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175話 高橋蓮寺パート1

クソ野郎登場です。

このパートの柚子ちゃん登場は少ないかと……。


ご不快な表現などあります。



 ここは地上のとある森ーーー



 そこには1人の男と、その従者らしき女性が複数名戦闘をしていた。



「おらぁ!」


 グギャッ、


 上から振り下ろした剣撃が右肩から左の腹へと斬り裂いた。

 男は満足そうに笑みを浮かべる。

 後方では見守っていた男の従者が黄色い悲鳴を上げて男の勇姿を讃える。


 男はミスリルの鎧に純金や宝石が所々に埋められた甲冑を着込んでいる。

 剣の柄の部分にだけでなく、刀身の中央にも見栄えを主張した宝石が埋め込まれている。

 明らかに戦闘よりも見た目を重視しているそれは、戦いに不向きだと戦い慣れた者ならば理解できるはずだ。

 それでも男が魔物を倒せるのは一重に実力があるのか、それとも武器の性能が見た目以上なのか。


「くははっ、どうよ俺様の剣の腕前は!こんな雑魚どもじゃ相手にならないぜ」

「流石は勇者様ですわ、また1つの勇姿が見られて幸せですわ」


 1人の女が男の勇姿を讃える。


 男の名前は高橋蓮寺、グロテウス帝国へ勇者として召喚された生粋の日本人だ。

 髪は金髪に染め上げ、派手な甲冑の他にも耳にはイヤリング、手元には指輪やブレスレットがジャラジャラとぶつかり合って音を上げている。


 純粋に戦う者ならば魔道具としてアクセサリーを身に付ける事はあるが、この男のそれは単なる趣味に過ぎない。


 変わって女の名前はアドリネ・ド・ルシャル・グロリア。

 グロテウス帝国の第2王女であり、帝国の王が勇者の従者として選んだ人材だ。

 彼女の役職は魔法支援であり、水魔法を得意としていた。

 勇者同様に……いや、それ以上に金物に目がなく、国庫を私利私欲のために使い漁る節がある。


「ほら、あなたたちも勇者様の勇姿を讃えなさい」


 そう言い、アドリネは後ろに待機している3人に高橋蓮寺を褒めるように強要する。


「流石です、勇者様」

「恐れ入りました」

「…………」


 後ろに待機している3人のうち2人は女騎士だ。

 彼女たちは勇者を守るために国から配属された騎士。


 『円卓の女騎士ロイヤルクイーン』という、女性のみで構成されたグロテウス帝国最強と名高い騎士団だ。


 そのうち淡い銀髪の騎士の名はイザベル、

 薄く透き通ったシミひとつない肌に無駄に脂肪のない鍛えられた体を持つ。

 円卓の女騎士ロイヤルクイーンの総隊長であり、女の身でありながら帝国で1位2位を争う強者だ。


(はぁ……なぜ私はこんな役目に回っているのだろうか。帝国はいつからここまで地に堕ちたのだ?前王は私たちが支えるべきお方だったが、今の王は一体なんなのだ。私利私欲に民から税を搾取し、自身の意見に反旗する者は容赦なく罰する。それに目の前にいる男が勇者だと?どうみても悪党にしか見えないだろう。はぁ……いっそのこと……)


 彼女は憂鬱になりながら、遠い目をして命令されたら水準するのみの機械として、この場において最も適した言葉を発する。


「そこの奴隷、私は勇者様を褒めろと言ったのよ」

「ひうっ!」


 アドリネは1人の少女を威圧する。

 痩せ細った身体がビクリッと動き、上から自身を威圧するさまに恐れをなす。


「この私を無視とはいい度胸じゃないのッ!」


 アドリネはいつまでも怯える少女に苛立ちを覚え、腰に携えた剣の納めた鞘を少女の脳天に振り下ろす。

 少女は身体を縮めてボールのように丸くなって身を防ごうとする。


 ガッと鈍い音が響いた。


「おやめ下さい、アドリネ様」

「イザベルゥ……この私に刃向かうと言うの?」

「滅相もこざいません。この奴隷は勇者様の勇姿にみ惚れていたのでしょう」

「…………ふん、勇者様と私に近づけるなんて早々ないことだわ。光栄に思うことね」

「はい、この奴隷の処罰は私たちの方でしておきます」


 その言葉に満悦とはいかないまでも、気を落ち着かせる事が出来たのかアドリネはフンっと鼻を鳴らあして、勇者である高橋蓮寺の元へ駆け足で寄る。

 イザベルは鞘で受けた腕が正常かチラリと見て視線を再び目の前の2人に向ける。



「あの……なんで獣人奴隷の私を……」


 目の前の少女はしおらしく垂らした耳と尻尾を丸めてイザベルに問いかけた。


 獣人と妨げられている人生の中で、自分に手を差し伸ばす人間など片手の指で数える程度しかないからだ。


「私は騎士だ。騎士とは弱い者を護らないといけない。それが例え獣人だろうが奴隷だろうがだ。理不尽に痛めつけられる者を見過ごすほど私は堕落してない」

「…………ゆずねぇみたい」

「ユズネェ、姉か。たしか獣人の娘たちは同じ檻で過ごしているのであったな」

「……ゆずねぇは獣人じゃ……ないです。黒髪の……人間です」


 その言葉にイザベルは言葉を詰まらせた。

 獣人は人間に敵視している。

 それは人道的でない扱いを幾たびも身に受けて過ごしていたからだ。

 時には兎狩りと称して、王子が庭に放った獣人の耳を斬り取った事がある。


 目の前の少女も人間に対して恐怖心を抱いている。

 それなのに同じ檻で人間を生活させるなど王は何を考えている?


 いや、そんな事はどうでもいい。

 問題は目の前の少女が人間を姉と慕っていることだ。


「そのユズとは何者だ?」

「分かんない。王様に捨てられたらしい……です。役に立たなかったから。でも……お薬を作ることが出来るから凄い人……です」


 イザベルは今の情報からユズという人物が何者なのかを推測する。


(役に立たなかった?王との面識があるだと。薬を作れる。そう言えば、最近軍上層部でエリクサーが支給されるようになった。となるとユズという人物像は少女が言ったものと合致する。いや待て……たしか目の前の勇者クズに遅れて異界の少女が召喚されたと報告が入っていた。となるとユズがその人物と取って問題ないな。これは接触する必要があるか……)


「隊長、どうされたのです?」


 隣にいたイザベルの部下が手を顎にやり、己のうちの中で自問自答している彼女を心配してかをかける。


「気にするな。それよりも、気を張り詰めておけ。勇者に怪我でもされたら私たちの首が飛びかねん」

「はぁ、勇者ってなんでしょうか」

「知らん」



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