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170話 ダンジョン(モンスターパレード)



 足元がグラつき、腰を低くしていないほどの振動が私たちを襲う。

 何十にも重なり合った魔物の奇怪な鳴き声が私の鼓膜を響かせる。


「ねぇ、クリスちゃん。ちょっとの間だけボクとロゼッタちゃんとエリスちゃんで戦わせてくれないかな」

「別に構わないけど……どうして?」

「今のボクの限界を知りたいんだよ。多分、勢いに間に合わなくなるだろうけど……それでも戦いたいんだ」


 珍しくシャルが自分の意見を言ってきた。

 目には闘志が燃やされている。


「はぁ、分かったわよ。でもヤバかったら私とミセルも参戦するから」

「くれぐれも注意してください」

「当然ですわ!」

「うん、分かった」

「後方支援は任せなさい」


 どうやら三人ともやる気みたいだ。

 


 ゾクリッ



 と、この場にいる3人の冒険者がこの空間に漂う雰囲気に身を震わせる。

 目の前から現れる群勢に畏怖したのだろう。

 普通ならばそうだ。


 しかし、真なる答えは目の前の人物たちにあった。

 先ほどの戦闘とは比較にならないほどの闘気と魔力を内から外に放つ人物たち。

 まるで数日間も食にありつけずにいる飢えた野生の獣。

 口を開けば、自分たちの方が先に骨一つ残さずに食い尽くされる想像すら容易にできる。



 分厚い石壁がヒビ割れ、水が溜まったバケツの底が一気にくり抜かれた程の勢いで魔物の大群が押し寄せてきた。




「行きますわよ、シャル!」

「うん!全力だでいこう!」



 2人から放たれていた魔力が加速し、2人の身を包み込む。

 一瞬の煌めきが静まり、3人の女冒険者は目の前を見て生唾を飲み込む。


 手で前を覆いたくなる程の風圧と熱気が自分たちの身を襲ったのだ。

 目を半開きにし、耐えながら何が起こったのかを把握する。



 淡い炎の衣を身に纏った拳闘士と白銀の衣を羽ばたかせ、身の丈以上の扇子を持った少女がいた。



【アルマモード】



 魔法聖祭において2人が各国の王を含めた観客に見せつけた、常人では決して到達し得える事が出来ない領域の身技だ。

 私は2人を見て確証する。

 2人の力は以前よりも強力、かつ安定したものへと変わりつつあると。


「喰らいなさい、【白龍】」


 2人の間を通って、エリスから白い光線に似た何かが発射される。

 その光は地を削り取り、大群の魔物に一切の慈悲もなく降り注がれた。

 その軌跡には直線上の堀と白炎が揺らめいている。


「ちょっ、いきなりブッ放しすぎですわよ! せっかくの登場が台無しじゃないですの」

「あら、失礼したわ。そんな注目を集める派手な登場をしてくれたら私の出番が無くなると思ってね」


 エリスは悪戯じみた笑みを浮かべ、テヘッっと軽く舌を出す。


「エリスちゃんは……そっか……使えないんだよね」

「シャル、あなた私を可哀想な子のように見たわね? さぁ!  主語を入れてもう一度言いなさいよ!誰が自分たちより弱いって、ええっ!!」

「ひいっ、ごめんなさい!エリスちゃんは普通に強いです!バカになんてしてません!」


 この場に置いて、シャルが言った「使えない」とはアルマモードの事を指す。

 数か月の涼太専属のトレーニングを最も身近なもとで行っていたからこそ取得できた戦法だ。

 魔力を纏わせた戦法自体は珍しくない。

 上級の冒険者でも接近戦を好むものならば必須とされている技能のうちの一つだからだ。

 階級的に言えば中級に位置するだろう。

 その程度ならばエリスも可能だ。

 しかし、アルマモードは魔力で物理的な装甲を生み出すことにより、自身の戦闘能力を著しく上昇させる上級魔法。

 中級魔法と上級魔法とでは埋められないほどの差がある、ゆえにアルマモードを十全に使える人物は限られてくる。


 しかし論点はそこではない。

 そのアルマモードに属性を付加する「属性同調」という技法。

 それこそ英雄の領域にでも至らないと会得は不可能とされているのだ。

 天才に枠組みされているとはいえ、エリスが本格的に魔法を学び始めて数週間しか経っていないのに取得はいくら何でも不可能だと思う。


「いいから攻撃しなさい、こうしている間にも魔物は溢れ出てくるんだから」


 エリスの言うとおりだ。

 消し炭にした魔物たちの屍を超えて、新たな魔物たちは一層に勢いを増して目の前の敵に押し寄せてくる。


「そうですわね、【烈風】!」

「ご、ごめんなさい。それならロゼッタちゃんに合わせるね【炎の荒波(フレイムウェーブ)】」


 大荒れの暴風が魔物たちに襲い掛かり、そこに炎の波が襲い掛かる。

 風と炎の愛称は最悪だ。

 同じ魔法使い同士でも、風を主体とする魔法使いと炎を主体とする魔法使い同士がぶつかれば炎の魔法使いが勝つ。

 業火に焼かれた魔物は悲鳴を上げて息を途絶える。




 ◇◆◇



 魔物が湧きだしてきてから30分が経とうとしていた。


「はぁはぁ、一体どれだけの魔物がため込まれてるっていうのよ!」

「全くですわ、魔力回復薬を飲み過ぎてお腹がタポタポしてますわ」


 その中、シャルが突然アルマモードを解いて足を折りたたむようにその場に倒れ込む。


「シャル、どうしたのですの!」

「毒でも喰らったの!?」

「……あの、非常に言いにくいんですが…………も、漏れちゃう」


 顔を赤面にして今まで耐えに耐え抜いた言葉を発する。

 足元にはいくつもの空瓶が転がっており、どれほど飲んだのかという多量さを示す。

 これは予想外だった。

 確かに時間が経つごとに訪れる生理現象ではあるが、こんな早くにも訪れるとは思わなかった。

 命にもかかわる事なので、普通ならば無視して戦いを続行というのが当たり前なのだろうが、そこまで私たちは恥じらう乙女心を捨てた覚えはない。


「仕方ないわね、私とミセルで後は一掃するから任せなさい」

「はい、より下層にいた魔物も地上へめがけて上がってきています。このままだと三人では捌ききれなくなるでしょうから下がっていてください」

「くっ、悔しいけど任せたわ」

「りょーかい」

「承知いたしました」



 私とミセルは三人とバトンタッチする形で前へ出る。

 

「そんな、二人では危険です!」


 フィルフィーに守られている三人の誰かが叫ぶ。

 すでに私たちは敵を見据えているので、どのような表情をしているのかは分からないが大体の創造は着く。

 私とミセル、二人の身を案じてくれているのだろう。

 

「良いから見ていろ」

「しかし! 私たちはいいのでフィルフィー様の参戦してください! 先ほどの三人の誰かを付けるべきです!」


 確かに傍から見れば愚かしい事なのかもしれない。

 先ほどの三人は私たちよりも身長も高いし人数も多い。

 私たち二人が小さくみられるのも仕方ないだろう。

 しかしだ…………。




「勘違いしている様だから訂正しようーーー」



 

 必死に懇願する三人から目を話し私たちの方へ向ける。

 何が面白かったのか……。

 顎をかすかに上げてフィルフィーは告げる。



「---あの二人個人の力は先の三人を纏めて相手しても凌駕するほどだぞ?」



 変化は突然として訪れた。


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