163話 (老人との再会)
すいません。
忙しく、今後の更新速度が遅れるかもしれないです。
コツンッ、コツン。
私たちの住まう地下牢へと近づいて来る足音が耳の奥深くに響き渡る。
何日も檻の中で過ごしていたお陰で、どの足音がどの看守のものなのかをある程度把握できるようになった。
しかし、その足音は私が十数日もの間過ごしてきた際に感じ取った誰とも違う。
何より複数の足音など初めてだ。
私たちは知らない者に対する警戒心を身の内にたぎらせその時を待つ。
「ほぉほぉ、元気そうじゃのぉ」
そこに現れたのは、もみ上げから顎の下まで長い年月を掛けて伸ばしたであろう白髭を生やした老人であった。
私はこの人物を知っている。
転移された時に王の片隅にいて、私に歩み寄ってきた老人だ。
身長は150センチにも満たないだろう。
手には多くの指輪と身の丈以上の長杖が握られている。
側には足元からつむじまで体全体を覆った黒の甲冑を身につける男が左右に待機していた。
私は今の体勢を変えずに、ただ目の前にいる人物を警戒する。
「ほほほっ、そんな怖い顔をしなさんなぃ。綺麗な顔が台無しじゃぞ?」
私をこんな目に合わせたくせに何を言っているのだろうか。
「何をしにきた」
「ふむ、お主は陛下に合わせる機会もありそうじゃからなぁ。まず、その言葉遣いから正したほうが良いぞ?」
「知らない」
「ふむぅ、致し方あるまい」
そう言い、老人は一歩前に出て右手を私にかざす。
何かの呪文をらしき言葉を発する。
すると私の首に付いていた首輪がどんどん縮まって、首輪と皮膚の間にある空気の層を減らしていく。
窒息するのではないだろうかと思わせるほどに締め付けられた私は力無くその場に倒れこむ。
「なに……を」
「己の立場を理解せぃ。私が優しく言っている内に直したほうが懸命じゃぞ?」
「ごとわ……ウグッ」
更に首の締め付けがより一層増して、言葉を発するどころか呼吸すら困難になった。
頭に血が供給されずに、意識だけが遠退く感覚が私を襲う。
「ほれ、どうすればいいか分からんほど知性が無いわけではあるまい」
「い……やだ」
「お主一人殺しても問題はないのじゃぞ?これは私の慈悲でもあるのじゃし、言うことは聞いておけぃ」
「グッ……も……うしわげありません」
私は掠れた声で最もこの場面で適切な言葉を選ぶ。
「そう、それで良いのじゃよ」
「以降はその言葉遣いを忘れるな。それがお主の身を救う事になるじゃろう」
「……はい……カハッ!」
老人が手を下ろすと同時に首輪によって締め付けられてた感覚はなくなった。
地面にうずくまったまま、荒々しい呼吸を整える。
唇を噛み締めると、鉄の味が口全体に広がった。
「さて、前置きはこのくらいにして本題に移るとするかのぉ。ワシはお主の顧問役と言ったところか。お主にはこれから外の世界で魔物狩りをして貰う。その首輪の効果が発動している間は一定以上ワシから離れると今のように苦しむ事になる。気をつけるんじゃな」
「は……い……」
屈辱的な仕打ちの後、私は檻から出された。
案内されたのは一つの扉。
中からは古びた鉄臭い匂いが鼻に付く。
樽の中にはボロボロの剣と皮の鎧があった。
どうやら、私に防具を着せようとしたようだ。
手や足に嵌められた鉄の塊は着替える際に邪魔だから取ったのだろう。
正直なところ、首に付いている鉄輪さえあれば逃すことはないから外したのが理由だと思う。
着替え終わり、長い地下通路を甲冑に身を包んだ男たちに引っ張られていく。
階段を上がり、洞窟のような場所へ出た。
「ここは?」
「ここは魔物が住まう地区だ。お前にはここで戦って貰う。死にたくなければ、死に物狂いで生き残れ」
「意味わかんないんですけど」
「この洞窟から逃げようとすれば、苦しむ事になる。では頑張れ」
「はぁ……ちょ、どこに行くのよ」
男たちは洞窟に直接繋がっている保護色の岩扉の中に入り、私を置いてきぼりにしようとした。
「数時間後迎えに行く」
そのまま、ガコンッと扉は閉まり私は薄暗い洞窟の中に一人置いてきぼりになった。




