも回復魔法を止めれば間違いなく死に至る程の重症だ。


「柚、彼女は?」

「私をグロテウス帝国から助け出してくれた恩人だよ。彼女がいなければ私は死んでいたかもしれないの!」

「そうか」


言葉は必要ないだろう。

涼太は目の前で倒れている彼女に最大の感謝をする。

それと同時に必死に魔法をかける2人の側に近づいてイザベルに手をかざす。


「あなたは!勝手なことをしないで下さい!」

「俺も彼女を助けたい。柚を助け出してくれた恩人を絶対に死なせたくない。助けさせてくれ」

「……変なことをすれば、私はあなたを敵とみなします」


当然の判断だろう、彼女は涼太のことを何も知らない。

何処ともなく現れた不審な男。

柚の知り合いではあるだろうが、信用するには不確定要素が多過ぎる。

ただ涼太にとっては彼女の言葉は十分過ぎた。


「【リジェネレーション】【エクストラヒール】【天使の息吹エンジェルブレス】【魔力譲渡マナトランスファー】」


最大の敬意と感謝を払い、

涼太は必要以上の起死回生の回復魔法をかける。


瞬間、

イザベルの身体は溢れんばかりの黄金の光に包まれる。

傷は瞬きする間に癒え、機能の停止していたはずの魔力回路も新たに再構築される。

涼太から譲渡された魔力がイザベルの身体を巡って細胞の一つ一つが歓喜するかのように震える。


「これは……黄金の魔力なんて物語でしか読んだことがない」

「凄い……やっぱり涼くんはチートなんだ」


黄金の魔力などアンリは子供の頃に読んだ空想上の話に過ぎないと思っていた。

英雄と呼ばれる人物たちが放つ魔力は可視化する事があるが色を浴びることはまずない。

一体この人物は何者なのだろうか。


「ーーーカハッ!ゴボッ、ゴボッ!」


イザベルは喉に詰まった血反吐を咳き込んで外へ吐き出す。

起き上がり両手両膝をついて何度も深く深呼吸をする。


「私は……生きているのか?」

「総隊長!良かった、本当に良かった!」

「アンリ、お前が助けてくれたのか?」


自分を含めた3人の中で最も回復魔法に長けているのはアンリしかいない。

死ぬ寸前の状態の自分を治すことなど到底出来るはずがないと違和感にかられながらもアンリの顔を見る。


「いいえ、治してくれたのはそこの男です。どうやら柚さんの知り合いですね」


イザベルは顔を横に向ける。

高橋蓮次と同じ黒髪と黒目の男。

筋骨隆々な体型とは違い、見た目は痩せているがしっかりと筋肉が付いている体躯。


この男も勇者と同じなのではと疑念を抱くが、勇者が放つ様な不快感は一切ない。


「そうだ、敵が!」

「安心してください、結界を張っていますので敵が俺たちに近づくことはまずあり得ません。少し話をしてからでも問題ないでしょう」

「そう……か?ところでお前は何者だ」

「俺は月宮涼太。柚の幼馴染です」

「幼馴染?君たちは異世界から召喚されたのだろう」

「まぁ……訳あって俺はセリア王国とラバン王国で活動しているんですよ」


まさか神様と深い繋がりがあると言っても信じては貰えないだろう。

この場合で最も信用できる言葉を選ぶのであれば、別の国で召喚されて活動している事くらいだ。


涼太の言葉を聞いてイザベルは大きく目を見開く。


「ラバン王国とセリア王国か!頼む、私はどうなってもいいから柚だけは王国へ流してくれ」

「事情は深くは知りませんが安心してください。俺は柚も恩人のあなた方も死なせるつもりはありません。グロテウス帝国とは陛下たちからも潰してくる了解は得ていますので」

「陛下……君は国王と繋がりがあるのか?」


涼太はアイテムボックスから布に付けられた紋章のバッチを見せる。

順にセリア王国、王家紋章、四大公爵全ての紋章、伯爵紋章

ラバン王国、王家紋章、アルマス公爵の紋章。


セリア王国の四大公爵は敵国に関係なく貴族や兵士ならば誰もが知っているセリア王国の貴族。

アルマス家はラバン王国唯一の 公爵家。

それだけでも異常だということは分かるのに両王家の紋章がそこにある。


渡した貴族はその人物を信頼し時には全権代理を任せる事例もある。

法を犯した人物を裁くことも可能だが、逆に罪に問われる行をすれば極刑は免れない。

それ程に貴族、王族にとっては重要なバッチだ。


つまり、セリア王国とラバン王国の最高地位を持つ人物たちの勲章バッチを持つ涼太は国王と同地位の代理人と言っても過言ではない。


イザベルはこんな年端もいかない男が国を任されているなどあり得ないと思うが、勲章の重大性を理解して嘘ではないと判断する。


「君ほどの重要人物がなぜここに?」

「そんなの柚を助けに来たからに決まっているでしょう。ついでに柚を酷い目に合わせたグロテウス帝国への制裁を兼ねてね」


