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154話 《神界騒動パート2》



 道化の奇怪師、それは宙に浮いてマントを全身に覆った何者かであった。

 それが一体何なのか、どのような能力を持っているのかはステータスから見ても不明。


『ナンジ……ナニモノ…………カミニアラズ、ダガ、バケモノデモナイ』


 俺は驚愕に目を見開いてしまう。

 この魔物は今、言葉を発した。

 それは知性があり、敵との対話を行う手段を持っていると言うこと。

 こんな事は今までに無かった。


「お前の方こそ何者だ」

「ワレハ、オウノシモベ。カミニジュウゾクシタナレノハテ」


 王?

 神に従属したとは一体何のことを言っているんだ。

 いくら頭を捻っても明確な答えが出てこない。



「キサマハキケンダ……イマスグニ…………タオサナケレバ」

「片言の多いことだ。で、どうする?悪いがお前に割く時間は無い」

「アンシンシロ……オマエハスグニシヌ。イデヨ、ワガジュウボクドモ」


 その言葉を最後に仮面の男は闇に紛れて消え失せた。

 ひとまず安心したと胸を撫で下ろす。

 しかし、それが致命的な結果を生む。


「ガァ!」


 突如として襲った無数の棘、地面から生えたそれは俺の身体を易々と貫いて天高くまで身体を運ぶ。

 何が起こったのか、いまいち理解ができない。

 だが、その答えは棘を見た瞬間に理解できた。



「【魔法無効】……ったく、どこでフラグを立ててしまったんだろうか」


 苦虫を噛み締めた感覚に陥ってしまう。

 紫の迷宮を思い浮かべて、その時の戦いが頭に過ってしまった。

 あの戦線は俺にとって本当の意味での死線だった。

 その感覚に似た何かが、今から起きると直感が言っている。



 そして、奴らは現れた。


「ははっ、マジかよ」



 先ほどの増殖する骨とは比べ物にならないプレッシャー、それを一体一体が目の前の1人の敵に向けて放つ。

 数は数百と言ったところ、所々に【魔法無効】や【物理無効】のスキルを持った魔物がいる。

 それぞれの体はゆうに10メートルを超え、仔犬を見下ろす人間の集団に近い感覚が俺の身を貫く。


 身体を貫いた棘は俺をボロ雑巾のように捨てる。

 痛みは無い。

 ぽっかり空いた穴も瞬時に回復し、戦う前の無傷の姿に戻る。


 圧倒的に絶望的な状況。

 だが、俺の心の中には沸々と釜の中で煮え滾る何かが今にも溢れそうな勢いで可燃をやめない。


 それが何なのかは理解している。

 俺がやろうにも出来ずに我慢していたものだ。



 あぁ……やはり、俺は戦闘が好きなんだ。

 それも死線をくぐるほどの、本当の命のやり取りが出来るほどの。

 手加減なんて必要の無い全力でぶつかり合える相手。

 地上では味わうことの出来ない高揚感を。



 ーーーー【神化】発動。


 ーーー【神羅】【限界突破】【不屈】発動!!



