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184話 告白

すいません、テスト期間で忙しすぎたのと、1週間ほど体調を崩していました。



 姫路柚はグロテウス帝国に捕らわれている。

 倒すべき敵は二つ、グロテウス帝国と因縁でもある高橋蓮寺の二つ。


 今すぐにでも向かいたいが先ほど俺が起こした事態、それの収拾を収めるとまではいかないものの陛下たちにだけでも事情を説明するべきだろう。


 そう思い陛下たちがいた会議室に行く。


「おぉ、涼太。突然消えたと思えばまた唐突に現れおったか」


 言葉をかけたのはガイア陛下であった。

 椅子に深く腰掛けているが先ほどまでの装束は脱ぎ捨てられており、薄手の袖なしのインナーシャツ一枚で冷えた飲み物を飲んでいた。

 グリムさんは先ほどとほとんど変わらない表情だ。

 しかしケネス陛下はガイア陛下と同様に薄手の服に着替えて若干ではあるが顔を蒼くして座っている。


「すいません、俺は陛下たちを危険な目に合わせました」


 深く、深く頭を三人に向かって下げる。

 二人の様子から察するに間違いなく俺が先ほど暴走しかけた余波が何らかの形になって襲い掛かったと推測できる。


「うむ、やはり先ほどの魔力の波動は涼太によるものであったか。まさか魔力自体が可視化して我々を襲うとは思わなかったぞ」

「はい……その説は弁明する余地もありません」


 やはり魔力が暴走してしまい高濃度に圧縮されたエネルギーに似た何かが陛下たちの身に襲い掛かったのだろう。


 手のひらに汗が滲む。

 視点を変えれば陛下たちの命の危機にあった状況を作ってしまったのだから。


「いつも冷静なお前があれほどまでに取り乱す事態は私たちには想像できなかったのだが、一つお前に問う」

「はい、俺に答えられることでしたら何なりと」

「お前にとって写真の女はどういった存在だ」


彼女、柚は俺にとって一生をかけて尽くしても尽くしきれない恩を持つ幼馴染であり、クリスたちよりも深くかかわってきた人物だ。

 どう評価するのかと問われれば、愛おしい存在、それに他ならない。

 ただ一言で称すのであれば……


「俺にとっての太陽で……あった人物です」

「……であった?」


 もう包み隠す必要はないだろう。

 以前より俺の存在自体が普通の人間から逸脱しているのは三人とも理解している。

 それがこの世界で生きていく中で最も安息を伴うと考えていた。

 しかし異世界召喚で召喚された二人の存在はあまりにも大きい。



「俺は一度死んだ身です。そして女神によってこの世界に呼ばれたのです」


 三人はあんぐりと口を開き、その言葉が事実であるか虚実であるのかを冷静に判断を出来ていなかった。

 瞬きする事さえ忘れ十数秒が経過する。


 大きなため息をつき紅茶を一口啜るように飲んでグリムさんが口を開く。


「以前よりお前の逸脱している力はどこから来たものなのかと疑問に思っていた。過去の歴史の中でも英雄と呼ばれる人物は何人もいたが、あくまでその者たちは人間としての限界を極めた者たちであった。勇者召喚で呼ばれた異世界人も英雄と呼ばれる者たちと同価値に扱っていた」


 ゆっくりとした口調で、

 年長者としての言葉が心にのしかかる圧を込めて告げる。

 しかしその声音は微かに震えていたのが分かる。


「今更、お前がどのような人物なのかは短い期間柄あるが理解しているつもりだ。だからお前の出生がどこであろうとも気には止めん。それとも私がその程度で臆すると思ったか?」

