160話 《アホの末路》
ク、クソくだらねぇ……。
そんな理由でこのアホはぶちぎれやがったのか。
ヘファイストスから簡潔な説明を受けた俺は呆気に取らずにはいられなかった。
「ちょっと、りょう君! これヤバくないですか!?」
「これは予想外だ。とりあえず抑える必要があるな。【地獄の鎖】【グレイプニル】」
俺を中心にして半径数メートルの地面から漆黒に塗りつぶされた地獄の鎖が、
何もない空間からは黄金に輝く荒縄が無数に現れアポロンの体を抑え込む。
目の前の現状すらはっきりと認知できていないほどに重傷なのは見て分かる。
さて、どうしようか。
バキッ、ぶちっ!
一考を挟もうとした途端に、俺が放った鎖はひび割れて縄は軋みを上げて一本ずつだが徐々に切れている。
体を覆いつくすほどの鎖と縄なのに、いとも容易く破られるとは。
これはアカンわ。
早々に場所を移さなくっちゃ、家が崩壊する可能性が高い。
「アテナー! 少しこのアホと戦ってくる。どうする? 無論、そこの二人は同席するが」
俺の指さした方向にはヘファイストスとトールが驚いた表情でこちらを向いている。
いや、お前らが仕出かした事態だろう。
俺はなくとも、お前たちは行く義務があるんだよ。
「それじゃあ、私たちも行きましょう。いざとなれば、りょう君が助けてくださいね!」
「いや、俺は後方支援に回ると思うけど……」
と言う訳で、俺はすぐさま目の前にいる人物たちごと壊れても問題のない修行部屋へ転移させる。
すると鎖は砕かれ、狂神が覚醒して咆哮を上げた。
回りに連なってた岩壁はいとも容易くひび割れ、乾燥して劣化した粘土のようにボロボロと崩れ落ちる。
思わず手を前にやり、目を保護する。
マジで何なんですか。
ステータスとか累計した戦闘力が数倍に跳ね上がっているんですが。
憤怒系統のスキルがいくつも発動してやがる。
それに加えて、【限定解除】もなぜか発動しているので、これは本当に本気でやらないと危険だ。
あぁ、もう嫌だなぁ……また使う羽目になるとか予想外だよ。
相手さんは自前の弓を用意して戦闘準備完了だ。
「全然、気が進まないんですが……」
「しゃあねえだろ。いいから手を貸しやがれ。【限定解除】【神羅】」
「あやつと喧嘩をするのも久しぶりであーるな。【限定解除】」
「あーーッ! クソッ、覚えてろよ!」
俺は己の内に意識を集中させて目を瞑る。
----ーー【神化】発動!
・神の領域へ一時的に踏み込む。
------【修羅】発動!
・ステータス500%増加。
もう知らん。
気絶とかは嫌だけど、神と戦うんだから同じ領域に至らないと話にならない。
「いくゾォ……」
アポロンから呪詛交じりな言葉が発せられ、弓を天高く引いて離す。
一本の矢が落下する直前に数百、数千の光の矢に変わって俺たちに襲い掛かった。
「りょうたぁ!」
「分かってるわ、この野郎」
俺は全員を覆いつくす、ドーム状の結界を張っていく。
矢は結界に突き刺さり止められる。
一安心したのだが、何やら違和感を覚える。
攻撃の体感時間が異常に長い。
結界に突き刺ささり続けている時間はゆうに30秒を経過しようというのに矢の勢いが止まらない。
それどころか一つ一つの矢がより強靭な物へと変わっている。
上を見ると光球が浮かび上がっており、そこから無限に光の矢が俺たちに襲い掛かっている様だ。
なに、このチート戦術。
再び、結界を張ろうとするが次々に古くなった結界は壊れてゆく。
「あいつ、あんな力を隠してやがったのか」
「そう言えば、以前の強敵も倒したのはやつであったな」
「ちょっと、そんな事よりもヤバいですよ! りょう君の結界が持ちそうにないですよ!」
焦りを感じているアテナは必死に言葉を投げかける。
「んじゃ、帰るか? 俺と涼太、トールで何とかするが」
「嫌ですー! りょう君と一緒にいるんですー!」
「ったく、涼太。なんか解決策はあるか? あの光りの球が厄介だ」
「あることはあるが、どうなっても知らんぞ」
「いいからやれや!」
オーケー、なら新しい魔法を考えました。
どうなっても知りません。
「【ブラックホール(小)】」
その言葉が発せられたと同時に光球の傍に黒い渦が生まれた。
漆黒など可愛く思えるほどに塗りつぶされた黒い何か。
俺もこの魔法を使ったことを後になって後悔した。
以前に使用した際に本気で己の死を感じさせた魔法。
ごく小サイズなら大丈夫だろうと甘い考えで発動してしまった。
小さなブラックホールはその場にある全てを吸収する。
いとも容易く光球は消えたが、ブラックホールは収まる気配がない。
俺は進化したスキルの【消滅魔法】を全力で放つ。
放った魔法は空間に穴を開けて、ブラックホールを消す。
「はぁ……はぁ……あとは任せた」
「あぶねぇ奴だ。あとは任せろ」
「ゆくのであーる!」
ヘファイストスとトールが神速でアポロンに迫る。
「「ッッ!」」
もう少しでアポロンの間合いに入ろうとしたところで二人は後ずさる。
まるで本能的に危機を察した獣のように。
「何してんだよ」
「あの野郎……自分の身の回りに極細のワイヤーを引いてやがる。しかも雷魔法を併用してやがんぜ」
有刺鉄線かよ、これでは近付くことは出来ない。
先ほどから耳に響く高音は振動させたピアノ線の音だろう。
ピアノ線を高速で振動させれば、電動のこぎりの役割を果たせる。
近づけくことが出来ない最強の布陣か。
俺以上に異世界の知識を活用してやがる……まったく、どこで身に着けたのやら。
致し方ない、使いたくはなかったが最終手段を使うとしよう。
「パンドラさん、お願いがおります」
「いや」
即答ですか。
何にも言ってないのに全力否定とか泣いちゃうよ。
「頼むって。あのアホを止められるのはパンドラしかいないんだから」
「いや」
「それなりのお礼はするから!」
「……いや」
「パンドラ、お願いします。やってくれたら、一日りょう君独占権を得られますよ」
おいこら、何を勝手に話を進めてやがんだ。
別に構わないけど、本人の了承をなく進めるのは気にくわない。
「…………3日」
「ちょっ、それは欲張りですよ! 私だって独占したいんですから」
「そうっすよ、言い過ぎっすよ」
「……なら、やらない」
パンドラは口を膨らましてプイっとそっぽを向く。
「あー、分かりました! 3日でいいです。だから早くあのバカを止めてください!」
こう話している間に、ヘファイストスたちはアポロンの攻撃を防いでいる。
俺たちに残された時間は少ない。
「じゃあ、パンドラ。これを」
俺は拡張器を手渡す。
小さい声のパンドラに暴走しているアホへ声を届けるにはこれくらいは必要だろう。
「ん…………」
小さな手で柄の部分を両手で握り、意気を大きく吸い込む。
『アポロンなんて、だいっきらぃーーッ!』
パンドラの全力の声は拡張器を通して、空間全体に響き渡る。
アポロンに目をやると先ほどまでの勢いは完全になくなり、空中に浮いたまま動かない。
「ワ、ワタシ……オニイ……キラ、キライィ……ゴハッ!」
体を震わせたアポロンは、ふらっと体の力を抜いて意識を手放した。




