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156話 《騒がしい朝食》


 破り捨てた紙切れを俺は消滅魔法でこの世から消す。

 これで証拠隠滅で蘇ることは無い。

 

「アァァーーッ! 何するんですか!」

「やかましいわ! なんて恐ろしい代物を出しやがんだよ!」


 本当にビックリしたわ。

 しかもなに律儀に地球式の正式な書類として出してんですか。

 オーディンの爺さんが主体として行っている様だが、あまりにもふざけた内容だ。

 俺を神にするなんざ百年早いわ!

 神様たち本人が勧誘するとか恐怖でしかない。

 宗教団体の崇められている本人たちからの勧誘とか誰得だよ。

 

「うぅ、やっぱりダメでしたか」

「何を当たり前のことを……」


アテナは肩を落としてシクシクと残念がっているが、可哀想とかは一切思わない。


そんな話をしていると、ガブリエルがトレーにアテナの朝食を運んできた。

少し離れた距離でも鼻腔をくすぐる芳醇な甘さが漂う。

アップルパイにはもちろん、ジュエルシリーズのゴールデンアップルが使われており、パイ生地の隙間から黄金に照りかがやき蜜を纏った果実が顔を出す。

ホットケーキはアテナが好きなスフレ風ホットケーキである。

カットされたデザートと芸術的に並べられており、国王の晩餐程度ではお目にかかれない品々だとすぐに分かる。


「ひゃー、ガブちゃんの料理も凝ってきましたね。りょう君に近づく日も近いかもしれません」

「なんつー上から目線な発言だよ」

「私など、主様には遠く及びません」


ガブリエルは照れ隠しのために頬を隠して頭を下げる。


照れる必要は全くない。

自分では全く料理しないアテナに言われる筋合いは微塵もない。

こんな手の込んだ料理ではなく、野菜の切れ端とかでも使えばいいと最近思う。


「そう言えば、りょう君は何する予定なんですか」

「何とは?」

「先の戦いでレベルとスキルも上がった様ですし、しばらくはレベリングは行わないんですよね」

「あぁ、数日は神界に入る予定だよ。その後は少し地上でやりたい事がある」

「でも、地上の子たちには会う予定ではないんですよね」


ひょっとして、神界に来る直前に地上の様子を監視していたのか。

プライバシーの侵害もクソもないよな。


「あいつらには修羅場を体験して欲しいんだよ。個人の力でどう助け合っていくか見守りたい」

「お母さんですね」

「しばくぞ」


誰がお母さんだよ。

言い方が悪かったことに関して申し訳ないが、その発言は許容できない。


「という事は別件ですね」

「あぁ、豪鬼たちの事は知ってるか?」

「りょう君が助けた魔族ちゃんたちですよね」

「しばらく顔を見せていないからな。今、あいつらには俺のトレーニングルームで修行してもらっているんだ。どの程度の力を身につけたか、即戦力になるかを確かめたい」

「ふぅーん。別に構いませんけどねー。別にぃ」

「何だよ、何か不満な事か?」

「だって、りょう君。最近、地上の事ばかり忙しそうで神界に目を向けてくれないじゃないですか」


 頬を膨らまして明らかに不機嫌な態度をとるアテナ。

 そう言えば、神界に来てもバトルバトルバトルな日々を過ごして、ほのぼのな日常を過ごしている時間がかけている気がする。

 やはり詰め込み過ぎたせいか、俺自身の心にゆとりがなかったのだろう。

 そう考えると申し訳ない気持ちになる。



 ガチャ


 ふと、ドアノブが開く音がした。

 振り返ると、まだ寝ぼけて目をこすっているパンドラが扉から入ってきた。

 薄い紫色が混じった銀髪はだらしなくも乱れ、可愛らしい猫のフードが付いたパジャマも着崩れている。

 そのまま、足裏を床に擦り合わせて歩き、ガブリエルがいるキッチンの方へ歩く。


「おはようございます、パンドラ様。お水です」

「ん……ありがと……ガブ」


 パンドラは小さな手でトレーに乗ったコップを両手で持ち、コクコクと乾いた喉に水分を通す。

 飲み干したコップを再びトレーに乗せて、パンドラはこちらを向いた。


「おはようございます、パンドラ」

「おはようさん」

「…………涼太?」

「おう、俺もさっき起きたぞ」

「……よかった」

「心配かけたようで悪かったな」


 近づいてきたパンドラの頭を撫でると、目を細めて気持ちよさそうにする。


「涼太……遊ぶ?」

「いいよ、でも先に朝食を食べてからにしようか」

「うん……」


 正面にはアテナが座っていたので、空いている俺の隣の椅子を引くとパンドラはチョコンと座り込む。


「パンドラ様、いつものでよろしいですか?」

「うん……」


 パンドラが縦に頷くと、ガブリエルはせっせと厨房へ戻った。

 