 一頭の狼が強靭な爪を目の前の俺はめがけて振り下ろす。

 空間が震え上がり、圧倒的な圧が何重にも波紋を打ってクレーターを作る。



 だが、狼は違和感に襲われた。

 不意に襲われた浮遊感、数秒後には狼の視界は180度回転して地面に叩き落される。

 ギャウンとその巨体から似つかわしいほどに可愛らしい鳴き声が発せられ、背中の衝撃に砕かれた地面から礫が舞う。



「図に乗るなよ、ワンコロ。お前たちが何匹集まろうが、俺がそのステータスを越えれば雑兵に過ぎないんだよ」


 そのまま刀はまるで豆腐を切るように、すんなりと刀身を敵の体に差し込む。


「さて、次は……ッ!」


 前方からの火炎放射。

 いや、それにしては明らかに火力が強過ぎる。

 例えるならばマグマが光の速さで襲い掛かってきたかのような感覚。

 それは俺の目の前の魔物たちを一掃する。

 俺を狙った攻撃では無い。



「よぉ、涼太。何自分だけ楽しんでやがんだ?」


 燃え盛る業火の様なオーラを身に纏い、片手には愛用している槌、腰には俺の創った武器。

 ニヤリと白い歯を俺に向けて見せつける。


「ヘファイストス!」


 自分たちの仲間を一掃した新たな敵を認識した魔物は一斉にヘファイストスへと進路を変えて進行する。

 当の本人は片足を支えとして後ろに出し、腰を低く構えて武器を構える。

 腰をバネにしてヘファイストスは己の武器を前方へと投げた。



「うぉ!ーーっぶね!」


 進路方向にいた俺は急いでしゃがみ込んで、魔物を蹂躙する大槌を回避した。

 その大槌はブーメランの様に旋回して元いた場所へ帰ってくる。


「何しやがんだ!」

「んだよ、久しぶりに会っていきなりキレるなよ。カルシウム足りねぇんじゃねえか?」

「普通に当たったら死ぬぞ」

「お前なら回避できんだろ」


 そこら辺は信用してくれてんのか。

 それでも配慮が全く足りていない気がする。


「てか……」

「おい、涼太。上に結界を張れ」

「ん? あぁ、分かった」


 言われるがままに結界を展開する。

 一応は神界なので強力な部類に入る結界だ。


 すると、何やら風を切る音が聞こえた。

 その距離からしてかなり離れているが、間違いなく近づいている事は分かる。

 上空を見ると、数回の瞬きほどの時間が経過して数え切れないほどの光の矢が襲い掛かった。

 その矢は魔物たちの身体を貫き、弱い魔物はその光に絶命する。



「全く……あなた方はあいも変わらず騒がしいですね。少しは私の様にクールな対応が出来ないんですか?」


 弓を携えた姿、金髪に長髪、無駄に削ぎ落とされたが決して痩せ細っているわけでは無い研ぎ澄まされた体。

 髪をパサっと上に掻き上げた見慣れた久しぶりの変態アポロンがそこに居た。


「うっさい、この変態ロリコン

「黙れや、糞野郎ロリコン

「黙りなさい、何度も言っているでしょう。私は紳士ロリコンです」


 一体何が間違ってるんだか。

 そのポケットからはみ出ているMP3プレイヤーとイヤホンが証拠だろうに。

 ともかく、問題すべき論点はそこでは無い。


「何でお前らがここに居るんだ? 他の魔物はどうしたんだよ」

「あぁ? あんなのは今の俺の敵じゃねぇぜ」

「神軍ですよ。魔物程度に負けるわけありません。それ以上にここに魔物の集団が現れたと感知して私たちだけ急いでやってきたのですよ」


 俺たちの方へ駆け寄ったアポロンはそう告げた。

 なるほどな、神軍とはなんとも高揚感のある響きだ。

 一体どれだけの軍勢なのかイマイチ分からないが、相当なものなのだろう。


「それよりも……だ。こいつらどうする?」


 俺はあたり一帯に視線を追いやる。

 そこには既に戦闘態勢に入り、今にも襲い掛かって来そうな魔物たち。

 約3割は掃討したが、それでも魔物たちで先が見えないほどの量は残っていることに変わりはない。


「涼太、手に負えないならば俺だけで片してやんぞ」

「はっ、笑わせんな。俺だけでも勝てるわ」

「ハッ! それだけのイキがあれば上等だ! 一匹残らず潰すぜ」

「全く……血の気が多いと困りますね。ですが面白い、私も早く終わらせるとしましょう」


 それぞれ武器を構えた俺たちは互いを背にして3方向に飛びかかった。


「来い、グラディアス! 我が障害を一掃しろ!」


 俺の呼びかけに一本の槍が姿を現す。

 それは空中に浮いたと同時に弧を描く様に分散して一つの円と成す。

 その数はザッと25本、俺が手をかざしたと同時に一斉射撃が放たれる。

 崩壊魔法を纏ったグラディアスは敵の体を易々と貫き、次の敵を捜しては射出の繰り返しを行う。


 が、流石に魔法に耐性のある奴はグラディアスの攻撃を物ともしない様子。

 涼しい顔はしていないが浅く突き刺さった槍を振り抜く。



 ふと、後ろから衝撃波と熱風が吹き荒れて髪を荒々しくなびかせる。

 一体何事かと振り向くとヘファイストスが絶賛戦闘中であった。

 右手には炎を纏った大槌、もう一方には雷鳴を響かせる神具。

 叩いた大槌の周辺からは、徐々に地面がひび割れ噴気が吹き荒れ地を赤く染め上げる。

 雷鳴は稲妻と化して止まっている敵を貫く。

 天変地異が起こったかの様な錯覚すら覚え、起こした当人は間違いなく強者だと判断せざる得ない。


「なら、こっちも後れを取るわけにはいかないなーーッ!」


 俺は足に魔力を込めて、爆発的な速度で加速する。

 その加速度と【黒刀・天羽々斬】の切れ味が重なり合って硬化な敵の装甲らしき皮膚や甲羅も斬り伏せた。


「ふっ、俺の勝利だ……」


 やはり活動限界があったのだろう。

 目の前の敵を倒し尽くした俺は神化を解いた。

 その際に感じた脱力感によって俺は冷たい地に顔を付ける。



「よおよお、だらしねぇなー。また、倒れやがったよ」


 上から覗き込んだヘファイストスがニィと笑い、手に持つ大槌を肩にかける。



「うっさいわ」

「取り敢えず、ひと段落だろうな」

「あー、本当しんどいわ」

「さーて、帰って風呂にでも入るか。涼太、久々のお前の飯だ。楽しみにしてんぜ」


 はぁ?

 こんな疲労が溜まりに溜まった体で奉仕しろとか何様だよ。

 無理です、悪いが今日は俺も休ませてもらいます。



「って……あれ?本当に……意識が……」



 先程から感じていた以上の立ちくらみに耐えられず、再び俺は倒れていた場所に寝転がり意識を手放した。

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