189話 脱出
176話修正
高橋蓮次のステータス
【成長速度1.5倍】→【成長速度3倍】
【〇〇の加護】追加
隠密を厳守で行動していたイザベルだが、すでに暗部と対峙してその考えはすぐに捨てた。
あの場にいた暗部の人間は数名手で数えられるほどだったが、果たしてそれで人数は全てであったのだろうか。
答えは否だ。
暗部は集団であり、その数は百に達すると言われている。
あの場に伝令役の暗部が居たのであれば戦闘に参加するとこはなく上司である大臣に報告する筈だ。
そうなってしまえば国中から自分たち敵対されて逃げるのがいよいよ不可能になってくる。
その前にどうしても逃げる必要がある。
「どうか生き残ってくれよ、レティシア」
イザベルの表情は暗い。
確かにレティシアは強い。
自分の隊の中でも3番には入る実力者だが戦闘は圧倒的な強者でもない限りは数がものをいう。
優勢な状態でも時間が経てば消耗戦に移るだろう。
それを理解した上でレティシアは残った。
その思いを無駄にしないためにも自分は後ろを振り返ってはいけない。
2人は速力を上げて国からの脱出を図る。
「い、痛い。下ろして!」
「ダメだ、今は一刻を争う」
「総隊長、一旦足を止めましょう。どうやらこの子は足首の関節が外されています」
イザベルは気がつかなかったが後ろを走っているアンリは柚が苦悶な表情を浮かべていること、足首が異様に腹はがっていることに気がついていた。
「っと、すまない、気がつかなかった」
一旦建物の陰に身を潜めて柚を降ろす。
「少し痛むが我慢してくれ」
そう言うとイザベルは柚の脛と足を掴んで力を入れる。
戦場で戦っている中で兵士が怪我や脱臼をする事は多々ある。
幾度もそういう場に出くわしては自分の部下を治してきたイザベルにとって外された関節を元に戻す程度はどうという事はなかった。
痛みはあったが一瞬の事で先ほどの激痛が無くなり柚は安堵の表情を浮かべる。
「あ、ありがとうございます」
「柚さん、回復魔法をかけますのでじっとしていて下さい」
「大丈夫です。これぐらいの腫れならすぐに消えます」
先ほどの激痛はないにしろ、痛みがあることには変わりない故にアンリは柚の足首に回復魔法を掛けようとしたが柚はそれを止める。
同時に柚の言葉に違和感を覚えた。
いくら人間に自己治癒能力があろうとも、擦り傷でさえ完全に治るのには数日かかる。
一体この少女は何を言っているのだろうか。
「……なっ」
「ほう、これは驚いた。なるほどなお前を前線に出そうとした理由はこれか?」
20秒ほどの時間が掛かったが柚の足首の腫れは瞬く間に消えていった。
アンリは驚きに目を見開き口を大きく開く。
「これは神様から貰った私の特異体質です。超再生というどんな怪我でも直ぐに治るスキルです。この力は奥の手として捕まった時には一度も見せてはいませんでしたが」
「神か、転移者は神に告げられてくるという話を聞いたことがあるが……強力なスキルだ」
「まぁ、人を玩具の様に考えているクソみたいな神様でしたがね」
柚は思い出す。
悪神ロキとの出会いの中で彼女が一体自分に何をしたのか。
確かに虚弱すぎる自分に生き残るためのスキルを持たせてくれた。
それに関しては感謝の念を抱くが、これまで自分が受けてきた扱いを考えると苛立ちを覚える。
面白半分に自分に干渉しては何の手助けもしない神を敬えるほどの余裕は今の柚には無かったのだ。
「さて治療も済んだことだし再び行動を開始したいところだが……」
イザベルは建物の陰からいつもは人で賑わっているであろう大通りに目を向ける。
住民は大通りには居らずに屋台や商売店も開かれていない。
代わりに今にも侵攻を開始しそうな兵士たちの姿が目に付く。
