155話 《目覚めて、はい》
142話、
ウリエルの声について
「ハスキーボイス」→「アニメボイス」
まったく……こう言う展開では見知らぬ天井で目覚め、知らない美少女が俺を介抱してくれていると言うのがお決まりの展開なのだが。
残念ながら、そのような展開を期待するだけ現実は無駄なものだ。
時計の短い針は5を示している。
そして薄暗い部屋から察するに、ただいまの時刻は夕方ではなく早朝の5時なのだろうと推測できる。
側には、だらしなくも腹を出してヨダレを垂れ流して眠っているアテナや猫のように縮こまって眠っているパンドラ。
残りは自室で眠っているのだろうか。
「はぁ……また気絶してたのか」
以前に紫の迷宮で対峙した際の後遺症として10日ほど眠っていたが、今回もそれと同じ事になったようだ。
少し体を動かす。
肉体の損傷は全くない。
例の【真祖】とか言うスキルはよく分からないが、それが作用している事は何となくだが感じられる。
俺は2人を起こさないようにベッドから起き上がり、忍び足で厨房の方へ向かう。
起きたと同時に空腹が身に襲い掛かってきた。
何より体が水分を欲している。
厨房へ向かうと、何やら物音と良い匂いが鼻腔をくすぐった。
中にはガブリエルが料理をしていた。
「ッ! 誰ですか」
物音一つ立てていない筈なのだが、気配を察知したのだろう。
ガブリエルは手に持っていた包丁をまな板の上に置きこちらを振り向く。
「やぁ、おはよう。えらく早いじゃないか」
「主様! お目覚めになられたのですね」
「迷惑をかけたようだな、すまない」
「本当に……本当に良かったです」
抑えきれない感情を無理やり押さえ込もうとしているが、声の震えから隠しきれていない。
俺はそっと、ガブリエルの頭を撫でる。
手入れされた髪が指の間を透き通り気持ちが良い。
「何日ほど俺は眠っていたんだ?」
これは必要最低限の事だろう。
前みたいに10日とかだと地上でクリスたちの訓練と折りあわせる時間が作れなくなる。
あいつらもレベリングをしているのだから、俺もより一層の強さと備えをするべきだ。
「2日と14時間に御座います。アテナ様方も心配されておられました」
「約3日か、妥当といえば妥当な日数か」
10日から2日半への短縮は非常に大きい。
以前よりは無理はしていなかったにしろ、神化に加えてブーストもかなり行った。
5日は倒れているんじゃないかと心配したよ。
「主様、無理をなさらないで下さい。瀬戸際を走られていてはいつか奈落の底へ落ちます。そんな事になれば私は……」
「そうならない為にも力を慣らしていく必要があるんだよ。悪いけどコレばっかりは見逃してくれ」
「……そうですね。承知しました」
「それはそうと、何を作っていたんだ?」
「パイ生地を焼いておりました。朝食には何かリクエストは御座いますか」
はて、何を食おうかな。
この様子だとガブリエルが作ってくれる様だし、任せてもいいだろう。
喉ごしの良くて、胃に負担ならない物が食べたいな。
頭の中にそーめんという単語が思い浮かんだのだが、よく考えれば俺って最近そーめん以外を口にした記憶がない。
飽きがこないって怖いなぁ。
それとも俺が食に関心がないのだろうか。
料理は凝ったものとか作るの好きなんだけど。
「うどんにするわ。俺も用意する」
「主様は起きたばかりなので休んでいただきたいのですが。パイ作りも焼く作業のみなので片手間で十分に作れます」
「気にするな、体は前以上に回復している」
正直にいうと、数日眠っていたせいで体の感覚が少し鈍っている。
それを元に戻したいのが理由だ。
早速、調理器具を用意して巨大冷蔵庫(時間停止型)から麵を取り出す。
その前にいつも通り、かつお節や煮干し、醤油などで汁を作っていく。
一連の作業が終えたら麺を茹でてスープの中にぶっこむ。
後はネギとナルトを乗せて完成である、
適当に作ったが、ぶっかけうどんなので上出来だ。
「んじゃ、俺はリビングで食ってくるわ」
「はい、後ほどフルーツをお持ちいたします」
「おう、サンキュー」
相変わらず言葉に発しなくとも俺の意図を読む辺りは流石だ。
まさにメイドの鏡だよなぁ。
席に着いて麺をすする。
もっちりとした触感と軽く噛めば押し返すほどの弾力とコシだ。
以前に創造した食材の在庫はまだあるが、いつかは無くなるだろう。
その前に地上で小麦とそれを作る人材の確保、農業をするための所有地も確保する必要がある。
そんなことを考えながら、二口目を啜ろうとした。
「この匂いは涼くんのご飯ですゥ……ゴフッ!」
寝起きの半覚醒状態で突っ込んできやがったアテナ。
俺に向かってダイビングをして着地地点は言わずともわかるように、熱々の汁が入っているうどんの上だ。
