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186話 立復



 私はこの国から逃走を図る。

 その発言が意味することは帝国を裏切るということ。

 イザベルが放った言葉に頭で理解できずに隊員たち一同は沈黙する。


 当然だろう。

 彼女は帝国で筆頭の力を持つ騎士であり国に使える身だ。

 今、帝国軍は戦争を仕掛けている側であり、あと数時間もしないうちに第一陣がラバン帝国に向けて出陣する。

 どの兵士たちにも緊張が走る中で突然の裏切りなど誰もが想像するはずがない。


「あお……総隊長。仰っている意味が理解しかねます。確かに私たちは女という身で男たちからさげすまれている面もあり不満も当然抱いていますが、いきなり帝国から逃走するとはどういうことですか」

「お前たちは勇者召喚の際に現れた少女を知っているか?」

「はい、知らないはずがありません」

「ではその少女が今どこで何をしているのか知っているか?」

「それは……たしか王城で保護をしているのではないでしょうか」


 イザベルの質問に対する回答はあやふやなものだ。

 帝国兵は勇者召喚で巻き込まれた少女である柚のことを詳しくは知らない。

 ただ勇者のような特別な力を持っているとは聞いていないので、普通ならば謝罪を含めて元の世界に返すか客人として低調に扱うのが当然だと考えた。

 それが当然の贖罪であるからだ。


 周りの隊員たちからも同意した声が上がる。

 中には賓客としてもてなされているであろうと羨む者さえいた。


「保護か。確かに皆にはそう言い渡されているであろう。確かに彼女が保護されているのは私もこの目で見た。ただし・・・、奴隷として地下牢に閉じ込められてだ」

「---ッ」


 その場に戦慄が走る。


「お前たちにもエリクサーが配られたであろう。あれは伝説上に存在する至高の回復薬だ。病気であろうと呪いであろうと回復させる。身体の欠損であろうと蘇らせるとの逸話があるほどにだ。では、疑問に思わなかったか? なぜそのような強力な物が今まで出回らずに急に支給されることになったのか」


 回復薬や回復魔法は戦闘においては必需となり、それ一つで戦闘の左右を傾かせるほどのものだ。

 負傷した兵士は戦闘に参戦することも難しい。


「万能の薬が何の対価もなく手に入るはずもなかろう。ここまで言えばお前たちも理解できるだろう」



 つまりは先程の話に出た少女が作ったと隊員たちは理解する。



「帝国は、そこまで愚かなこう言い手を出しているのですか? こんな非人道的な行為がゆる……{許されるはずないだろう」……ッ」


 イザベルは唇を噛み締めてしかめた表情をする


 そう、許されるはずがない。

 己が誇りと国のために一心となり戦いつ続けてきたのに、その柱が許されざる愚行を行っているのだから。

 同性であるがゆえに、その少女がいかに悲劇的な状況にあるのか。

 場にいた全員が身を焦がす思いで聞く。


「なぜその話を私たちにしたのですか。今でなくとも少女を救えるのではないのですか?」


 明らかな反逆罪である。

 これからイザベルが行おうとする行為に何のメリットもない。

 戦争に関する準備はほとんど終わっており、あとは開戦の合図さえあれば出撃するだけの状態だ。

 少女も役目を果たしたはず故に、これ以上の負担は少女に降り注ぐはずもない。

 至極普通の話だ。


 隊員たちは理解する。

 イザベルが憤怒する理由はその先にあると。


「まさか、その少女も戦争に赴くというのですか!? これだけのエリクサーを作るのには膨大な魔力と精神力が必要なはずです。普通であれば数週間の休息が必要ですよ」

「そのまさかだ。帝国は少女を使い捨てにするつもりだ。今は誰もが戦争のことに頭がいっぱいのはず。少女を救い出す好機はこの数時間しかない。故に私はすぐに行動を起こす」






 時刻は月明かりが街を照らし、一般市民は深い眠りについたころである。

 それからの彼女たちの行動は素早かった。


 流石に自分たちの団員全てが動くと他の兵士たちの目につく。

 挙動不審な様子を見せれば、王の耳に入り自分たちの行動が制限されかねない。

 イザベルを含めた精鋭3人による隠密行動が開始された。


「すまないな、アンリ、レティシア。お前たちには迷惑をかける」

「何をおっしゃいますか、総隊長。私たちはあなた様の懐刀であります。どこまでもお供します」

「そうですよ~。ぶっちゃけ、私は帝国にストレスしか感じていませんでしたしイザベル様と一緒に裏切れるなんてワクワクします~」


 一人は眼鏡を掛け、帝国のローブを身につけた20代半ばの魔法使いだ。

 身長は160センチと少しあり、女性にしては高身長の部類に入る。

 紺の髪色とストレートに伸ばされた髪をしており、特に特徴もなく地味な女性だ。


 しかし彼女は『円卓の女騎士』の魔法を得意とする3番隊隊長である。

 レベルは300を超えており、一介の騎士では相手にならないほどの実力者だ。

 冒険者のランクで評価するのであればSランク半ばであり、成長を続ければ、かの賢者と名高いラバン王国の学園長にも匹敵する大魔法使いになれるのではないかと評価される。


 もう一方は、淡いピンク色のセミロングの髪を持つが、ボサボサに手入れされずに寝癖がついている少女だ。

 いかにも眠たそうな顔つきをしており、ゆらゆらと歩くたびに左右に揺れながら歩く。

 身長は140センチと小柄で街中で迷子と間違われるほどの童顔だが、年齢は20を超えている。

 彼女もまた実力者で5番隊の隊長である。

 本職は暗殺者であり、腰に携える二本の双剣はミスリルで出来ている一級品だ。

 

「レティシア、あなたは事の重大性が理解できているのですか?」

「分かってるよ~。だからフル装備で来たんでしょ~。だいたい夜中に行動するのに暗殺者である私が必要ないわけないじゃん~」


 レティシアはにへらっと笑い、何を今更と手を振る。


 暗殺者の役職の真の価値は暗闇でこそ輝く。

 今回のような隠密行動の場合だと彼女の存在は大きい。

 ちなみにレティシアのレベルは魔法職のアンリよりも高く、帝国が認める凄腕の隠密者と名高い。


 イザベルがこの二人を選抜したのには理由がある。

 前衛職であるイザベルと魔法職でもあるアンリと隠密性を持つレティシア。

 もしも戦闘が行われた場合に、パーティメンバーとしてバランスを取る必要性があるからだ。

 特にアンリの存在は必須といってもよい。


 魔法職は厳密には3つに分類されて、攻撃を得意として敵を殲滅するディーラー、回復魔法で味方を癒すヒーラー、付与魔法で味方の戦闘力を上げるバッファーがある。

 アンリはディーラーに属している魔法使いだが、ほかの役職も普通以上にこなす万能型の魔法使いである。

 悪く言えば器用貧乏とも取れるが、今回のような少数精鋭による行動時には銃砲される存在だ。


「もう一度確認するが、この行動はお前たちの人生を大きく左右させる。良くても国家反逆罪の罪人として国に指名手配されることになるぞ」

「何度も言っていますが私たちの心は総隊長とともにあります」

「イザベル様~、こういう時は助け合いが大事なんですよ~」


そう言うと、三人は夜風に紛れて薄暗い城内へと進んでいった。

投稿頻度としましては、土曜日に投稿します。

間に合えば週に1度の投稿ですが、隔週投稿になるかと思います。

ご了承の方よろしくお願いします。

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