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183話 余波

 涼太が憤怒に身を任せ暴走しかけた時、膨大な魔力と殺意の波動がセリア王国の王城を中心にして世界へと発せられた。

 本人は気が付いてはいないだろうが、その影響は甚大なものであった。

 そう魔物に魔族、人間や精霊などの生命体全てにーーー



 ♢♦♢


 セリア王国にて、


「くそっ、おい大丈夫か。意識はあるか、ガイア?」

「何とか……な。だが魔力の濃密なエネルギーをじかに浴びたせいか意識がはっきりせん。金槌で脳天を叩かれたかのような衝撃だ」


 膝をつき溢れ出てくる冷や汗を袖で拭い荒々しくなった呼吸をゆっくりと整える。

 まだ足が震えて立てないのは生物として命の危機が迫っていたと本能が告げていたということだろう。


「グリム、お前は大丈夫なのか?」


 そんな中、動揺はしているもののガイアやケネスの様に取り乱していないグリムに声をかける。

 二人からしてみれば、あの異常を身に受けて意識を保っていたほうでも上々だった。

 しかしグリムにそんな様子は一つもない。 

 はっきり言って異常だ。


「どうやら涼太が渡してくれた魔道具のおかげの様だ」


 グリムは懐から1枚のトランプに似たカードを取り出す。

 そこには魔力霧散という文字が書かれていた。


 これは涼太がグリムに護身用として渡した一つの魔道具で効果は文字通り魔力の霧散だ。

 人体に害をなす魔法や魔力を体が受けきる前に空中で霧散させる。

 それは涼太の魔力でも例外はない。

 これによりグリムは毒ともいえる高濃度の魔力エネルギーを受けても問題はなかったのだ。


「なにそれ、一つくらいくれないか?」

「無理だな。これは私専用に魔力を練られているから私以外が身に着ければ紙同然の代物に代わる」

「むう、それなら涼太に作ってもらうしか……ッ! そうだ、涼太はどこへ行ったのだ!?」


 事を犯した当人がこの場にいないことにガイアは動揺して声を荒げる。


「分からん、地鳴りが起こったかと思えば光に包まれて消え去った」

「一体何が起こったのだ。あの涼太がここまで動揺するなんて」

「諜報部から送られてきた写真を見た途端に動揺していた……となれば、その写真が原因だろう」


 机にあった写真には二人の人物が移されている。

 一人は身なりの良い防具と剣を持った男、人相から好感が持てるとはとても思えない。

 となれば涼太が動揺したのは紫がかった髪をした奴隷の首輪と手枷をした少女だ。

 歳は涼太と同じくらい。


 グリムはそこである可能性を見出した。


「ガイア、ケネス。二人に聞きたいが仮に己の家族や恋人、またそれに同等の人物が奴隷として暗い檻の中に涙を流していたとする。どう思う?」

「それは……そういうことか。この少女は涼太にとって……」

「それしか考えられんだろう」



 大切な人がこんな目にあって平然としていられるわけがない。

 グリムは仮にこの少女を自分の娘であるクリスに置き換える。

 

 自分が気づかない間に娘が苦しい思いをしていた。

 それだけで自身の無力さと今まで感じたことのないほどの怒りが湧き出てくる。

 唇を噛みしめ鮮血が見えるが意に返さない。

 それほどの怒りがグリムから溢れ出ていた。



 

 長い沈黙が流れる。



 ---ドタバタッ!


