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152話 冒険者登録



 大きな物音を立て、ひたいに冷や汗をかき登場した男が大声をあげる。

 見ただけで分かる歴戦の猛者が放つ風格、幾度となく修羅場をくぐったであろう古傷が見える。



「おい、ハゲだぜ」

「ハゲだ、珍しい」

「ハゲだな」

「ハゲですね」

「ハゲてます」

「何でハゲてるの?」

「生きる術を無くしたハゲだからですよ」

「ハゲハゲ喧しいわァァッ!!」


 全力のツッコミが建物全体に響き渡り浅い振動が机に響く。

 大声を出したせいか、早くも息切れをしている。


「ハァー、で何が起こった」

「ギルマス! この女が!」


 目に涙を浮かべ、腰を抜かしている男がフィルフィーを指差す。

 自分から絡んでおいて被害者ヅラとは、救いようが無さすぎると4人は心の中で思う。


「はぁ、あんたが……これ……えっ、マジっすか」


 突然、冒険者ギルドマスターの顔色が蒼白になっていく。


「ふむ、私の事を知っているのか?」

「あぁ、私がまだ若い頃に【死の樹海】に行き、返り討ちに遭った時に助けてくれた……なぜあなたがここに?」

「むぅ…………あぁ、数十年前に泣きながら森をさまよっていた小僧がいたな」


 記憶の隅に置いていたカケラを探し出して思い出したようだ。

 しかし、曖昧なところから察するにフィルフィー自体は大きな事柄と捉えていなかったのだろう。


「やめてくれ、恥ずかしい。それでシュテム帝国の守護者殿が何用ですかな。見た所、女性の方々とご一緒の様ですが」


 その言葉にギルド全体がざわめく。

 やはりフィルフィーの事を知らない者は居なかったのだろう。

 この世界でフィルフィーと言う災厄を知らずに、この世界を生きていくことは鞭で愚かな証拠、へたに突っかかれば間違いなく自分の身を滅ぼしかねない。

 数百年もの昔から人間と交流しており、シュテム帝国の最強と謳われると彼女が、まさかこんな所にいるとは予想だにしていなかったからだ。

 絡んできた冒険者たちも、ようやく事の重大性と己に迫っていた危機を察する。


「それを含めて話がある。場所を変えさせて貰うぞ」

「ならば奥の部屋で事情を聴きましょうぞ」



 話通り、私を含めた四人は応接間に通された。

 商業ギルドのような金品が飾られているわけでもなく、あるとすれば飾られた甲冑と先が普通の物の数倍は肥大しているであろう2本の槍。

 恐らくはこのギルド長が装備する武器なのだろう。

 重さは軽く人一人分はありそうな槍を振り回すとなると相当な筋力パラメーターが必要になる。

 それだけでもこのハゲがただのハゲでないことが分かる。


 私たちは目の前の客用のソファーに座り込む。

 右から私、ミセル、フィルフィーにエリスだ。

 話し手として上手に位置しているフィルフィーと交渉事が得意なミセルが真ん中にいるのは道理であろう。


「では早速話をするとしよう。何用で冒険者ギルドへ? 見たところ、戦姫に先日の魔法聖祭においてバカげた魔法……少なくとも超級魔法は使えるお嬢ちゃん。えらく美人な姉ちゃん、彼女もタダもんじゃねえな」


 ギルド長は私たちを一瞥して視線を元あった場所に戻す。

 やはり魔法聖祭にも顔を出していたんだ。

 私の事は無論の事、エリスの事も勘が鋭いのは冒険者としての感か。

 


「ふん、なら話が速い。私たちは冒険者登録をしに来た」

「はぁ!?」


 驚き立ち上がった衝撃で、座っていた椅子が後方へ吹き飛ぶ。


「驚くことか?」

「いやいや、あり得ねぇだろ。確かにあんたみたいな実力者が冒険者登録をしてくれるのならば、こちらとしては願ってもない。だが……なぜだ。シュテム帝国の聖人とも呼べる人物ならば金も名声にも困っていないはずだ。国を離れて問題ないのか!?」

「いちいち質問が多いな。そもそも私は私であり私を好きに出来る人物はこの地上で一人しかいない。シュテム帝国に属している? 勘違いしないでもらいたい、それは奴らが勝手に私を奉っただけであり、そこに私の意思があるわけなかろう」