つまりこの男はセリア王国とラバン王国の代理人として単独で帝国へ戦争をしに来たのだ。


普通ならばあり得ない。

どんな英雄であろうとも国を相手に単独で挑んだ話など聞いたことがない。



トントンッ、



ふと背中に張り付いていた柚がこっちを向けと涼太の背中を叩く。


「ねぇ……涼くん」

「何だ」

「私、気がついたんだかど涼くんって随分良い匂いぎするね?」

「と、突然どうした……んだ?」


自分の匂いなど確認した事はないが、良い匂いだと言われて損な気分にはならない。

ありがとうーーと言おうとしたが言葉が出なかった。

何故なら柚の目が笑っていなかったからだ。


「本当に良い匂い……まるでずっと一緒にいて根付いたような……」

(なんだ、当然どうした!?女の子ってあれか。アテナたちの事か!?それともクリスたちの事か!いや待て、俺は何故こんな危機感を感じているんだ!)

「ねぇ、涼くん」

「はい!」

「そりゃ、涼くんは優しくてカッコいいしモテるのは分かるよ。異世界に来た時からもしかして、テンプレハーレムなんて事になってるんじゃないかって思いましたよ」

「はい」

「うん、多分他の女の子たちも涼くんの事が好きなんだろうね。確かに私も独占したい気持ちはあるけど、それはワガママになるんじゃないかと思うの」

「はい」

「だから、全部片付いたらその子たちと話をさせて。そしたら許してあげる」


柚の言葉に一切の口出しを涼太は出来なかった。

ハーレムなんて事になっている自覚は全くないし、どちらかと言えば世話をしている立場だ。

しかし同じ家で過ごしていた経緯もあり、柚の言葉を否定する事は不可能だった。


「そうだ!外野の連中をどうにかしないといけなかったか!」


気をそらそうと涼太は結界の外でひたすら攻撃をしている高橋と黒装束の男たちに目を向ける。

柚はビクリッと体を震わせて涼太の手を握る。

忘れていたが、結界を解けば高橋たちは柚たちを襲いに掛かるだろう。

先程の恐怖がフラッシュバックして柚の身体が硬直する。


柚の姿を見て涼太は柚の手を握り返す。


「大丈夫、後の事は俺一人に任せろ」

「涼くん、ほんと?」

「柚も言っていただろう。自分で言うのもなんだが俺はチートだよ」


柚の手を離して立ち上がる。


「一人では不足でしょう。私も助力します」


イザベルは立ち上がり再び刃を手にする。


「病み上がりですから無理は禁物ですよ。あなたは二人を護ってあげて下さい。それにこれは俺が片付けるべき因縁です」


そう、涼太にとって高橋は因縁の相手であり柚を傷つけた憎むべき相手。

誰にも手出しはさせない。

紛れもなく、この手で葬り去らなければ気が済まない数少ない認知した敵である。


「涼くん、気をつけて」

「安心しろ、俺はこの地上では万が一にも負けない」


自分の強さに溺れているわけではない。

レベルという概念から解き放たれた上位のステータスを持つ涼太だからこそ言える確固たる自信。

神と同格の存在だからこその所以。


辺りの結界を解く。


「てめぇ、一体何をしやがった!なんで死にかけの女が生きていやがる」

「御託はいい、かかって来い」

「はっ!俺様は勇者だぞ?テメェごときが相手になるはずがないだろう。ボコボコにした後にお前の目の前で柚を犯してやるよ!」


黒ずくめの男たちは武器を手に取り突然現れた男へ敵意を向ける。


高橋は知らない、

既に勝負は着いていることを。

自分が犯してきた行動と発言が何を意味するのか。


「ははははっ、ははははっ!」

「頭でもイかれたか?」

「いやはや、お前はやっぱり凄いよ。本当に凄い」

「あん?当然だろ、俺は最強だぞ」


壊れたように当然笑い出す涼太に高橋は大した疑問は抱かなかった。


しかし暗部の男たちは、ここ一帯の空気が急激に冷める感覚に見舞われる。

いや大気が変化しているのではない、自分の体温が急速に低下しているのだ。

体温を高めるためか心臓の鼓動が速くなる。


本能が告げている。

この男は自分たちと一人で戦っていたイザベルなんて話にならない程の強さを持つと。



「ーーー誰が、誰を犯すって?いい加減その口を閉じろゲス野郎。久しぶりだよ、本当に……ここまで憤怒を抱いたのは」

「なにを……言ってやがる!」


ようやく高橋は気が付いた。

前に進もうとも自分の足が震えて動かないことを。


「誰一人として逃げられると思うなよ?ここから先は俺の蹂躙ターンだ」

次回更新日は10月6日です

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