「あれぇ? なんか、私とパンドラとでは扱いが違う気がするんですけど。そこに関して抗議がしたいですねぇ!」

「大して変わらんだろ、お前がうるさすぎるんだよ」

「グハッ! 聞きましたか、パンドラ。りょう君が酷い事を言ってきましたよ」

「……アテナはいつも騒がしいよ?」

「ゴハッ!」


 アテナは口の中から赤い液体を出した。

 そのまま机に倒れ伏してシクシクと涙を流す。


 いやいや、本当に何をいまさら気づいているんだよ。

 女神の中で一番ハイテンションでうるさいだろう。

 朝っぱらから、そのテンションは勘弁してほしい。


「てか、汚いだろ。口から物を出すな」

「……汚い」


 更に追い打ちをかけるように俺とパンドラは目の前にいるアホに注意を投げかける。

 勘違いしてもらいたくないのだが、口から出た赤い液体と言うのはアテナの唾液とイチゴジャムが混ざったものだぞ。

 なぁ? 汚いだろ。

 血を吐くなんて過剰演出をしやがって、腹立たしい。

 後で片づけるのは俺になるかもしれないんだから。


「パンドラ様、お待たせしました」


 机の上に置かれたのはヨーグルトとジャムと蜂蜜である。

 パンドラはスプーンですくって、ヨーグルトに入れて混ぜて口に入れる。

 そう言えば、蜂蜜は地上で採取していなかったな。

 全て、俺が創造した物ばかりだ。

 地上のカフェのワッフルやパンケーキはメイプルシロップとジャムで賄っているが、蜂蜜が加われば品数も飛躍的に拡大する。

 そう考えると蜂蜜の安定した採取場所を確保する必要があるな。


 てか、この世界に蜂っているのかな。

 今まで、虫系の魔物は苦手だから避けてきたが……そうだ! 必要ならギルドに依頼でもするか。高額ならば受注もしてくれるだろう。

 俺の店って必要経費以外は俺自身で賄っているから、建築費とか材料費とか無料なんだよな。

 お金は貯まる一方だし、祭りでも開催するか。

 お金の循環って必要だからね。




「あれー! りょうっち起きたんっすか」

「久しぶりねぇ」

「お久しぶりです」


 テミス、アディ、パラスの三人が扉を開けてリビングに入ってきた。

 これでいつものメンバーになったな。

 

 三人はしわ一つない私服に着替えており、髪綺麗に整えられている。

 やはり女性だから身だしなみは整える事は最低限必要なのだろう。

 パンドラはそれが可愛いステータスとなっているので問題はないが、アテナには是非とも見習って欲しい。


「皆さまは何をお召し上がりになりますか?」

「うちはスクランブルエッグセットで」

「私はコーヒーとスコーンをお願いします」

「私はぁ……涼太で」

「「「「「「「えっ?」」」」」」

「いただきまぁす」


 一瞬、アディを除いたこの場にいる全員の思考が停止する。

 朝食に涼太なんてメニューはなかったはずだ。

 何を言っているのか理解できなかった。


 そのスキにアディは俺の空いているもう一方の席に座り、きめ細かな肌の手で俺の肩に手を乗せて顔を近づける。


 はむっ


 と、発した効果音の先には俺の耳があり、アディはペロリと舌を出して耳を舐める。


「ヒウッ!」


 艶めかしい吐息が直に脳髄に響き渡りった。

 あまりにも唐突過ぎることに反応できず変な声を上げてしまう。

 当人のアディの方を向くをしてやったりと満足げな表情を向けている。

 

「ごちそうさま……ガフッ!」

「こんのぉ! クソビッチがぁぁ! 私のりょう君に何してんですか!」


 覚醒したアテナは机を飛び越え、エアロジャンプエルボーをアディの脳天にぶち当てた。

 これまた早すぎるスピードについていけない。


「フフフッ、残念だったわね、アテナ」

「上等です。今この場でケリを付けましょうか」

「面白いわ、相手になってあげる」


 首を鳴らして正面同士になる。

 今にも神の闘争が起きそうな雰囲気に俺は右端を、テミスとパラスは逆側の端を、パンドラは小さな体で机を持ち上げて安全地帯まで移動しようとした。

 しかし、それは不発に終わる。


「いい加減になさい! 主様の前で、これ以上の狼藉は許しません! それとも今晩からご飯は白米だけがいいですか?」


 厨房から鬼の形相で歩いてきたガブリエルが仲介に入った。

 その殺気は近くにいれば、弱い生物の意識を刈り取るほどのものだ。

 床は不自然にもギシギシときしみを上げている。


「「でも、こいつが!」」

「はい?」

「「あ、ごめんなさい」」


 ここで一つの真実が明らかになった。

 どうやら、ガブリエルは神様よりも強いようである。

 


 

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