167話 ダンジョン攻略開始
すいません。
時間が取れない都合上、しばらく投稿は6日に1度のペース勝手ながらにさせていただきます。
ストックが溜まり次第、投稿の間隔を短くする所存です。
カエルが鳴くから、か〜えろ!
そ〜れなら、殺して帰らなーい!
地面から生えた氷の大剣が蛙のお腹から脊髄を貫き、瞬時にその命を刈り取る。
ギェピョっと可愛げのない断末魔を上げて散りゆくその姿には美しさが感じられなく残念だ。
「クリス、私の獲物を取らないでよ!」
頬を膨らまして私の側へ歩み寄るエリス。
違うのよ、決して奪おうとかしたわけじゃなくて、あまりにも暇すぎたから多少のチョッカイを掛けてもいいかなーっていう好奇心なのよ。
「クリス、お前はまだ戦うべきでないだろう。エリスやロゼッタのレベリングが先だ」
「うぅ、分かった」
「ごめんね、クリスちゃん。ボクが弱いばかりに……」
「ちょっ、違うって!私が悪かったから泣かないでよ、シャル」
ただ今、私たちはダンジョンの一階層で魔物との戦闘を行っている。
しかし、誤算があった。
ダンジョンとは危険を見返りに、数多の宝物が眠る一攫千金な場所として冒険者に利用されている。
また、弱い魔物のクセに地上で狩るよりも経験値が美味しいとの理由で一階層はダンジョン初級者から中級者までの溜まり場となっていたのだ。
ルールとして最初に攻撃した冒険者パーティがその魔物を倒すことができる。
正直、新しい魔物が湧き出たと思えば自分たちの獲物にしようと群がる冒険者が邪魔で仕方ない。
「提案があります!」
私は手を高く上げて、顧問役であるフィルフィーに訴えを出す。
「どうした?」
「雑魚ではレベルが上がりません!ここは一気に下層に行ってからシャルたちのレベリングをしたらいいんじゃないかと思います!」
「しかし、それは危険があるだろう」
「大丈夫、私は最初の敵が死の樹海の魔物だったから」
その言葉にフィルフィーは目を大きく開くが、涼太というチートな存在が付き添いでいた事を聞くと納得した。
「私もクリスの提案に賛成ですわ!」
「ボクも手応えがないかなーって思ってたところなんだ」
「私もその提案に賛成ね。正直、魔物を倒すっていうよりは冒険者たちの視線が苦痛だわ」
エリスは不快感を示した顔で周りの冒険者たちを見回す。
しかし、それは仕方のないことかもしれない。
基本的にむさ苦しい男衆しかしないダンジョンで女性のみで構成されたパーティはゼロではないが珍しい。
さらに、その女冒険者が絶世の美女ときた。
意識を無意識にでも向けるのは男のサガというものだ。
「ふむっ、それならある程度下まで潜るか」
「「「「「賛成!」」」」」
◇◆◇
冒険者ギルドで貰った地図通りに進み、私たちは15階層まで到達した。
先ほどまでの増殖した冒険者が嘘のように姿を消して、比べると約1割ほどの数の冒険者しかいない。
「これくらいの敵じゃないとっ!」
「ですわ!」
ロゼッタとシャルは二人掛かりで目の前にいる格上の迫り来る敵に奮起していた。
魔力で強化した身体は、そこにあったレベル差を極小のものへと変えて優勢に戦いを運ぶ。
「ふむ、流石はシャルとロゼッタですね。初戦闘でこれほど卓越した動きをするとは」
「どうやら私の心配も不要だったようだな」
敵との間合い、技量、体格差、スピードを考慮した上で着実にダメージを与え続けている二人を見てミセルは関心する。
「みんな、下がって!」
その合図に前衛にいた2人が瞬足で離れて、エリスの後ろへと待機した。
目の前の人物が直進にかざした手の先にはダメージにより怯んでいる魔物の姿が、
手からは何重にも重なり合った魔法陣が発射台のように敵を定めていた。
「喰らいなさい、【蒼龍波】」
エリスから放たれた蒼い炎はトグロを巻き、一体の龍へと変わって魔物に襲いかかる。
その勢いは一帯に留まらず、奥からちょうど現れた魔物たち諸とも炭化したオブジェクトへと変えた。
「ふぅ、どんなもんよ」
エリスは腰に携帯しているアイテムボックスの中から瓶の中に入っている魔力回復薬を一気に飲み干した。
先ほどの魔法で枯渇した魔力のゲージは一気に満タンになる。
涼太さんの用意した底が見えないほどの魔力回復薬のストックが無ければできないゴリ押し戦法だ。
「エリスは今でどのくらいレベルが上がりましたの?」
「そうね、14かしら。思った以上に上がらないものね」
「そうですわね。私とシャルも、この階層では20には到達出来そうにないですわ」
既に経験値を少しだけ貯めていたシャルとロゼッタはエリスよりもレベルが高いのは仕方ない。
勘違いしてほしくないが、数時間前までレベル1だった者が一気に14まで上がるのは異常とも言っても良い速さ。
普通ならば、何日も時間をかけてレベルを一つずつ上げる、もしくは修羅場を潜り一気にレベルを上げる方法が一般的だ。
事態の異常性を全く理解していない4人に、いくつもの修羅場を潜ってきたフィルフィーとミセルは感嘆する。
「このまま進みますわ!」
「待て」
アドレナリンを放出させ、飢えた獣のように次の狩場を探そうとするロゼッタをフィルフィーが止める。
「なんですの?」
「その前に腹ごしらえだ」
戦いに集中していたが、朝からダンジョンに入ってから昼食時間など等に過ぎている。
「確かにお腹が空きましたわね」
「ボ、ボクも実は……」
「それじゃあ、どうしますか?涼太さんがくれたセーフティドアを使って中で食事ですかね」
「いや、周りに冒険者が多い。食事はダンジョン内でも問題ないだろう」
確かにフィルフィーの案が最もかもしれない。
時間を削減するためにも、ダンジョン内で食べるのも悪くない。
他の冒険者も道端で食べているのを来る際に何度か見かけたしね。
「では私が料理を」
ミセルがアイテムボックスの中から調理道具を取り出して簡易的な調理場を確保する。
「簡易的なものでよろしいでしょうか」
ミセルがみんなにそう尋ねると全員が首を縦に降る。
無論私も同じくだ。
ご飯に時間を取るよりも、早くレベルアップをして私も戦いたい。
涼太さんのご飯が食べられないのは残念だけど、仕方のないことだから我慢するとしよう。
ミセルは大きなタッパの中から、厚切りカットされた人数分の肉を網の上に置いていく。
肉を焼いている間に、キャベツを千切りにしてパンを半分にスライスする。
これだけで、ミセルが何を作ろうとしているのかは分かった。
あとは焼けた肉にソースをかけて挟んで完成だ。
「完成しました」
私たちは出来立てのハンバーガーもといステーキバーガーを丸かじりする。
お肉は固いと思っていたが、上品な肉本来の甘みと油が乗って美味い。
「ねぇ、ミセル。このお肉って洞窟で倒した魔物のヤツじゃないの?」
聞いた話では料理ができる冒険者たちは食料がなくなった際は、現地調達するのが当たり前。
私もてっきりダンジョンから調達すると思っていたが、それとは全く違う物だ。
「はい?これは家にあったお肉を持ってきただけですけど」
「それって……」
つまり、美味しいものを食べたいという欲求?
どうやら、私たちの舌は肥え太って普通のものじゃ満足できなくなったらしい。




