177話 (神様再び)
あけましておめでとうございます。
今度とも異世界×神界の二重生活をよろしくお願いします。
色々と忙しくて更新が出来ずに申し訳ありませんでした。
ようやく落ち着いてきたので更新を再会したいと思います。
一部入るかも知れませんが、これにて残酷描写は終了。
ここからは溜まったフラストレーションを徐々に開放していこうかと思います。
その頃、柚子は獣人たちと過ごしている檻から兵士に連れられ更に地下へと連れられていた。
そこはより一層の薄暗さと不気味さが肌を撫でるような場所である。
奴隷たちの姿はなく、重く閉ざされた扉がいくつもあるだけだ。
(こう言うの見たことがある。たしか囚人が罪を犯した時に入れられる独房ってやつ?)
まさか自分がこんな光も無い場所に連れて来られるとは思わなかった。
こんな場所でエリクサーを作成するなんて到底出来るはずがない。
夜目が効く暗殺者たちならば暗闇でも活動することは可能だろうが、柚子は多少スキルが使えるだけの素人に過ぎない。
しかし、その考えは裏切られる形となった。
連れられたのは更に地下の空間。
そこは先程とは対照に眩い光が目を差す。
「入れ。ここがお前の仕事場だ。王の命により、お前にはこの場所で過ごす権利をやる。道具や容器や素材は全て用意してある。ノルマは1日最低800だ。手を抜かない事だな」
軽く足蹴りをされ中に入れられる。
中は魔道具らしき灯りのスタンドが机の上に置いてあり、周りには山の様に積み上げられたガラス瓶と魔力草と水と薬を作るための道具が置いてある。
部屋の広さは12畳ほどでトイレとベッドも置かれていた。
今までの部屋と比べると間違いなく物の品質も衛生も格段に上がっていることは言わずとも分かる。
「はぁ、仕方ない。頑張らないとね。それしか選択肢は無いんだから」
文句は幾らでもあるが、それを言ったところで現場に変化が起こるはずもない。
むしろ誰か城の者に聞かれもすれば、より酷い仕打ちが待っている可能性の方が高い。
ならば私の出来ることをやるのが最善だ。
少なくとも…………今は。
『やぁ、頑張っているようだね』
「ッッ………ァ!」
聞き覚えのある声、
それは私がこの世界に来て2番目に求めていた相手の声だった。
それが唐突に私の脳内に響き渡る。
「あなたは……最初に会ったときの」
『むふふっ、覚えていてくれたんだ。嬉しいなぁー。やはり喋る相手がいる方が気持ちの面でも高揚が生まれるというものだ』
「そうですか」
『んん?会いたかった割には、嬉しさが感じられないなぁ。むしろ怒ってる?』
私としては無意識だったのだろうが、表情からゴスロリ神は私の心情を読み取る。
怒り?
この過酷な世界を体験して、それでいて面白そうな顔を向けられて苛立ちを覚えない方がおかしい。
「あなたは神なのでしょう!この世界の残酷さを目の当たりにして傍観してるなどおかしい!なぜ苦しんでいる人を助けようとしない!」
『しぃーー!声が大きいよ。今、僕は君の頭の中から話しかけているんだから、君の声は周りに聞こえるはずだ』
「なら霊体にでも何でもして下さいよ。その方が私とあなた、お互いにとっても都合はいいはずでしょう?」
『うん?あぁ、確かにそうだね。君の仕事も終わっているようだからそうしよう』
仕事は終わっている?