アテナが火傷するとかは正直どうでもいいんだが、俺の朝飯が廃棄されることだけは防がなくてはならないので結界を張らせてもらった。
結界に顔面からぶつかったアテナはそのままズルズルと力なく倒れ込む。
「おはよう、アテナ。目は覚めたか?」
「ふぇ……りょう君……ダッ!」
俺と認知した瞬間に反射的な速度で抱きついてきた。
躱そうとしたのだが、一歩相手の方が上手だったのかアテナに捕まる。
「はぁ〜、久々のりょう君の匂いです。クンカクンカ」
「ちょっ、おまッ!止めろって」
「嫌ですー!結局、敵と5日も戦ってから2日も寝込んでいたんですよ!7日もお預けとか何ですか!?放置プレイもといお預けプレイですか!待てません、えぇ、待てませんとも!アテナさんの堪忍袋はすでに二つほど爆発してるんですよ」
どうやら不満タラタラのご様子のアテナさん。
よく考えてみれば、もう1週間も過ぎたのか。
戦いに集中し過ぎていたせいか、あの時の時間が過ぎる感覚は非常に短かった。
「仕方ないだろ。ひとまず、問題は解決したんだから」
「うぅー、確かにそうですけど……あんな事態を体験したんだから、もっと何か言う事とかあるんじゃないですか?」
「いや、特にないけど」
「もう嫌だー、とか無いんですか?」
「特にはないな」
何を今更言うか。
むしろ今回はステータスとスキルのレベリング要素が満点で楽しかったとすら思えるんだけど。
まぁ、ロキみたいな公式チート級の化け物に遭遇したのならば文句の一つも言ったかもしれない。
まぁ、毎回気絶してばかりでは心配するのも当然だろう。
「それよりも、アテナたちの方は怪我とか無かったのか」
「りょう君、たちを抜いてもう一度言ってみて下さい。ハイ、サンハイ!」
「んぁ?アテナは怪我とか無かったのか?」
特に訳も分からず、言われた通りに繰り返して話す。
「うぇへへへ〜、りょう君が私のことを心配してくれましたぁ〜」
銀髪に光沢でも付けたかのように輝くサラサラの髪質。
頬に手を当て、顔を紅色に染めながらなびかせる。
「アテナ様、おはようございます。お申しつけ通り、アップルパイとフレンチトースト、デザートにジュエルシリーズの盛り合わせをお持ちいたします。席に座ってお待ちください」
「ありがとうね、ガブちゃん」
まさか、甘い物に甘いものを重ねてくるとは思わなかった。
えらく豪華な朝食だな。
質素なうどんを食べている俺とは大違いだ。
「そう言えば、俺が眠っている間に何か変わったことは無いのか?」
「うーん、特にはないですね。しいて言うならば、りょう君を神の末席に加えるかどうかの審議ともい神議を行ってました。なんつってね!」
「…………えっ、イマナンテイッタ?」
麺をすすっていたせいか、アテナの言葉が耳に入らなかった。
「なんつってね?」
「一番どうでも良いところだわ! 何で俺が神様候補にされてんだって話だよ!」
「えー、何をいまさら言ってるんですか。神様と同じ力を身に付けている上に、創造なんて私たちにも使うことの出来ないスキルを持っているじゃないですか。そうだ! いっその事、私とりょう君だけの楽園を創りましょう。アダムとイヴです。一から新たな世界を創るのも面白そうですね」
「何をバカな事をおっしゃっているんですか、アテナさん。俺にそんな力があるわけないでしょう。ハハハッ」
いや、本当に無理だからね。
確かに俺の創造は生命やら物質の創造か可能だ。
この世界の宇宙にでも惑星を創造して超巨大隕石として地上を滅ぼすことくらいなら出来るかな……なんて恐ろしい事はもちろん実行はしないが世界の創造は別問題だ。
世界なんて総壮大過ぎる一つの理を創る技量は俺にはない。
何よりも俺自身に果たしてどのような影響が起こるのか不明。
軽々しく使ってはいけない事など言わずとも理解できる。
「あ、これ誓約書です。これにサインすれば完了です」
そう言い、ポケットの中からグシャグシャになった紙切れを俺に渡す。
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誓約書
〇〇年〇月〇〇日
月宮涼太殿
住所
氏名
生年月日
記
1)月宮涼太は地上を管理し納める権利を得る。
2)新たな神として神界に住まうこと。
3)神界にての襲撃が行われた際には率先して戦うこと。
4)月に一度、神の集会にて飯を振舞うこと。
5)以下の盟約に誓い、月宮涼太を神へと昇格させる。
以上
神歴〇〇億年〇〇月〇〇日
住所 神界本部
氏名 オーディン 印
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「クソがぁぁぁァァァァ----ッッ!!」
俺はその紙切れを天に掲げて真っ二つに破り捨てた。




