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181話 愚者の狼狽



 何重に重なった防音障壁の中心には円卓の机が置かれており4つの椅子が並べられていた。

 未だ1つの席が埋まっていないが3人の男たちは重圧が可視化するほどの中でただ一言も発言せずに黙りこく。

 部屋の隅に身を潜めるかのように佇む騎士たちはこの圧をヒシヒシと身に感じ唾を飲む。


 一人は淡い青装束に金を折り混ぜた刺繍と胸に国を尊重させる紋章をつけた男。

 セリア王国国王ガイア、セリア王国の頂点にして武と知の優れた才能を国のために使い繁栄させてきた人物だ。


「このメンツが集まるのも珍しくなくなってしまったが……私的用事として酒でも飲みながら話でもしてみたいものだ」

「ガイア、確かに私とて職務が終われば開放的になりたい節はあるが今回はそうも言っていられないであろう」


 対して紅の装束に金の刺繍がいくつも縫われた装束を身にまとった男。彼もまた国の紋章を身に着け椅子に深く腰を掛ける。

 ラバン王国国王ケネスである。


「確かに……それで今回の件に関してグリム、四大公爵の代表としてこの場にいるお前から他の四大公爵と冒険者ギルドの現状について聞きたい」

「ああ、そうだな」


 クリスの父親にしてセリア王国四大公爵代表としてこの場にいる男、グリム・フィル・ハイゼットは相槌を打つ。

 すでに冷め切った紅茶を一気に喉へ流し込み、手元にある資料に目を向け手に取る。


「まず他の四大公爵に関してだが言うまでもないが奴らは戦争の準備に手を回して動けない状態だ。具体的にはクラウス家は物資と近隣住民及び村の配慮、セルビア家は貴族たちの統率、ライアット家は武具の手配と冒険者ギルドとの連帯についてだ」

「ふむ、なにか問題点はあったか?」

「クラウス家とライアット家は順調だ。冒険者ギルドマスターが有能だから冒険者の士気は上々だそうだ。問題は貴族たちだが思っていた以上に面倒だ」


 眉間にしわを寄せ手元にある書類をグリムは机に投げ捨てる。


「ケネス、ラバン王国の方は大丈夫か?」

「大丈夫かといえば答えは否になるな。グロテウス帝国が仕掛けてきのはセリア王国だが、近隣でもある我が国も油断できん。それに魔王軍が手を組んでいるという知らせも聞いている。常識的に考えるのであれば可能性は2つ、一つはセリア王国へ魔王軍とグロテウス帝国が同時進行。2つ目は魔王軍が我が国に攻め入る可能性か。私としては後者の可能性が高いと踏んでいる」

「まあ、我が国に宣戦布告はしたがセリア王国を支配した次にラバン王国と書面に書かれていたから同じものか。まったく腹立たしい」


 互いに良好な関係を築き上げている中で起こった戦争は平和主義を掲げている二人にとっては迷惑千万であった。

今回に関しては共同戦線としてセリア王国もラバン王国に兵力や物資を手配する予定である。

 しかしグロテウス帝国は5か国のうちでも特に大きな国でもあり、自分たちの国だけでは勝てるかどうかという保証もない。


「話は変わるがクリスたちがどうしているか分かるか?」


 気が詰めた空気を和まそうとグリムが自分の娘の話を話題に出す。


「それについては私が聞きたいくらいだ。エリスが涼太のところに行ってしまってから寂しくてなぁ」

「親バカも良いが自重はして欲しいものだ。そうでなければ娘に嫌われるぞ」

「な、何てことを言うのだ、グリム! 私のエリスがそんな事を……あり得る訳ないであろう」

「因みに私は今は週に3回ほど顔を出しておるぞ」

「それは貴様が貴族であるからだろう。国王がホイホイと王城を抜けられるわけもなかろう」


 激昂したケネスが立ち上がり机を叩く。

 机の上に置かれた食器は一瞬空中へと舞い上がり割れはしなかったが大きな音を立てて元の場所に着地する。


「ふんっ、お主たちには分からんがソフィーアこそが天使だ。あの可憐な姿を見て何と言うか。そう、リトルエンジェル!であろう」

「一応言っておくが、ガイアよ。お前の娘が一番父親に冷たいぞ。以前も自分と遊ぼうと言ったら「おにいちゃんがいい!」とか言われて傷ついていたであろう」

「ぐっ」


 掘り返したくもない事実を突きつけられガイアは喉を詰まらせる。


 ソフィーアはもともと好奇心旺盛な性格ゆえに新しいものや面白いものに敏感な少女だ。

 王城にあるものは価値ある珍しいものや高価なものを兼ね備えているが、どうにも先祖代々受け継がれてきたものゆえに古臭さと可愛げのない書物や道具が増える。

 ある日からそれらに全く興味を示さなかったソフィーア手を焼いていただが、涼太という奇術を使う男によってその苦悩な日々は変わった。


 笑顔あふれる可憐な少女がガイアのもとに再臨したのだ。

 しかしその代償としてソフィーアは涼太のことを必要以上に慕うようになり、身近な人物でランクで表すと


 涼太=お母様>超えらない壁>ユミナ(友達)>>お父様


 的なポジションに収まった。

 最近ではかまってほしい父親ポジションに陥って喪失感を胸の内にしまって過ごしている。


「さて、冗談はこのくらいにして話の続きを使用ではないか。ガイアよ、お前はこの戦争をどう見る?」

「ふむ、どう見るか……か。結論から言うと涼太がどう動くかによる節が高かろうな。なぁ、グリム」

「涼太を戦争に関与させることには反対だが、戦力としてみるのであればこれ以上の存在はいないだろう。それに涼太陣には鬼族の豪鬼殿とフィルフィー殿もいる。一騎当千の存在が複数いる状態でグロテウス帝国には引けを取らんだろうな」