それに疑問を覚えた私はふと机の上を確認する。
するとそこにはきれいに並べられたエリクサーの瓶が100個くくりで机の上にあった。
『ふふっ、君の集中力はすごいものだね。声をかけようとしたんだけど、聞こえてなかったみだいだから終わるのを待っていたんだよ』
一応は良識のある神らしい。
「それじゃあ、始めて下さい」
『うん、目を閉じてくれるかな』
私はベッドに寝転がり体を脱力させて目を閉じる。
次第に意識が掠れて強い睡魔が私の体を包み込む。
「やぁ!」
「…………」
目を開けるとそこには、あいも変わらず笑みを浮かべたゴスロリ神が椅子の上にあぐらをかいて待っていた。
椅子とは言っても、子供が座るような椅子ではなくむしろ巨人が座って丁度収まるサイズの椅子だ。
私とゴスロリ神が横に並んでも隙間がありそう。
「さてさて、日々の生活はどうだい?満喫しているかい?」
「満喫しているように見えるのであれば、その目玉をくり抜いてから洗浄して煮沸消毒した方が良いですよ」
「うわぁ、傷つく言い回しだな。まぁ、確かに良識あるまともな人物が今の君の周りには少ないのも事実だし仕方ないかぁ」
ゴスロリ神は何処からともなく取り出したストローの付いた飲み物で口を潤す。
何度見ても苛立ちが込み上げてくる。
どこまで他人事を貫くつもりなのか。
「だからぁー、私は第三者だと言っているだろう。例外もあるが、基本的に神は地上に手出しをしてはいけないんだよ。手を出せば間違いなく他の神々に知れ渡るし、それは私にとって非常に都合が悪い。だから今回も含めて準備をして声をかけているわけだ」
「ゴスロリ神、あなたは何者なんですか」
「はぁ、そのゴスロリ神ってのはやめてくれないかぃ?私にもロキって名前があるんだから」
つまらなさそうにゴスロリ神は呟く。
しかし、私はその言葉に悪寒を覚えた。
今、このゴスロリはなんと言った?
ロキ……それは私たちの世界の北欧神話に出てくる神。
どんな物語にでも進出するほどに名の知れた神だ。
何より…………。
「…………悪神」
そ言葉が私の口元から出たとき、目の前の神は今まで見た以上の笑みを浮かべた。
本人としては嬉しかったのかもしれないが、私の目に映った姿は獰猛な肉食動物が自分の姿を見て怯えているのを楽しんでる姿。
それに類似した笑みだ。
「イエーース!ピンポンピンポーン!大正解だよ。改めて初めまして。私はロキ、巷からは悪神として知られている神だ」
「あなたはッ!彼をどうしようとしているんだ。彼を……涼君を!」
もう無駄話をしている時間も余裕もない。
ロキの言う彼は間違いなく涼君だ。
それは推測で簡単に成立する。
「…………へぇ、どうして分かったんだい?」
「私と涼君の関係性をあなたは知っているでしょう。その上であなたは以前に彼のことを固執する反応を見せた。それも私に執拗に。そして最後のあの言葉、「君の願いも叶うだろう」の一言。私の願いは涼君と再会すること、ただ一つ。ならば答えは自ずと出てくるでしょう?」
するとロキは腹を抱えて捩れる。
「くくくっ、ははははっ!まぁ、確かに君に隠す必要は元からないか。彼と奴らにさえバレなければどうという事はない。少なくとも今は……ね」
「教えて下さい!涼君は今どこにいるんですか!」
「聞いてどうする。まさか世界のどこにいるかも分からない彼を探しに行くなどという愚行をする訳でもなかろう?何の力もない奴隷の君がかい?」
「それは……」
確かに今の私に出来ることなんて何もない。
逃げ出すことすら出来ない現状で涼君を探しに行くなど無謀にも等しい。
「だから以前にも言ったはずだ。希望を抱き続けろ。そうすれば君の願いも叶うだろうと」
「それは待てば涼君が助けに来てくれると?」
「いいや、誰もそんな事は言っていないだろう。私が君に言ったのは可能性であって確定事項ではない」
どうあっても目の前の人物は言葉を濁したいらしい。
「……彼は来ますよ」
「へぇ、その根拠は?」
「ありません。でも涼君は来ます」
「ふぅん、せいぜい頑張るんだね。なんか飽きたし私は消えるとするよ。じゃあね」
そうロキは言うと姿を消す。
それと同時に私の意識も覚醒する。
「ゆずねぇ!ゆずねぇ!」
「起きて!ねぇぢゃん!」
「たずけでよぉ!おきてよぉ!」
「……ん」
目の前には獣人の子供たちが私を囲むようにして揺さぶっている。
