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150話 (地下牢)

次回は投稿して一周年記念なので、1日に2〜3話投稿したいと思います。



 ピチャ…………ピチャ……………………。



「うっ……ここは……」


 一体どのくらい気を失っていたのだろうか。

 重いまぶたを開けるとそこは薄暗い部屋だった。

 灯りは天井に小さなライトが1つ。

 何だろうか、この変な臭いは。


 それに私が動くたびに鎖が擦れ合う音が聞こえる。

 手も足も何やら重たい……重たい?

 私は下を向く。



「なに……よ……これ」


 鎖だ。

 私の首と腕と足に鉄の枷が嵌められている。

 無自覚だったのだろう、意識すればするほどに重量が重く感じる。

 よく見れば3方向の石壁と正面には鉄格子が備えられている。

 つまり……私は檻に入れられたって事?

 ふざけるな、私が何をしたと言うのだ。



「……ん?」


 何やら物音がした。

 この部屋からだ。

 そこにいたのは女の子たち。

 薄汚い一枚の布キレを身に纏った少女たちだ。

 私よりも歳が大きそうな人は少ない。

 いや、論点はそこではないだろう。


 明らかに怯えた瞳でこちらを向く少女たちと、それを守ろうとする姉の様な存在。

 そして特徴的な耳と尻尾。

 これはまるでファンタジーに存在する獣人?


「あの……」

「来るな!人間!」



 先頭にいた少女、歳は私と同じくらいだろうか。

 痩せこけており生きるのに必要であろう筋肉もない。

 頭には白いうさ耳が付いている。

 まるで私を威嚇する様に睨んでいた。


「…………」

「何が目的だ」

「なにって?」

「トボけるな、人間は私たち獣人を道具のように扱う」

「どう……ぐ?」

「生まれた時から蔑まれ、ある時は魔法の的として、ある時は性処理の道具として、ある時は毛皮を剥ぐために殺され! それを楽しむ化け物が何の目的なんだと言っている!」


 私は少女の目を見る。


 そこには私……いや、人間を心の底から憎み、そして怯える感情が露わになっていた。



 私はこんなの知らない。

 こんな目を見た事がない。

 どうしたら……どうしたら……そこまで絶望した目を向ける事が出来るのだろうか。


 本当に人間がこの少女たちに無慈悲な事をしたのか。

 出会ってまだ数秒、そんな赤の他人だ。

 なのに……なのに、なぜ?



「なにを……している」

「なにっ……て?」

「なぜお前が涙を流している」

「…………え?」



 私は重たい右手の腹をそっと頬に当てる。

 少女の指摘通り私は泣いていた。

 なぜ?

 なぜ私は泣いているのだ。


 足がすくみ力が入らない。


「何で……だろうね。分かんないよ」

「お前は何の為にここにいる?」

「えっと……役に立たなかったから?」


 私は自身に取り付けられている鎖や首輪を見せる。

 少女たちにもそれらしき物は付けられているのが分かる。


 私の敵意ない態度が通じたのだろうか。

 それとも同じ立場の人物だと理解したのかな。


「1つ聞きたい」

「なに」

「お前は……敵か?」


 敵、

 それがどう言う意味を指すのかは分からない。

 どこからが敵なのか、何をすれば敵となりやるのか。

 でも、これだけは分かる気がする。



「私は……あなたたちを……」


 かすれ声になってしまった。

 自分でも驚くくらいに声が出なかった。

 伝えようとしたのに、私の今の思いを。


 しかし、うさ耳の少女の耳がピクピクと反応し、納得したかの様な表情を見せる。



「私は人間を許さない」

「あなたの言った事が本当ならば、人間は生物としてやってはいけない事をした。私も同意する」

「お前の事も信用しない」

「うん」


 当然だ。

 今まで酷いことをされてきた人種を信用しろと言うほど私は傲慢でない。


「でも……最後の言葉。あれは嘘いつわりないのか?」

「うん、約束する」

「本当に……そんな夢物語の事をか?」

「私はそうは思わないよ。あなたたちが世界からどう思われようとも、知性ある1人の生物。なら平等に世界を渡るべき。私はそう思う」

「平等……人間からそんな言葉が出てくるとはな」

「嫌だった?」

「いや、驚いただけだ」



 クスリッとウサギの少女は初めて目の前で口角を緩ませる。

 ようやく見せた和解の印とも言える仕草。

 どうやら、私はここで過ごす事を許可してもらえたのだろう。



 と、だ。

 突然、1人の少女が倒れこむ。



「ヌフ!」


 ウサギの少女は駆け寄り、少女の肢体そっと横に寝かす。

 あれは犬の獣人だろうか。

 呼吸が荒く咳も酷い。


「あぁ、どうすれば……」

「どいて!」

「何をする、人間!」

「治すのよ」


 治す……なぜそんな事を言ったのだろうか。

 しかし、出来ない気がしない。

 そんな自身が私の中にある。


 私の【毒魔法】は本来、殺す為にあるのだろう。

 しかし、毒はそもそも薬にもなる。

 天秤にかけて分量が多いか、少ないかの違いに過ぎない。

 ならば私は自身で作れる。

 そんな気がするんだ。

 大学受験で医療や薬の知識は嫌という程学んだ。

 ならば、その引き出しを開けて使う。

 そうすればいいだけ。


「調合……生成……アスピリン、違う……分量が多過ぎる。化膿もしている。ならどうする、回復魔法。ステロイド、どうすればいい?」


 回復魔法だ。

 それを使うしかない。

 その前に薬を生成。

 出来る、私なら可能だ。




 幾度も試行錯誤し、分量を間違えれば自分で飲み込む。

 そして納得した調合が出来た。



『【調合LV.1】を獲得しました。【調合】のレベルが上がりました』



 何やら頭の中でアナウンスが流れる。

 あとは回復魔法を少女なかける。

 ほんの少しの光が少女を包み込み、荒々しい呼吸がゆっくりと静まる。


「お水はある?」

「あぁ……」


 ウサギの少女はスープ皿に置かれた水を持って来た。

 私は薬を水に溶かして少女の口の中に流し込む。


「お前は魔法が使えるのか」

「ほんの少しのだよ。でも言っちゃダメだよ。バレたら私はどうなるか分からない」

「ヌフは助かるのか?」

「知らない、でも私が出来るだけのことはした」

「そう……か」


 ほっと胸を撫で下ろす。

 助かってはいないが、一時的な治療としては申し分ないだろう。



「ふぅ……」


 やはり魔法を使ったせいか、気絶する前に感じたほどの脱力感はないが、それでも精神エネルギーがゴッソリ抜かれた感覚が襲われた。

 思わず壁へ腰掛けてしまう。

 より重い体が重くなって、今日はもう動きたくない。



 

 涼君、私ね……やる事が出来たよ。

 この子たちを助ける。


 そしたら……ね。

 会えるかな?

 星の彼方の可能性かもしれないけど、

 それでも拭いきれないんだよ。


 私の願い。

 それはもう一度……あなたに会うこと。

 それが叶うまでは私……諦めないから。



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