 グリムが知る限りでも涼太は無論のこと、フィルフィーの涼太陣営に加わり、それだけでも一国を滅ぼせる戦力だ。

 そこにガイアから聞いたフィルフィーと同格ないしそれ以上の存在がいるとすればこれほど心強いものもない。


「……となれば問題は魔王軍だが……うおっ」


 一息つくために目線を遠くに向けた途端に居ないはずの椅子に男が腰かけている人物が目に入り驚く。


「どうも、お久しぶりです」

「お前……涼太か? というか、いつから居たんだ」

「ほんの2分前に」

「全く気付かんかったわ」


 それもそうだろう、わざわざ透過をして入ってきたんだから。

 陛下たちとグリムさんの会話が気になり少しの間だけいない存在として振る舞ってました。


「相変わらずのようだな」

「お久しぶりです、グリムさん」

「クリスとは一緒ではないのか?」

「クリスたちは武者修行に出ていますよ」

「お前は行かなかったのか?」

「俺は別の用事がありまして、それに付きっきりでした。クリスの安否でしたらフィルフィーもいますし万が一にも備えてアイテムも渡していますから問題ないかと」


 危ないことはするなと言っているし、万が一にも備えて即死耐性を持つアイテムは腐るほど持たせている。

 いきなり初日から黒の迷宮にでも行かない限りは問題ないだろう。


「して涼太よ。結論から申す。お主はこの戦争を請け負うととみて問題はないのか?」

「はい、俺としても大切な仲間や友人が危険にさらされるのは見過ごせません」

「その言葉を聞いて安心した。何かあればお主を頼るとしよう。何か聞きたいことはあるか?」

「そうですね、具体的な現状が知りたいので資料を見せてください」

「ふむ、別に構わんが大したものはないぞ」


 そういうと、陛下のそばに控えていた執事が資料をまとめて俺のもとへと運ぶ。

 積み重なった束は市販で売られているコピー用紙の束が3つ分ほどの量だ。

 戦争なのだから仕方ないだろうが、報告書やら必要以上に多い気がする。


「流石に読むのが速いな」

「まぁ、俺も商業ギルドとかで報告書の処理とかしてますから」


 数秒単位で次の紙に目を通す俺を見てグリムさんは感心する。


「学生と同じほどの歳での仕事量ではない話だよ。私がお前ほどの歳の時は体を鍛えて魔物を倒すことばかり考えていたからな」

「そうですか? 本は読むのが好きだったので」


 てか、やっぱりグリムさんって戦闘狂って節を薄々感じていたけど、その鍛えられた体は幼いことからの賜物なんですね。


「あぁ、そう言えばお主には兄弟はおるのか」

「いませんけど。なぜそのようなことを?」


 ガイア陛下は唐突にそんな事を言う。


「グロテウス帝国の密偵をさせておる奴の報告書の中にお主に似た黒髪の男と女の写真があってな。もしかしたらと思ってな」



 ドクンッ



「……へぇ……確かに黒髪なんて早々いませんよね」

「茶封筒に入っておるから気になるのであれば見てみればどうだ?」


 確かに俺の手元には紙の資料とは別にA4サイズの茶封筒が脇に置いてある。



 ドクンッドクンッ



 なんなんだ、この最悪な予兆でもこれから起こる予感は。

 いや、あり得るはずがない。

 俺は異世界に飛ばされたんだ、そう俺一人が。



 ドクンッドクンッ



「あの……開けてみてもいいですか」

「むぅ? 別に構わんと言ったであろう」

「では失礼します……」


 俺は冷や汗が浮かび上がった手で封筒を恐る恐る開ける。

 中からは3枚の写真が机に落とされた。



 ドクンッドクンッドクンッ



「ハァハァハァ……」

「おい、どうした! 顔色が悪いぞ! 呪いの類か何かか!?」


 心配に声を荒げるケネス陛下を無視して俺は三枚の写真を凝視する。

 そこには俺が予想だにもしていない非現実。

 俺のトラウマでもあり、憎き存在の高橋蓮二、




 ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ!




「ぁぁ……ぁ……ぁぁ……」




 ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ!



 俺は一体何をしていたんだ。



 この世界で一体何をシテイタ?



 有意義で平和は生活?



 世界のために?



 自分が強くなるために?



 ーーーならばなんなんだ、この現実ハ?



「ぐっ、なんだ……この魔力は」

「これは、これは魔力なのか!?」

「り、涼太!私だ!グリムだ、落ち着け!」




 ーーー仲間を助ける?友人を助ける?




 なぜ……なぜなぜななぜなぜなぜ?




 俺が気づかなかったから?




 あの別れ際に見せた彼女の涙をオレは忘れたのか?




 今でも胸のうちに突き刺さった最後の後悔ーーー




 姫路柚




 そう、彼女が身ぐるみを剥がされ布切れ一枚と首輪を身につけて厚く閉ざされた鉄格子の中で涙を流していた。




「ぁ……ぁ…………ぁ」




 蘇るトラウマ、



生暖かい自分の血と、制服の汚れも気にせずに抱き抱えた彼女の温もり。




 グシャグシャに涙で顔を濡らし、最後まで俺の名前を呼び続けた彼女。





 ーーーあぁ、俺は一体今までナニをしていたんだろうかーーー




 ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ




「ぁ……ぁァァ……アアアアアア……」

「よせ!落ち着くんだ、涼太!!」




 ドクンッ!!!








 ーーーその時、世界が揺れたーーー





〜6章終〜


次回から第7章に入ります。

戦争編です。


第1部

1章〜7章


として括ろうかと思います。




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