顔からは大粒の涙がいくつも零れ落ち私の頬を濡らす。
「一体どうしたの?」
「…………驚いた、まさか獣人とそこまで和解しているとは」
どうやら私はいつもの牢屋に運ばれてきたようだ。
そして檻の外からは見知らぬ方が聞こえる。
ふと見ると、純白の鎧を纏った女性が私たちを見下ろしている。
髪はサラサラの金髪で眉毛も長い。
手足もスラリと伸びており、モデルみたいだ。
しかし、その顔の表情のみが驚きに歪んでいる。
「ねぇちゃ!ユヌねぇが!ユヌねぇが!」
ユヌ?彼女が一体どうしたのだと思った。
ふと血生臭い異臭が私の鼻を襲う。
顔を横にやるとそこには身体中が傷だらけのユヌの姿があった。
片耳しかなかった兎の獣人特有の長い耳は両耳とも根元から無くなっており、左腕は上腕の半分から下が切断されている。
息は浅く衰弱しているのが見て取れる。
「ユヌ!あぁ、なんて事に」
「ねぇぢゃ!たすけて!」
「おねがい!」
子供たちは涙目で私に助けを乞う。
私はすぐさま回復魔法をかける。
そして水を生み出して解熱剤や鎮痛剤を作り上げてユヌの口へと無理やり飲ませる。
最初は抵抗していたが、次第に大人しくなり呼吸も安定したものへと変わる。
「回復魔法に水魔法。それに何やら他のものも使っていたのか」
本当は隠して起きたかった私の魔法。
バレれば間違いなく面倒ごとに巻き込まれるはずだ。
しかし、ユヌを助けるためにはそんな余裕は無かった。
一安心した私は殺気を込めた目で檻の外にいる女騎士を睨みつける。
「あなたがユヌをやったの」
「違う。だが関係してないと言えば嘘になる。だから始めに言わせてくれ。本当に申し訳なかった」
女騎士は武器を地面に置き、膝をついて私たちの目の前で土下座をする。
額を勢いよく地面に叩きつけたのだろう、鈍い音が空間に響き渡った。
私はその行動に理解が出来ない。
ユヌをこんな目に合わせた人物がなぜ私たちに謝罪をする?
それも本気の謝罪だ。
「いまいち状況が理解できないので顔を上げてくれませんか?」
「あぁ」
そういうと女騎士は顔を上げる。
額からは血が流れ出ていた。
回復魔法をかけたいところだが、この女騎士が的かもしれない以上迂闊に手は出したくない。
「まずは自己紹介をさせてくれ。私はこの国の騎士団『円卓の女騎士』の団長を務めているイザベルだ」
「私は柚子です。それで、その騎士団の団長さんがユヌとなんの関係があるんですか」
「…………タカハシレンジ」
「ッッ!!」
私は思わず息を詰まらせる。
まさかここであの男の名前を聞くとは思わなかったからだ。
私の表情を見て納得したのか、イザベルさんは深いため息を吐く。
「私は奴の顧問役を務めている。まぁ、顧問とは言っても名ばかりで危険なモンスターが出た際に勇者を助けるだけの道具に過ぎないがな」
「顧問役ならッ……いえ、あの男の性格を考えればハンドルを握れと言う方が無理難題ですね」
「あぁ、更に第二王女も勇者と行動しているとなると手の打ちようがない。本当に済まない」
イザベルさんは再び謝罪する。
「それであの男がユヌをこんな目に?」
「正確にはタカハシレンジと第二王女だ。その両耳は王女が、腕と身体中の傷はタカハシレンジが付けたものだ」
「…………殺す」
そうか、奴と第二王女とか言うクズがユヌをこんな目に合わせたのか。
許せるはずがない、
私の仲間を、子供たちをこんな目に合わせた奴らを含めて許せるはずがない。
「落ち着け」
「これが落ち着けるはずないでしょう!」
「お前の怒りは最もだが、それを敵に向けても無意味だ。期が熟すのを待ってくれ」
「それはいつですか?」
「そう長くはない。帝国はラバン王国に戦争を持ちかけた。早くて二週間後、遅くとも一ヶ月以内には行動を起こす。その際に何かしらの手を打つ。それまでは待ってくれ」
「……分かりました。あなたの言葉を信じるとは言いませんが期待はします」
「助かる。本当にありがとう」
そう言い、イザベルさんは私たちの前から姿を消した。
ジーーーーーーーー。
一匹の大きさにして10センチほどのトカゲがその様子を見ていた。
イザベルという強者に気配を感じさせないように身を潜めて。
情報収集のためを撮影を全うするために。
そしてシャッターが切られ、その映像はラバン王国の諜報部へと送られるのであった。
次回、主人公登場