 至極当然、冷静に考えれば何のおかしくもない話だ。

 世間では常識と言う形で世間に認知されているが本来はフィルフィーは一人の知性ありし生命、そこには自由があり何人たりともその領域に入ってはならはい。

 広がり定着した偽りと認識が離れていった事実、2つの虚実が折り重なっただけの事である。


 その言葉には思わずギルド長も一本取られた間抜けな顔をする。


「ハハッ、そうだ……当たり前すぎて忘れていた」

「論点をずらすな」

「そうだな話を戻そう。しかしこれだけは聞きたい。何のために冒険者ギルドへ登録するのだ」

「ダンジョンの攻略のためだ」

「なに! いや、あんたならダンジョン攻略も可能か。しかし、他の嬢ちゃんらには厳しいぞ。下層はAランク魔物の巣窟になっているとも聞く。Sランク級の冒険者もパーティにならなければ生還できない。食料問題もあるから大規模パーティでの挑戦が常識だが……」

「それに関しては問題ない」


 フィルフィーは腰に掛けられた布袋をギルド長に見せる。

 それを見たギルド長は一目でアイテムボックスだと見抜き納得した表情で頷く。


「一ついいかしら」

「なんだい、桃色の姉ちゃん」


 薄く透き通った桃髪をなびかせてエリスは質問を投げかける。


「私たちはダンジョンに挑みたいんだけど、登録からいきなりランクの選択もしくはダンジョンの入出の許可は取れるのかしら」

「ダンジョンに挑めるランクは知ってるか?」

「ええ、Dからでしょ」

「知ってるのか、悪いがたとえ実力者だとしてもランクの上昇は推薦がないと出来ないぞ」

「それなら問題ないわね」


 悪だくみしたかのような笑みを浮かべたエリスはアイテムボックスから1枚の封筒を取り出してギルド長に渡す。

 それを見た途端に目を見開いたのは言うまでもない。

 

「おいおい、王家からの推薦かよ」

「問題はあって?」

「いや、国からの推薦ならば俺らギルドが口を挟むわけにはいかねぇ。分かった、推薦を受け入れる。原則としてランクはBまでなら作れる。そこからはギルドの貢献度や信頼度が関わってくるから自力で頑張ってくれ」

「分かったわ、Bランクからお願いするわ」

「それじゃあ、一人ずつ魔道具に手をかざしてくれ」


 

 部屋の隅にあった魔道具を両手で持ち運び私たちの目の前に置く。

 ギルド長シルバーが入ったプレートを4人分出し機械を少しいじる。


「ほら、順番に手をかざしな」

「じゃあ、私からやる!」


 私が手をかざすと魔道具は光を発し、プレートに文字を刻んでいく。

 数秒が経過して機械は稼働を停止させた。


「あれ、もう終わり?」

「そんなもんだよ、身分証だから大切にしな」

「分かりました」




 そうして私たちは各々順番道理に手をかざしていく。

 

「うっし、終わりだな。それから先ほどはうちのバカどもが迷惑を掛けた」

「気にしていないわよ。分かっていたことですもの。何かあれば、私たちが自分で制裁をすることになるけど問題ないわよね?」

「あぁ、ただし過剰防衛は気を付けてくれよ」

「ふふっ、それは相手次第よ」


 エリスの妖艶な笑みの中に発せられた本気の敵意、何かあれば許すつもりはないのは明白だ。

 まぁ、それは私も同じことだけど。

 何がともあれ、ようやく冒険者登録が出来た。

 私たちは立ち上がり来た扉を振り向く。


 

「待ってほしい、フィルフィー殿」


 最後の最後に後ろから声を掛けられた。


 「何だ」

 「最後に聞きたい。あなたが言った地上で一人の者・・・・・・・。そいつはいったい何者だ」


 ギルド長は鬼気迫った表情で質問を投げかける。

 やはり気になってはいたのだろう、最強とうたわれるフィルフィーが物申す者なのだから。

 

 その当人は振り返り、この場で初めて口角を緩ませて破顔する。



 「愚問だな。そうだな……あえて称するなら、世界最強・・・・の男だ」




 

 

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