「……いえ、それは」


 思わない。

 俺もグリムさんとは異世界に来て最も長い付き合いの大人だ。

 彼がどのような人物なのかは彼同様に理解しているつもりだ。


「お前はこれからもクリスたちの進む道の道しるべになってやれば良い。私から言うことはそれだけだ」



 あぁ、やっぱりこの人はカッコいいわ。

 何事にも臆する事のない器量と、数千年もの間、大地に身を支えているような木の根を持つ人物だ。

 改めて俺はこの人を尊敬することになるとはな思わなかった。


「ありがとうございます」

「気にはせん、してガイアよ。お前も涼太に何か聞きたいのだろう」

「あ、あぁ。涼太よ、お前は女神によって召喚されたと言ったが、つまりは神に会ったことがあるという事か?」

「あー、会ったというよりも今も連絡は取り合っているんですけどね」

「なんと! お前は神と親身にある立場という事か! 頼む、一度でいいから神にお目通り願いたいのだ」


 あの陛下が敬称を使っているよ。

 まぁ、相手が神なのだから敬称を使うのは当然なのかな?

 この世界の人たちはそれぞれ神を信仰している節もあるわけだ。


 その中でも影響力が強いのが聖国なわけだが。


「別に良いですが、彼らは今とても忙しいので話を聞くのは厳しいかもしれません……」

(問題なっしんぐですよ~)



 (……おいこら、駄女神。

 お前らはロキの所にお礼参りに行ったんじゃないのか?

 なに呑気に会話を聞いてんだよ)


(ひどっ! いやぁ、流石に敵陣へ乗り込むのに私たち陣営が誰もいないのは問題ですし最低限の戦力を残すんですよ。それに今はオー爺を主体に神軍を編制中なのですよ)


 つまりお前は戦力外だしお留守番ってわけか


 あの暗黒空間へ向かうには最低でもステータスはレベル制がある場合の表記では限界値の50万は欲しい。

 ヘファイストスたちは問題ないが、女神たちのステータスでは危険が生じるし無理もないか。

 ステータスを上昇させるスキルもあるが、【修羅】や【神羅】といった爆発的に能力値を底上げするスキルは使った後の代償を無視できない。

 俺も何度も使って超回復を繰り返すことによって最近ようやく身体に馴染んできたほどだ。

 その役回りは男たちで十分だろう。


「おい、涼太。何を黙り込んでいるのだ?」

「すいません、今まさに女神と念話をしていたところなんです」

「めがァッ……ゴホゴホッ」


 ガイア陛下は目を見開く。

 その場で大きく仰け反り、声を裏返して大きく咳き込む。


 いや、あんたが女神に会いたいとか言ったから出てきたんだろうよ。

 何を死人が生き返ったみたいに驚いてんだ。


(それでは女神降臨といきましょうか。さあ、久しぶりに合体しましょう!)

(お前自身が降臨するわけじゃないんかい。それより、ちょっと待て)

(はい、なんですか?)


 今にも俺の身体に潜り込んできそうなアテナを取り合えず止める。


「陛下、この世界で信仰されている女神に名前とかありますか?」

「お前はそんなことも知らんのか? この世界で女神と称されるのは女神パラス様以外に他ならんであろう」


 であろう……であろう……であろう……、と俺の頭の中に衝撃の事実がこだまと化して入ってくる。

 えっ、この世界の管理ってパラスが行っているのか?

 確かに世界はいくつもあって神たちがそれぞれ一つ管理しているとは聞いていたが。

 アテナであれば地球を、パラスは俺の今いる世界を、そういう事なのか。


 よくよく考えてみればフィルフィーに加護を与えたのも、無駄にこの世界の事をいつも心配していたのってパラスだった。


(おい、アテナ。お前はこの世界にとってどんな神だ?)

(せれはもう麗しく可憐な心を持ち、ありとあらゆる人たちに愛されるべき女神さま……ガッァ!)

(あんたなに私の世界の女神代表になろうとしてんのよ! 信者を掻っ攫う気!?)

(いったぁー、別に減るもんじゃないし良いじゃないですか、パラス)


 恐らくはハリセンかスリッパでパラスがアテナの頭を思いっきり叩いたのであろう。

 俺の脳内に甲高い弾ける音が聞こえた。


 あー、これはダメなパターンのやつだ。

 いくら話しても終わらない口喧嘩ですわ。


(アテナ、俺の部屋のタンスの右上から5番目の引き出しの奥に特上クッキーがあるから食べていいぞ)

(まじですか!? ヒャッハー、それでは行ってきます!)