(ちっ……思っていたよりも早いな。国から脱出するためにはどうしても大通りを交差しなくてはならない。迂回して住民街を走れば安全面は配慮できるが時間がかかり過ぎる)
イザベルは自分の親指の爪を歯噛みして現状で逃亡するに最も有効な策を考える。
「総隊長どうしますか」
「…………アンリ、お前の魔力はまだ余裕がありそうか?」
「はい、レティシアが主体的に戦闘を行っていたお陰で魔力はほとんど使っていません」
「よし私は身体強化を使って屋根の上を走って一気に外まで行く。お前も魔法を使って付いて来い」
「了解しました」
イザベルは身体強化を自分に掛ける。
再び柚を担いで脚に力を込めて跳躍をする。
高さ10メートルはあるであろう外壁に足をつける事なく一気に屋根まで足を届かせた。
アンリは風魔法で自分をブーストして空中を何度か足場にしながらイザベルの後を追った。
「わ、わっ!凄っ……」
高さ10メートルなんて普通の人間が跳躍するのは不可能だ。
それを柚を担いだ状態で一切の表情を変えずに行ったイザベルに柚は驚く。
「少し荒っぽく運ぶことになるから舌を噛むんじゃないぞ」
「わ、私も降りて一緒に走ります!」
「お前は身体強化が使えるのか?屋根の上をほぼ全速力で移動することになるが」
「うっ、それは……」
柚はロキからチートな能力をいくつか貰った。
自分の魔力を消費する代わりにどんな攻撃でも防げる防御障壁、致命傷からも瞬時に回復する超回復、この世界でも超希少な毒魔法、状態異常耐性。
確かに強力無比な力ではあるが、あくまで自分自身の身を守るためのスキルであって身体強化などの戦闘を行うスキルはない。
「というわけだ、行くぞ!」
「きゃーー!」
足を踏み込み、屋根を形作る瓦が割れる音がする。
イザベルの速力は先ほどの走っていた数倍に跳ね上がり屋根から屋根へ放物線を描きながら跳ばずに垂直に移動する。
下の兵士たちはまさか人が自分たちの上を走っているとはつゆ知らずに進行の合図があるのを待っているのみだ。
その速度は凄じく、1キロメートルはあるであろう大手門まですぐの到着であった。
問題は門にいる警備兵だったが、目の前に見えたのは自分たちの隊に所属する女性たち。
イザベルたちの姿を確認すると手招きするようにこっちへ来るように合図する。
「お前たち、なぜここにいる?」
「それは当然イザベル様を逃がすためですよ。警備兵程度なら私たちで制圧は可能です。それよりも一刻の猶予を争うのでしょう。早馬を用意しましたので逃げてください」
命令は出していないはずだが、この短時間で自分を逃がすための手筈を整えられていたことに関心する。
やはり自分の兵は優秀だとイザベルは心の内で思う。
「助かる、レティシアが今例の暗部と交戦している。場所は独房だ。応援を要請してくれ。もし交戦して勝てそうになければ直ぐに逃げてくれ。無駄に命を散らすことは私が許さん」
「はっ!イザベル様もどうかご武運を」
早馬に乗ったイザベルは自分の前に柚を跨がせてアンリとともに国外へと逃亡を図る。
2:45
♢♦︎♢
肥え太った肢体にギラギラと輝く宝石の指輪をいくつも付けた男、大臣が腹に肥やした脂肪を上下に激しく降りながら廊下を走る。
その顔からはいつもの愉悦感は消え、蒼白になりながら自分の上司である皇帝の元へ急いで走っていた。
「陛下ァァァァァッ!陛下ァァァァァァァ!一大事にございますゥゥゥゥッ!」
大臣は皇帝の私室にノックもせずに勢いよく扉を開ける。
「あぁ、なんだぁ?うるせぇな、大臣のおっさんかよ」
「お、おぉ……勇者殿も居られましたか。失礼しました」
中には椅子に腰掛けて怪訝な表情を浮かべている皇帝とソファーに座って自分の爪の手入れをしている王女、そして甲冑を纏った勇者である高橋蓮次の姿があった。
