153話 《神界騒動》
転移してから5日。
俺はただ暗い闇の中に立ち、荒げた呼吸を整え前を見据える。
周りには人らしい人影は俺を含めて3人しかいない。
残りは浮遊している一つの暗闇を纏った影と無限に増殖する怪物。
自分の体を見るとおびただしい切り傷や火傷が再生するために煙を上げているのが分かる。
「クソがッ! 割に合わねぇ」
片膝をつき疲労困憊になった重たい体を休ませる。
「りょう君、休んでいてください。ここは私がやります」
「バカ言うな。ヘファイストスたちはこれよりヤバいのを引き受けてくれてるんだ。ここで引くわけにはいかない」
お久しぶりです皆さん、そして大ピンチな涼太さんです。
魔法聖祭が終わって神界に行った途端になぜか慌ただしかったのでオーディンの爺さんに話を聞きに行ったら、魔物の大群が押し寄せてきているそうなのです。
曰く、次元の狭間の怪物も神界に進行してきているそうで神様たちは総員で討ちにかかっている状況なのだ。
過去にもこのような事は起こっており、一定の周期で起きる神界の『大侵攻』らしい。
しかしその数が異常でいくら戦っても湧いて出てくる。
さらに今回は割と強力な魔物ばかり現れるので苦戦している最中なのです。
「【次元斬】」
十数メートルはあるであろう空間を断絶する斬撃が生まれる。
その一筋で何百ものスケルトンの上半身と下半身が分裂した。
しかし次の瞬間には別れたスケルトンは分解されて新たなスケルトンが生まれ出る。
*
増殖する骨 LV.---
種族:###
性別:###
年齢:###
攻撃:DDDー
魔力:EE+
俊敏:EEEー
知力:F+
防御:EEE+
運:100
*
三卿面の闇公爵 LV.---
攻撃:DD
魔力:D+
俊敏:EE
知力:F+
防御:EEE+
運:100
*
厄介なことに『増殖する骨』は毎秒3体に分裂する能力を持ち、分解した個体のステータスも変わらないときた。
思わず笑いがこみあげてくるほどにチートな魔物だ。
流石は神界と言ったところだ。
おかげでこちらのステータスも馬鹿みたいに成長している。
「主様、楽しんでおられるのですか?」
「あぁ、これ以上に適したレベリングはないだろう。斬っても斬っても増えつ図けて終わりのない道。楽しくてしょうがない」
「うぅ……5日5晩も戦い続けてりょう君が壊れてしまいました」
「なぁ、アテナ」
「何ですか、りょう君」
「良い事を思いついた。俺一人に戦わせてくれないか」
アテナは何を馬鹿な事を言っているのだとこちらを振り向きざま思わず喉を鳴らしてしまう。
よくは分からないが、そんなに今の俺は鬼気迫った顔をしているのだろうか。
「分かりました、私とガブちゃんは他の救援に向かいます」
「主様、どうかご無事で」
「おう」
アテナはガブリエルの手を掴み、この場から離脱する。
ようやく一人になれた。
周りの骨たちは関節を鳴らして雄たけびを上げ行進を開始する。
総指揮官の奥のやつもゆっくりと移動を開始。
「なぁ…………お前ら……滅びの霧って面白くねぇか?」
その言葉を変え切りに一体の空間に白いスモッグのような霧が発生した。
空気と同程度の重さを持つそれは地にも上空にも移動せずにこの場にとどまる。
変化は突如として始まった。
俺の皮膚が剥がれ落ちて肉がむき出しになった。
あまりの激痛に地に倒れ伏し目を瞑る。
しかし超再生により、その傷は崩壊の速度よりも素早く治っていく。
再生と崩壊の交互作用により気が狂いそうな感覚に襲われる。
感覚を遮断してもいいが、それでは意味がない。
痛覚があるからこそ肉体は生命の危機を感じて再生をするのだ。
それはスケルトンたちも同じことだ。
持っていた武器は滅びの霧に分解されて、その体も外側から塵へと変わっていく。
「ァ……ガァ…………」
『超再生がレベルアップしました。超再生がレベルアップしました…………』
そう、これこそが俺の狙いだ。
この機に一気に上げられるスキルは底上げする。
ヘファイストスたちにステータスで勝てないのであれば、俺はスキルで圧倒する。
「アァァァーーッ! 吹き荒れろ! 【無の暴風】」
風を混ぜた複合魔法が俺と魔物たち、そしてその場にある全てを無に帰すために牙をむく。
崩壊するスピードは加速しスケルトンたちは一歩も動くことが出来ずに滅んでいく。
『超再生がレベルマックスになりました。これにより、スキル【超再生】は【真祖】へと進化します。称号【不死者】を獲得しました。称号【不屈の闘志】を得ました。これにより、【下剋無効】を獲得しました。自身の魔法を基準としてそれ以下の魔法スキルを無効化します』
なんかすごい事になったな。
不死者か……これだけの死を浴びて生きていたら確かに不死身と取ってもおかしくはないか。
何より最後のスキルは強力なものだ。
つまり俺の数値を50として51を超えない限りは全ての魔法を無効化するというもの。
地上では本当に無敵になってしまった気がする。
『崩壊魔法がレベルマックスになりました。これにより上位魔法、消滅魔法を獲得しました』
おっと、今回はそれだけでは終わらなかったようだ。
消滅魔法? 崩壊と類似しているが何が違うのだろうか。
『消滅魔法:あるものを無に帰す。無い物へと変換するので再生、再現、再召喚等は不可』
つまりあれか、これを喰らえば再生すら出来ないヤバい魔法って事かよ。
とんでもなく危険な魔法じゃんかよ。
これは選択を間違えて使う訳にはいかないな。
下手をすれば取り返しのつかないことになりかねない。
「ふぅ……ひとまずは一本取ったぞ。仮面野郎」
増殖する骨は全て屠った。
が、やはり奥にいた一体か格上だったのだろう。
崩壊魔法も効いている様子はない。
改めて骨に隠れていた姿を認識する。
体長は4メートルほどで闇のコートを纏った姿をして、手には暗殺用の短剣を、宙に浮き空中戦にも特化していると見受けられる。
特徴でもある仮面は盾に線を入れて白と黒に分かれており、白い方は三日月の笑みを浮かべているが黒は憤怒に歪んでいる表情をしている。
この魔物はどうやら闇に紛れて突然姿を現して敵を倒す奇襲型。
「俺もあいつらを見習ってみるか。魔力を纏い属性付与と……」
イメージを構築させてあるべき姿へと構築。
魔力付与に強化、
修羅発動、限界突破及び部分的属性付与を再構築。
『カ……カカッ!……カ?』
動かない俺に攻撃を仕掛けてきた仮面は後ずさる。
「来いよ、だが生身での戦闘はおすすめしないぞ」
右手に『黒刀・天羽々斬』、その刀には次元属性を付与して万物を切り裂く刀に。
袴姿に変身した俺の体には崩壊魔法を、
攻防一体の最強ともいえる布陣である。
さあさあ、始めようか。