 アテナは口喧嘩の事も忘れて家に帰った。

 今頃俺の部屋は泥棒に漁られたような被害に遭っているだろうが、そこは有能メイドのガブリエルさんが犯人を締め上げてくれるだろう。


(涼太さん……はぁ、アテナの扱いは流石ですね)

(あのアホは物で釣るのが一番簡単だからな)

(それよりも……)

(ん?)

(あとで私にも特上クッキーを下さいね)


 ニコリと笑みを浮かべてるパラス。

 しかしその目は半開きで笑っていなかった。


(そうだ、パラスは今の事情を理解しているか?)

(ええ、そこの方が私に会いたいという話ですよね。別に構いませんよ)


 神が降臨するのに地上で何かしらの影響を及ぼす可能性があるけど問題ないのか?

 俺が神化した場合は草木が騒めいたんだけど。


(それに関しては問題ありません。神が一時的に降臨するのには神器や女神像といった神秘の力を纏ったものが近くにあれば問題ありません。それに降臨するとは言っても、私自身は霊体で降りるので地上に影響は及ぼしません)

(神器とか女神像とかこの部屋には無いぞ)

(何を言っているんですか。涼太さんは神気の塊みたいなものなんですから、涼太さんがいれば他に必要ないでしょう)


 さいですか。

 何となく察してはいたけど、俺ってそういう扱いなのね。


 俺は陛下たちの方を振り向く。


「どうやら、パラスは会うことに関しては問題ないそうですよ」

「おぉ、それは誠であるか!」


 直後に円卓の机の上にやさしい光灯が現れてそれが空間に広がり、徐々にその粒子が人の形となって目の前にパラスの肢体を形成する。

 霊体ということもあり、その体は透き通っているが母性溢れる肢体と頭上に神々しい光の輪が現れる。


 俺からしてみたらリアルパラスよりも若干盛るところは盛っているし無駄に神オーラを放っているようにしか見えない。

 こいつ霊体を形成する際に女神様っぽくしようと無い部分まで構築しているな。


 しかし女神を崇めている地上の人たちからしてみれば壮大な出来事らしく、グリムさんでさえ開いた口が塞がらない状態だ。

 陛下に関しては涙を流して両手を組んでパラスを祈っている。


『あなたたちが国の王様ね』

「おお、パラス様。あなた様に出会えたことに感謝を」

『ふふ、良いですよ。あなたたちの清い信仰心を私も嬉しく思います。世界が平和なのも良き国を造り上げているあなたのおかげでしょう』

「有難きお言葉。しかし今私たちは国の存亡をかけた危機にあります。どうか女神さまの知恵をお貸し願えないでしょうか」


 こんな腰の低いガイア陛下を見たのは初めてだ。


『人は時に争いを起こします。それに神が手助けをすることはできません』

「しかしそれでは……」

『その運命に立ち向かうのはあなたたちです。決してあきらめない心を持ち己が思う正しい道を進みなさい。それが善であるのならば運命はあなたたちの味方になるでしょう』

「おお、ありがたきお言葉です」

『私はいつもあなたたちを見守っています。ああ、悲しいですが私にもなさなければならない事があります。あなたたちに幸があらんことを』


 そう言い、パラスを形成していた粒子は再び部屋一面に拡散して消えていく。

 空間に静寂が訪れ三人はパラスのいた場所に深い祈りをささげる。

 女神に会えた喜びは予想以上でそれ一つで三人の心は穏やかになった。


 だが、

 俺の脳内には会話を閉ざしたと同時にパラスがアテナを追いかけていく叫びが聞こえた。


「あの、ガウス陛下。もう俺、行ってもいいですか?」

「うむ、お前は写真の少女を助けてこい!」


 振り向いて見せたその顔は千日の修行を成し遂げた僧侶のようで、煩悩が消え去り慈愛に満ちた表情をしていた。


 気持ち悪い。



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