 廊下が騒がしく三人の重鎮がいるにも拘らず一人の男が息を切らして部屋の中に入ってきた。


「グリム様! ご無事ですか!」


 汗が王家の気品あるへカーペットに垂れ流れるが、気にするそぶりもなく主であるグリムの心配をする男。

 ハイゼット家騎士団長ハザンだ。


「私は問題ない! それよりも陛下たちを医務室へ運ぶぞ。衛兵はどうした。お前だけで他の者が来ないではないか」

「それが……あの魔力の波動を身に受け、ある一定以上の魔力量を持つ者たちが次々に気絶していき少し混乱が起こっています」

「なに、国中でか!?」

「ご安心ください、ある一定以上とは言っても宮廷魔法見習い師ほどのもので、それよりも魔力がない者には特に弊害は起こっていないようです」


 つまりは強すぎる魔力を感じ取れない人物には影響がないということか。


「そうだ! ソフィーアはどうした!? あの子はこの王城内で遊んでいるはずだ」

「たしかソフィーア様は自室で遊ばれているはずです」

「今すぐに向かうぞ」

「待て、ユミナもそこにいるはずだ! 私も行く」

「おやめ下さい、お二人とも顔色が悪いではないですか」

「黙れ、娘が危機にある状態かもしれないのだ。父親でもある私が向かわなくてどうする!」

「---ッ! 失礼しました。肩をお貸しします。向かいましょう」



 ハザンがケネスの肩を支え、グリムがガイアの肩を支えて小走りでソフィーアのいる部屋に向かう。

 道中、何人もの兵士が倒れていたがそれを意に返さず三人は歩む。





 扉に付いた途端に二人の父親は支えを突き飛ばす勢いで扉の前に駆け寄り開ける。


「ソフィーア!」

「ユミル!」


 必死な形相で中を見渡す。

 もしかしたら二人とも倒れて意識がない、自分たちですらこのざまなのだから幼い少女二人があの波動を受けて無事であるはずがないと最悪の可能性を頭に入れて。

 しかし中を見た途端に二人は間の抜けた声を出す。


「おとうさまなの! グリムおじちゃんもいっしょなの!」

「お父様!」


 何の以上も無さそうな二人の幼女が元気に二人を迎えた。


「これは一体……」

「ソフィーア! どこか痛いところはないか!」


 ガシッとソフィーアの肩を力強くガイアは掴み必死な形相で自分の娘に異常はないか探す。


「おとうさま、いたいの!」

「あぁ、すまない」


 気が付かずに必要以上に力を込めていた手をソフィーアの肩から放す。

 するとソフィーアの瞳に水滴が湧き出てグスッと鼻も鳴らす。

 自分のせいで今にも泣きだしそうな娘にどうすればいいのか分からずにガイアはあたふたする。


「ソフィーア様、涼太が帰ってきていますよ」


 そう発言したのはグリムであった。


「グスッ、おにいちゃんが?」

「そうです。今は少し席を外していますが、そんな泣き顔を見せたら涼太は困りますよ」

「おにいちゃん……グスッ……ソフィーアのこときらいになる?」

「嫌いにはならないでしょう。でも笑顔のソフィーア様のことが涼太は好きですよ」

「グスッ、わかったなの」


 そう言うと、ソフィーアは自分の服の袖で涙と鼻水をふき取る。

 ガイアはグリムのファインプレーに安堵の表情を見せた。


「それでソフィーア様、ユミル様。何かこの部屋でおかしな事は起こりましたか?」

「んーとね、おしろがゆれたの!」

「ユミナも知ってる! あとね、マシュマロとスフレがピカッーって光った!」

「光った?」

「うん、ひかったの!」


 二人の頭に乗るモフモフしたペットを見る。

 すると二匹は先ほどの現象を説明するかのように光を発した。

 その光は部屋全体を包み込んで黄金の障壁が生まれのだ。


「これは……魔法障壁か!」

「そうか、これで二人を守ってくれたのか。ありがとう」


 それぞれの娘の頭上にあるマシュマロウサギを撫でる。

 二匹は呼応するように気持ちよさそうな声でキューと鳴いた。



♢♦♢



 ---とある闇にて、


 そこには一つの城が建っていた。

 漆黒と紅に染められた外壁からは翼を持つ悪魔たちが働き蜂のように出入りを繰り返している。


 ある者は城の主に献上するための供物を脇に抱え、

 ある者は警備のため槍を持ち、


 そんな中、悪魔の中でも最高位にある人物。

 4翼の蝙蝠のような翼を持つ男が椅子に深く腰掛け、曇り一つなく透き通ったグラスに注がれた赤ワインを口へと運ぶ。

 ワインを注いだ隣にいる燕尾服を着た悪魔は一礼し主から距離を置く。


「フム、脆弱な人種であるガ物を生み出すことに関しては長けてイル。このワインは実にビミである」

「お気に召してナニよりニございます」

「シカシだ。人種はナニゆえあそこまでオロカなのであろうか。ワレラ悪魔こそ至高のソンザイだ」

「仰る通リにございます、アガレス様」


 男の名はアガレス。

 31の悪魔師団、総計で万を超える悪魔を従えている悪魔大公爵である。

 ソロモン72柱に属しており、その序列は第2席。

 数多の悪魔たちからは至高の存在、闇を支配する者、魔神に最も近き存在と数々の異名を持っている。


「シテ此度の帝国の供物ハ届いてオルか?」

「ハイ、つい先ほど到着イタシマシタ。近隣の村や帝国にイル生娘が200匹。ドレも素晴らしいモノです」

「フム、あの王も約束ハ果たしてイルようだな。ならばワタシもその礼をせねばならんな」


 手に持つワイングラスを宙でゆっくりを回して中のワインをかき混ぜる。

 熟成された果実の香りが鼻孔をくすぐり、一層に愉快な気分にさせる。


「兵の準備モ滞りアリません。すぐにでも出立できまショウ」

「ヨイ、焦る必要もナカロウ。王者は悠々ト犬同士の小競り合いのヨウすを楽しんでからでも問題ナイ」

「流石はワガ王にございます」

「フハハ、そうであ……」




 ゾクッ!





 突如としてアガレスの背筋に悪寒が走った。

 それはまるで強大なナニかが自身の首を難なく刈り取る。

 自身を超えゆる圧倒的な何かが横を通り過ぎて行ったかのような感覚。


(ナンだ!? 今の感覚ハ! 魔力のハドウ? いや、しかしあり得ナイ。ここは悪魔界デアルぞ。もしもアノハドウが地上から放たれたモノとするならば」



 ピシッ



 アガレスの手に持つワイングラスに亀裂が入る。


「アガレス様、いかがサレマしたか!」

「……予定を変更スル。配下たちを招集セヨ」





 ♢♦♢




 ---〇〇〇〇側にて、




 「クフフッ、あーあ、ついにばれてしまったか。いや、これは物語の1ページが新たに進められたと言うべきか。いやはや残念だよ、本当に残念だ! きゃはははっ」


 ゴスロリの装束を身に着けた男とも女ともとれる者は胡坐をかいていた脚を伸ばして大の字になって寝転ぶ。

 口では後悔の念を呟きつつも明らかに荒ぶる気を抑えられずに高揚していた。


「しかし、あちら側の相当に荒れているようだね。まさか世界の改変を行おうとするとは。それに、この神々から発せられる怒気。私も相応の覚悟をしないとダメかなぁ? 」


 焦りは見せていないものの、若干だが顔を引きつらせて立ち上がる。


「クフフフッ、さあ、お姫様を助けるのが勇者の役目だ! 決して私の期待を裏切るんじゃないぞ。そして私をもっと楽しませてくれ!」



 闇の中で高笑いする声音が響き渡った。

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