高橋蓮次は突然の大声に不快感を覚えて軽く舌打ちをする。
「それでこんな忙しい時に何の用だ大臣。余は多忙であるために忙しいのだ」
「ぜぇぜぇ……失礼しました。緊急事態にございます。例の少女が逃亡並びに円卓の女騎士が裏切りました!現在、総隊長であるイザベルが少女を連れて脱走中にございます!」
「なにぃッ!雌犬どもが裏切りだと!?あの小娘は貴様の兵が連れてくる筈であったろう!」
知らせに皇帝の顔が紅潮し椅子を倒して反射的に立ち上がる。
今は戦争をしようという直前だ。
廃棄処分がてらに前線に送ろうとした少女については然程気にする事態ではないが、女でありながら帝国にとって大きな戦力足りうる円卓の女騎士が裏切ったのだ。
戦争でも円卓の女騎士が多大な戦果を挙げると期待していた筈がまさかの裏切りである。
「暗部の者は円卓の女騎士と戦闘中にございます。残りの兵は追跡に向かわせております」
「総動員させろ!絶対に他国に着くまでに仕留めろ!でなければ貴様の首は無いと思え!」
「はっ!失礼します」
大臣は滴る汗を拭おうともせずに数十秒前に入ってきた扉から出ていく。
皇帝は机に置かれたカップを手に持ち壁に叩きつける。割れたカップを見ても込み上げてくる怒りが収まる気配がない。
「くそっ!よりにもよって戦争前だと!実に腹立たしい」
「お父様、お気を鎮めてください」
「そうだぜぇ。たかが雌犬が数匹逃げ出しただけだろう。俺に向かわせな。柚も逃げ出したんなら俺が捕まえて遊んでやんよ」
皇帝とは正反対に高橋蓮次は新しい玩具を見つけたかのように笑いだす。
「おぉ、素晴らしい。お主ならば直ぐに奴らに辿り着くだろう。是非とも協力してほしい」
「代わりと言ってはなんだが、その裏切り者どもは後で俺の奴隷にしてもらうぜ?」
「あら勇者様、私という女がなりながら浮気ですか?」
「バーカ、お前は俺の女であいつらは雌犬、道具みてぇなもんだよ」
「うふふ、安心しましたわ。勇者様のご活躍を期待しておりますわ」
「まかせな、とう言う訳だ。その暗部とやらのに俺も同伴させてもらうぜ」
高橋蓮次はそう言うと皇帝の自室から出て行き軽やかな足取りで大臣の跡を追った。
「あぁ、楽しみだ。最強勇者である俺様が追い詰めてやるからな……柚」
高橋蓮寺 LV.110
種族:人族
性別:男
年齢:18
攻撃:1980
魔力:2300
俊敏:1800
知力:1400
防御:2100
運:100
特殊スキル
【成長速度3倍】
【勇者の威圧】
技能スキル
【剣術LV.36】
【剛力LV.24】
【威圧LV.18】
魔法スキル
【聖魔法LV.32】
【風魔法LV.28】
【火魔法LV.30】
【土魔法LV.14】
【水魔法LV.25】
称号
【〇儡の勇者】
【異世界より召喚晒し者】
【〇〇者】
【〇神の加護】
言い忘れていましたが、7章は三人称で文章構成をしようかと思います。
こちらの方が書きやすければ継続して続けていこうかとと思います。
追伸
涼太や神たちのステータスがぶっ壊れ過ぎていて弱過ぎるのではないか?と違和感を持たれるかもしれませんが、この世界の戦闘職に就いている人物の平均レベルは20〜50です。
100を越えれば冒険者で言うところのSランクは確実なレベルですね。
物語では表記していませんが、高橋蓮次のレベルが高いのは勇者補正とスキルと戦闘において良いところ取り、つまりは寄生レベルアップによるものです。
セリア王国からラバン王国へ向かう際にレベリングをした時のミセルと同格です…………まぁ、あれから結構経ってますからクリスたちと戦えば勿論……ねぇ?




